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原子構造のゆらぎ

フォノン(音子)の基本的な性質は原子の熱平衡位置からの変位・ゆらぎが小さい時に成り立つが、次にはそれよりも揺らぎの振幅が上記よりも大きい時を考える必要もある。
さらにその中では、特にフォノンと相転移について考える、相転移とは「結晶の温度や結晶にかかる圧力などが変化した時に、ある温度や圧力を境界として原子配列に急激な変化が起きて、結晶の対称性が変化する現象」だ。
比較的に高温で振動数の2乗が温度に比例する場合に、相転移に近ずくと振動数がゼロに近ずくモードがある、それをソフト・モードと呼ぶ、さらにそれを含むものを変位型相転移と呼ぶ。
変位型相転移の転移点頂上でソフト・モードが見られ、転移点でその振動数がゼロになり、転移点以下では対応する原子変位が起きる。

原子の変位を表す規準座標の統計的な平均値を秩序パラメータと呼ぶ、このパラメータは転移点以上では0であり、転移点以下では0では無くて転移点から離れて低温になるにつれて増大する、それ故に低温相の秩序の度合いを表すことから秩序パラメータと呼ぶ。
相転移には2種類ある
・「変異型相転移」では秩序パラメータは空間的に連続な原子変位で定められる。
・「秩序-無秩序型相転移」では秩序パラメータは空間的に不連続な2つ以上の安定位置にいる原子の存在確率で定められる。
1つの原子に対するポテンシャル最小の位置が変位型相転移では1つだが、秩序-無秩序型相転移では2つ以上あって、高温相では原子は2つ以上の安定位置を飛び移り平均として各安定位置を等確率に占めている(無秩序状態)、低温相では原子はそのまわりの原子との相互作用のための2つ以上の安定位置のうちどれかの位置に存在する確率が高くなる(秩序状態)。
秩序-無秩序型相転移ではイジング・スピンという60度回転の2つの状態を記述する変数を使用する。この2つの安定位置に存在する確率が高くなる。

「変異型相転移」ではフォノンが関連し、「秩序-無秩序型相転移」ではイジング・スピンが関連した、そしてフォノンとイジング・スピンの双方が関連する相転移もある。
結晶はそれが自分自身の上に重ね合わす事が出来る対称操作を持つ、それは空間群で表せられる。
相転移の前後で原子の3次元的配列(原子の密度分布)が変化する、その変化の量が非常に僅かであっても、対称性に注目すれば相転移は不連続に起きる、すなわち空間群は不連続に変化をする。
結晶の並進対称性=周期性に変化が無い相転移もあり既約表現だけが関与する、格子定数が2倍になるような相転移もあり、格子定数が無理数倍になる相転移もある。

空間群
 結晶構造の対称要素の集合によりつくられる群を空間群といい,結晶中の原子配列の対称性を表すのに用いられる、
 空間群の要素は,空間格子の並進,回転,回反(反転・鏡映を含む),らせん軸の操作および映進とこれらの組合せで与えられる。

格子定数が整数倍では無くて、無理数倍になる相転移があり、このような相を不整合相と呼び、相転移を不整合相転移と呼ぶ
不整合相は最終的な相では無く、移行時の中間相として出現する事が多い整合相における格子定数は基本構造の周期とは無関係であり、その秩序パラ  メータ―は結晶中の位置によって異なる、それは不整合相の秩序パラメータ―は空間的に変調している事になる。
不整合相において、その変調構造は温度が低くなるにつれて正弦波から次第に矩形波になる(変調に高調波が加わる)とされる。
その為に不整合相から低温相の整合相へ相転移する直前では、結晶の大部分が整合相的になり、ディスコメンシュレーションとよばれる周期的な境界で分けられた構造となる。

金属・合金の相転移
合金の濃度比や3次以上の合金まで含めると合金の種類は無数にある。
しかし、その相転移は原子の配列に関する秩序ー無秩序転移型で説明される場合が多い。
4族と5族の遷移金属の格子間に軽い原子を侵入させた侵入型化合物においては、金属原子の配列はほとんど変化せず、格子間の軽い原子の配列のみが秩序ー無秩序転移型相転移を起こす。

強誘電体の相転移
強電体とは自発分極が存在し、かつそれを外部電場の極性の反転によって反転させる事が出来る性質をもつ物質を強誘電体と呼ぶ。
強誘電体の相転移は、秩序ー無秩序転移型か変位型かどちらかだ。
強誘電相は中間相(反強誘電相)を経て常誘電相に移る。

外力がない場合に結晶がその歪み方について2つ以上の状態を持つ場合があり、そしてそこに外力をかける事により2つ以上の状態間を遷移できる時には、それを強弾性と呼ぶ。
そして、その結晶を強弾性体と呼ぶ。
強弾性体での応力と歪みとの関係については、強誘電体のおける電場と分極に、強磁性体における磁場と磁化との関係に対応している、そこでの履歴現象でも関係が対応する。
強弾性体での自発歪みは強弾性体の秩序パラメータの役割をする。
強弾性体相転移は、斜方ー単斜相転移や立方ー正方相転移や正方ー斜方相転移、六方ー斜方相転移などにおいて見られる。
強弾性体相転移の物質では、単位格子内の原子変位の効いた変位型相転移でもある。


相転移

金属や合金では極低温で電気抵抗がゼロになる超伝導相相転移が起きる
同時にマイスナー効果と呼ばれる磁気的性質を持つようになる、(超伝導体に磁場をかけても超伝導体内部の磁束密度が常にゼロになり磁束線が超伝導体の外に押し出される(完全反磁性体の性質を示す))。
ただしより強い磁場では超電導性は破れる。
超伝導は理論的にはBCS理論で説明されている、そこではフォノンでの電子間の間接的相互作用は引力であり、それは電子間のクーロン斥力より大きいとされている。
この電子間引力がエネルギーギャップを引き起こす、これに伴う構造的な相転移も起こすその時の現象をヤーンテラー現象と呼ぶ。

超伝導
 金属・合金を中心にして、極低温で断続的に電気抵抗がゼロになる現象。
BCS理論
 バーディーン、クーパー、シュリーファーによる超伝導状態の理論。

結晶内で原子や分子が1次元の鎖状になっている物質がある。
例えば1次元有機電気伝導体のTTF-TCNQ(テトラ-シアフルバレン、テトラシアノクイノディメタン)があり、TTF分子は電子供与体、TCNQ分子は電子受容体となっている。
各分子は層状に積み重なっている構造であり、1次元鎖方向は電気伝導は他に比べて100倍位大きい。
電気伝導度は温度低下と共に増加する、だが絶対温度53Kで最大値となり、それ以下で急激に減少して、低温で絶縁体になる。
53Kが転移点の相転移になるが、そこでは1次元電子系に特有な相転移を示す、これはパイエルス転移と呼ばれる。
TTF-TCNQ以外にも有機1次元電気伝導体はある、さらには有機1次伝導体以外でも白金原子が1次元鎖を作るKCPと呼ばれる物質がある、さらに水銀が1次元鎖を作る化合物がある。
鎖状の高分子ポリビニレンでは余分の電子が炭素の1次元鎖に存在して1次元伝導体とみなせる、他にも似た舞室が存在する。

液晶には、分子の重心位置は無秩序だが分子の長軸はある程度揃っているネマティック相と、分子の配向秩序と共にそれ以外に1次元的な並進秩序のある層状構造があるスメクティック相がある。
X線回析を行うとネマティック相ではハロー散乱と呼ばれるぼやけた散乱が観測される、スメクティック相では層間隔に対応したブラッグ反射が現れるが層内では重心の位置は無秩序な液体なのでハロー散乱が見られる。
液晶の相転移は、「結晶>スメクティック相>ネマティック相>液体(等方的)のように起きるのが普通だ。
液晶は、液体から見れば秩序相であり、結晶から見れば無秩序相だ。
液晶では結晶のような完全な長距離秩序は存在しないのでX線散乱でも結果が得られる。
液体の観点では、2種類の液晶分子を混ぜることで三重臨界点が存在する事がある。

三重臨界点
物性物理学において、三重臨界点とは三相共存が終端する相図上の点を指す。
 通常の二相共存が終端する点としての臨界点の定義とは異なる。

相転移の静的な定常状態に対して、動的挙動=動力学を調べる方法として、秩序の時間的発展過程をストロボ的に測定する方法がある。
X線回析ではその方法には、
(1)線源をパルス化する方法
(2)線源は定常だが検知器のゲートを開閉する方法 がある。

(1)ではパルスX線源やシンクロトロン放射光が使用される、その時間分解能はパルス幅で決まる。
(2)では、位置敏感型比例計数菅や半導体検出器等の一挙に回析パターンが測定できる検出器を使用する、その時間分解能は検出器の不感時間が目安となる。

自然には存在しない新しい物質を作製する試みがある、その物質としては結晶でありそこには新しい現象が生まれる・観測される可能性がある、さらにはその現象が機能として実用化される期待もある。
新しい結晶の作製方法の1つとして分子線エピタキシー法(MBE)がある。
MBE装置は、金属用成長室、半導体用成長室、作製した結晶の分析室、基板結晶の導入室、の4つの真空槽から構成される。
各真空槽はゲートバルブで仕切られており、それぞれがイオンポンプとチタン・サブリメーションポンプの組み合わせで超高真空になっている。
導入室から入った基板結晶は各成長室に搬送棒で運ばれる、また基板結晶上に作製した結晶は搬送棒で分析室を経て導入室から取り出される。
結晶成長室は2つある、半導体結晶ではその純度が非常に問題になるので、金属等の不純物を避ける為に半導体専用の成長室を設置している。
分析室ではオージェ電子分光やエスカやX線光電子分光などを使い作製した結晶の分析が出来る。
このMBE装置を使用して人工格子・超格子が作製できる。
人工格子・超格子作製では結晶の成長速度を正確に知る必要がある、結晶成長中の表面状態をモニターするには反射高速電子回折装置(RHEED)の全反射強度をモニターする。

人工格子・超格子の性質
・ラマン散乱
 超格子では新しい長い周期性があるためにX線の衛星反射が観測される、その結果として逆格子空間に新しい格子点が出来る、ブリルアン域が狭くなりその境界でフォノン分枝が折り返される、それはゾーン・フォールディングと呼ぶ。
・半導体超格子のバンド構造
 半導体のバンド構造ではやや狭い禁止帯(バンド・ギャップ)があり、これを挟んで価電子帯(電子充満帯)と空の伝導帯が存在する。
 伝導帯に電子を入れるか、価電子帯から電子を抜いて正孔を作ると、結晶中を動く事が出来る。
 半導体の超格子では、伝導帯の電子と価電子帯の正孔は井戸型ポテンシャル中を運動する。

逆格子  逆格子は、実在の結晶の面を逆空間における格子点として扱う概念だ。
 その変換は、実在の結晶の面の法線方向のベクトルを考え、その長さを面間隔の逆数とすることで行う。
 逆格子での1つ1つの点は実格子の面に対応し、実空間でのその面を特徴づける情報(面間隔や方位)を保持する。
 逆格子においても実空間の格子と同じように、基本ベクトルが定義でき、それは逆格子基本ベクトルと呼ばれる。
ブリルアン域
 逆格子の基本領域のこと。

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