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物質の構造とゆらぎ
金属の人工格子(超格子)の作製方法は、基本的には半導体の超格子の作製方法と同じだが、それに加えて高融点の金属原子を含む場合には電子銃で金属元素の蒸気を作る必要がある、その方法には例えばスパッタ法等がある。
金属の人工格子(超格子)では、二次元超電導性、界面の磁性、弾性などの変わった特性が期待できる。
フィボナッチ格子と呼ばれる1次元準結晶がある、それは2種類の原子を層状に積み重ねた行く人工格子(超格子)であり、その積み重ねの並べ方で完全な長距離秩序(長周期)をもたない様にしている。
原子(層)間の相関は強くて減衰しないので、フィボナッチ格子はシャープな回折パターンが得られる。
フィボナッチ数列
「1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、144、233…」と続く数列を言う。
法則は「前の2つの項同士を足した数」であり、前の2項を足してできあがる数列のことをフィボナッチ数列と言う。
X線の吸収スペクトルにおいて広いエネルギー域に微細な振動構造が現れる事がある、それをEXAFS(Extendrd X-ray Absoeption Fine Structure)と呼ぶ。
X線の吸収スペクトルに微細構造があることは1930年代に判っていたが1980年代になって、強い白色X線源のシンクロトロン放射光が利用できる様になった事で、物資の構造解析に適用される様になった。
この方法はX線吸収スぺクトルの解析であり、単結晶を必要としない。
さらに周期構造を持たない液体やアモーファス物質の構造がEXAFSで解明できる。
そして、物質中のある特定の原子の吸収スぺクトルから、その原子のまわりの構造が解明できるので、物質中に含まれる希薄濃度の原子の周辺濃度がわかる。
X線吸収スペクトルを測定するためのX線源としては、波長が連続的であることと、吸収スペクトルの微細構造が測定できる程度の強度があることが必要であり、放射光が適する。
目的や測定法により、透過光の強度を測定する代わりに蛍光X線の強度を測定する蛍光XAFS、オージェ電子の強度を測定する電子収量XAFS、X線を透過させずに試料表面で全反射させる全反射XAFS、異方性の試料に偏光X線を照射する偏光XAFS などがある。
アモルファス物質は周期的な原子配列がない、それ故に特定の原子のまわりの局所的構造を反映する性質があるEXAFS(Extendrd X-ray Absoeption Fine Structure)は有効だと言える。
アモーファス物質をEXAFSで解析すると、最近接原子間の距離は結晶と比べて相対的に短いと判る。
さらには、結晶の第1近接原子間距離に相当するものが、アモーファス物質ではいくつかの原子間距離となっている。
EXAFSの応用は広く、その特定の原子に注目出来る特徴からは、生物学や化学分野でも有効利用されている。
EXAFSの測定にはX線での透過方法以外にもあり、例えば蛍光X線を使用する方法がある、さらには電子線を使用する方法もある、またオージェ電子分光装置を使用する方法もある。
短距離秩序(SRO)とは、短距離の原子間の秩序のことであり、具体的には最近接原子数(最も近い原子の数)、原子間の結合距離、原子間の結合角が秩序立った値を示すことを言う。
結晶においては長距離秩序と短距離秩序の両方とも存在する。
だがアモルファス物質・ガラス等では短距離秩序のみがほぼ成り立っている、すなわち無秩序状態と考えられる物質中において短距離秩序(SRO)が存在する状態となっている。
アモルファス物質以外にも短距離秩序のみが存在する例として金属的酸化物がありその例としては酸化チタンがある。
酸化チタン結晶では本来存在する格子位置のイオンは15%が抜けている、その格子上の欠陥のために事実上で長距離秩序が存在しない状態と考えられており、短距離秩序のみが存在すると言える、そこではX線散漫散乱が見られる。
合金の結晶が相転移を起こすと新しい秩序が結晶全体に形成される、その時に局所的に別の異なる新しい秩序が析出する場合がある。
具体例としては、相分離を起きる場合があり、その時には安定な結晶の中に別相が分離されて生じて、そこに相転移が起きて新しい相が出来る、それは合金の強度を増大させる事になるので研究されている。
結晶の骨組はしっかりしていているが、ある特定の秩序だけが乱れて凍結した状態があるのがガラス性結晶であり、そこで起きる相転移現象が結晶のガラス転移だ。
ガラス転移が起きるガラス性結晶の例として、硝酸タリウム(TlNO2)がある、そこでは転移温度以下でイオンの配向に関する普通の秩序-無秩序型相転移が起きる、そしてそれよりさらに低温で誘電率や比熱のなだらかな異常が見つかっている。
その異常では、測定周波数が小さい程(ゆっくりした測定程)に誘電異常が低い温度で観測される、それがガラス転移の特徴だ。
別の例としては、強誘電体と反強誘電体の混晶がある。
そこでは強誘電的か反強誘電的かでの、分極に関するフラストレーションが期待できる。
・混晶
互いに結晶構造が類似し、イオン半径あるいは原子半径に大きな差がない2種以上の物質が混合して均一な結晶となったものだ。
金と銀、金と銅などの金属の組合せでは組成があらゆる割合となる混晶をつくる、さらに無機塩も混晶をつくりやすい。
・フラストレーション
物理学では、物質を構成するミクロな要素(原子、分子、スピンなど)が物質全体のエネルギーを最小にするためにどのような状態分布をとればよいかが、事実上決まらない状況を指す。
結晶の表面構造の研究は、超高真空技術や測定技術の進歩によって急速に進展した、そこではバルク結晶とは大きく異なる性質が見つかっている。
表面構造の観測には、低速電子回折や反射高速電子回折等が利用される、その観測で、表面にはバルク結晶の基本周期の2倍や4倍の回折線が観測される、それはバルクの結晶配列とは異なり、表面に特有な再構成構造とされるが、ただし定量的な解析は難しいとされる。
そこでの温度変化を調べると、表面に形成された二次元格子が融解する変化が観測される、その相転移は3次元結晶とは異なり新しい研究対象となっている。
イオン結晶では融点付近でイオンの運動による電気伝導性を持つが、さらに融点より低い温度で大きなイオン伝導性をもつイオン結晶がある、それは超イオン導電体と呼ばれ、そこでは秩序-無秩序型に似た相転移が観測される。
1986年の酸化物超伝導体の発見以降に、急速に超伝導転移点の温度が上昇した、高い臨界温度まで超伝導性を示す一連の化合物では、全て2種類以上の金属元素を含む酸化物であり,わずかの例外を除いて銅を必ず含み,多くはイットリウムやランタノイドなどのIII族の元素を含む。
臨界温度が90-100K程度のものがいくつも知られており,液体窒素による冷却でも超伝導を示すため,実用化が期待されている。
放射線と原子核
「放射線」とは、放射性物質から放出される高エネルギーを持つ粒子や電磁波のことを言う。
具体的には、高い運動エネルギーをもって流れる物質粒子(アルファ線、ベータ線、中性子線、陽子線、重イオン線、中間子線などの粒子放射線)に、高エネルギーの電磁波(ガンマ線とX線のような電磁放射線)を加えたものを言う。
ただし「放射線」に全ての電磁波を含める事もある、その中で電離を起こすエネルギーの高いものを電離放射線と呼び、そうでないものを非電離放射線と分けて呼ぶ事もある。
一般には「放射線」には、高エネルギーの電離放射線の方を指すことが多い。
カリウム、セシウム、ヨウ素などの「放射線」を出す力を持った物質のことを「放射性物質」と呼ぶ。
そして、放射線を出す力・能力のことを「放射能」と呼ぶ。
ガイスラーの陰極線と陽極線の発見と、レントゲンのX線の発見に基ずき、1896年にベクレルがウラニウム化合物から写真乳剤に放射線が放出されている事を見つけて放射能の発見となった。
ラザフォードは天然の放射性物質から出ている放射線を測定して、放射線に二種類あると見つけた、α線、β線となずけさらに透過性の弱いγ線も発見してなずけた。
その後の研究で、α線はヘリウム原子核、β線は電子、γ線は波長の短い電磁波だと判った。
1908年にラザフォードとガイガーはガイガー管を製作して、個々の放射線の計測に成功した。
これにより、ラザフォードはα粒子の散乱を調べる事で原子核が存在する事を確認した。
1911年にウィルソンは荷電粒子の飛跡を直接に観測できる霧箱を製作した。
放射線の観測と研究に使われる、機器や手法に多くがこの時期までに登場している事が判る。
1919年にラザフォードは、α粒子が窒素原子に衝突して、酸素原子核と水素原子核(陽子)が生成されるという「原子核の人工転換」を発見した、それは陽子の直接の発見でもあった。
1930年にボーテらにより透過力の強い放射線が発見され、1932年にジョリオによりその放射線は水等を透過すると高エネルギーの陽子を放出するとわかり、その放射線が中性子だと確認された。
さらにα粒子のアルミニウムへの衝突により陽電子が出ると発見された、陽電子放出は持続されたことから人工放射線元素作成に成功した。
1920年代の後半に、コックロストらは加速器による粒子を原子核に衝突させて元素の人工転換に成功した。
それにより高エネルギー加速器の時代になってゆくことになった。
1937年にアンダーソンにより、μ中間子が発見された。
コックロストらに続き、加速器による荷電粒子の加速が大目標となった、そして高い性能の加速器が製作されて、その結果で粒子の加速エネルギーが階段的に増大した。
その結果として原子核の問題の研究に加えて、素粒子の実験的な研究が進んだ、その結果としていろいろな新粒子が発見され、素粒子の研究が進んだ。
その時には検出器の開発も重要だった。
1930年代後半にウラニウムの核分裂が発見された、その発展として1942年に原子炉が作られて、核エネルギーの開発がおこなわれ、多数の放射性同位元素が生成された。
その結果で放射線計測器がいろいろな分野で使用された。
検出器に使われるエレクトロ二クスが非常に進歩した、コンピュータの発達と使用が研究を加速させた。
検出器の小型化と高速化は、激しく、測定をサポートして、研究を進めた。
放射線の種類は
・陽子(プロトン) +荷電、安定寿命
・中性子(ニュートロン) 0荷電、寿命長い
・重陽子(デューテロン) +荷電、安定寿命
・三重陽子(トリトン) +荷電、寿命長い
・α粒子 +2荷電、安定寿命
・Κ粒子(荷電)・Κ粒子(中性) +ー荷電(0荷電)、寿命短い
・π中間子(荷電)・π中間子(中性) +ー荷電(0荷電)、寿命短い
・μ中間子 +ー荷電、寿命短い
・電子(β-粒子) ー荷電、安定寿命
・陽電子(β+粒子) +荷電、安定寿命
・ガンマ線 0荷電
・X線 0荷電
・中性微子 0荷電
・核断片 ?荷電
放射線は一般には荷電を持ってるために、物質内で起きる相互作用は共通するのだが、質量が異なる場合や色々と差がある事から、差が生じる。
そこでは、電子と、それより重い荷電粒子(荷電重粒子)とを区別して考える。
荷電粒子が物質中を通過すると、入射粒子の電場の影響で、物質中の原子の状態は変化を受けて、自由な電子と電子を失った原子に分離する、これを電離と呼び、結果のそれぞれをイオンと呼ぶ。
さらに原子の分離は起きないが原子全体がエネルギーが高い状態になるときは、励起と呼ぶ。
そして、電離と励起で入射荷電粒子がエネルギーの一部を失うことを電離損失と呼ぶ。
単位長あたりのエネルギー損失を物体の阻止能と呼ぶ、重量当たりのエネルギー損失を質量阻止能と呼ぶ。
粒子が物質中を通過してエネルギーが一定量まで変化するまでに、通過する長さを飛程と呼ぶ。
荷電重粒子で原子が電離される時に、放出された2次電子は電離ポテンシャルエネルギー以下だが、時々はエネルギーが高い電子を放出する、これらはさらに原子を電離できるのでδ線(デルタ線)と呼び、2次電離と呼ぶ。