「海野十三「三人の双生児」」
海野十三は戦前・戦中派の作家で、戦後まもなくまで活躍した。
科学技術から発想した、現在のSF的な内容や奇想とも言える内容の小説を書いている。
全集も出ており、作品数は長編から短編まで質量ともに多い。
海野は徳島出身であり、地元には石碑があり、「海野十三の会」も設立されており、地元文学館には展示もある。
作品集「三人の双生児」は徳島で出版された「ことのは文庫」の1冊であり、文学館で購入した。
「『三人の双生児』の故郷に帰る」のエッセイも収録される、短編6作と年譜も収録されている。
収録作品は幅広いジャンルと年代から選ばれていて、アンソロジーでのおなじみ作から珍しい作品もある。
解説も含めて、海野に対する地元の思いを感じる作品集になっている。
(2021/01/06)
「橋本五郎「疑問の三」」
昭和初期に雑誌「新青年」からデビューした橋本五郎は、戦後は女銭外二名義を使用した。
ただし戦争中の空白と、戦後まもなく死んだ事で、後期の作品数は少ない。
「橋本五郎探偵小説選」が最近になり。1・2巻と出版されている。
長編は「疑問の三」の1冊のみで、雑誌「幻影城」に復刊掲載されたが、単行本復刊はない。
発表作は短編作が中心であり、アンソロジーにもいくつか採られている。
その評価を見ると、地味とか無難の表現が多い、戦前作家としては特徴だったかも知れない。
ただ新本格以降の復刊状況を見ると、橋本作品は奇想に欠けていると思われる。
上記の選集にはレギュラー探偵物が収録されて驚いたが、それ以降は復刊は行われていない。
(2021/01/20)
「酒井嘉七「京鹿子娘道成寺」」
酒井嘉七は2000年刊行の「日本ミステリー事典」では経歴不詳作家として扱われている。
だがその後に、遺族が分かり経歴も分かり、「酒井嘉七探偵小説選」が刊行された。
酒井は短編のみの発表であり、作品数は少なく、作品集に全て収録されている。
題材の1つは、航空機もので3作あるが、戦前作としては特異な分野だと言える。
もう一つは長唄や歌舞伎を題材とするもので3作あるが、伝統芸の世界は以降多数の作家で扱われている。
また「探偵法第13号」では、捜査法を扱いそれも先駆的だ。
短編11編にもだが、マニアに取ってはミステリの歴史を語る上でかかせない。
(2021/02/05)
「守友恒「幻想殺人事件」」
守友恒は昭和14年のデビューで戦前の本格とも言えたが、戦争で作品内容を変える事になった。
戦後は昭和22年に長編「幻想殺人事件」を発表して、以降は本格ミステリに戻った。
戦前作から探偵役として黄木陽平が登場し、後期まで登場した。
長編「幻想殺人事件」も黄木が登場する、当時多かった仙花本の材質であり、痛み易く活字が裏に写る。
ながく復刊はされなかったが、最近に漸く「守友恒探偵小説選」の中に収録された。
第二長編は中絶とされているので、唯一の長編となる。
横溝正史「本陣殺人事件」から以後に本格ミステリ、密室ミステリが複数書かれたが、その1冊になる。
(2021/02/21)