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物質の構造

物質は原子が結合して構成される、原子は原子核とその周囲に拡がる電子からなり、その性質は量子論で説明される。
原子には色々な性質があるが、発見されているものは100を少し超えた種類だ、一方では原子の結合の様式は多数あり、その結果としての化合物は自然界で見つかっているものだけでも数百万程度ある。
原子の種類と結合様式の差により、化合物は多様に変化する、同じ原子を含む物質でも電気的・磁気的・光学的・な性質は異なる。
一番簡単な結合は水素分子だが、そこでは水素原子の原子核が離れて並びその周囲を電子が雲状に囲んでいる、水素結合では2つの原子核の中間にある電子雲が双方の原子核に引かれておりそれが結合となっている。
水素結合では、原子核どうしの斥力と、原子核と電子雲との引力が競合して、バランスが取れた距離が結合距離となっている。
水素結合では2つの電子のスピンにパウリの排他律が成立し、スピンの交換相互作用も結合に影響している。

水素分子で考えた結合と同じ様式の結合がダイヤモンド(炭素)やシリコン(ケイ素)やゲルマニウム等の半導体結晶でも見られる。
これらは4価の元素であり、原子の最外殻に4個の電子がある、原子は正4面体結合となり、正4面体の中心の原子は正4面体の4頂点にある原子と結合する。
これらの分子の結晶では正4面体を繋ぎ合わせた構造であり、全体が巨大な分子だとも考えられる、具体的にはシリコン、ダイヤモンド、ゲルマニウムがこれに当たり、これらの価電子を共有した結晶を共有結合結晶と呼ぶ。
ダイヤモンドは絶縁体だがシリコンとゲルマニウムは、高温では電子が移動しやすくなるので、半導体となる。
化合物半導体ではシリコンと似た結合をする、ただし結合の電子密度はイオン価の大きい原子側に偏るのでシリコンほどには等価的ではない。

食塩(塩化ナトリウム・NaCl)では、Naは電子をClに与えて、Na+イオンとCl-イオンになり、それぞれは互いに安定な閉じた殻構造になる。
従ってNaClの結合は正イオンと負イオンとの間のクーロン力による結合と考えられる。
正イオンと負イオンが凝集して結晶になる時は、異符号のイオンには引力が働き、同符号のイオン間には斥力が働くので、交互に並んだ面心立方格子の構造になる。
このようなクーロン力による結晶をイオン結晶と呼ぶ。
イオン結晶にはNaCl型以外に、CaCl型やせん亜鉛鉱型などがある。
クーロン力で結合するイオン結晶は、結合力が強く、結晶に電場を掛けても電子は殻から移動できない、従って絶縁体になる、ただし高温で電気が流れる場合はある。

金属の特徴は電気伝導性が高い事だ。
金属内には自由に移動可能な電子があるので電場がかかると動き出し、電気が流れる。
金属内の電子を自由電子と呼ぶ、金属の構造では、電子の海の中に金属イオンが島の様に浮かんでいると表現される。
伝導電子が広い空間を占める事になるが、そこでは位置と運動量に関する不確定性原理から電子は狭い空間に閉じ込められるよりは広い空間にいる方が運動量が小さくなる事になる、故に運動エネルギーも小さくなる。
伝導電子は金属イオンの中間にいて位置エネルギーを下げて結合力となる、金属の結合力はイオン結合や共有結合よりは小さい。
金属元素は元素の8割を占めている、それに多数の組み合わせの合金を加えると無限に近い金属結晶があるとも言える。

金属と合金での伝導電子は結晶内をかなり自由に移動できるので、結晶に閉じ込められた自由粒子に例えられる。
それはポテンシャルエネルギーを無視して運動エネルギーだけで全エネルギーを表す近似だが、悪い近似ではない。
この近似では基本方程式であるシュレディンガー波動方程式が解けるので、有力な模型・モデルとして自由電子の挙動を解いて理解できる。
その解に対して、金属・合金の性質を知る為にその構造である周期的配列の金属イオンの影響を加えると、電子が存在出来ない禁止帯が出来る、この事は伝導電子のエネルギー分布が孤立電子のような飛びを持つが、自由電子のような連続性も持つ事を示している。
このエネルギー帯は、金属と絶縁体と半導体の性質の違いを説明できる。
金属では一杯になっていない帯があり電子が自由に動ける、絶縁体では帯が電子で満たされており電子が動けない、半導体では高温になるといくつかの電子が狭い禁止帯を越えて伝導帯に入る事が起きる。

室温では気体である希ガス原子や分子も、低温では結晶になる。
希ガスでは電子構造は閉殻構造で安定で電子密度は球対称だ、それ故に剛体の球を箱に詰めた時のような最密構造になる。
希ガスでも原子間に瞬間的に生じる引力ポテンシャルが働く、それによる原子間相互作用はファンデル・ワールス相互作用と呼び原子間距離の-6乗に比例する。
ファンデル・ワールス力で結合した結晶には、希ガス原子結晶以外には、水素、酸素、塩素等の2原子結晶や、メチレン等の多数の有機分子の結晶がある、これらを分子性結晶と呼ぶ。
分子性結晶の構造は、希ガス原子結晶は面心立方格子であり、水素の2原子結晶では六方最密構造となる、双方の差は僅かだ。


多様な物質構造

物質構造として、主に結晶の構造を扱っていたが、物質は多様であり構造も色々とある。
液晶は液体と結晶の中間温度領域に出現し、液体と結晶の両方の性質を持つ、液晶は液体のような流動性や粘性を持つが等方的でなく、結晶の分子配向の秩序を持つがそれは結晶のようには完全ではない。

液晶は配列で3種類に分かれる。
・ネマティック液晶>分子は長軸を揃えて配列しているが、分子の重心は無秩序になっている。
・スメクティック液晶>ネマティック液晶とは異なり、分子の重心が層状に揃った液晶だ。
・コレステリック液晶>ネマティック液晶で、1分子層毎に各層がねじれた構造を持つ。

結晶中や液体中に水素原子がある場合には、その結合には特徴がある。
水素原子がイオン的に結合する場合には、電子を隣接の原子や分子に与えて陽子だけが残る、その時には陽子は小さいので隣接には原子は2個しか許されない。
この様な水素の結合は水や氷に見られて、水素結合と言われる。
水の構造では水素は2つの酸素原子の間にあるが、水素は酸素間の中間よりは片側に寄っている、だがどちら側と結合しても良く2つの安定な位置を行ったり来たりしている。
酸素原子の周囲には4つの水素原子があるが、2個がその酸素に属し、2個は他の酸素に属している。
この様な水素結合はイオン結晶ほどは強くないが分子性結晶ほど弱くはない。

アモーファスは「不定形」の意味で、固体ならば原子が規則正しく配列していない構造の意味を持つ。
不定形の状態は、液体を急冷したよきに得られるので、液体の凍結とも言える。
結晶を熱すると融点で融けて液体になる、液体では分子の運動が激しいので体積が大きくなる。
ゆっくり冷却すると元の結晶になるが、急冷すると過冷却を起こして液体の体積膨張率を保つ、この過冷却状態は準安定であり、冷却速度が遅いと結晶になる。
だが冷却速度が速いと過冷却液体中の分子の運動がおさえられて運動を凍結した状態で固化する、この温度をガラス転移点と言う。
非平衡状態はガラス状態と呼び、結晶と比べるとそれ程は大きくは原子の配列はずれていない、局所的な秩序をもった構造がガラス状態の特徴となる、それはアモーファス半導体・アモーファス金属・アモーファス誘電体等で見られる。

天然に存在しない物質を作り、新しい現象を見つけ出す試みがあった。
1970年に層毎に物質の種類を変えて多層に重ねた半導体物質を、分子線エピタキシー方法を使用して作られた。
この新物質の多くは熱力学的に非平衡状態だが、中には安定なものもあり、人工格子と呼ぶ。
人工格子での異なる物質の積み重ね方法は幾つもあり、人工格子のバラエティは無数にある、整数倍の格子定数を持つ構造を超格子と呼ぶ。
超格子の超薄膜半導体結晶では、バンドギャップが小さいので、伝導電子を二次元的な層に閉じ込められるので、二次元挙動が見られる。

物質の物理的、化学的性質が異なっている場合でも原子はある一定のきまりで配列する。
この配列のきまりを結晶について見る、結晶は平行六面体の単位格子を3次元に規則正しく積み上げた格子構造をとる。
単位格子には例えば金属結晶の様に1種類の元素だけの場合もあるが、例えば食塩のように複数の元素を含む場合もある、だが双方は単位構造を考える時は同じに扱える。
3次元でも併進ベクトルを設定して、全ての格子点は重ね合わせる事が可能で、それらが作る格子点の配列を空間格子と呼ぶ。
結晶は空間格子の各格子点に単位構造(原子団)を置いたもので、その対称性を整理すると、14種のブラベー格子(単位格子)が存在する。

結晶が持つ物理的性質や化学的性質は、結晶構造と密接に関係している。
結晶が持っている対称性がどのように物質の性質に反映されるかを考える。

一例として電場を考えると、結晶に電場をかけなくとも自発分極を持つものがあり、さらに電場をかけて分極方向を反転できる結晶があり、強誘電体と呼ばれる、これらの結晶では自発分極は、結晶の持つ対称要素の操作に対して不変だ。
結晶の中で対称中心を持つ種類では、自発分極を持てないので、それらは従って強誘電体でもない。
誘電率以外の磁化率や電気伝導率などにについても同じような対称性の制限を受ける

結晶に加えた応力と、結晶の歪を結びつける弾性定数を考える。
結晶には応力を加えると電気分極が生じる圧電結晶がある、対称中心を持たない結晶では圧電効果は現れるが、種類により圧電形式が異なる、
さらには対称性の種類により焦電性が現れ、さらには強誘電体になる可能性もある。

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