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量子力学

量子論の思想を用いた量子力学はシュレディンガーの波動方程式とハイゼンベルグの行列方程式として広まり、ニュートンの古典力学は量子力学の巨視的な近似であると理解されている。
古典力学・古典物理学は量子論・量子力学が研究された結果として、より詳しく理解されたと言えるが、量子論・量子力学の確立した理解はこれを内含する体系が登場してからより理解されると言う意見もある。
量子論・量子力学の理解と解釈には哲学的な面がある、数学では仮定から始まり内部矛盾しない理論体系が成立すれば確立したとされる、一方では物理学は他の自然科学と同様に、いくつかの提唱された理論の中で自然の観測と実験内容と一致した理論だけが正しいとされる。
相対論や宇宙論が大きすぎる観測対象故に自然との一致判断で意見が別れている事と同様に、量子論・量子力学では観測対象が微視的過ぎる故に意見が別れている、不確定性原理では観測に制限がある事になるがその状態での理論と観測・実験内容との一致の有無が如何に解釈されるかがスタートになる。

ハイゼンベルグの不確定性原理はしばしばあるいは当初は、観測が制限されて不完全な情報のみが観測可能だと悲観的に考えられた、どこから来ているのかといえば古典物理学からでありかつそれが適応される日常生活からであり、慣れから起きた先入観が原因と言われる。
古典物理学では位置と運動量の双方が理解に必要とされていて、それが日常生活でも認められて来た、だが量子力学では古典物理学では完全性を求めすぎると考えた、微視的な世界を含めた実際の世界は片方だけの選択を求めておりそれだけで良くて、不確定性原理は記述を単純化すると考えた。
別の言い方では、古典物理学では完全を求めすぎて予測の誤りを生じており、実際の世界は古典物理学や日常生活の見慣れたイメージと異なると考える、古典物理学では実際は同時に得られない位置と運動量の双方を求めすぎて逆に誤った結果になると考える。

量子力学の古典物理学とは異なる予言を行う。
例えば移動範囲が限られた空間を設定すると(境界を設定する)、そこでは両端にぴったりと収まる波動関数だけが許容される性質があった、それは古典的な張られた弦の波の性質と同じだった。
そこでの波動関数の曲率は運動エネルギーを決める、位置エネルギーは一定なので総エネルギーも決める、それ故に弦上では限られたエネルギーのみとなり、エネルギーは量子化される事になる。
プランクとアインシュタインは「エネルギーの量子化は、シュレディンガー方程式と、波動関数は粒子が飛び回れる空間に収まらなければならないという要請との二つから導かれる結果」になると考えた。
弦上での条件から導かれた結果であっても、境界条件からの結果は一般化される結果でありその結論は「エネルギーの量子化」を示していた。
振り子の運動を考察すると、そこでは位置エネルギーは振り子の振動で変わるがトータルの総エネルギーは一定になる、それは上記の弦の性質と同じだと判る、そして振り子の振動は観測出来る事からそこに「エネルギーの量子化」を増幅した形で観測できると考えられる。

ボーアは1927年に「相補性原理」を提唱した、その内容は「見方はひとつでなく、二つの記述のどちらかを選ぶ必要がある、そして双方を混在させてはいけない」だった。
ボーアは量子力学の「コペンハーゲン解釈」を提唱したが、それは「1:波動関数の確率的解釈」と「2:相補性原理」と「3:古典論の法則に従い動く装置で測定した結果だけが現実であるという実証主義的自然観」から成り立っていた。
3:は波動性を特定する装置からは波を調べて語り、粒子性を測定する装置からは粒子を測り語る事だ、相補性原理から双方を同時に扱えないからだからで、ここでは観測結果のみが現実であると考えた。
しかし量子力学の解釈において、どこかで予言と観測結果を付き合わせる必要がありこの接点は重要で避けられ無かった、測定は量子力学的特性を巨視的装置に出力すると考えるが、そこには古典的装置での観測ではその前後で波動関数が変化する(「波動関数の収斂」と呼ばれる)現象が発生して、それは「コペンハーゲン解釈」にジレンマとなっている。
量子力学は「波動関数の収斂」するかどうかは予測出来ずに、収斂する確率のみを考える事が出来る、それを考察する例に有名な「シュレディンガーの猫」の問題がある。

量子力学での測定に伴う問題とその解決を議論する時に提示される問題に、「シュレディンガーの猫」がある、箱に猫と放射線崩壊を利用した殺害装置を入れる事を想定すると、「猫の状態=生きている状態+死んだ状態」 になる。
この式は波動関数の運動量の重ね合わせと類似し、運動量が猫の状態に置き換えられている、そして同じ問題があるように見える、それは「死んでいる」「生きている」の観測結果の事前予測が可能に思えない事だ。
量子力学は状態が見つかる確率を予言するルールを規定するだけとなる、そこでは因果性は決まらず「確率」だけになる、それに対してアインシュタインは「神はサイコロを振らない」と異議を述べた、ボーアは因果律は古典的概念であり量子力学を選ぶと因果律は犠牲になると考えた。
「シュレディンガーの猫」の死を粒子レベルで考察する考えがある、死は猫を構成する多数の粒子や放射線粒子やその他の関わる全ての粒子の波動関数の重ね合わせた状態と考える、そこでは生きている猫と死んだ猫とは同時に存在しないので2つの状態の重ね合わせは生じないと考える、もしそこで矛盾があるばらば量子力学に未知の変数や領域があるのだと考える。

量子力学ではシュレディンガー方程式を利用してその解を見つけて対象となるものの性質を知る・予言する事は自動的に可能だから(容易かどうかでは無く、作業方法として)、量子力学が信頼出来る理論だと考えられる。
それ故に、微視的な世界と巨視的な世界を繋ぐときに奇妙なふるまいをすると見える事への対策と解釈が試みられてきた、その過程では量子力学は不完全だとする考え方が度々登場してはそれを否定する議論が行われてきた。
現在ではシュレディンガー方程式は普遍であり全ての観測結果を説明出来るとする考え方が多い、だが反対の意見や対応範囲を限定する考え方もまだまだある、後者には隠された未発見の変数があるとする考え方や、全てを説明する理論は未完成との考え方が含まれる。
1例として、相対性理論と量子力学の整合が不完全の考え方があり、特殊相対性理論についてはディラックの相対論的量子力学で統合したが、一般相対性理論は未統合という事がある。


機械製図

工業技術分野では設計図・仕様図が使用されている、工業製品の発注・受注・生産は具体的な商品詳細に依り行われる、それは仕様書と製品図面で表現される、製品図面は新しい商品・技術・規格が登場するとそれを取り込む必要がある、それ故に規格が定められ制作手法を定めて来た。
制作手法には設備・道具・工具・用紙や、製図という作業の約束事の規格とその技術と、基礎的な数学知識と工学知識が必要だった、それ故に専門の技能を持つ作業者が制作した経過があった。
コンピュータの登場と発達は全ての作業で人間を助ける・サポートする(エイド)する事が試みられてCA(コンピュータエイド)の考えが生まれて発達した、設計に関してもCAD(コンピュータエイド・デザイン)が考えられ、その中で製図作業をコンピュータで行うソフトウエアと機器が開発された、それの普及からコンピュータ製図をCAD(キャド)と呼ぶ事もある。
キャドを使用する場合は、人間が紙に製図する時の手法の幾つかは不要に変わったが、キャドで製図する時でも必要な知識・規格は多くある、その結果で製図作業の技能内容が大きく変わった。

設計に関するCAD(コンピュータエイド・デザイン)とツールとしてのコンピュータ製図が普及した理由は、少数の技能者のみ可能だった作業をより広く多数の技能者に拡大する目的があった。
手作業での製図は、修正や変更に対して対応が難しく、時間と作業量が多すぎる問題があった、設計では変更と訂正は通常作業として発生するので避けられない、大きな設計になると1枚の製図に全てを書き込めず用紙を複数にする必要が出来るが手作業では対応が難しい、人間は計算ミスや作業ミスや錯覚が起きるが発見時の修正作業は難しい。
コンピュータ製図では、グラフィックスクリーン上で作図するがその内容はデジタルデータで保存される、そのデータは複製も容易であり、一定の時間単位でバックアップを取りながらコピーで作業する事も可能だ、その時はミスや間違いが生じた時にそれを破棄してバックアップに戻れる(これはコンピュータOSのバックアップと同じだ)。
グラフィックスクリーン上では自由に拡大・縮小が可能であり、コンピュータの記憶容量の範囲内でデータ量は大きく取れる、製図用のCADでは層の概念が有り複数の図面が重なった状態を想定する、その中から選んだ層のみを表示して作業する、1枚の製図用紙での作業で進めるが重ね確認は必要時に行える。

製図用のCADのみを考えてもコンピュータシステム使用の利点は多い、CADを使用しなかった時は鉛筆・定規・コンパス等の文具を使用して、製図台で製図作業を行ったが記入作業だけでも初心者には難しく熟練作業だった、図形は多数の補助線を利用して全体が図面に入る外枠を描いて、その内部に詳細を書き込んで行く。
直角平行な図形単体をのみ用紙中央に描く訳ではなく、角度のある図形や回転した図形や曲線も同様に扱う、幾何学的な図形作成能力が必要である、作業は座標計算の繰り返しであり関数電卓とプログラミング電卓の登場以降はこれらの使いこなし能力が技能を左右した。
複雑な製図作業は全体図を作成して、個別の詳細図面を制作する手段が使われた、人間が描ける図形の拡大度は限られており低すぎると必要な内容が記入出来なく、逆に不必要に拡大すると枚数が多くなり、図面が読み難くなる。
それぞれ全てが特殊技能者と経験者のみが可能な作業だったが、これが製図用のCADを使用するとパソコン画面上のディスプレイで図面全体の一部分を拡大と縮小表示して描くので鉛筆等の実の記入作業は無くなり、座標計算はコンピュータが行い作業者は指定するだけになる、パソコンとCADソフトのオペレーターがおれば作図が可能となり、そのオペレーターも特殊な技能者ではない。

製図用のCADを使用した機械図面は誰でも形状を正確に描く事が可能だが、設計図面はそれを元に機械や製品や部品を正確に加工する事が目的であり、優れた図面とは加工が行い易い図面だ。
優れた図面を書く事は、作業者ではなく設計者としての知識と製品知識が必要だ、具体的には加工のバラツキを制限する加工公差を正しく記述し、なおかつ品質過剰ではなく妥当なコストと歩留まりでの製造が可能にする。
図面での寸法の記入方法は重要だ、製図用のCADを使用すれば正確な数値の寸法線を発生する事が可能だ、図面の寸法線には公差が設定されるが、指定しない時は自動的に一般公差が適用される、長さ区分で設定されている事が多く全ての寸法線は公差の確認が必要だ、一般に寸法線は二重公差を避ける為に必要最低の指定が良いとされ、必要に応じて個別に公差指定する。
加工図面では嵌め合いという概念で書くことも多く、実体公差を使用して記述する事も多い、読みやすい公差図面と、加工寸法データとは表現が異なる事になり製図用のCADを使う課題となる。 製図用のCADは設計作業と作画作業との分離という意味もある。

製図は3次元の機械・装置を扱い、それを2次元の図面として表現する手法だ、3次元の立体を2次元で表現する場合には一定のルールを決めて行う。
3次元の立体を2次元の図面として描く場合には、立体をある平面に投影する事になる、投影とは言葉の通りで立体に対してある方向から光を当てたときに平面に映し出された影の事であり、影が映し出された面を投影面と呼ぶ。
投影法は平行光線により投影する平行投影と、放射光線か非平行光線により投影する透視投影があるが、機械製図では平行投影が使用される。
機械製図では第三角法による投影が使用される、第三角法での図面は
 正面図(前から見た図)
 平面図(上から見た図)
 側面図(横から見た図)
 から構成されて描く位置は、正面図の真上に平面図を描き,正面図の右側に側面図を描く、正面図は装置の代表的な面と決められている。
普通は3方向からの図面で立体の形状を適切に表し三面図と呼ぶ、複雑な図形は面を追加する事もあり、円柱などでは2方向からの図面で伝わる事も有り、電子回路では平面図のみで情報がほぼ伝わる事もある。
CADも用途により機能が異なるが、進歩すると3次元対応のフル実装CADを開発して、用途別には機能制限して提供する方向に進んで来ている。

CADの普及でデジタルデータをパソコン機器上で制作して、それの中の必要部分のみをプリンタ出力する事で紙媒体の図面が作成出来る、例えば寸法線はデータチェック用と図面プリント用の使用する。
CADの普及が顧客と製造メーカー共に拡がり、同一機種・CADソフトを使用するか、データの共用・転用が可能になると、デジタルデータを図面に替えて情報伝達に使用する事が可能になる、だが一般的には紙媒体に出力した図面を利用することが多い。
CADで制作したデジタルデータは図面出力以外に、数値制御方式の多数の加工機器で使用が可能だ、初期にはドリルデータ・ルータ加工データや金型加工データやレーザー加工データ等に順次使用されていた。
あるいはフォトプリンタやレーザープロッタでのフォト加工用のマスクや、治具工具制作データ作にも使用される、上記の用途ではそもそも図面は副次的な使用しか意味がなく、最終的にはデジタルデータのみで作業は可能だ、あるいは試作レベルや模型レベルでは3次元のデジタルデータから3Dプリンターを使用して材質に制限はあるが立体加工が可能になっている。
図面は情報の伝達のために必要とされているが、その必要性を考えながら製図とデジタルデータ作成の双方の意味を持つCAD製図を行う時代になっている。

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