「小泉喜美子「殺人は女の仕事」」
小泉喜美子の復刊が継続的に行われている。
長編は5作の内の4冊が復刊された、それに加えて短篇集が復刊されている。
復刊短篇集は、文庫版が中心であり、1冊のページ数を初出単行本よりも多く取っている。
短篇集2冊の合本もあるが、多いのは再編集作品集といくつかの短篇の追加した本だ。
読者的には継続して出版されるならば、単行本の内容を残しての復刊を望む。
それは編者も意識している様で、追加する作品は単行本未収録作品が取られている。
単行本未収録作品には、ミステリ味の弱い作品やショートショートやエッセイが多いが、ファンにはうれしい選択だ。
(2020/03/12)
「有栖川有栖「真夜中の探偵」」
有栖川有栖が2010年から書き始めたパラレルワールドでのミステリ「探偵ソラ」シリーズは3作ある。
「闇の喇叭」「真夜中の探偵」「論理爆弾」と3年続いたがその後は途絶えている。
本作「真夜中の探偵」は主人公「空閑純」が、私立探偵が禁止されている世界で闇の探偵になる直前の話しだ。
「論理爆弾」は探偵としての1作目となり、その終わり方はまだまだ続くという内容だった。
それから7年、シリーズは中断したままだ。
2つの有栖シリーズを書き継ぐ作者の新シリーズだったが、未完中絶で終わるのだろうか。
作者はその後、霊の探偵の短篇を書き始めている、これは背景以外に探偵の性格とそもそもジャンルに違いが大きい。
「探偵ソラ」シリーズの世界感が創作動機として薄れたのだろうか。
(2020/03/27)
「森村誠一「高層の死角」」
著書が400冊を越えるベストセラー作家の森村誠一は、現在でも現役出版されている。
同時に多数の本は古書として流通している、度々復刊された事もあり色々な版型がある。
「高層の死角」はデビュー直後の作品だが、江戸川乱歩賞受賞作としていわゆる出世作となった。
本作は謎の設定とトリック等の謎解きが圧倒的な主題であるが、その後の社会派要素や警察捜査要素も含まれている。
特に背景に作者が詳しいホテル業界とその仕組みを据えた事で、家庭とか家ではない世界を描いた。
そこでは動機も人間同士に発生するものと、仕事と地位と富に関する社会性に繋がるものが取り入れられた。
同時にのちの旅情ミステリと呼ばれるジャンルを生んだ、離れた地域と交通機関アリバイも取り入れられた。
本作でも複数の所轄と警察署の、複数の刑事らが登場して部分的にあるいは広い謎を捜査する、それはこの作者の主流スタイルとなった。
(2020/04/11)
「平林初之輔「悪魔の戯れ」」
平林初之輔は評論家として紹介される事が多いが、大正の終わり頃から昭和最初に小説も書いている。
少ない単行本と、短篇を集めた復刊が僅かに行われている。
夭折の作家であり、短い期間ではあるがある程度の作品が残されている。
今回に単行本になっていなかった長篇「悪魔の戯れ」が単行本で復刊された。
それは佐佐木俊郎との合本の、「平林初之輔・佐佐木俊郎 ミステリーレガシー」であり、「悪魔の戯れ」が6割を占めている。
「悪魔の戯れ」は子爵家の子供の縁談から始まり、息子と兄嫁と縁談相手の家族が絡み、話しが周囲に展開して行く。
当時の時代背景での、事件と捜査等が、関西と東京を結び展開して行く。
探偵小説初期の作品だが、構成と展開はその後の複数のジャンルの先駆け的な意味もありそうだ。
(2020/04/26)