探偵雑誌日記(2021/03-04)

「渡辺啓助「毒麦」」

渡辺啓助は戦前・戦中・戦後を長く生きた作家で、短編が多い。

戦前の作品が復刊されるケースが多かった事から、そのイメージが強い。

まだ復刊が少ない戦後作は、作風が拡がっているようだ。

「毒麦」は昭和22年の作品集であり、「ロック探偵叢書第2巻)とある。

まだまだ旧漢字が多く、紙質が悪い事もあり、読みにくい。

作者の字も旧漢字(人名用では今も使われる)、題名も読めない漢字だ。

ただし収録作8作は、作者の戦前の代表作が並び、以降の復刊率が高い。

「聖悪魔」「偽眼のマドンナ」「決闘記」「血蝙蝠」・・・・・。

(2021/03/08)

「久生十蘭「母子像」」

久生十蘭は昭和10年だいから活躍して、戦中から戦後まもなく死んだ。

戦争の影響を大きく受けた作家の一人だった。

戦後しばらくしてからの昭和26年に時代小説の「鈴木主水」で直木賞を受賞した。

昭和29年に発表した「母子像」が翌年にニューヨークで第2回世界短編小説コンクロールで優勝した。

作品は継続出版されていたが、作品集「母子像」は昭和30年の作品集で9短編を収録した。

戦前には探偵小説の執筆も多かったが、戦中は規制を受けて止まり捕物帳を書いた。

戦後は現代小説・時代小説を書き、ノンフィクション的な小説も書いた。

戦前の作品といくつかの戦後作品で選集が組まれ復刊されていたが、2010年の全集で戦中の作品も復刊された。

(2021/03/23)

「橘外男「米西戦争の陰に」」

橘外男は大正末期から小説を発表しているが、本格的な作家生活が昭和以降(1936)となる。

実話小説、奇談、怪談、秘境小説などジャンルは広い。

海外を舞台にした作品も多く、戦争による執筆内容の制限をまともに受けた。

戦後も怪奇小説に加えて、自伝的小説も書いた。

作品集「米西戦争の陰に」は昭和13年の刊行でこれ以降は戦争の影響を受けてゆく。

「米西戦争の陰に」「野性の呼ぶ声」「鬼畜の作家の告白書」「遺産3万8千クローネン」が収録されている。

旧漢字で文語体で難解な漢字とそのルピが特徴で現在では読みにくい、勿論復刊時には読みやすいように漢字はひらかなに開かれていて、ロピが減っているし表現や漢字字体も変えられている。資料と読書とは並立は難しい、

(2021/04/07)

「佐藤春夫「維納の殺人容疑者」」

佐藤春夫は大正から昭和初期に活躍した作家で、探偵小説にも関心があり探偵小説の中興の祖とも言われた。

その活動の中で、1920年後半ころに異常心理に関心を持ち、それをテーマにした作品を書いた。

「維納の殺人容疑者」は1933年に刊行されたが、テーマはウィーンで実際に起きた殺人事件だ。

内容は、その裁判記録の体裁を取り、大判の装丁の上側に通し番号を振った見出しがあり、記録風になっている。

末尾に「日沖憲郎による 跋」を配して校正と法律的用語を改訂したと記されている。

出版時期から予想される様にしかも裁判記録として書かれているので、漢字・文章・文体共に現在では読み難い。

分量的にもかなり多く読むのは厄介だ、ただし第二次大戦後の酸性紙等と較べて、紙質は良く保存性はまずまずだ。

(2021/04/22)