項目別バックナンバー[3]:ビジネス情報:54

出版

活字印刷方式での出版の歴史は古く、電子化が主流になったのは極最近の事だ、過去は執筆者は手書きで原稿を製作した、欧米ではタイプライター文化があったが原稿製作では手書きと同じ意味だ、その紙の生原稿を使用して推敲や校正を行い、活字を手植版して印刷を行い製本した。
1990年台に写真植字(写植)とDTP(デスクトップ・パブリッシング)が一気に進み短期間で、活字印刷は出版方法としては絶滅状態になった、この時期では手書き原稿はワープロのオペレーターにより入力されて電子データ化されてDTPされた、活字印刷本の復刊では写真植字が使用される事もあった。
電子データ化の流れは、執筆者がワープロやパソコンを使用して電子データで原稿を製作する事をも進めた、電子データ化の前の短い期間はコピー文化があり生原稿をコピーして推敲・校正に使用したが、電子データ化されると複数部の印刷は容易であり、校正作業を変えるとともに復刊や増刷時の部分的な変更は容易に行われる事になった。
出版本の活字サイズやフォント変更は簡単になり、過去の増刷は改訂増刷や新訂初版の形に変わり、出版形態を変え品質は桁違いに向上した。

出版物の電子化が加速すると本の製作方法が一気に変わり、出版社にとっては多数のメリットがあった、例としてはそれ以前の職人が本を製作する世界からパソコンと情報オペレーターが作業する事に変わった。
それと同じ頃に原稿の執筆者もパソコンやワープロ等の電子機器で原稿製作する方法に変って行った、カットアンドペーストの方法で修正等が容易な原稿製作や原稿清書作業が不要な方法は、負担を軽減した。
電子化した原稿はコピーが容易で、小型の記憶媒体を使用すれば郵送等も簡単になったが、同時期のインターネットの普及により電子データをインターネット通信で送付する事が可能になった、これは執筆者と出版社と及びその編集者との距離を縮める事になり、執筆者の首都圏を中心にした一極集中を少なくする事に働いた。
現在の小説・ドキュメンタリー・評論の一般募集要項を見ると、電子データでもプリントアウトした原稿も合わせて必要とする事が多いが、電子データのみや締め切り期限は電子データ到着時間の事もあるようだ。
電子データを使用した少部数出版あるいは少部数の製本サービスが誕生してそれが増加しており、同人出版や個人出版に加えて卒業論文や学位論文等、サークル等の名簿・情報誌の製本が容易に行える様になっている。

電子出版の考え方は、出版の電子化=デジタル化の技術の進歩と、パソコン等の情報機器の進歩とインターネットの通信技術の進歩・普及という社会との密接な関係とがあり、急激に変化してきて現在に至りそれは続いている。
パソコン等の情報機器と技術が登場した1980年代に電子出版という用語が登場したがそれはDTPによる電子編集と制作の意味であり、それに加えてCD-ROMなどの媒体を使用したパッケージ商品として電子(デジタルデータ)出版を意味した、そして日本では1986年に日本電子出版協会が設立されてその仕様と標準化から、普及を始めた。
上記での電子出版という用語は出版物の電子化=デジタル化の意味であるが、この意味では現行の出版はほぼ電子出版になっている、そしてパッケージ商品としての電子(デジタルデータ)出版は、音楽と映像を含めたマルチメディアコンテンツは除くと、紙媒体の出版物の代替として考えると制限された範囲に限られている。
インターネットが普及すると、出版物のコンテンツはインターネット配信の方法が取られる事になった、それは音楽・映像でも同じ傾向だが、紙媒体やCD‐ROM等のメディアを使用しないインターネット配信での電子出版と電子書籍が市場を拡げた。

出版の電子化=デジタル化はほぼ達成されているが、紙媒体やCD‐ROM等のメディアを使用しないインターネット配信での電子出版(以下、電子化書籍)については漸く拡がりつつあるがまだまだ全てでない。
電子化書籍の調査で、大手出版社は比率が増加して居るが、中小の出版社では電子化書籍の比率は50%以下からゼロとされた。
その理由としては
1:権利関係の処理の複雑さ、2:売上やコストの問題、3:電子化への意識の低さが指摘されている。
出版には著作権・肖像権の知的所有権の問題が大きくそれを無視しては出版はなりたたない、紙媒体の知的所有権契約は電子化まで含んでいなかったので既存書籍を電子化する場合には、技術的な処理以外に知的所有権の契約が必要になる、1冊の書籍には複数の著作権者が存在する事は普通であり手間がかかる。
初出出版の場合には紙媒体と電子化書籍の契約を同時に行えば良いと思いがちだが書籍の復刊を考えると簡単でない、例えば小説の場合は文章の著作権者の他に挿絵・図版(図表)・写真・装丁・解説・あとがき・カバー文・・等の著作権者が関わり、印税方式と一時払いが混ざる。
次に文庫版での出版を行う時は文章の著作権者は継続するがそれ以外は未定でありほぼ無くなる、新たに文庫版解説が増える事もある似た事は復刊には付いてまわる、一括契約は文章の著作権者には有効だが他は不明だ、その結果として紙媒体と同時発売の電子化書籍では本文の文章のみの事は普通だ。

電子化書籍の比率が低い理由に「売上やコストの問題」がある、電子化書籍の環境は拡がりつつあるが普及への繋がりは明らかではない、出版自体での書籍製作と販売における原価構成はあまり知られておらず、それ故に電子化コストについても理解されていないと言われている。
紙媒体の書籍のコストはおもてに出ないが、例として流通マージン(30%)+印税(10%)+制作費(25%)+人件費(固定費・35%)の情報がある、これでは利益が無い事になるがそれは初版時であり増刷時からは制作費・固定費の一部が不要になるからそれが利益になると言う、著作権料などの印税は発行部数に比例して必要だ。
電子化コストはテキストの電子化が進むと初版書籍では低減も期待出来るが、非電子化の既刊本では電子化の為のコストがかかるので電子化は難しいとする意見は今もある。
さらに電子化書籍の売上げ見込みが紙媒体の書籍以上に不安定で見込みが難しかった事も原因だ、これは電子化書籍のコンテンツが増えても、リーダー機能のある機器・ソフトウエア・システムの利用率が影響する事も理由だ。
電子化書籍の環境を含めた普及により出版社にノウハウが蓄積される事で状況が変わる事が予想される、それは「電子化への意識の低さ」の改善が課題であり、変わって行く必要性を意味する。

紙媒体ではない電子化書籍は紙媒体の出版では必要だった幾つかの工程が不要となる、ただしコスト的にはまだまだ出版の障壁がある、またインターネットを通じた販売でPDFやテキスト形式のダウンロード方法では購入者の操作能力を必要とした。
その管理・運用の障壁を少なくしたインターネットを利用して配信する「オンライン系電子出版」が始まり主流となって来ている、販売者がオンラインショップでコンテンツとして電子化書籍を販売すると、データ通信で利用者が端末にダウンロードするが、購入履歴はサーバ上に保存されて、コンテンツを端末から削除しても再度ダウンロードが可能となっている。
多くの販売者はクラウドサーバを提供して同時にそこへ配信する、そこでは利用者は端末にダウンロードせずにクラウドからでも利用出来る。
インターネット通販では少量品・ロングテール品を扱う事に特徴がある、それを電子出版に応用して電子機器と技術を活用して、紙媒体の本を注文生産システムを構築して受注後に印刷するオンデマンド出版が行われている。


ビジネスと人工知能ゲーム

コンピュータゲームの1ジャンルとして人工知能・思考ゲームがある。
最初はコンピュータが人間の思考を行う事に興味があったが、次第にその能力に関心が移り、次にコンピュータ対人間が競う事に関心が移った、現実はコンピュータと情報技術の技術進歩は激しく、人間との係わりは急激に変化した。
コンピュータによる人工知能ゲームのビジネスへの係わりも、同様に急速に変化してビジネスモデルとして定着する前に次の段階に移行してきた、それ故に将来の展望は予測困難だ。
人工知能技術開発の目的の1つにビッグモデルと言われる分野への利用がある、それは広すぎて人間が分析出来ない分野だ、そこでスモールモデルとして思考ゲームをシュミレーションする試みが行われて来た。
例えばチェッカーや五目並べや連珠、チェスやオセロ、将棋や囲碁と対象が進んで来た、コンピュータの思考の基本は多数の先読みを高速で行う事であり、選べるルール上の手の数が多いほどに難しいとされ、選べる手が少ないゲームから強い思考プログラムが作られ来た。
企業が人工知能研究の中でゲームソフトを作る時は、広告手段としての意味がある、例えばスーパーコンピュータで一時期のみ参戦して、終了後は分野から離れてしまう事もある、ただしその後も人工知能研究の先端企業のブランドイメージは強く残る。

コンピュータゲームの1ジャンルとして人工知能・思考ゲームの需要があり、パソコン登場直後から多数のソフトが開発して発売された。
コンピュータに問題を解かせるソフトは「ライフゲーム」「ルービックキューブ」などがある、それは数学の数値解析と同じと言える、ただしパソコンの能力が高くなり拡がると販売的にはそれだけでは機能は弱い。
コンピュータゲームとしては対戦ゲームが中心だが、コンピュータが審判する機能や、公平な??カンニングするゲームが最初に登場した、その次にコンピュータが思考するモードを持つようになった。
対戦形の思考ゲームとしては、ハード的ソフト的に易しいゲームから開発されたが、「3目並べ」「麻雀」「トランプ」から「オセロ」が1段階であり、次に「チェス」、現在は「将棋」「囲碁」まで作られて市販されて来た。
アマチュア用というか一般向けには早い段階から対戦ソフトとしてはコンピュータが強くなりすぎた、それでは繰り返しては楽しめないので、最強モード以外にハンデを付けたり思考機能に制限付けたモードを備えた、多機能の総合ソフトへと改造されて販売されている。
ゲームセンターの機器と、専用ゲーム機用にも、開発して提供されて来た、ただし機能向上が急激な人工知能・思考ゲームジャンルは、機器とソフトの機能アップに対応出来るパソコンが有利であり、パソコン以外の一般向けとしてはスマホとタブレット用途が対象となるが、同じは無い。

一般販売用の人工知能ゲームはビジネス的に人間側が公平さを感じる調整又は継続して楽しめる仕様が組み込まれている、それは通常の人工知能とは異なる手法となる。
一般用のソフト販売とは異なる又はその総合ソフトの1機能として、人間との対戦を想定しない最先端機能の追及も行われている。
高機能性能のコンピュータ+人工知能ゲームソフトとの組み合わせで競い合う競技とイベント用があり、プロ棋士やトップレベル競技者向けや記者・ライター用がある。
チェスと将棋と囲碁では、市販されないスーパーコンピュータや、多数のネット接続されたコンピュータを使用したシステムでイベントが行われて注目を得たが、その後は次第に市販されては居るが高価なハード機器を使用したシステムが複数でイベント(例えばコンピュータソフト選手権)を開催する事が行われている。
コンピュータのデータベースを使用した過去の事例集=いわゆる定跡の普及は戦術面で急激な進歩をもたらし使用しない場合と比較したアドバンテージをもたらした、人間を越えた能力を確保した後は上級者・プロの研究ツールとして有用になった、一時は人工知能ゲームに必須とされた時もあるが、使用しないソフトが増えてきた。 急激な進化故にビジネスとの繋がりはまだ試行途中だ。

パソコン登場以前からコンピュータにチェスをさせる行為は行なわれた、コンピュータの能力に合わせる形で進んで来たので、コンピュータチェスの歴史的な進化はほぼコンピュータの進化であり、パソコンでのチェスはその延長として対応した。
人工知能ゲームの思考方法はコンピュータチェス用に開発されたものが多く、ゲーム木検索から全手検索・評価関数・候補手の枝刈り等のアルゴリズムの開発と、複数台コンピュータの並列動作の手法や、データベースを利用した定跡の利用と、自らの過去の経験の蓄積を利用する学習手法と、自ら学習して成長する機械学習手法等が併行して進化した。
コンピュータチェスは急激に進化して、その実力が人間のトップクラスに追いつき追い越した歴史があった、ただしそのコンピュータハードは特殊で一般的には使用が難しく再現には環境が揃い難くかった。
ハードとして市販コンピュータ・パソコンを使った場合でも初期の特殊ハード・ソフトと同等の能力が出せる様になった事が次のステップとなった、そこではソフトの公開や市販や流通が行われて、一般多数人が利用して楽しみ、さらにはチェスの勉強と研究に使用する事が可能になった。
同時にソフトウエア開発自体が、広く可能になり、進化が加速した。

日本ではパソコンが普及し始めた頃には人工知能ゲームとしてはコンピュータオセロのソフトが開発されて市販もされた、アーケードゲームとしても同時期に登場した。
その時のコンピュータオセロプログラムは、ゲーム木で全ての可能な手を探索したが、理論的にはプログラムは全ての駒配置と木を調べる事が可能だったが、実際の思考時間に応じて読みの深さが設定されて、強さに差が出た。
従って枡目の少ない盤、例えば4×4が完全解析されて、次第に広い盤に拡大される事になった、完全解析に必要な計算量の見積もりがゲームの種類ごとに見積もられてハードウエアの進歩と合わせて解明時期の予測がしばしば行われた。
この予測は全探索方法の場合であり、実際のソフト開発では探索量を少なくする手法の開発や読みの省略方法の開発が行われる事になり、後の将棋・囲碁のソフトの進歩はこの時の予測を大幅に超える事になった。
コンピュータオセロはパソコンハードの性能向上と重なる事で加速されて人間との対戦でその能力を超えた事もあり、ソフト開発者の一部は将棋に移っていった。

日本で独自の文化を拡げていて新聞等のマスメディアにプロ組織とプロ棋士が棋譜を提供してきた将棋と囲碁は競技人口と観戦人口共に多く、それに対するコンピュータ将棋とコンピュータ囲碁の開発と進化は、コンピュータチェスやコンピュータオセロよりも関心度が高く注目も高かった。
初期の話題は「人間を超えるかどうか」であった、次には「超えるのはいつになるか」に移り、その中に「パソコンレベルの機器ではどうか?」が加わった。
コンピュータ将棋とコンピュータ囲碁の話題は、ビジネスとソフト開発共に、影響も大きく進化も早かったが、次回のテーマとする。
その進化の過程で、競技専門性からアルゴリズム専門性への移り変わりがあった、また人間が長期に渡って積み上げてきた定跡の利用面で大きな変化があり現在は使用しない方向が見られる。
ゲーム特性に合ったコンピュータ思考・アルゴリズムが注目されると共に、将棋と囲碁やゲームというジャンル内だけでなく、定跡的な専門知識と経験なしでも強くなった事は、他のジャンルに応用できる可能性を示すとも見られる。

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