「角田喜久雄「笛吹けば人が死ぬ」」
角田喜久雄は伝奇時代小説作家としての著作量が多い。
探偵小説作家としても活躍したが、長編は少なく分量的には少ない、。
第二次世界大戦前からも探偵小説は書いていたが、戦後に横溝正史と同時期に本格味の強い作品を書いた。
短篇「笛吹けば人が死ぬ」はその後の作品だが、探偵作家クラブ賞受賞作でもあり、その後に代表作としてアンソロジーに多く採られてきた。
角田は多数の著書があるが、長く活躍した事もあり、系統的にまとめられる事は少なかったようだ。
本格ミステリ好きな読者には、加賀見警部が登場する作品を好む人も多く、一方では怪奇作品を好み読者もいる。
角田は部分的に作品を読んだだけでは、なかなか全体像が掴めない。
(2020/07/10)
「横溝正史「蝶々殺人事件」」
横溝正史作「蝶々殺人事件」のテレビ・ドラマを見た。
設定や細部は変えられているが、基本的な筋は原作に従い作られていた。
かっての横溝ブームの時は由利麟太郎が登場する原作作品が、「作者の了承の元」で金田一耕助に変えられドラマ化された。
今回は由利と三津木俊助のコンビのままでシリーズドラマとなった。
戦後昭和20年に金田一物「本陣殺人事件」と由利物「蝶々殺人事件」が同時雑誌連載されて、探偵役の比率が入れ替わった。
金田一物はその後に沢山書かれてカーの影響も言われた、由利物は戦前は怪奇・幻想的な内容であった。
戦後の「蝶々」はクロフツ的な捜査とアリバイ崩しが中心になり、それに加えて多彩なトリックが駆使されて中味が濃い。
中味が濃い作品は、読者が混乱して理解しにくい傾向もあるが、横溝の文章と作品構成は読みやすく理解しやすいので、ファンが多い。
(2020/07/25)
「高木彬光「能面殺人事件」」
作者の没後XX年は著作権の関係もあり話題になる事は多い。
もう一つは作者の生誕XX年だ、現役か没後かは無関係だが、生誕百年となると没後が普通に多い。
2020年は高木彬光の生誕百年だが、イベント等は現在はコロナの影響もあって無く、出版方面で期待される。
多数の名探偵のシリーズや、多彩なジャンルでの活躍がある作者だ。
「能面殺人事件」は作品内に、高木彬光なる人物が登場して、前半では探偵役を行う・または気取る。
かなりかき回した後で姿を消すが、複雑な構造を持つトリック作品を複雑化している要素とも思える。
現在の日本推理作家協会賞の受賞作だが、当時にどの程度理解されていたかは判らない。
現在では短い長編作であるが、内容の凝縮度は極めて高い。構成上で名探偵・神津恭介は登場しない。
(2020/08/09)
「土英雄「あてどなき脱出」」
土英雄のデビューは雑誌「ロック」昭和22年4月の「恐怖の丘」だ。
以降に雑誌「宝石」に幾つかの短篇を発表した、兼業作家だ。
2012年に未発表の中篇と、発表済みだった複数の短篇からなる「土山秀夫推理小説集」を刊行した。
土山秀夫が本名で、土英雄が小説発表用のペンネームだ。
第1部が中編「あてどなき脱出」で、ナチスドイツの捕虜収容所の人体実験と、そこからの脱出をテーマにしている。
第2部は「宝石」誌発表の短篇で「深淵の底」「影の部分」「妄執」「切断」を収録した。
第1・2部に作者による「まえがき」がありそれぞれの作品に対する思いと、作品を書いた時の思い出が語られている。
江戸川乱歩の評や手紙について、ドラマ化についてや、作品について自ら語っている。
(2020/08/24)