「横溝正史「真珠郎」」
大正のデビューの横溝正史は、第二次世界大戦後の本格ミステリでも有名だが戦前にも作品は多い。
戦前を代表する長編作品の一つが「真珠郎」だ。
戦前の作風は耽美派と呼ばれる、幻想と怪奇性が強いものだった、それに謎解き要素を加えたのが「真珠郎」だ。
「真珠郎」は昭和12年刊行だが、私が保有しているのは昭和51年の限定・復刊版だ。
ハードカバーの豪華本であり、長編「真珠郎」と「私の探偵小説論」を含む。
題字:谷崎潤一郎、序文:江戸川乱歩、口絵:松野一夫、紫の弁:水谷準、自序:著者のラインアップだ。
作品自体の知名度は高いが、作者以外も知名度の高い名が並び、いくつかは後に引用もされている。
勿論旧漢字が使用されているが、殆どの漢字にルピが振られているので現在でも充分に読むことは可能だ。
(2021/05/07)
「久山秀子「久山秀子集」」
久山秀子は1925年にデビューして、「隼・お秀」という掏摸を主人公にした短編を書いた。
マッカレーの「地下鉄サム」のモチーフを参考にしたシリーズであり、10年以上書き継がれた。
「久山秀子集」は1929年に出版された「日本探偵小説全集第16巻」であり、浜尾四郎との合本だ。
文庫サイズの小型本のハードカバーであり、浜尾作が3作、久山作が15作掲載されている。
検印は「浜尾」であり、冒頭に両者の写真がある。久山は和服女性であるが、今では男性のペンネームと判っている。
久山作は短編というよりは、掌編でありコントと呼ばれる内容だ。
「隼登場」は戯曲であり、「代表作家選集?」は隼と相方が掏ったのが作家の原稿でありそれを読む形で、パロディを書いている。
そこには「闇に迷く:隅田川散歩」「桜湯の事件:鎗先潤一郎」「書白のポンプ:興が侍ふ」「人工幽霊:お先へ捕縛」がある。
(2021/05/22)
「坂口安吾「安吾捕物帖」」
坂口安吾は探偵小説を多数読み、自身も実作したとされる。
「不連続殺人事件」は代表長編であり、第2回探偵クラブ賞を受賞した。
それ以降も複数の短編と少数の長編を書いた。
「安吾捕物帖」は昭和25年から書き継いだ連作であり、捕物帖だが本格ミステリの内容を持つ。
明治初めを舞台に、勝海舟とその側近の剣豪・泉山虎之介と、そこに洋行帰りの知識人・結城新十郎が加わり事件の解決に当たる。
明治初期の政界・社交界を描きながら、そこで発生した事件の捜査を行う、勝が直観的に謎を見抜く展開だが、その後に捜査すると結城が異なる解決をする事になる。
その解決内容を泉山が勝に報告すると、勝は納得して間違った理由を告げて、一部は正しく、情報不足の段階だったと言って終わる。
度々復刊されているが、保有するのは昭和47年の「安吾捕物帖」でソフトカバー本に短編14作が収録されている。
(2021/06/06)
「蒼井雄「船富家の惨劇」」
蒼井雄は昭和9年デビューの作家で、当時では少ない本格ミステリ中心の作家だ。
デビュー作は中編だが、昭和11年に長編公募で1席となった「船富家の惨劇」が長編デビューであり代表作となった。
寡作で作品数は少ないが第二次大戦後まで断続的に発表され、長編は死後出版を含めて3作のみだ。
作風はクロフツとかフイルポッツの影響が言われる事が多いが、長編・中編では多数の要素が入っており単純では無い。
重厚な本格ミステリとされる作品は、断続ではあるが度々復刊されて来ており、古書市場を含めると知名度は高い。
保有する一番古い本は、昭和47年春陽文庫版だ、イラストのカバーが付くが解説や序文等はないが作者検印はある。
「重厚な筆致でえがくミステリ巨編」の紹介があり、冒頭に交通図がある。
(2021/06/21)