項目別バックナンバー[5]:技術情報:19

ムーアの法則

ムーアの法則とは、インテルの創始者のひとりのムーアが唱えた法則です。
その内容は「半導体チップに集積するトランジスタの数は2年ごとに倍になる」 というものです。同氏が発表した40年以上前から現在に至るまで、この法則は現実のものとなっています。
ただ、そろそろ限界になるとの予測があります。
ムーア自身も、そう遠くない内に物理的な限界があると述べています。実はか なり注目されていましたが、極めてあっさりと限界を述べたとされています。

ムーアの法則の物理的な限界は、極めて単純に物質に大きさが存在する事が理 由です。物質の特性は分子レベルではなく、もっと大きいサイズで生じる性質です。
マイクロ加工・ナノ加工などの技術進歩は有りますが、分子や性質をもつ分子群を越える事は不可能です。
ムーアの法則は、物質の機能と加工を繋ぐ法則ですので、それが崩れる領域に入ると成立しません。
シンポジウムで、ムーア博士が質問に、きわめてシンプルに「ムーアの法則に 限界があるのは当然であるし、それが近づいている」と発言して話題になっ ていますが、科学者・技術者であれば普通の内容でしょう。

半導体技術は、類似の技術革新で限りなく進歩すると思っている研究者はほと んどいないでしょう。ムーアの法則も、どちらかと言えばジャーナリストの作り上げた概念でしょう。
そして、昔に近未来予想的に技術進歩の速さを述べた本人が、それに拘りがあ るという仮説を作り本人の意見に根拠のない期待をしたのでしょう。
ムーアは、経営者でもありますが、本来は技術者ですので当然のこととして、 物理的に微細化には限界があると述べただけです。
これからの予測をする前に、現在以上の微細化がどの程度必要か・例えば光回 路のような新しい技術開発が必要なのかをまず考えるべきでしょう。


MR

2007年のノーベル物理学賞は、MR(巨大磁気共鳴)の研究者に決定しまし た。現在使用されているコンピュータ用のハードディスク(HDD)のほとんど が、信号の書き込み・読み出しにMRヘッドを使用しています。
ハードディスクの高密度化により、小さな面積に信号の最小単位を書き込み・ 読み出します。記憶方式にも工夫がされていますが、小さな面積に相当する 小さな読み書き用ヘッドで充分な信号を取り扱う上でMRの利用は欠く事ができません。
MRヘッドは今は欠かす事のできないものです。

ELは、エレクトロ・ルミネッセンスの略です。
有機というぐらいですので、無機もありますが機構が異なります。
特徴は、自発光である事です。面状の自発光体であることから、薄型には非常 に向いています。同時に発光機構から消費電力も少ないとされています。
それにも関わらず、同じ自発光タイプのLED(発光ダイオード)と比較して普及 が遅れているのは、寿命がまだ短い・製造コストが他の方式よりも高い・面 状の欠陥除去や均一性の問題より大型表示装置に対応できていない。などの問題点が残っているからです。
パソコン関係では、初代東芝ダイナブックのバックライトとして使用されましたが、不安定のため直ぐに異なる方式に変わりました。

MRは、磁気抵抗効果(物質の電気抵抗率が磁場により変化する現象)の略です。 その大きさは数%程度です。これ自体では用途は限られます。
現実に実用されているのは、巨大磁気効果(GMRと略します)です。これは、 多層の薄膜で生じる現象で通常の磁気抵抗効果の10倍以上の大きさがあります。
薄膜というのは、センサーとして利用しやすいため、ハードディスクの読み書 き用のヘッドとして開発されて急速に普及しました。そしてこれが無くては 今日の高密度のハードディスクの進歩はなかったといえます。
上記のように、正確にはGMRですが、通常は「MRヘッド」と呼ばれます。
なお、巨大磁気効果は薄膜以外でも生じる現象です。実用面の進歩の著しい、 ハードディスク用の薄膜MRヘッドがあまりにも有名になり過ぎました。

GMR利用HDDは「薄膜MRヘッド」と呼ばれる事が多いです。情報デジタル信号は S/N比(S:信号、N:ノイズ)が確保されておれば増幅は容易ですので、記 録・書き込みともに信号の大きさの依存度は少ないです。
高密度記録になって、少ない記録メディア面積に書き込む事が出来れば、それ を保持できる事は必要ですが強度は必須ではありません。
問題は、読み出し精度にあります。機械的なバラツキのために読み出し時の位 置精度は書き込み時よりも劣ります。従って、より磁気的な能力が必要になります。
磁気的読み出し能力は、磁気特性とセンサー(薄膜MRヘッド)と記憶媒体との 距離に依存します。HDD円盤メディアの回転の風圧で浮上しているレベルの、 センサー(薄膜MRヘッド)と円盤部との距離は必然的に極端に近い事が必要になります。

「薄膜MRヘッド」の利用はハードディスク等の磁気記録だけに限りません。
外部記憶装置として、光系の媒体が増加しています。純粋の光センサーを使用する場合もあります。
いくつかは、光・磁気記録方式を使用しています。この方式は磁気記録媒体が 温度依存性がある事が特徴です。薄膜MRヘッドのみでは動作しない場合・読 みだしは出来ますが書き込み記録ができない場合があります。
薄膜MRヘッドも磁気記録能力に限界があります。それは記録面積的なものであったり、記録強度的なものであったりします。
レーザー光は非常に狭い面積に照射できますし、その局部のみ加熱できます。 従って、ある範囲を薄膜MRヘッドでカバーして、その内部の一部を光加熱す る事で光でポイントした部分のみを記録する事ができます。これにより記録 面積の大幅な減少になりますし、温度の併用により狭い面積でも十分な記録強度の確保が可能になります。

「薄膜MRヘッド」の利用は、現状は磁気記録方式があるかぎり利用されると考 えられています。その方式から、記録容量が高くなるとHDDのような封印状態での使用になります。
最近、使用が広がっているCD-ROM・DVD-ROM等の光記録装置はオープン状態で の使用が可能で、それ故に媒体を容易に入れ替える事ができます。
テレビ映像の録画装置で、HDD+DVD-Wが主体になってきているように、磁気 記録方式のHDDの有用性は拡がっていると言えます。それ故に、「薄膜MRヘ ッド」も同様に有用性が一般用途に拡がっていると言えます。


太陽電池

太陽電池については以前にも取り上げましたが、取り巻く環境で重要性が変動しやすい製品です。
現在の状況は、材料シリコンの品不足・薄型太陽電池の開発競争・エネルギー 変換効率改善による用途拡大と見直しなどがあります。
キーポイントは、薄型化技術でしょう。少ない材料で、加工効率を上げる技術 が向上すれば、エネルギーの変換効率も改善できる可能性が高まります。
太陽電池は、一時は多くのメーカーで開発競争が行われていましたが、技術力 ・大型投資力・継続的開発納力が必要となる事が明白になるとともに、本格的に製品化を続けるメーカーは限られてきました。

太陽電池は使用の拡大は、エネルギー効率にかかっています。太陽電池の寿命 期間中に発生できるエネルギー量と、太陽電池の生産にかかるトータル費用の比率です。
離島や無人設備などのメンテナンスや、電力供給ケーブル・設備に要する費用 が高価になるときは、エネルギー効率が逆転します。
また、モバイル機器で電力容量が少ないもの(電卓・腕時計等)では、高価な 電池や充電池を使用する事と太陽電池の比較になります。
これらはすでに太陽電池の使用が拡がっています。問題は通常の有線で電気を 供給できる設備に太陽電池を参入して導入できるかどうかです。たとえば、 民家ではモデルハウスとして太陽電池を屋根に敷き詰めた家が展示されています。しかしまだ実用は進んでいません。
太陽電池の製造コストもあがる傾向はあります。材料の供給確保も問題です。
一方の現行の水力・火力・原子力発電はもっと大きいコスト要因があります。 未来的にはコストの高騰がある可能性があります。(公害問題・石油価格・環境破壊・原子力発電稼働の制約等)
太陽電池は、未来的には無視出来ない要因があり開発は淘汰された一部の所ですすめられるでしょう。

太陽電池の実用化は、シリコンタイプです。
研究レベルでは異なるタイプもいくつか行われています。
代表的なものは、非シリコン系半導体を使用するタイプです。既に量産化され ているシリコン太陽電池以上の、実用化はなかなか見出しにくいですが、透 明太陽電池は太陽光の総合利用の面から異なるアプローチが提案されていま す。赤外光を暖房・可視光を通常のガラス窓のように利用・紫外光を太陽電 池発電に利用する事で、ガラス窓としての利用方法で設置面積を増やし合計の太陽光の利用拡大をはかります。
全く異なるものに、光合成タイプがあります。ただあまりにも方式が異なり、実用イメージまでには至っていないと感じます。

前回に有機色素を使用したタイプもあるとしましたが、正式に参入発表があり驚きました。
2社の共同開発で、前回より詳しく方式を紹介すると「色素増感型太陽電池」 と呼び色素の光吸収・電子放出により発電する方式です。個人的には有機色 素レーザーのイメージで前回は書いたつもりですが似てるような違うような。
発表内容によれば、シリコンタイプと比較すると、1:発電効率は低い、2: 材料費が安い、3:直射日光に対しては発電効率・寿命ともに弱い、4:弱い光では逆に効率はよい とされています。
実用はまだ少し後ですが、早速動きが生じ始めています。
材料の供給問題・コスト問題は、意外とはやく異なる技術の開発を促進する例と言えるでしょう。

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