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熱力学の関数
一般的な熱力学体系では、準静的過程での仕事の式は適用できない事が普通だ。
液体の表面張力は単位面積当たりの表面自由エネルギーに等しい。
表面張力は直接測定出来るが、熱力学のエネルギーとは等しくなく、より複雑な自由エネルギーに等しくなる。
熱力学的変化は温度差を小さくする方向に進み、温度差を大きくする方向には進まない。
気体が入った容器を真空の容器と繋ぐと、双方の容器を満たす方向に変化する。
等温変化で体系が外から受けた仕事の量だけは自由エネルギーは増加しない。
等温可逆変化で体系が外界に行う仕事は自由エネルギーの減少量に等しい、これが等温変化で体系が外に行うことの出来る仕事の最大値だ。
体系が断熱壁に囲まれているときには、変化が起きればエントロピーが必ず増し、変化が可逆変化に近ずくとエントロピーの変化は0に近ずく。
孤立か断熱壁で囲まれている場合は、平衡に関係なく変化が起こればエントロピーは増大する。
体系が恒温槽につかり温度が一定に保たれる状態では、等温等積でありヘルムホルツの自由エネルギーは減少する一方になる。
等温等圧の場合では、ギブスの自由エネルギーは減少する一方になる。
相転移の熱力学
不均質な体系で、いくつかの空間的にちがう部分から成り、各々の部分はその中で均質で互いに境界面により空間的に区別されている場合、この均質な各々の部分を相と呼ぶ。
器中に、液体の部分と蒸気の部分が共存する場合はそれぞれ液相、気相と呼ぶ。
一つの相から他の相に移る事を相転移と言う。
相転移の熱力学
(承前)
第1次(第1種)相転移
・水と水蒸気、水と氷の転移の場合で、蒸発熱・融解熱があって、エントロピーが不連続であり、体積変化がある。
第2次相転移
・液体ヘリウムの2相の転移、磁性体が強磁性から常磁性への転移、磁場が無い時の金属の超伝導状態への転移では、エントロピー変化も体積変化も無い。
純粋物質の液相と気相が共存している場合に、温度と圧力が一定の条件が実現しやすい、そこではクラペイロン-クラウシウスの式が得られる。
それは固相と液相でも適用できる。
その結果を温度と圧力のグラフにプロットすると、気相・液相・固相だけが安定に存在出来る領域がある。
(続く)
相転移の熱力学
(承前)
固体・液体の境界線>融解曲線
固体・気体の境界線>昇華曲線
液体・気体の境界線>蒸発曲線
3つの曲線の出会う点は三重点と呼び、物質により定まっている。
蒸発曲線の末端は臨界点と呼ばれる。
蒸発曲線上では液相と気相の密度が異なるが、臨界点では差が0になる。
臨界点の外を通り、液相から気相に移ると全体系は一様に保たれながら移る。
蒸発曲線を横きる変化の場合では、その線上では両方の相が共存する。
融解曲線では臨界点は見つかっていない。
開いた系の熱力学
まわりの物体(熱源)と熱の形でエネルギーが交換できる時に、つりあうための条件は体系の温度がまわりの熱源の温度に等しいことだ。
上記に対して、一つの体系がまわりの物体(物質源、粒子源)と物質(分子)の交換が出来るとき、つりあうための条件は体系の化学ポテンシャルがまわりの物質源の化学ポテンシャルに等しいことである、と言える。
外部との物質(粒子)の交換が許されている体系を開いた系と呼ぶ、このようなことが許されない体系を閉じた系と呼ぶ。
多くの成分から成る系では、一つの成分が他に比べて比較的に多量にあるとき、この系を溶体(液体のときは溶液)と呼ぶ、多量にあるものを溶媒、少量にあるものを溶質と呼ぶ。
混合気体2種類を接触させて壁を除くと混合する、その時には内部エネルギーは変化しないで、温度・圧力も変化しない、だが混合のエントロピーが生じる。
2種類の気体が同一の場合にはエントロピーの変化がない筈であり、そこにギブスの逆説がうまれる、それは同種類の分子を区別できないことから生じており矛盾ではない。
希釈溶液の沸点は純粋溶媒の沸点に比べて、溶液のモル濃度に比例するだけ上昇する。
純粋溶媒に物質を溶かすと、溶質のモル数に比例して沸点は上昇し、氷点は降下する。
溶質は溶液の中を飛び回っているが、溶液の体積が大きい程にエントロピーは大きい、それは溶液は可能ならば他から溶媒を引きいれて濃度を薄くしようとする傾向があると考えられる。(溶媒は溶液から外に出にくくなる)
エントロピーの効果はいつでも絶対温度により強調されるので、沸点が上昇しないと蒸気圧は大気圧に等しくなる事が出来ない、溶液は氷から溶媒をとろうとして氷を溶かすので、氷を保つには温度が降下しなければならない。
混合気体・熱力学第3法則
溶液と溶媒との共存の場合にその蒸気圧の適用すると、溶液は蒸気になっている溶媒を気相から液相に引き込もうとするので、溶媒蒸気の圧力は低くなる、これからファントホフの法則になる。
ファントホフの法則:希薄溶液でその蒸気圧に溶質が出てこないときには、この溶液と平衡にある溶媒蒸気圧は溶液のモル濃度に比例して降下する。
希薄溶液とその純粋溶媒とを溶媒だけを通して溶質は透さない半透膜でへだてて放置する、溶液は溶媒を引き込もうとするので溶液の圧力がのぼり両方の部分に圧力の差が現れてつりあう、この圧力を浸透圧と呼ぶ。
化学ポテンシャルの代わりに「逃散能」が提案された、それは気体の圧力に等しくないが、有効圧力ともいえて、圧力が0に近ずくと実際の圧力に近ずくように決められている。
純粋物質の相平衡では、物質は化学ポテンシャルの高い相から低い相に移動すると考えられる、さらに平衡条件は逃散能でも述べられる。
固体や液体とつりあう蒸気は理想気体とみなされるので、「固体、液体の逃散能=蒸気の圧力」となる。
混合気体・溶液の成分で、理想気体の混合物のおのおのの成分の逃散能は分圧と等しい。
液体を混合して溶液とする時には各液体の体積の和にはならない、だが成分液体が似たものの場合には、近似的に溶液の体積、内部エネルギーを成分溶液のそれらの和として求める事が出来る、それから理想的な理想溶液を考える、理想液体では、これと平衡にある各成分の蒸気の分圧は溶液の各成分のモル濃度に比例している。
蒸気の分圧が溶液の濃度に比例する事をラウルの法則と呼び、理想溶液はこの法則に従う。
物質は温度が0度Kに近づくとエネルギーが最低の一つの量子状態に近づき、その性質では熱力学的要素は失われ、純粋に力学的な体系になる。
固体結晶では温度を低くしてゆくと熱運動が減じ、Tが0になるとこの体系のとる事の出来る最低エネルギーの状態に落ち着く、量子力学によるとこの最低エネルギーの状態でも分子・原子は運動している、これは純粋に力学的な運動だ。
これは固体が2種類の分子が混合したものでも、気体についても、液体についても成り立つ、液体状態には液体ヘリウムがある。
それぞれで0度Kで最低エネルギーの量子状態を体系がとる、この状態では熱運動がないという意味でエントロピーを0にとろうと言うのが熱力学第3法則になる。
熱力学第3法則
純粋な物質の等しい温度を持つ任意の二つのちがう状態(圧力や相が違う)のエントロピー差は、温度が0度Kに近づくに従い0になる。
(続く)
熱力学第3法則
(承前)
熱力学第3法則は量子的・統計力学的な意味と表現になっている、故にこれを原子的な記述を避けた熱力学的な記述では「純粋な物資」という追加のただし書きが必要になる。
一般に0度Kでも考えなければならないエントロピーがあり、それを残留エントロピーと呼ぶ、量子理論では重要になる。
一定の温度、圧力で反応が起こるとするときには、反応前を原系、反応後を生成系と呼ぶ事にする。
原系と生成系とはつりあいにはないのが普通であり、原系を放置しておくと不可逆的に生成系に移る事になる、この時にこの変化が起きる傾向を親和力として表す。
親和力が大きくとも反応が起きるとは限らない、何かの障壁があるからであり、それを促すものを触媒と呼ぶ、低温では親和力は発熱量に等しくなる。
熱統計力学
熱力学では、熱力学第1法則と第2法則を基礎として、論理的に結果を導き出す方法がとられた。
2つの基本法則はそれぞれ第1種と第2種の永久運動を否定しているので、これが正しいとして、その上に全体の理論が立っている、そこからは導きだせない事も多い。
統計理論では、物質が多数の分子から成り立つ事を前提として、これらの分子が古典力学または量子力学に従うものとして、互いに力を作用しあって運動する時にどのような性質を示すかを研究する。
その対象は気体・液体・固体に渡り、扱う性質も熱容量・状態方程式から電気的・磁気的性質もあり、平衡状態も非平衡状態も扱う。
与えられた体系の行動を追う時に、古典力学の法則に従うのであれば、時間的発展を追うことが出来る、圧力のような時間的平均値を持つ量は算出できる筈だ、それは一般の巨視的量でも成り立つ、ただし膨大な数の粒子からなる体系を追うのは不可能だ。
この時間的平均を集団平均で置き換えるのが、統計力学の方針となる。
熱統計力学で扱う問題
1:基礎論
熱力学的体系の性質を計算するには、物理的測定が短時間の物理量の平均値であるので、その平均値を計算する事が問題だ。
その前に長時間平均を考えるがその平均値が存在するかどうかだ。
この時間的平均は与えられた条件で体系のとる事の出来る全ての状態についての平均に等しいというのが、エルゴートの定理だ。
基礎論では矛盾や未解決問題を扱うが、理論のどこかに統計的性質を持つ仮定またはこれに相当する仮定を入れなければならない、そして出来るだけ少数の仮定から出発しようと努力する。
2:実際問題への適用
一応基礎仮定を適当な所で認めて、これから出発して具体的な物質の性質を算出して実験と比べる。
そして基礎仮定についてはそれから導き出した結果が実験と合うと言うことで正しさの証明とする立場を取る。