探偵雑誌日記(2020/05-06)

「横溝正史「完本 人形佐七捕物帳1」」

横溝正史「完本 人形佐七捕物帳1」が出版された、人形佐七捕物帳の全集の1冊だ。

判明している180作を10冊に分けて全て収録するが、それは初めてであり、完本と呼ぶようだ。

最近の全集や復刊では、初出主義であり作者の文章や改稿のみを復活する方針が多い、この全集も同様だ。

もう一つは経年順=発表順の編集が増えている、この全集も発表順でありそこも見所だ。

発表順だから登場人物も事件も全てが発表順と思ってしまうが、実際はそうにはならない。

作者の執筆時の意識や、単行本化時の状況やその時の改稿が絡み、矛盾というか普通に時系列にならない、これも解題に詳しい。

特徴の2行の章題や定型句は統一されており、文体や語り口は統一されており、物量的にもじっくち楽しめる。

(2020/05/11)

「香住春吾「地獄横丁」」

香住春吾は主に関西で活躍した、戦後直ぐに登場した作家だ。

放送作家としての活動の比重が大きく、小説はその仕事の影響を受けていた。

最近に論創ミステリで2冊刊行されており、中央での小説は多く収録されている。

その他に脚本やその漫画化台本や実用書がある事は、前述作品集や「日本ミステリ事典」にも書かれている。

今回それ以外になるが、少部数出版で「地獄横丁」が出版された。

大阪の地方新聞に掲載されていた、長編「地獄横丁」と短篇5作が単行本初収録された。

いずれも前述の資料には無かった作品であり、さらにそこの書誌メモにはより長い長編もあると紹介されている。

必ずしも全てがミステリではないが、未知の作品に出会えるのはうれしい。

(2020/05/26)

「城崎龍子「ハルビンお龍行状記」」

昭和20・30年代の探偵小説雑誌としては、「宝石」と「ロック」以外は殆ど保有していないので、作品数が多くとも馴染みのない作家は多い。

潮寛二(寒二)もその一人でそれ以外のペンネームを含めて、復刊も少なく読み機会がなかった。

今回に少部数で単行本化された「ハルビンお龍行状記」は、城崎龍子名義の10作と潮寛二名義の3作をまとめて、潮寒二名義の他の1作を加えた作品集だ。

女掏摸・お龍の一人称の犯罪小説・冒険小説・ユーモア小説は、さながらマッカレーの地下鉄・サムや久山秀子の隼・お秀を思い出すスタイルだ。

雑誌「探偵実話」掲載の10作はお色気小説とも言えるし全体に繋がりがあり、連作集よりも連載長編と言える。

のちに書かれた雑誌「オール読切」掲載の3作は、登場人物も概ね重なるが、こちらは一転して掏摸としての話題に終始してミステリ色は濃い。

それに加えて潮寒二名義の赤貝警部が主人公の「阿片と拳銃」も掲載されている、これは実話小説ともされており犯罪実話風のスタイルだ。

アンソロジーで個性的な作品を読んでも、日本ミステリー事典でも項目がないこの作者の作品が読めたのはうれしい。

(2020/06/10)

「井上ひさし「東京セブンローズ」」

井上ひさしの「東京セブンローズ」は1999年に単行本化された大長編だ。

雑誌連載されたが、その連載期間は1984/04から1997/04までと長期に渡っている(中断もあろうとされる)。

小説中の時間は、昭和20年4月から始まり、翌21年4月で終わる、主人公の日記が殆どを占めている。

第二次世界対戦が終わる間際の東京の団扇屋の主人・山中信介が見栄と意地と時代からの遅れに気づかず起こす事件とその書いた日記だ。

毎日の丁寧に書く日記だが、幾たびか中断して日数が飛ぶ、その期間は拘置所等に収監されている。

その期間が益々時代遅れにさせる、戦争の終了も牢のなかだったから事情があやしい、家族の苦労も世の中の騒ぎもピンと来ない。

ただ不思議と警察や占領軍に絡む事が仕事になったりして、偏った詳しい情報が入ってくる。

後半に東京セブンローズと呼ばれるグループが登場すると、探偵小説風味が強くなって来る。

(2020/06/25)