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物質の構造解析

物質の構造を調べるには、原子と相互作用を持ち、さらに物質内の原子間距離と同じ位の波長をもつ波動を利用する場合が多い。
具体的な波動としては、電磁波であるX線と、粒子線である電子線や中性子線がある。
X線はレントゲンにより発見された、エネルギーを持った電子が金属等に衝突する時に発生する、その時の波長は最短波長であり、それよりも長い波長が連続で発生する、その連続光を連続X線または白色X線と呼ぶ。
X線のスペクトルでは物質ごとに異なるある波長で鋭いピークが出る、それを特性X線と呼ぶ、これは原子のエネルギー準位間の遷移で起きる電磁波だ。
原子によるX線の散乱を考える時は実質的には原子に束縛された電子だけを考えれば良い。

物質波である粒子線はX線と同程度の波長を持つ、その代表的な1つが電子による電子線だ。
電子線では電圧で加速された時の電子の運動エネルギーから運動量を求めて、さらにド・ブロイの式から電子線の波長が求まる。
電圧により波長が変わるが、100ボルト程度でX線と同程度の波長になる、ただしその時の電子線のエネルギーはX線よりは非常に小さい。
電子線の原子による散乱では、原子核と電子とが形成する静電ポテンシャルによって散乱される。
それはX線と比べて偏光因子がなく、散乱角による散乱強度の傾向はX線と似ている。

ド・ブロイの式
 自由粒子に付随したド・ブロイ波、あるいは光子に付随した真空中の電磁波は,プランク定数を粒子の運動量で割ったものに等しい波長と,粒子のエネルギーをプランク定数で割ったものに等しい振動数をもつという関係式だ。

中性子はウラン235の核分裂で発生する。
原子炉内で発生した中性子は高いエネルギーを持つ高速中性子だが、その中性子は減速材(重水、グラファイト等)を使用して減速される、その結果として原子炉内にはエネルギーの低い熱中性子と呼ばれるものが多数存在する事になる。
上記の熱中性子をド・ブロイの式で計算するとX線の波長と同程度と判るが、同程度の波長のX線のエネルギーと比べると桁違いに弱く、電子線のエネルギーと比べても1/500程度で弱い。
その性質から中性子線は、物質の種々の励起状態と相互作用が強く、その代表はフォノンだ。
中性子は電荷を持たないので、原子による散乱はX線とも電子線とも異なり、2種類がある。
・核散乱は、中性子線と原子核との散乱で、原子核の核力との相互作用に基ずく。
・磁気散乱は、中性子線自身の磁気モーメントと原子の磁気モーメントとの相互作用にもとずく散乱だ。

X線と電子線と中性子線についての、1つの原子に対する散乱を見て来た。
その次には分子や液体等の原子の集団によるX線等による波動の散乱を考える、そこでは散乱の代わりに回折という用語が使用される事もある。
気体は分子間距離が分子内の原子間距離と比較して十分に長く希薄だ、その時の散乱波の合成振幅は、分子を構成する原子の散乱振幅の単なる和ではなくて、位相差を考慮する必要がある。
位相差を考慮する事は、1つの原子の電子密度分布によるX線の散乱と同様だ。
さらにX線と電子線と中性子線では類似の計算式になる。
希薄な気体では分子間距離は遠くて分子間の相互作用を無視できる、ただし濃厚な気体や液体では分子の運動は独立では無くなり、分子間の相互作用により隣接した分子は特定の配向秩序持つ事になる。

結晶中の原子配列は周期的だ。
結晶によるX線、電子線、中性子線の散乱は、分子の時と同様に結晶の原点にいる原子と、それぞれの注目する原子とにより散乱される波動の位相差を考慮する必要がある。
結晶による散乱波の合成振幅には、単位格子内の全ての原子による散乱振幅が含まれる、それは単位格子の構造と密接に関係していて構造因子と呼ばれる。分子組成と単位格子の種類が判っていると、計算する事が出来て単位格子の性質と面指数が反映される。
実際に観測されるのは一部の散乱だけであり、観測されない散乱があり消滅則と呼ぶ。
構造因子は単位格子内の原子配列に敏感である、すなわち原子配列を定める空間群の対称要素(対称操作)の種類によって構造因子は異なる。

面指数(ミラー指数)
 結晶では互いに平行で等間隔の距離で並んでいる結晶面が無数に並んでいる。
 この1組の面の集合を結晶格子面と呼ぶ、結晶ではこんな結晶格子面が多数ある。
 これを表す時にミラー指数を使う、ミラー指数は (hkl) の様に「丸括弧の中の3つの整数」で表示して、任意の格子面を表現できる。

物質の波動の回析現象の中で、X線回析は最も一般的であり定量的な方法だ。
X線は二極真空管の中で高速に加速された電子がターゲット金属の陽極か対陰極に衝突するときに発生する。
ターゲットには銅やモリブデン等が使われる、その特性X線の波長は銅は1.54オングストロームで、モリブデンは0.711オングストロームだ。
電子がターゲットに衝突する時には運動エネルギーの99%以上は熱になるので冷却が必要になる、その為にX線菅には個別に許容最大出力がある、冷却方法・効率の改善での出力向上も行われている。
銅のX線スペクトルは白色X線がありその最短波長は菅電圧が高い程に短い、それに加えて特性X線がシャープに出るが2本出る場合があり理由はエネルギー準位が分裂しているためだ。


X線回析

X線回析の最も簡単な方法は微粉末資料を用いる粉末法で、粉末法は考案者の名からデバイ-シェラー法とも言われる。
試料としては
・接着剤で固めた細い棒状の粉末結晶
・薄肉の毛細管に入れた粉末結晶
・細く伸ばした金属・金属線   を使用する。

X線フィルムを円筒状に配置して、その中心軸に試料を置いて、その資料に単色X線を入射させる、資料を通過したX線はブラッグ反射の散乱角の位置にピークを示して観測される。
なぜならば、微粉末結晶の方位は試料中でほとんど連続的に分布しているので微結晶の中にはブラッグの法則を満たすものが存在するからだ。
そして観測されたブラッグ反射の散乱角から資料結晶の面間隔を知る事が出来る。
試料の結晶構造の種類とミラー指数に対応した散乱角ピークが観測されている筈で、多数の散乱角の組み合わせから結晶構造を推定する事になる。
ただし、異なる面指数でも例えば(200)(020)(002)等は重なった反射になる、構造の推定には多重度の重なりの考慮が必要だ。

静止した単結晶に特性X線等の単色X線を入射した場合は、ブラッグ反射は逆格子と一致した時のみに起きる。
だが静止した単結晶に波長分布が広がる白色X線を入射すると、複数の点が逆格子と一致するので多くのブラッグ反射が観測できる。
具体的には白色X線を単結晶に入射して、その後方に平たん写真フィルムを置いてブラッグ反射を観測する、その方法をラウエ法と呼ぶ、その方法では結晶の対称性を調べる事が出来る。
単結晶を1軸のまわりに回転させて、軸に垂直な単色X線を入射させる方法を回転結晶法と呼ぶ、回転軸を取り囲む円筒状の写真フィルムを設置すると回折点は層状に観測される。この方法ではX線の回折点の指数づけや強度見積もりが可能になる。
単結晶のX線回折写真法には、他には、ワイセンベルグ法やプリセッション法がある。

単結晶からのX線の散乱の強度と角度を精度よく測定する方法には、写真法に加えて回折計を使う方法がある。
2軸回折計は、試料の回転軸とX線検出器の回転軸との、2つの回転軸を持つ回折計を指す。
特性X線を資料に入射して、そして定まる散乱角のところにX線検出器を置く、そして2つの回転軸を制御する事で回転結晶法の赤道線に現れる反射の散乱角と強度を、2軸の回折計で測定する事が出来る。
進歩した回折計ではコンピュータ制御で、回折ピークを自動的に探し、格子定数や反射の強度が自動的に測定可能だ。
2軸の回折計では赤道線の反射しか測定できない、4軸回折計を使うと層線の反射も結晶方位を変える事で水平面内に観測できる。
実際の回折ピークは幅を持つ、この理由は下記がある。
・X線が完全に平行でなく発散角をもつ事による。
・実の結晶はある程度の欠陥があるモザイク構造だ、安全結晶(微結晶)の集合であり向きはほとんど揃っているが、わずかも角度で分布している。

X線回折に於いてこれまではX線の吸収を無視して来たが、
1:結晶が比較的に大きい時、
2:結晶が小さい場合でも重い金属を含む場合、にはX線の吸収は無視できない。
吸収要因の補正については、その精度を上げる事は簡単ではない。

初歩の回析理論では入射X線は1回だけ散乱を受けるとしているが、完全な結晶では実際は散乱波は同じ格子面によって繰り返し散乱され、入射波と散乱波は何回も相互作用すると考えられる。
完全結晶では入射線が何回か散乱する為に弱められる、この結晶の完全性が増す程、X線の回折強度が弱くなることを消衰効果と言う。
この効果を利用したX線回折顕微法にラング法がある。
結晶中に欠陥がある位置では結晶の完全性が失われる、その部分の回折強度は完全な部分に比べて強く観測される、それにより完全結晶中の欠陥を調べる事が出来る。

物質の温度が上がるとそれは赤く見える、さらに高温になる白く輝くように見える、この現象は熱平衡物質(黒体と呼ばれる)から輻射される光の波長分布(スペクトル)の温度変化から起きる。
プランクはこれを説明する為に量子論を展開した。
光は振動数を持ち、それにプランク定数を掛けたエネルギーを持つ粒子であり、フォノンと呼ぶ。
フォノンは離散的で整数倍のエネルギーを持ち、シュレディンガー方程式を解く事で平均エネルギーが計算できる、それは高温領域では古典的なエネルギーとも一致していて、励起状態をボーズ-アインシュタイン分布と呼ばれる。
それは結晶中の原子にも適応できる。
高温領域では古典論とも一致する、例えば比熱に関するデュロン-プティの法則と一致する、温度が低下すると量子論のアインシュタイン理論と一致する変化を示す、だがさらに低温になると実測値とは外れる、それは原子振動の修正を行ったデバイ理論で一致される。

比熱のアインシュタイン理論と実測値とのズレはデバイ理論で修正されるが、その理由は原子がまわりの原子と密接に関係して連成振動している事にあり、原子間の相互作用を考慮した原子は振動数を持つ格子波となる。
格子波は量子化されてフォノン(音子)と呼ばれる、フォノンは熱的に励起された原子の振動であり、フォトン(光子)が熱的に励起された黒体の電磁輻射と考えると、フォノンもフォトンもどちらも波動の励起状態といえる。
原子面の変位モードには2種類あり、縦波モードと横波モードに当たる。
結晶中のフォノンを調べる方法に光散乱がある、フォトンと結晶中のフォノンとが相互作用する事で起きて、フォノンは原子の密度を局所的に変化させるのでフォトンの振動数が変化する。
光散乱には、ブリルアン散乱やラマン散乱がある。
光散乱ではフォノンの波長が結晶中の原子間距離と比べて長いので長波長フォノンを観測できる、それより短い波長を調べるにはX線散乱を使用する。

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