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オンデマンド印刷とPOD
印刷技術の進歩は、大量に印刷するオフセット印刷を進歩させたが、その後に小部数印刷・小ロット印刷技術も進歩させて、そこから「要求があり次第(オンデマンド)」に迅速に印刷する方法のオンデマンド印刷=注文印刷を登場させ進歩させた。
オフセット印刷では「版」を作る必要があり印刷物の完成まで費用と時間がかかるが、版の製作が不要なデジタル印刷機が登場し小ロット印刷技術とオンデマンド印刷が可能になった。
オンデマンドの意味は「要求に応じて」だが、デジタルデータを直接読み込み印刷する方法をオンデマンド印刷と呼ぶ事が多い、製版工程の廃止により製本が早くなり、少部数でも現実的な価格で可能になった、印刷技術も進歩して印刷品質も制約の範囲内では実用レベルになり、個人や事務所のプリンタ印刷レベルの使い易さから、能力を向上させて出版物にも対応して来た。
コンビニでは個人向けのコピーと印刷サービスが行われているが、量的に多い場合や業務用途向けには都会にはデジタル印刷機や事務機器を設置したプリントサービスセンターがある、そしてさらに用途的に高性能印刷機が必要な場合にはその拠点は全国的に分散出来ない、故にその分野では通信販売・サービスでの対応となり、ネットショップ形式の展開が行われている。
オンデマンド印刷の方式として、大きく分けてインクジェット方式とトナー方式が主流となっている。
インクジェット方式は、個人用として使用されているインクジェットプリンターと同じ方式だ、他方のトナー方式も会社などで使用されているビジネス用のレーザーコピー機やレーザープリンターと同様の方式だ。
個人用・ビジネス用の民生用のプリンターとオンデマンド印刷機との違いは、適応する印刷用紙やサイズの違いがあり、他にも印字位置の正確性を必要とする事から高度な用紙搬送技術が要求される、また印刷濃度の再現性が必要であり、その他にも印刷物を作る上で必要となる精度が必要だ。
少量で小ロットの印刷だとしても、業務用印刷機として利用する事からある程度のボリュームに対応出来て、印刷機の耐久性やスピードやランニングコストにも対応する為に専用のオンデマンド印刷が使用される。
オンデマンド印刷機と呼ばれる業務用レベルでの印刷機でも、トナー方式とインクジェット方式が使われている。
トナー方式の弱点は、
1:大型化が難しい、2:熱を加える必要が有り、熱に弱い素材に印刷ができない、3: 表面にオイルが残る、4:トナー自体に厚みが有るので印字面が僅かだが盛り上がる。
インクジェット方式の弱点は、
1:大型化が難しい、2:コート系等の通常印刷使う用紙に向かない、3:高速化すると品質が粗くなる、4:用紙の種類によっては品質が悪い事もある。
高速プリンターを使用する印刷技術はどちらの方式も次々と改良されている、今後の予想としては量が多い印刷にはインクジェット方式が採用されて行き、量が少ない印刷や急ぎの印刷ではトナー方式が採用される見方がある。
例えば大判のポスター印刷用のインクジェットプリンターは、ヘッドを固定して印刷用紙が移動する方法で印刷する場合は、用紙の幅のヘッドを並べる事になり向かないと考えられて、ヘッドを左右に振りながら用紙を送り印刷する方式が採用されている。
オンデマンド印刷の大きな特徴にバリアブル印刷がある、そこでは1枚ずつ内容の異なる印刷物を連続して印刷するが、それは通常のオフセット印刷などでは不可能だった。
ナンバリング印刷も該当するが、単なる連番印刷だけではなく、ランダムな数字や1枚毎に異なる写真等でも印刷が可能だ、デジタル情報のデータベースと連携する事で可能性が広がっている、バリアブル印刷は印刷物に大きな付加価値を付ける印刷と言える。
ダイレクトメールの印刷に於いては、顧客の性別・年齢・地域から趣味・嗜好をデータベース化して、顧客にそれぞれの好みのDMを送ればそれへのレスポンスが向上する事が期待出来る、そもそも宛名書きへの利用がある。
1枚ずつしか必要でないがある程度部数が必要な印刷物に有効であり、顔写真入りのメンバーズカードや社員証・学生証・卒業証書等がある。
宝くじのような抽選くじは番号違いの大量の札が必要になるが連番だけではなく組番号の管理が必要だ、入場券や座席指定券などのナンバリングの他に、商品タグ等ではバーコード印刷が必要になり、システム的な読み取りとデータベース管理が必要となる。
オンデマンド出版は、書籍のコンテンツを電子データ化してデータを蓄積して、利用者の要求が有れば必要な時に必要な数を提供する要求即応型デジタル出版である。
オンデマンド出版には
1:紙の本として印刷製本するオンデマンド印刷
2:CD‐ROMやメモリーカードの記憶媒体でのパッケージ型オンデマンド
3:インターネットでのダウンロードで利用するネットワーク型オンデマンドがあり、2・3を合わせて電子書籍と呼ぶ。
1は冊子印刷になるので、一般的なオフセット印刷と競合して比較される、印刷機の進化と改良で年々改善されて入るが制限は残っている。
オンデマンド印刷は一枚ごとの印刷濃度等のバラツキがあり、一枚ごとの位置ズレが若干あり、レイアウト上で精密な位置が必要なデザインの場合は向いていない、また使用できる用紙にも制限がある。
従ってオフセット印刷での出版本をオンデマンドで増刷・復刊する場合には、印刷方式の違いに起因するインクの色と濃さなどの違いが生じ、同一の仕上がりとはならない。
価格的からも少部数に有効なオンデマンド印刷、大部数に有効なオフセット印刷の目安は変わらない。
本の注文を1冊から受け付ける「プリント・オン・デマンド(POD)」としての活用が広がっている、PODは1冊でも受注して、デジタルデータから必要な時に必要な部数だけ印刷できるので、インターネット通販と相性が良くてたまにのみ売れる需要のあるロングテール商品に適する。
出版社は在庫リスクや保管費用を減らせる利点があり、次第に印刷機の性能も向上している、課題はPOD用の書籍データは出版社が制作するが、書店は専用の印刷機を導入する必要がある事で、投資回収の見込みがないと導入は難しい、また1冊あたりの印刷コストも通常印刷よりは高くなる。
電子書籍取次大手の出版デジタル機構は出版社と契約して本のPODデータを取引先の書店に提供を始めた、ネット通販書店であるアマゾンジャパンや楽天や三省堂書店はPODのサービスを始めており、通販という手段で注文を集めて拠点の印刷機で本を作り全国的に販売している。
三省堂書店は神保町本店でPODのサービスを始めており、店頭で注文すると店内の印刷機ですぐに製造して利用者に手渡しするとしている。
PODは同じタイトルでも書店が異なれば印刷機も異なり紙質や製本は変わり、場合によってはオンデマンド出版故に同じ書店でもリピート注文に対して本の品質が変化する事も起きる、またPODの本は再販制度の対象外であり書店側が本の売値を決められるので価格が書店で異なる事があり、納期にも差はある。
ただし出版不況が続くなかで、ネット通販と組み合わせて柔軟な注文に対応できるPODは注目されている。
書籍販売・古書販売
商業出版での書籍と本の販売方法は再販売価格維持制度(通称再販制度)で行われている、独占禁止法では自由な価格競争を求めており、商品の供給者が販売店に小売価格を指定する事は禁止している。ただし書籍・雑誌・新聞・レコード盤・音楽用テープ・音楽用CDの6品目は例外的に「言論の自由や文化の保護という見地」で再販売価格の指定が認められている。
書籍・本の定価販売は再販制度があるからだが、一方では書籍には委託販売制度があり小売書店で販売されて、売れ残りは供給者である出版社に返本される仕組みがある。
書籍の再販制度と委託販売制度は長く続いて来たが、出版不況と小売り書店の廃業による店舗数の急減が起きており見直しの意見が増えている、ただし具体的な意見はそれぞれの立場で異なり、方向性は不明だ。
出版社は返品率の増加の返本リスクの対応に追われ、小売り書店は本は多く配本されて来ても売れ筋の本が不足し値引き販売などの自由がなく利益率を変えられない、ただし書店が返本リスクを負えるかは疑問だ。
ネット通販専業書店の大手のアマゾンや楽天は価格を変えられないのでそれ以外のサービスを考え続け、再販制度外の本である古書や電子書籍や個人出版本やオンデマンド出版も広く扱って来た。
書籍は一般には量産品の性格を持つがバラツキも持っていて商品としては暗黙に認められている印刷・裁断等の誤差がある、カバーや帯や箱は本体と扱わない事が通常であり痛み防止の包装材料扱いが普通だ。
本体に関しても、増刷は同一扱いであり誤記誤植を含む内容の訂正が行われても注釈なしで同一本扱いとなりシール訂正も同様だが販売側の判断で決まっている部分が多い、書店棚からは購入者が選ぶが通販はネット書店が選ぶ、同一商品かは暗黙の常識・了解がある。
使用済みと見なす痛み・落書きは販売・再販制での返本共に不可だが微妙なケースはある、出版側が加えた手書き通し番号は除くが最近流行のサイン本は落書き扱いが普通だ、判断は難しい。
古書販売は1品が基本だ、2冊分冊本や複数冊の全集でも揃っておれば個々の出自は問わないのが普通であり、必要があれば購入者が確認する必要がある、問題があれば個々の返品交渉が必要だ、サインは付加価値か落書きかは個人で意味が変わる。
古書販売と同様に1品販売かそれに近い少部数本が、ロングテールとしてネット通販との相性の良さを示して来た。
一般には多い部数の印刷本が商業出版として一般書店で販売されており(多数が再販制として)、同じ商品が量産されて注文取り寄せ対象でもある、消費者から見れば書店取り寄せは時間はかかるが費用は本体料金だけであり、出版社への直接注文やネット通販は送料が必要で配達時間も掛かっていた。
ただしこの比較内容は、ネット通販の翌日配達や送料無料サービスの拡がりで逆転現象が起きている、出版社への直接注文でも費用面を含めたサービス内容が行われて拡がっている、これにポイントやクーポンが加わると実質の本体価格が変動している。
通信販売が拡がった当初は、ネット通販や出版社への直接注文は書店で見つからない商品に向いているとされた、対象は少部数出版・自費出版・同人出版等であり、それに1品販売の古書販売を加えて、ロングテール本とその販売方法だとされ、インターネットを利用しての特徴だともされた。
ロングテール本の市場性は大規模商業出版社的には微妙だろうが、元々のロングテール本の発行元は規模が小さく、古書店も規模の小さい小売店規模が多い、書籍・出版物にはインターネットを利用してのロングテール品の需要が存在する。
古書は原則的に現品のみの1品販売であるので、古書店は一般書店と異なる商品と販売方法を行ってきた。
流動商品が圧倒的に少なく商品の入れ替えではなく補充が原則だ、記載定価は無関係で個々に異なる価格を設定するので価格も現品のみの1品となる、そして在庫が続くと価格を変える場合もある、ただし販売側の判断となるので価格を高くする場合も有り得る。
古書店は仕入れは独自のルートで行っていて、仕入れ・価格設定・販売戦略全てが商品知識と古書販売知識によるものだった、そこの商品は時代的にも古書を多く扱い付加価値で販売当時の価格をうわまる商品も多い、レア本・マニア向け本のイメージは大きく、古書の言葉に相応しい。
そこに複数店舗展開する古書店が登場した、ブックオフを代表とする新しい古書店群は新戦略でビジネスを拡げた、そこで扱う商品はユースド本と呼ばれる事が相応しいともいえる、そのビジネスモデルは後述する。
一般古書店は古書市や1品商品のカタログ販売という手法で顧客の拡大を図ったがそれはやがてネットの普及によりネット通販へと変わった、ウエブサイトでの商品棚や電子メールカタログは有効な手段となった、一方ではブックオフ等の新ビジネスモデルでも出版不況や本の販売低迷の影響もありネット通販の比率を高めた。
一品物商品の販売方法にオークションがある、インターネットとネット販売の普及はネットオークションの普及にもなり、その中に古書販売も入った。
書籍でも再販制度で販売される商品は価格固定でありオークションとはそぐわないが、古書・ユースド本以外でも再販制度ではなくロングテール性がある少部数販売品はオークション販売の可能性はある。
ブックオフを代表例とする新しいビジネスモデルの古書店群は新戦略で拡大した。
・マニュアル化による価格設定と、大量仕入れ・大量販売戦略
・在庫を少なくする販売戦略
・一般読者からの仕入れ(買取)と販売を結ぶシステム
・新刊本を早期にユースド本化しての安価仕入れと再販売
このビジネスモデルでは大量仕入れによりユースド本が複数冊在庫になり非一品化になり流通量も増える可能性がある。
アマゾン・楽天・ヤフー等の巨大ネットモール内には再販制度の書籍販売店が必ず含まれているが、それに加えて多様な古書店が参加して古書・ユースド本が販売されている、モール内検索で調べれば新刊と古書・ユースド本が同時に見つかる、そしてそこにはブックオフ等方式の古書店も含まれている。
書籍販売・古書販売でのインターネットとネット販売の有効性と優位性は宅配便の普及により利用者に認識された、その結果としてネット通販書店での一般書籍販売と古書・ユースド本の併行扱いが増加して、そこに電子書籍や少部数書籍やオンデマンド書籍が加わった。
ネット通販書店は一般の商業出版品でも仕入れと受注と出荷を繋いだ在庫管理が重要となる、オンラインでの管理と対応方法として在庫数の表示と在庫なし時の取り寄せ予想時間表示を行い、それに加えて予約受付も行い、受注と予約に関しては電子メールでの通知がシステムに組み込まれている(ネット通販では一般的な買い物カゴのシステムの1方式)。
少部数書籍やオンデマンド書籍は予約と取り寄せの比率が高くなりネット通販システムの能力自体が利用性に直接に繋がる、ネット通販書店には自らオンデマンド印刷システムを保有してオンデマンド書籍に対応する所もある。
1品商品(古書等)は売れると品切になりかつ取り寄せは不可能である、ただし購入機会も少ない、古書店では店舗とネット店(複数のウエブサイトの事も多い)で同時に販売して売れた時にリアルタイムで同時に品切表示に切り替える作業が行われている(実店舗では商品が棚から無くなるだけだ)。
そしてネット通販書店利用者への、ウエブサイトと電子メールでのマッチング手法での販売促進活動もある。