項目別バックナンバー[3]:ビジネス情報:73
デジタル庁
2021年に日本政府はデジタル庁を発足した、それは政府・行政のDX化の一つだったが、形の上では政策で大きく舵をとった感はある。
2000年代のインターネットの普及や、2010年代のAI(人工知能)やLOT(物のインターネット)の広がりに続いて、DX・デジタル化は世界的に広がっており、日本でも考え方や用語は同様に広がっていた。
2020年頃のその経過を見ると、世界各国でそれぞれが進められていたが、日本においては、デジタル化は遅れていると言われていた。
その中で新型コロナ・ウィルス感染問題が起きた、さらにはロシアのウクライナ侵攻が起きて世界的に安全保障問題とエネルギー供給問題が起きた、各国はその対応に追われた、稀に起きる異常事態だった。
デジタル化・DX化については、これを推進することが、経済成長に繋がり、国の国際競争力を向上させるという考えがある、それは多くの人に信じられているが、同時に根強い反対意見もあった、歴史的にも改革にはいつでも反対がついてまわる。
それのバランスを取りながら改革を慎重に進めて行くことが多く、それが平均的な考え方でもあったようだ、だがその例外は緊急時・異常事態でありその対応のためには一気に改革を進める事が必要な時もある。
緊急時・異常事態には、戦争・自然災害等があり、ウィルス感染問題もこれらと同等だと考えられる。
デジタル庁の開設以前に、日本のDX化・デジタル改革の遅れの状況を「デジタル敗戦」と言った人がいた。
それは日本が欧米先進国と比較して、政府・行政のDX化が遅れた意味であり、その結果として日本の経済成長が低下して、対外的な競争力が低下したという意味があった。
それが具体的問題化したのが、新型コロナ・ウィルス感染問題への政府対応であり、他の先進国と比較しての日本の遅れであった。
その時点での各省庁・行政機関のDX化は個別対応であり縦割りで進められていた、その対応と進行がバラバラであり、相互利用のための横のつながりが弱く、それらの統合化も難しかった。
それらへの横串し的な働きを行う目的として、デジタル庁が2021年に開設された。
その時の状況から判る様に、発足したデジタル庁は官庁・民間の部門と人員の寄せ集めでのスタートとなった、それ故に発足当初には推進・広報・連絡窓口の性格が強い。
日本は携帯電話通信網やインターネット通信網等のインフラ環境は整備されていた、政府は電子化・デジタル化の目標を持っていた、それにも関わらずインフラを活用した行政の事務等の改革・デジタル改革が進んでいなかった。
そこに欧米先進国からDX改革が入ってきた、デジタル改革が遅れていた日本ではDX改革も進まなくその結果として、個別の長所も問題点も不明なまま(あるいは理解されないまま)で議論だけが行われた。
新しい技術とそれによる改革は、大きな成長と共に、個別問題が共存する。
アメリカや欧州諸国に加えてシンガポール・韓国・台湾・中国等のアジアにも遅れたとされる日本のデジタル化だが、それらのデジタル化が進んでいる国でも全てが良くなっている訳ではなく、経済成長しても何かの問題を抱えている。
そこには日本では、経済成長なしで幸せになれるか、デジタル改革を進める意見とその反対意見があった。
その中で日本では、経済成長が鈍化した、少子化・コストアップ等問題でより成長が止まる予想があった、そこに新型コロナ・ウィルス感染問題等が起きて世界からの遅れが現実となった、そのタイミングで問題点が残ることを認識してもまずは経済成長を目指すことが始まった。
新型コロナ・ウィルス感染問題等が起きた、想定外の疫病襲来で世界中が個々に対応したが、その中で日本のデジタル化での世界からの遅れが現実となり判った。
その状況は、いやおうなしに国民全体を巻き込んでいた、その状況に対して社会のデジタル化が否応なしに進んだ。
具体的には、外出制限要請によるテレワークやオンライン授業であり、非接触・非対面の要請による通販やデリバリやテイクアウトの急増であり、キャッシュレス決済の要請と普及だった。
その他にも多岐に渡って、デジタル化が必要な状況が生まれた。
日本の社会でのデジタル化の遅れがはっきりと認識されることになったが、同様に社会の変化に対しての行政と政府の認識遅れが明確化した。
行政と政府ではコロナ問題により、それ以前からデジタル化を本気で進めるべきだったとの反省が大きくなり、そこからそれを推進するデジタル庁の設置に進んだ。
それ以前にも日本でもデジタル化の目標があり部分的には実施されていた、だが個別には挫折例が多かった、その中で急遽進められたコロナ化のデジタル化でも多くの失敗があったが、失敗によりデジタル化につまずく原因がいくつか判った。
日本行政でのデジタル化は個別には挫折例が多かった、それは新型コロナ・ウィルス感染問題が起きて、政府・行政がこれに対策しようした時に、遅れや挫折が一気に表面化した。
その具体例として、以下があった。
・感染者情報支援システム「HER-SYS」
・接触確認アプリ「COCOA」
・医療情報支援システム「G-MIS」 が失敗例だ。
これらの問題点や挫折理由を明らかにする事で、デジタル化につまずいて来た理由が明らかになると考えられる。
その概略は
・省庁にICT(情報通信技術)の専門家が少ない。
・省庁ごとが、外部の大手ICT企業にそのまま発注していた(丸投げと言われる)。
・省庁ごとのシステムに壁があり、ネットワークで統一が難しかった。
日本の行政でのデジタル化での、個別の挫折の具体例として、以下がある。
・感染者情報支援システム「HER-SYS」
・接触確認アプリ「COCOA」
・医療情報支援システム「G-MIS」
・感染者情報支援システム「HER-SYS」
医療現場から保健所に患者の発生届をインターネットで送り、専門家が収集して統計分析により、感染対策政策に役立てるシステムだ。
平時用のシステム「NESID」はあったが、緊急用のオンラインシステムを2020年に緊急に開発した。
だが急ぎ過ぎての不安と使い難さから活用されなかった。
・接触確認アプリ「COCOA」
コロナ感染の拡大防止目的で、スマホを使って感染者の濃厚接触者を見つけるシステムで、ブルーツース機能で近接した人物を記録して、誰かが感染すると各自に通知される。
通知ミスや、OSバージョンアップ対応できず、ミス修正が遅れた、結果的に利用者が少なく、機能しなかった。
・医療情報支援システム「G-MIS」
全国の医療機関と政府が情報を共有してコロナ対策に使用するシステムだ。
現在も稼働しているが、国と自治体で情報共有が統合されておらず、二度手間が発生した。
行政のデジタル化
失敗例から学ぶ行政デジタル化の教訓
1:クローズドな旧システムからオープンなインターネット・ベースの統一的な新システムへ移行する事は単純な刷新作業ではなく難しい。
機密情報を扱う場合はより難しくなる、見通しが甘い事が多く失敗になりやすい。
2:ICTシステムは、完成してからの稼働中にも不具合が見つかる事がおおい。
故に、開発と保守の作業の切り離しができない、長期の開発作業の一つとして保守作業が必要となる。
3:ICTシステムによる詳細なデータ処理に落とし込む前の、基本的な設計段階で、重大な問題が潜んでいる場合もある、それ故に事前検討が重要だ。
日本では官庁にICT専門家が少ない事が原因の1つだ。
基本的には、行政業務とICTとの双方に詳しい人材の長期的な育成が重要だ。
デジタル化のキーワード
・オープンソース
オープンソースとは無償で公開されたコンピュータ処理のソースプログラムを言う。
相互利用により新機能の実現したり、利用者が協力しての品質向上の長所がある。
OSの例としてUNIXがある。
・オープンデータ
オープンデータも無料の共用インフラでインターネットの理念と合致する。
例として学術論文がある、成果をインターネットで公開して、閲覧者に当否を判断してもらう発想がある。
民主国家では行政データを原則公開して国民が共有したいとの意見がある。
・クラウドコンピューティング
デジタル処理をサービス会社に外注する。
特徴は安価な事だ。
提供されるのは標準的なサービスに限られるのでユーザーの細部の注文は応じられない。
大手クラウドサービス会社は処理信頼性はおおむね保証される。
オープンのため競争原理が働く。
オープンなネット・インフラ利用のDXについて
長所
コスト削減による効率化。
オープンソースとオープンデータを組み合わせる事で、多様な技術革新が生まれる。
弱点
「開かれたオープンなインフラが知や財を生み社会を改善する」発想は性善説であるが、弱点になる事もある。
オープンなインフラはフェイク(誤)情報に対して責任を取る主体がない。
情報交換のツールはデータの正確な送受信を保証するが、内容には立ち入らない。
クラウド上のデータについては、管理や保証や責任が明確でない。
コンピュータ処理での大規模ソフトウェアでは完璧なテストは不可能で、さらにオープンなシステムでは開発時の設計でカバーしきれないリスクがある。
日本のデジタル技術力自体はかなり高い。
例として、
新幹線の運行管理システムは半世紀間大事故は起きていない。
理由としては、クローズドシステムでありさらに開発に必要な時間を掛けて来た。
ソフトウエアのミスを前提としたテストや、災害を含む動作環境変化に対応する予備システムを備える。
NECのパソコンのPC9801は、1980年代の日本でシェアが高く、故障率が低いと言われた。当時は工業製品の品質高さが高度成長をもたらせた。
日本ユーザーは不完全な製品を認めなく、メーカーもユーザーも長い時間を掛けて性能とシステムを熟成するのが伝統になっていた。
だが、それは欠点にもなる、
1:改革がしにくく古い方法の変更に反対する。
2:オープン環境では必須になるセキュリティ感覚が鈍い、クローズド環境の感覚では、オープン環境では結果としてサイバー攻撃への対策が不足して情報漏洩に繋がりやすい。
日本では20年前から電子化政府構築の考え方が始まっていたが、経費削減程度の認識だったと思われ、オープンシステムとか情報漏洩とかの認識が不足した状態だった。
オープンシステムへの移行は国際的動向でありそれを目標にする事には意味がある。
ただし、過去の個別のクローズドのシステムのみの経験から、オープンシステムにする意味とその時に同時に発生する問題点との認識がない状況ではリスクは高い。
さらには日本の現状としては政府の認識不足と対応能力不足に加えて、オープン・システムに慣れていない国民性が加わる、そこに於いては拙速的な行政DX追及だけではリスクが高い。
スマートホンの急速な普及とキャッシュレス決済の普及等で、国民生活におけるデジタル化は進んでおり、全体としてもデジタル化の動きは高まっている、だがコロナ・ウィルス感染問題化での政府・行政の対応の乱れやいくつかのデジタルシステムの挫折を見れば、いまだ政府の準備不足や省庁間の不統一がある。
このような政府の問題点への対策を行い、全体の足なみを揃えての推進がデジタル庁の役目となっている、そこでは優先度を決めての対応が求められている。
日本の政府・行政のデジタル化は、省庁等で個別に進められて来た、そして全体としては停滞・挫折して来たと言われる。
停滞は時間的に遅れていると同時に、情報通信技術分野では技術的にも遅れる・古くなる事を意味する、稼働後のメンテナンスと継続的な技術革新が必要な分野だが、停滞・遅れは本格稼働前に古くなりシステム開発への投資効果への疑問が生じる事になる。
この事はあるデジタル化システム導入に対する反対意見としては、技術革新への反対と、逆に技術革新としての遅れ・不足への反対があり、正反対の両面からの反対が生まれる事になる。
現在の日本のデジタル化推進においては、「マイナンバーカード」とその関連システムが目立っている、そこでは医療保険証機能の統合と、運転免許証機能の統合が特に注目されている、特に期日が近づいている医療保険証について注目度が高い。
国民全体が使うシステム故にデータ量が非常に大きい、そこでのデジタル化への移行作業が人力入力・作業で行われている、当然ながら人的ミスが相次いでいる、データ量が大きいので数的に多くなっている、逆説的だが対策はデジタル化を早急に終える事だ。