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放射線

放射能という言葉が多く使われますが、物理的には放射線が普通は問題となります。
放射線はいくつか種類がありますが、人体等に影響があるものもあります。
その放射線を発生させる能力・エネルギーが、放射能です。放射の能力です。
従って、人間等が浴びるのは放射線であり放射能ではありません。
ただし、放射能がある物質が飛散するとその物質から放射線が発生します。
通常の物質は安定ですが、同位体というものが存在します。
原子核のなかの陽子の数が同じで、中性子の数が異なる物質です。
同位体は、エネルギー的に安定ではない場合は、安定な物質に変わります。
その過程で、核分裂や放射線をだします。
安定でない同位体は、放射能が高いといえます。
放射能=エネルギーは、ベクレルで表します。

放射能の単位は、昔は「キューリー」でしたが国際標準のSI単位化で、「ベクレル」が現在は使われています。これは、放射線を発生させる能力・エネルギーです。
放射能のある物質の場合にもその能力として使用されます。
これに対して、放射線を受ける側の受けた量は「グレイ」という単位を使用します。
「ベクレル」と「グレイ」が通常は物理量と言われています。厳密な定義による数値です。
個人的には、物理系なので、原発事故で度々使用されている「シーベルト」という単位は馴染みがありませんでした。
これは物理量ではなく、実用単位的なものです。
色々な種類の放射線を浴びた時の、人間の健康等に及ぼす影響・安全度を指す単位のようです。
従って、実験的・経験的・医学的・・・等の複数の要素が絡む難しい単位です。

放射能を持つ物質を放射性物質と呼びます。
原子はその種類で、放射能を持つ原子核の種類や同位体があります。
それぞれを、放射性核種・放射性同位体と呼びます。
放射性同位体は、一般に不安定ですので、それぞれの持つ一定の確率で原子核の崩壊を起こして、放射線が放出されます。
この性質が放射能と呼ばれます。
原子核崩壊は崩壊モードと呼ばれ主として、アルファ崩壊・ベータ崩壊・ガンマ崩壊があります。
崩壊により、α粒子、β粒子、γ線が放射線となります。
α粒子・β粒子は崩壊モードに応じた運動エネルギーを持ちます。
γ線はエネルギーを持つ電磁波です。
これらのエネルギーは原子核の質量欠損に対応します。

放射性同位体は、自身の崩壊に伴い数学的な指数関数的に、自身の量が減少します。
放射性同位体の崩壊と量の減少によって、それの持つ放射能も減衰して行きます。
ある放射性同位体の量が半分に減少するまでの時間は、それぞれに一定しており「半減期」と言います。
半減期は物質によって異なり、その長さは範囲が広いです。
自然界で観測される放射性物質には半減期の長いものが多いです。それは、短いとすでに消え去っているからです。
半減期は文字どうり、半分になる時間でありその積み重ねで、急激に減少して少量になると次第にゆっくりな減少になります、それが指数関数的です。
急激に放射線を出して、直ぐに減少する物質と、ゆっくり長く放射線を出す物質のどちらが危険かは、他の状況ともに判断されます。

放射能はエネルギーなので、直接測定することは難しいです。
従って、放射能によって放出される放射線を測定して、放射能の量を求める事になります。
物理の実験で行う「キリ箱」や、特殊な放射線の測定に使用される「泡箱」等は実用的にあるいは装置的に厄介です。
通常はシンチレーションカウンタや、ガイガー=ミュラー検出器が使用されます。
放射線の種類によって有効な測定器があります。
α線核種の測定は、液体シンチレーションカウンタが用いられる事が多いです。
γ線核種の測定には、半導体検出器やNaIシンチレーションカウンタが用いられる事が多いです。
表面汚染を検出するには、お馴染みのガイガー=ミュラー検出器が用いられる事が多いです。

現在、日本で注目されているのは放射能や放射線そのものではなく、それが生体特に人体に及ぼす影響です。
放射能のベクレルやグレイよりも、物理量ではない実用単位のシーベルトが注目されています。
この単位自体が、放射線が生体に及ぼす影響を経験・実験的に数値化した単位です。
その数値自身に、人間ならば個人差が含まれます。
報道等では、あるシーベルト(マイクロ・ミリ)を境に急激に、無害・有害が変わる物ではないとはされています。
そして、実はこの単位自体が個人差がある事を前提とした目安だという事は、あまり言われていません。
理由は、何かの設定時には個人差や環境差を考慮して、安全度を含ます事が、行われるからです。
ただ、「設定自体が余裕を見た」という表現は、結果の影響のばらつきを前提にしていますので、それを数値の選定に加えると安全度が無くなる可能性があります。


シミュレーション

科学・科学技術では実験の比重は大きいです。
しかし、それの実施が不可能な場合も多くあります。
その場合には思考実験という、シミュレーションが行われます。
現実性のあるシミュレーションは、統計技法と多くのデータを使用します。
その為に、現在はコンピュータ・シミュレーションが主体です。
その計算は仕分けされたスーパーコンピューターの世界です。

シミュレーションの基本は、多変量解析です。
複数の要因の重ね合わせで、ひとつの事象が決まる(予測される)。
多数の要因と多数の事象が、関連つけられるとかなり精度のあるシミュレーションになります。
ただし、高性能のコンピュータでも実用的に計算できる、要因・事象の数は、まだ限られています。
もしも、この性能が優れておれば情報の価値が大きくなり、シミュレーションの結果は世界をリードすると言われています。
それは国家機密レベルなので、実状は公表されていないのが普通です。

シミュレーションは、文字通りもしこのように仮定すると、どのような結果になるかを調べる事です。
仮定は、複数を調べないと是非が判定できません。
1仮定で1イベントでも、計算は膨大ですが、仮定もイベント回数も増やす必要があります。
これが出来ないと、単に計算したというレベルにとどまり意味を持ちません。
要因の決定、その内容の仮定の決定が重要である事は明らかです。
そのために、要因とイベントを制限して、簡略化した予備シミュレーションを行う事も多いです。
明らかに間違っているものを排除する目的です。
力まかせの計算能力の増加と、要因・事象・仮定の選別のノウハウとの双方があって始めて有用なシミュレーション結果が得られます。

シミュレーションと切り離せないものが、仮説・理論です。
何かを仮定して、それを実際の実験以外で証明しようとする事です。
従って、仮説・理論がない場合は、シミュレーションは時間とコストを浪費するばかりのものになりかねません。
仮説の証明方法には、帰無仮説が有効とされています。
帰無仮説とは、仮説が否定される時に結果として何が生じるかを、シミュレーションします。
仮説を否定すると、正しいと思えない結果が予測できれば、逆に仮説は成立するという考え方です。
これは手法の問題ですが、否定する事の方が容易な事が多いのです。

シミュレーションを未来予測に使う場合は、過去のデータの蓄積と量と質が、重要です。
データの範囲からはずれる事を、推測するのですから少なくても過去のデータの蓄積と量と質は確保したい。
観測史上とか、前例がないとかは、シミュレーション段階で安全率を見なかった事を示しています。
特に、公表されるデータは、平均に相当する部分だけで、ばらつき予測はほとんど示されません。
ばらつきが判らなければ、最悪の場合や、予測精度が判りません。

シミュレーションは、思考実験です。
試行錯誤はある程度はやむを得ないですが、実際の実験より手軽と思い込まない事です。
時間と資源は、程度と種類は異なっても使用します。
実験計画を立てて、有効な利用が大事です。
特に、結果は参考程度と甘く考えているのならば、始める前にたぶん失敗でしょう。
失敗実験から偶然に見つかった発明を、シミュレーションでも探す程無駄な事はありません。


セミカスタム

完全注文生産の製品と、汎用部品・機器との間に位置する半製品があります。
殆どは、大量生産の中間加工品を準備しています。
そこに、顧客からの設計に基づき追加加工を行い、最終製品に仕上げます。
完全オリジナルよりも安価で、独自設計の機能を持たす製品・部品群です。
色々なレベルの段階でこの考えが持ち込まれます。
広い意味では、最終組み立てや部品実装等も含まれます。
ただ、もっと部品レベルで考えられる事が多いです。

マクロの部品レベルでは、ハイブリッドICがあります。
名前は、小型みたいですが、部品実装回路板を樹脂等で封入したものです。
中身はブラックボックスで、利用側は1部品として扱います。
製造側は、特定の利用方法に特化した部品モジュールとも言えます。
デスクリート時代に多く使用されました、今は電力用途ぐらいです。
ただ、この思想がIC・LSIに繋がり、一方でセミカスタムICにもなりました。

セミカスタムのマクロ版は、シーケンスプログラム制御です。
そして、ミクロ版はゲートアレイが代表です。
いくつか似た種類があります。
ゲートアレイは、基本となる論理回路(ゲート回路)を一面に敷き詰めたものを予め準備し、その後で注文を受けた個別品種向けの配線層のみ作り製品とします。
利点は、配線層の製造工程だけで完成するので製造期間が短縮出来ます。
そして、元は大量に製造するためコスト的に有利です。
欠点は、標準ゲートの組み合わせで回路を構成する事になり、集積度や性能的には劣る事になります。

ゲートアレイは、あくまでも中量生産や試作生産で使用する事が主体です。
ゼロから、作るには費用も時間もリスクも高いです。
その事は、ゲートアレイで成功してから考えます。
勿論、費用効率も同様です。
開発費用も含めた、総部品費用を計算して、ゲートアレイの方が安価だという事は多数あります。
中間的な部品、セミカスタム製品として利用します。
ゲートアレイは、セミカスタムのひとつの形です。
より完成品側の考え方、よりスタート材料側の考え方も当然にあります。
そしてゲートアレイを如何に、使い込むかもまた課題となります。

スタンダードセルと呼ぶ場合は、ゲートアレイと似た思想で、工程や設計の比重を変えた種類を総称します。
具体的には、
セルベース>エンベッデドアレイ>ゲートアレイ となります。
ゲートアレイの基本となる論理回路(ゲート回路)の標準形成の度合いの比率が変わった設計方針です。
あらかじめ作っておく論理回路が多い程に、設計的には無駄が多くなりますが設計コストは安くなります。
逆に、あらかじめ作っておく部分が少ない程、カスタムICに近くなり設計的には無駄は少なくなりますが、納期は長くなり、同じものをまとめて作りコストダウンをはかるというゲートアレイの思想は薄くなります。

ゲートアレイをカスタムICに近づける方式があると同時に、逆にもっと作りこむ方式もあります。
それが、「ストラクチャードASIC」です。
これは、ゲートアレイのあらかじめ形成しておく論理回路(下地)の他にも、いくつかの機能を、あらかじめ作っておくものです。
具体的には、メモリー・クロック回路・入出力回路等があります。
設計の自由度は狭くなりますが、利用者側が全体の回路設計に詳しくない場合は、あらかじめ機能を形成しておく事は技術サービスの面もあります。

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