項目別バックナンバー[5]:技術情報:64
流体力学
物質の状態には固体と液体と気体の3種類がある。
固体は形がありそれがほとんど変わらない特徴があり、その状態や特性を記述する学問として固体力学がある。
固体の硬い、形が変わらない性質は、変化しないと考える近似が有効であり、静止近似や質量点近似も有効であり、単純化方法も多い。
液体と気体は、形が変わりやすい性質があり、その双方を合わせて流体と呼ぶ。
液体は体積は一定に保たれるが、入れ物に従い形を変える性質がある、気体は形と同様に体積も自由に変える事が出来る。
液体と気体は小さな力で形を変える性質があり、それは流れるとも表現される場合もある。
人間は日常生活では水という液体と共に生活し、空気という気体の中で生活しているので、これらの研究は古くから課題だった、だが難しい課題でもあった、その中で固体力学に対応して、流体力学が研究されてきた。
流体を研究するにはそれ自体の特性と共に、物体(固体)と流体との相互作用とその状態での固体や流体の運動の研究が必要になり、流体力学では3課題がある。
・流体の運動
・流体中の物体が流体の運動によって受ける力
・流体中を運動する物体が、流体から力を受けるために運動状態を変え、同時に流体の運動にも変化を与えるというような相互作用
固体は形を変えないと仮定した剛性と考えると、かなり正確に運動を理論的に記述できる。
流体は変形しやすい性質であり複雑な運動を行う、それの理論的な研究ではそれを理想化する必要がある、副次的な事は無視してより本質的な事を取りあげて行く方法を行う。
具体的には物理的な性質であり、流体のなかから代表的なものを選びその性質と運動を考える事だ、そして流体としては身近な水を選び、一様な流れ状態を選ぶ事になる。
水の一様な流れの中に円柱が固定された流れを考えると、かなり一般的だが流速の変化で状態が変わる、だが流速が速いかどうかの判断基準が必要であり、それには形状等の影響を考慮した無次元数が必要になる。
それは実験から流体の粘性に依存する事が判る。
粘性率:μ、速度:U、流体の密度:m、長さ(円柱の半径):L
R=(mUL)/μ
Rはレイノルズ数と呼ぶ無次元数で流体力学で重要となる。
レイノルズ数が同じ時は、流れの様子の変化は同じように起きる。
すなわち、水でも油のような粘性の大きい液体でも、気体でも、真空容器内の低圧の気体でも、流体の状態と運動の変化は似ている事になる。
形状要素も含むので、レイノルズ数が同じであれば形状差を吸収した考察が可能になる。
水以外の流体を考える為には、流体の定義が必要になる。
物体は分子構造から成り立つが複雑であり、分子構造を塗りつぶして得られる連続的な性質を持つ仮想的な物体を考えて単純化を図りそれを連続体と呼ぶ、流体力学では連続体を扱う。
連続体の内部の力を応力と呼ぶ、連続体内部のある面を考えてそこでの応力を法線方向と接線方向に分解して考える、それぞれを法線応力と接線応力と呼ぶ。
ある面での法線応力が引っ張りあう場合を張力と呼ぶ、反対に押し合う場合を圧力と呼ぶ。
その場合に、静止状態において接線応力が現れずに、かつ法線応力が圧力であるような場合の連続体が流体となる。
何故ならば、流体は変形するのである面に接線応力があれば動くので静止状態ではなくなるからだ、さらには法線応力が張力であればそこで流体が2つに別れてしまい空間・空白が出来てしまうからだ、それでは矛盾が生じる事になる。
逆に言えば運動している流体は接線応力が0でない場合もある。
流体に掛かる応力はベクトルであり接線応力と法線応力に分離して考えるが、静止流体では接線応力がゼロであり、法線応力のみのスカラーになり簡単に考える事が出来る。
流体は粘性を持つので、動く時には接線応力が発生する、油の様に粘性が高い流体では接線応力が大きい、そこに対して水の様に粘性が小さくてさらさらした流体では接線応力は小さい。
粘性の小さい流体では、接線応力がないと近似する事が可能になる、そこから接線応力がゼロの流体を仮定するとそれを完全流体と呼ぶ。
粘性がある流体では運動中に接線応力が現れるので粘性流体と呼ぶ、一方では完全流体は非粘性流体と呼ぶが理想流体とも呼ばれる。
完全流体は実際には自然では存在しないが、それに近い状態は存在するので有効な考え方ともなりえる、ただし完全流体だけに限ってしまうと、日常に現れる現象と矛盾する考察になる事があり、粘性流体の考えも必要だ。
流体は液体と気体とを、まとめて扱う事が多い。
液体は圧縮に対して体積の変化が非常に小さいので密度一定と仮定しても、実際の現象をほぼ表すことが可能だ、それを「縮まない流体」と定義する。
密度が変わる流体を「縮む流体」と呼ぶ、圧縮性を持つと言う。
実際の気体は圧縮性があるが気体の圧力変化が少ないと密度変化も少ない、この範囲では、気体も「縮まない流体」として扱える。
音速と比較して気体の流れが遅い場合では「縮まない流体」として扱えるが、逆に液体であっても内部を伝搬する音波を考える場合には、その液体の密度変化に重要な意味があるので「縮む流体」として扱う必要がある。
従って、「縮まない流体」と「縮む流体」とは、液体か気体かの差では決まらない。
圧縮性を含めて考えると、「縮まない完全流体」が実在する気体と液体に対する最も単純化した描像・考え方であり、流体力学では重要な役割をはたしている(「縮まない完全流体」を理想流体と表現する事もある)。
完全流体の力学
流体の運動を記述する方程式を得る為に必要な流れを表す物理量は何かを考える。
・運動を表す量:流速(ベクトル量)>xyzの3変数。
・熱力学的な量:圧力、密度、温度、内部エネルギー、エントロピー。
>流体の応力は完全流体の場合は圧力というスカラー量で表す事が出来る。
>熱力学法則で、熱力学的な量は独立ではなくて、2変数で表す事が出来る。
結果として、運動の3変数と熱力学の2変数の合計5つで表す事が出来る。
一方では物理現象の保存法則では、質量・エネルギー・運動量(ベクトルで3変数)の合計5つに保存法則が成り立つ。
流体を表す5変数に対して、保存法則から5つの条件があるので、原理的には変数が決定できることが判る、(5変数のみで記述できる仮定には、流体が連続であったり単独相であったりが必要である、完全流体である仮定の範囲内が条件になる)。
その次には流体力学の基礎方程式を求める事になり、そこではラグランジュの方法やオイラーの方法が登場して数学的な偏微分方程式を得る手順になり、式が得られるのだがそれ自体も簡単には使えない。
その結果の完全流体の運動を扱う方程式をさらに限定した条件で扱う必要があり、静止した流体を扱う静水力学とベルヌーイの定理へと進む事にする。
静止した流体に関する力学を静水力学と呼び、そこでは例えば静止流体中の物体に働く力や流体表面に浮かぶ物体のつりあいの位置や姿勢を考える、静水力学では等圧面と等密度面が一致している。
静止力学は終えて、次に渦なしの流れがある流体を考える、そこで得られる方程式を一般化したベルヌーイの定理と呼ぶ。
それを定常的な流れに適応した時には、ベルヌーイ関数は「運動エネルギー」と「圧力によるポテンシャル・エネルギー」と「外力による位置エネルギー」の和で表せられる。
それ故に、ベルヌーイの定理はエネルギー保存法則の液体での現象の具体的な表現と考えられる、これで説明できる液体の現象は多くあり名称も有名だ。
だが、ベルヌーイの定理は前提条件が含まれているので注意が必要だ、
前提条件
・完全流体 ・定常流 ・保存力 ・バロトロピー性
バロトロピー性:
等温的な流れでは密度と圧力に関数関係がある(独立でない)。
密度が圧力だけの関数である流れをバロトロピー流と呼ぶ、多くの液体と気体ではバロトロピー流の範囲になる。
ベルヌーイ関数は「運動エネルギー」 と「圧力によるポテンシャル・エネルギー」と「外力による位置エネルギー」の和で表せられて、エネルギー保存法則の表現なので多様な流体現象を表す事が出来る。
縮まない液体を考えると(液体では一般的な仮定になる)、「圧力によるポテンシャル・エネルギー」は圧力に、「外力による位置エネルギー」は重力になる。
器に入った液体が下方の小穴から流れ出る時の流速はベルヌーイの定理から、「(2・(重力加速度)・深さ)のルート」になる、これをトリチェリの定理と呼び、流速が深さのルートに比例する事が判る。
流れ中に物体を置くとその表面に流速0の所が出来るので「よどみ点」と呼びそこの圧力を「よどみ圧」と呼ぶ、「よどみ圧」はベルヌーイの定理から流線に沿う一定値と同じであり総圧と呼ぶ、さらには流体が静止していると仮定した時の圧力を静水圧と呼ぶ。
縮まない液体に限っては、ベルヌーイの定理を外力がない状態で計算して、最後に静水圧を加える事で外圧も考えた場合と同じになる。
ベルヌーイの定理は渦運動と渦無し運動の双方の適応できるが、定常流のみに限られる
非定常流を扱う場合には圧力方程式を使う、その事から圧力方程式を「一般化したベルヌーイの定理」と呼ぶ事もある、ただし「一般化したベルヌーイの定理」は渦無し運動のみに適用できる。
「一般化したベルヌーイの定理」が使える例には下記がある(渦無し運動と考える事が可能な事象)。
・一様な太さの管の中の非定常流>流量は管全長に渡り一定値を持つので適応できる。
・U字管の中の液体の流動>液柱は単振動を行い、エネルギー損失になる渦なし運動になり、単振動振り子と同じ扱いなる。
・容器の側面の穴から流れ出す液体>穴が開いた初期は速度0で、次第に流速が増えて、短時間が経過すると定常状態になる。
・「流体断面積がゆるやかに変化する管の中の流体」、「断面積が不連続に変化する管の中の流れ」等は扱いは複雑になるが、ゆるやかな変化とは渦が出来ない状態と考えて適応できる。
「ベルヌーイの定理」と「一般化したベルヌーイの定理(圧力方程式)」は共にエネルギー保存法則に対応する法則だ。
他には物理法則には、角運動量保存法則がある、流体力学にもその保存則に対応するものがある。
そこから導かれるのが「ラグランジュの渦定理」であり、粘性のないバロトロピー流体が保存力下で運動する場合には、渦は発生も消滅もしない、という内容になる。
「ラグランジュの渦定理」は完全流体では実際に成り立つし、現実の現象としても完全流体の理想化が出来る場合には成り立つ事が判る。
現実の流体とその中の物体を見ると、物体表面の薄い境界層(そこでは粘性の影響が大きい)では渦が発生する、だがそれ以外では発生しない。
しかも境界層から剥がれた渦はなかなか消滅しない、それは「ラグランジュの渦定理」と一致する。
「ラグランジュの渦定理」は、完全流体では「外力が保存力・バロトロピー流体」を仮定すれば渦運動と渦無し運動を区別して考える事が出来る。
バロトロピー流体の仮定では、時間が経過しても渦無し運動が保証される。
上記の仮定での渦無し運動では2つの方程式のみで表す事が出来る、それは簡単ではないが数学的に表す事が出来て、条件によっては解けるので圧力方程式と呼ぶ事が出来る。
この式は数学的にはラプラス方程式と呼ばれ線形である、線形には解を結合しても成立する性質がある、それは解の重ね合わせが可能である事を意味する、それ故に複数の特解を得るとそれらの線形結合として非常に広い適用性を持った解が得られる事になる。
特解としては「一様な流れ」「わきだし」「吸い込み」「二重わき出し」「多重わき出し」などが議論された。
渦無しの流れの運動エネルギーについては、法線速度をもつ流れの中で最小の運動エネルギーをもつのは渦無しの流れであると言う「ケルビンの運動エネルギー最小の定理」がある。
さらには任意の渦無しの流れは、境界面上に分布した適当な強さの「わき出し」と「二重わき出し」の重ね合わせによって表す事が出来る事が判る。