項目別バックナンバー[3]:ビジネス情報:74
デジタル情報化
日本ではデジタル化が遅れている事から、政府はその推進を目指す方向だった、本メルマガではデジタル化推進での説明を主体で行って来た、デジタル庁の発足や、マイナンバーカードの普及や機能統合の動きもその視点から見て来た。
ただし具体的な政府案は一案に過ぎないので、その是非には賛否があるのは当然だ。
さらに現実論として、個別のシステムや進め方には異論や問題点もある。
この時点で、それらについてを整理して述べて置く。
一つは、欧米の多数民族の社会と、日本の単一(厳密では無いが)民族の社会の違いだ、多数民族の社会では誰が判断しても公平を保てる共通のものさし・判断基準が必要だ、そこでは判断システムやそのデジタル化・電子化は有用だ、機械的・コンピュータ的に判断がされる事はトラブルが少ない。
日本では国内で価値観が共有されているとの考え方が根強い、機械的に判断するとかコンピュータでの判断とかは不要と嫌う文化がある。
ただし日本でも高齢化もあり、年齢層による価値観の差も広がっている、さらに避けて来た移民問題を含めたグローバル化では欧米的な考え方は避け難くなってきている。
さらにデジタル化をトップダウン方式で進める事への反対がある、政府主導での改革では、利用者側の国民の理解と対応が不充分故の失敗への危惧がある。
デジタル化不要論は説得性は無いが、一方では現在の日本政府の方針については反対意見や、急ぎすぎとの慎重論は複数あり、現実論としては賛否の判断は難しい。
デジタル情報化の意味と課題について整理しておく。
・デジタル数値化やデジタルデータ化
紙に書かれた帳票・帳簿からデジタルデータに替える。
帳簿レス化・手書きレス化。
・デジタルデータの電子入力と電子出力化
人手による入力や確認作業を無くす。
個人認証を電子化する。
決済のキャッシュレス化。
・ビジネスの作業やショッピング等の作業のオンライン化
インターネットの利用、クラウドの利用。
パソコン利用、スマートホン利用。
通信・コミュニケーション等のオンライン化。
・データの集合化
電子化データ・デジタルデータの、関連つけと集合・統合。
ビッグデータ化と処理、集合知。
デジタル化と電子データ化には、その保存と保管法の課題がある。
デジタルデータは原理的には劣化せず無限に保管可能だが、それを実現させる具体的な方策が必要。
電子化データは利用方法次第で、省力化・省人化に繋がる。
DX・デジタル化は技術的にはインターネットで支えられている。
それ以前の電話・電信網の技術とインターネット技術は大きな違いがある。
一般のコンピュータ・システムは中央部分が、末端の部分をコントロールしており中央集権的な構造だ。
これに対して、インターネットは分権的システムで、各部分が半ば独立していて分権的構造になっている、それ故にその活用方法も異なる。
インターネットは1960年代に始まり、当時の異なる種類のコンピューターの接続は困難だった、そこでTCP/IPというプロトコル(通信規約)を決めて、それに準拠すればデータ交信が可能になった。
インターネットではパケット交換方式のデータ通信が行われ、それは分権的であり、従来の電話/電信ネットの中央集権型の回線交換方式と比較すると、回線利用効率が良い、そして故障に強く、拡張性が優れる。
インターネットでは、運用コストを各ノードが分担する、ユーザーは自分のコンピューターと接続に関するコストを負担するが、そのかわりに相互で無料で利用しあう仕組みだ(中央管理への支払いは無い)。
インターネットは登場当初から自由・平等・分権的・互助・民主的なネットワークである事が基本原則だった。
現実には用途は限られない、それ故に軍事用途で使われたこともある、それ故に基本原則だと表現される。
1980年代に入ると学術用のネットワークに使われ、さらには1990年代にビジネス活動にも使用され始めた。
そしてワールドワイドウエッブが登場した事で、インターネットは政府や企業や学者らにも広がった、そしてそれらには誰もがアクセスが可能になった、そのことはグローバルへの普及に繋がり、経済面も含めての交流が可能になった。
2000年代にはいると、SNSが登場して普及した、それによってブログやツィッターやフェイスブック等で個人でも自由に発信できる様になった。
ただしそれによってインターネットに膨大な量のデータが溢れる事になった、そのような膨大な量のデータを整理するために開発されたのが検索技術だ、ただし同時に無責任な匿名の中傷や広告ビジネスなどの新しい問題が生まれている。
インターネットは問題点を抱えてはいるが、「情報を共有して衆知を集める事で、よくなる」と言う性善説を進めるメディアとして実現されて来た。
民主主義ではその決定方法としては、情報を共有して衆知を集める考え方が基本にある。
そして「正しい結論は上記の決定方法で生まれる」の考え方がありそれは「集合知」の考え方でもある。
エリートや特権階級による権威主義が欧州中心にあったが、アメリカではそのトップダウンに反対して、民衆から生まれるボトムアップの知に価値がある考えが広がった。
その中では、インターネットと、ウエブとSNSの登場により、インターネットを利用した集合知が注目された。
インターネットの普及で、人々は色々なジャンルで自説をウエブ上で公開しており、その成否は閲覧者が判断する事になる。
そこでは新鮮な情報や研究成果が登場するが、半面では信頼できない偽の内容も横行する事になった。
そこでは、有用・無用、真・偽、玉石混在のネット集合知が生み出される、その見分け方が重要となっている。
デジタル化の有効性、さらにはインターネットによるデジタル化について語る中でインターネットの中での膨大な情報とそこでの玉石混在の「集合知」の存在が判り、そこでのネット集合知の見分け方が大切になった。
集合知の理論的根拠については、いくつかの著書とその中での実施例・実験例がある。
そこでは「普通の人々の推測をあわせると正確な答えにたどりつける」という事実が示される、ただそれには条件が必要だとされる。
本質として集合知定理があり、それは「集団誤差が、平均個人誤差から分散値を減じた値に等しい」だ。
「集団誤差」:推測者集団の個々のメンバーの推測値の平均値の誤差。
「平均個人誤差」:個々の推測値の誤差の平均値。
「分散値」:個々の推測値の統計的バラツキ。
集団誤差の小ささが集合知の精度を示し、そして「個々の推測値がバラついているほど、集合知の精度は増す」ことになる。
銀行とデジタル化
DX化・デジタル化は全ての分野の課題であり、金融もデジタル化が課題となっている。
銀行に於いてもパソコンの普及時期やインターネットの普及が始まった時期から既に、従来型の店舗型の銀行への課題が言われていた。
そこでは金融機関としての銀行の機能は必要であるが、従来型の銀行は不要になるとの意見があった。
そして、銀行は社会にとって必要なのか、人や社会が銀行に求める機能とは何か、銀行は変化する社会に於いて成長できるかあるいは存続し続ける事が出来るのかなどの課題と問題がある。
銀行は法律や社会とのつながりが大きいので、国や地域により異なる部分も多くある、さらには時代の変化の影響を避けられない。
銀行の経営状況は悪化している、あらゆる業態が合理化・人件費や固定経費削減を目指す中で、銀行は統合を繰り返して来た。
インターネットの普及によりネット銀行と言う店舗を持たないタイプの銀行が登場した、従来型の銀行もインターネットへの対応を終えて現在ではすべてがオンラインで繋がっている。
だが経営状況は改善されておらず、さらなる合理化やデジタル化が課題となっている。
銀行を取り巻く変化
メガバンクの利益率の低下>店舗営業が基本の銀行の危機だった。
銀行のITに関わる変革
・銀行の機能が銀行以外のサービスで代わられつつある。
銀行融資以外の資金調達が行われ、債券発行・株式発行等が行われてきた、それにクラウドファンディングが加わった。
・銀行を通らない決済の仕組みが普及した。
携帯電話キャリアと大手ネット関連事業者が決済事業に進出した。
キャッシュレス決済の色々な方法が登場して、競いあっている。
・企業が銀行機能を持つ場合が出来て来た。
企業が銀行の代理店の働きを持つ、そこには企業に銀行が銀行機能を提供するケースがある。
変革は主に個人向けサービスで目立っている、企業向けでは銀行が機能を継続して提供している、ただ変革は早く将来予測は難しい。
銀行にもいくつかの種類があり、それぞれによって変革への対応が異なる。
メガバンクの銀行デジタル化
1990年以前は全国で展開する都市銀行としては、第一勧業銀行・富士銀行・三菱銀行・住友銀行・三和銀行・太陽神戸銀行・東海銀行・東京銀行・大和銀行・協和銀行・埼玉銀行・北海道拓殖銀行があり、そこに長期信用銀行の日本興業銀行・日本長期信用銀行・日本債券信用銀行)が加わっていた。
1990年から2008年に渡ってこれらの統合と再編が行われて、2020年には3メガバンクの三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行と、りそな銀行になっている。
金融機関が預金・貯金を受け入れるためには免許が必要であり、取得した機関は「預金取扱金融機関」と言う。
「預金取扱金融機関」は預金・貯金を受け入れて、それで融資やローン等を行うのが業務スタイルとなる、故にどこも似たサービスになる。
以前には預金金利と融資金利の差の利ザヤで収益を上げていた、だが現在では利ザヤが減少して収益力は低下している、そして基本業務では金融機関間での差別化は難しい。
そこでは収益力改善案として、海外への進出や、銀行デジタル化による新しいビジネスモデルの試みが行われている。
メガバンクの銀行デジタル化
(承前)
3メガバンクは銀行デジタル化による新しいビジネスモデルの構築を目指した、その詳細はそれぞれで差もあった。
共通しているのはインターネット等のオンラインでの、社内と外部企業との連携であり、その結果としての顧客へのオンライン接続とサービスの供給だった。
その結果として、ほぼすべての金融機関は相互にオンライン接続して、対顧客間、対金融機関間のサービスが提供されてきた。
みずほ銀行とそのグループでは
・銀行系キャッシュレスサービス>J-Coin payアプリ。
・スマートホン専用銀行>Lineと共同で新銀行準備中。
・データ活用事業>Mi-pot事業開始。
によるDXの推進を計画して来た。
その推進には新システムの安定稼働が必須だったが、2021年に全国的な大規模システム障害が起きて、上記の計画は全て影響を受けて遅れている。
(続く)
みずほ銀行とそのグループ
(承前)
2021年2月にみずほ銀行の全国の7割のATMが不稼働のトラブルが発生した、日曜日で店舗は閉まり、ATMセンターのオペレータは少数ですぐに繋がらない状態になった、それは新システム稼働後2年目の大トラブルだった。
3月に機器故障によるATMの障害が、次にプログラムエラーによる障害が、次に機器故障での外為送金の遅延が起きた。
3/17にシステム障害特別調査委員会が立ち上げられ、6/15に報告書公表と再発防止策が公表された。
だが、8月に機器故障での店舗業務障害が、次にネットワーク不安定でのATM障害が、9月に機器故障でのATM故障が起きた。
9/22に金融庁からみずほ銀行とみずほファイナンシャルグループにシステム更改と更新の計画の提出を求める業務改善命令が出た。
その後も障害は発生した。
連続障害の原因として以下が上げられた。
1:システムのアーキテクチュアの複雑性。
2:保守運用でのリソース削減が急だった。
3:コミュニケーション不足。
4:関連組織と会社が連携しにくい体制。
5:機器の所有がベンダーだった。
(続く)
みずほ銀行とそのグループ
(承前)
連続障害の原因の推測。
1:システムのアーキテクチュアの複雑性。
システムが4つの基盤システムで構成されていて、それぞれがOSもデータベースシステムも異なり、結果として全てを理解できる専門家がいない。
障害への対応が遅れる上に、社内に専門家がいなくなり易い。
2:保守運用でのリソース削減が急だった。
システムの各ベンダーの専門家が、リソース削減策でいなくなり、引継ぎ不足が重なり、障害管理能力低下と、障害発生後の対応力低下が起きた。
3:コミュニケーション不足。
現場の責任者がシステムに精通していなく、現場からの意見が経営者側に伝わらず、コミュニケーション不足が生じた可能性が高い。
その結果で、リスクが高いレベルにまで社内人員とベンダー人員削除が行われた。
4:関連組織と会社が連携しにくい体制。
みずほ銀行と開発会社の二層構造であり、さらに開発会社と運用会社が分かれており組織的に複雑だった、さらに組織再編で保守体制が弱まった。
5:機器の所有がベンダーだった。
初期投資抑制のためにベンダーから機器を借りていたと思われる。
従量制の使用料で、その抑制のためにテストや訓練が少なくなっていたと思われる。