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粘性流体の力学
縮まない二次元流体の渦無し運動を解こうとする場合には、数学的には複素関数論という分野がありそれは二次元と同一の扱いが可能であり、流体の運動を解く場合の道筋となる。
流体の流れがその中にある物体に及ぼす力では、流れの方向の成分を「抵抗」と呼び、流れに直角方向の成分を「揚力」と呼ぶ。
縮まない二次元流体の渦無し運動を解くと、一様な流れの中に物体が1つだけ存在する場合には、働く力に対して比較的に簡単な一般公式が得られる。
物体が円柱の場合には抵抗は0になり、それはダランベールのパラドックスと呼ばれる、そして揚力を得る式はクッタ・ジェーコフスキーの定理と呼ばれる。
飛行機の翼の断面の形を「翼型」呼ぶ、その形は前の縁は丸味があり、後ろの縁はとがっている、普通は飛行機の翼は左右に長いので「翼型」はほぼ2次元的な流れとして扱える(二次元翼理論と呼ぶ)。
そして前の縁の丸味は円柱の形として考える事が出来る、後ろの縁は鋭角でありよどみ点として考える事が出来る(ただし、流れが途中で剥がれる場合は不可)。
一般的には、任意の物体を過ぎる2次元渦無し流体は円柱を過ぎる流れに帰着できる。
縮まない三次元流体の渦無し運動になると、数学的に対応する簡単な方法はない。
完全流体では静止状態では渦は無く、しかもラグランジュの定理で渦は不生不滅なので、渦無し運動だけで十分表す事が出来た。
実際の流体ではその中にある物体表面に境界層が出来てそれが剥がれて渦となり離れて流れて行く。
故にたとえ粘性が低い場合でも渦は存在する事になる、それ故に粘性流体では渦運動が重要となる。
粘性流体を考えると、そこには流体の速度が急激に変わる面が存在する事が判る、それは速度の不連続面とも表現される(判り易いのか誤解されやすいか微妙だ)。
渦運動では「渦度」「わき出し」の変数を設定して解析されるのだが、一般には複雑になる。
そこではいつもの様に簡単なモデルを仮定する、円形の流れとその中では一様な渦度を仮定して扱うのがランキンの渦と呼ばれる、水面の普通の渦を考える場合では、渦度分布の一様な中核部(ランキンの渦)とその外側の渦無しの部分から成り立つ事が近似できる。
円形の流れ以外では、無限に広がる流体の中の一様な渦度分布の楕円領域はキルヒホッフの楕円渦と呼ばれる、または球形の領域とその周囲の一様な流れを考えたのがヒルの球形渦と呼ばれる。
上記の3つは特別でそれ以外の場合の運動の解析は難しい、それ故にそこでは連続的な渦度分布を孤立した渦に分割する、そのそれぞれを考える事で全体の連続的な渦度分布の運動を近似的に扱う方法が行われる。
二次元翼理論では、翼は次の様に扱う。
・前部と後部は非対称だが、上部と下部も非対称であり流速が異なる、それ故に不連続面が生じる。
・解き易くする為に、翼の反りも迎え角も小さい事を仮定した場合には薄翼理論と呼ばれる。
・薄翼理論に於いては、1:翼の形を与えて翼面上の速度分布を求める問題を直接問題と呼び、2:逆に速度分布から翼の形を求める問題を逆問題と呼ぶ。
三次元翼理論では使える数学理論はない、だが制限的には二次元翼理論が近似的に使える、その中に揚力線理論がある。
不連続流でも、完全流体では粘性摩擦によるエネルギー消費がないが、実在の流体では複雑だ。
・流線形の場合では粘性の影響が出るのは、物体表面のごく薄い境界層領域に限られる、故にその場合には完全流体で近似できる。
・にぶい物体では、1:主流、2:境界層、3:伴流に分けて考える。
伴流は複雑で扱いが困難だ、だが動きは少ない事から死水モデルを考える、そのモデルでは、死水との境界がありそこでは速度の不連続面が生じる、それは渦の層と同等になる。
死水理論は、渦無しの流れの中に渦層が存在すると考える理論である、そこでは伴流の中の複雑な渦をひとまとめにして自由流線上の渦層で代表させる。
粘性を無視した完全流体の考え方でも多くの成果が得られた、だが渦の発生や消滅現象には使えない。
あるいは上記以外でも、油などの粘っこい流体では粘性の考慮は必需となる。
いずれの場合でも複雑だが、それを扱うのが「粘性流体の力学」であり、そこでは応力と変形速度を考える事になる。
運動する流体に於いて微小な球状部分に注目すると、そこでは球状を楕円体に歪ませる変形が行われている、その速さを変形速度と呼ぶ。
同時にそこでは、変形を妨げる力が起きているが、それを粘性応力と呼ぶ。
液体の応力はその変形速度で決まる、応力と変形速度との関係では、多くの場合は応力が変形速度の1次式で表される流体を仮定出来るが、それをニュートン流体と呼ぶ。
それが仮定出来ない非ニュートン流体には高分子溶液やコロイド溶液がある。
実在の液体をニュートン液体と仮定すると運動方程式が得られるが、それがナビア・ストークスの方程式であり、基本方程式だが、複雑であり一般には解けない。
流体の運動で密度変化の影響が重要になるのは気体の場合だ。
だが気体の流れでも流速が音速の1/2程度を超えない場合は、密度変化の影響を無視して縮まない流体としても誤差は少ない、それ故に粘性の影響を切り離して議論する事が可能だ。
流体に境界の形が与えられたときにどのような流れが起きるかを考えるには、流体の関する基礎方程式を無次元の形で表す事が有用になる。
その時の無次元数はレイノルズ数(R)と呼ばれるが、それには有効な性質がある。
レイノルズ数(R)が等しい場合には、流体の流れの場の全体が相似となる、その理由は無次元の形では比較する両方の流れの場が同じになるからだ。
この事は「レイノルズの相似定理」と呼ばれる。
この定理を言い換えれば、
・密度が大きいことと、粘性の小さいことと、物体が大きいことと、流速が大きいことは、いずれもRを大きくする事に働く事になる、それ故にそれらの影響は同等になる。
・Rには「慣性力」と「粘性力」の比の意味がある、故にRが大きい流れでは粘性の影響を無視して良いと言える、逆にRの小さい流れでは慣性力の影響を無視して良いと言える。
流体力学の基礎方程式を解く事は難しい。
だが、解が線形性を持っている場合には解の重ね合わせが可能になるので、そこではかなり複雑な問題の時でも、複数に分解する事で、解を重ね合わせる事で解ける可能性がある。
今までにしばしば扱ってきた「一方向の流れ」は線形な近似方法としてはかなり有効だった、だが全体から見るとまだまだ限定過ぎる面もあった。
より一般的である球や円柱のような現実の物体を対象にして、だが同時に非線形ではない近似方法に、「遅い流れ」の近似がある、それはストークス近似と呼ばれる。
ストークス近似を進めて行くと、例えば2次元の流れが円柱に一様流が当たる場合でも解けない場合がある、具体的にはストークス近似は物体から遠く離れた位置では妥当性が無くなる。
ストークス近似の欠点を避けたのが、部分的に慣性項を取り入れたオーシーン近似である、それは低レイノルズ数の流れについては物体の近くではストークス近似に一致して、遠方では一様流への近づき方を正しく表せる。
CD・デジタル技術
デジタル記録は大量の情報を経済的・長期的に保存出来る事からデータ記憶方法として普及して来た、音声・音楽分野では音質等が桁違いに向上できるメリットもあった、その為に従来のアナログ記録方法を全面的に置き換えて来た。
デジタル記録を用いた音声等の記録メディアは複数が提案されて来たが、その中でコンパクトディスク(CD)は音質等を桁違いに向上出来た事に加えてランダムアクセス性や保存性やコンパクト性などのメリットもあり、それ以前のアナログ技術による音声録音媒体から一気に置き換わる事になったデジタル記録方法の中でも特に広く普及した。
デジタルの記録と再生技術は先行するコンピュータの外部記憶装置との共通点が多くあり、その後に登場したCDは比較的に容易に受け入れられた。
デジタル技術はその後にも、ネットワーク化を中心に変化と発展を続けているがそれでも、コンパクトディスク(CD)をデジタル技術の一つの集大成と見る事が出来る。
それ故に、身近な音楽等の媒体となったCDを知る事は、デジタル技術を知る有効な1手段とも言える。
デジタルとは数字(デジット)で表せると言う意味があり、断続的な数値で状態を表す。
デジタル信号では2進数を扱うが、それは1と0の2つのみで数値を表す方法であり、例えばオンとオフの2状態で区別する。
情報やコンピュータの分野では2進数を使用するが、人とのインターフェイスの部分では人間に判り易い様に、2の4乗である16進数を使用する事が多い、あるいは10進数の性質を残すBCD(2進化10進数)も使う。
2の階乗である「4,8,16,32等」は、2進数と同様に扱えるので、桁が大きくなる2進数の代わりに使用される、実際のコンピュータでは16進数が使われる事になる。
デジタル機器(電子素子、集積回路(IC)、デジタル記録媒体等)では、2つの状態を物理的に表わす事で2進数に対応している。
IC等の半導体素子の5V規則では、0V(0-0.5V)と5V(2.5-5.0V)で2進数の状態を表わす、中間の(0.5を越えて2.5未満)は不定となりどちらでもない。
信号の減衰・劣化が起きた場合や、雑音が発生した場合でも、規則の範囲に入っておれば信号としては変化が無いので、信号自体の劣化にはならない、アナログ記録では信号の劣化は継続的に起こるが、デジタル信号としては劣化が起こり難いという理由になる、音・音楽では特に差が明確となる。
デジタル信号はコピーした場合に、信号としての2つの状態が同じであれば完全に同じになるので、コピーしても劣化が起きない性質がある。
人類の歴史では音声の記録・保存を求め続けてきたが、それは円筒型の蓄音機の発明によって、録音方法が発明された事で始まった、それ故に音声記録の第1革命とされている。
音声記録の第2の革命は、アナログ記録からデジタル記録に移行する事で、保存データの劣化がなくなりコピーでの劣化もなくなり、さらに音質自体も向上した事だとされる。
歴史的には
蓄音機の発明(1877)>>レコード発明(1887)>磁気記録の発明(1898)>SPレコードの登場(1901)>レコードの電気吹き込み登場(1925)>磁気テープ録音の登場(1927)>LPレコードの登場(1948)>国産テープレコーダーの登場(1950)>ステレオ発明(1957)
アナログからデジタルへの移行
PCM(パルス・コード・モデレーション)録音登場(1968)>CD発売(1979)>CDV・CDシングル登場(1987)>DAT登場(1987)
アナログ時代の後半には便利な磁気テープの使用が増えていたが、記録音質の限界が有った、その事からデジタルオーディオの時代に移って、ハイファイ技術へと移行した。
音は空気の振動のよって伝わり、耳の鼓膜に届いてそれを刺激する事で感知されるが、その時に人間が感知できる周波数の範囲に限定して音と呼ぶ。
音の周波数は20Hzから16kHzの範囲になるが、この範囲外になるがハイファイや低音にも対応が必要であり、実際の使用周波数範囲はいくらか広く広げておく必要がある。
周波数の高低のそれぞれの限界を最低可聴値と最高可聴値と呼ぶが、人間の聴覚には範囲と感度ともに個人差がかなりある、一般には感度が良いのは1.2k-4.0kHzとされている。
空気の振動は音源で発生するが、音源には音色・強弱・高低の3要素がある。
音の強弱は、デシベル(dB)で表し、そこではSN比(信号対雑音比)が重要になる、アナログカセットテープでは60dBだがCDでは95dBと向上する、後者は人間の可聴限界の100dBに近い。
デジタル記録では信号は1と0であり、アナログ記録で40dB程度あればデジタル記録ではアナログでの雑音は無関係になる。
PCM(パルス・コード・モジュレーション:パルス符号変調)は1937に発明されたが、1948になり脚光を浴びた。情報伝達方法のひとつだ。
搬送波に情報を載せて伝送する場合には変調と呼ぶ。
振幅変調(AM)では搬送波の振幅を音声波で変化させて情報を伝達する。
周波数変調(FM)では搬送波の周波数を音声信号で変化させて情報を伝送するが、後者は搬送波の振幅に関係ないのでノイズや歪みを生じても無関係で音質が良い性質がある。
連続信号をパルスを使い伝送する方式があり、そこではパルス振幅変調PAM、パルス位置変調PPM、パルス幅変調PDMなどがある。
PCMは、連続的なアナログ信号を等間隔に分割して、そのとびとびの振幅を取り出して伝送・記録する、この不連続な情報を離散的な情報と呼ぶ。
アナログ信号を一定間隔に分割して、代表値を取り出す事を標本化(サンプリング)と呼ぶ、さらに標本化した振幅を数値で表すことを量子化と呼ぶ、さらに2進数(例えば16桁・・)で表す事を符号化と呼ぶ。
PCM(パルス・コード・モジュレーション)では、音質や画質に影響を与える事に量子化雑音がある、量子化では作業中にアナログ信号の瞬間値を一定のステップ間隔を物差しとして測定する、その時の精度は物差しにする目盛りで決まるので、必ず何かの誤差は生じる。
その誤差が歪や雑音になるのだが、その時の物差しの目盛りに該当するものがビット数で決まる事になる。
ビット数が増えれば目盛りは細かくなる、1ビット増えれば目盛りは2倍になる(目盛りの間隔は半分になる)ので、精度は2倍に向上する。
必要なビット数は、音声と映像で異なる、一般には音声では16ビット使用する、映像では半分の8ビットとなる。
この差は、人間の聴覚と視覚の違いからであり、さらにはテレビのシステムから決まる理由もある。
10進数は10種類の文字からなるが、2進数では0と1の2種類で構成される、PCMでは2進数を使用するがそれはコンピュータ技術の延長と言える。
2進数に似たものに「グレイコード」がある、それでは2進数と異なり「隣接符号は必ず1ビットしか変化しない」特徴を持つ、1ビット符号誤りが起きても1しか変化しない事になる。