項目別バックナンバー[5]:技術情報:45
元素と周期律
日本最初の命名元素・ニホニウムが話題だ。
元素や周期律は義務教育の必須内容だが、振り返って見る。
元素や原子という単位が確立したのは時代的には新しい。
空気の組成や、燃焼という化学反応の研究と理論が成立する過程で生まれたからであり、その時は自然界に単体で存在する事が多い元素に限られた。
燃焼は最初は、燃えて空気(気体)になると考えていたが、燃焼によって重量が増える物質が見つかり、燃焼が酸化という空気中の酸素との化学反応だと判る事が始まりだ。
酸素との化学反応後の物質が気体ではなく、固体の場合に起きて酸化と呼ぶには時間がかかり、その理解から元素という考えが生まれた。
化学の歴史の復習をすれば、
・近代化学の創始>ボイル「懐疑の科学者」1661年
・燃焼の解釈>ラバージェ「金属を焼くとき金属と化合し、重量を増加させる元素の本性について」1775年
・気体・液体・固体と単体元素>ドルトン「化学の新大系」1808年
・周期律>メンデレーエフ「化学の周期律」1889年
現在では信じ難い程にゆっくり発展してきた。
周期律は、現在と同じ8元素の周期性の発見と表に並べる作業だが、当時は未発見の元素が多く、虫食い状態の表となった。
それから、次第に空白が埋められて行った。
現在の人工新元素の生成と発見も基本は同じで、周期律の空白部を探す作業だ。
周期律は「オクターブ法則」という8元素1周期で似た性質がある事が見つかった事から生まれた。
簡単に思えるが、見つかっていない元素が多数存在し空白のある周期律表が最初だから、単純な穴埋めでないし単体で存在する事が珍しい元素もあり、表が完成している現在とは異なったレベルの難しさがあった。
似た性質とは、イオンになり易いかどうか、イオンになるとすればイオン化傾向はどの様な性質かだ、元素は希ガスと炭素系列以外は単独で存在する事が少ないが、他の物質と繋がり方の性質だ。
電子を相手に渡し易いか(イオン化傾向が+)、貰い易いか(イオン化傾向が-)、なりやすさはどうか(+、++、+++)等だ。
周期律が一般的になり、バンド理論等で希土類を含めた未発見元素の存在が判るとそれの探索と発見競争が生まれた。
特に元素の命名権が発見者に与えられる事になると、国・地域・人名等が急激に増えた。
周期律表が希土類を含め埋まると、ウラン以上の自然界に存在しない高い元素番号の元素の生成を行う事が始まった。
これらは、当然に放射性であり安定して存在はしないが、その性質も含めて発見されたかどうかが判定される。
周期律は元素のイオン化傾向の性質が周期を持つ事が意味がある事は先に述べた、それは元素が他の元素と結合して分子を作る時に重要な性質となる。
希ガス系列は、イオン化傾向が弱く(無く)単体で存在する性質があり元素の中では少数派だ。
炭素系列は、単体でも安定に存在出来るイオン化傾向なので、炭素・硫黄・シリコン・ゲルマニウム等は単体分子で存在し使用される事が多いが、分子結合で異なる性質になりそれが研究対象となる。
シリコン・ゲルマニウムは単体単結晶が半導体の初期から中心物質になった事は知られており、その前後でイオン化傾向がプラスマイナスで消しあう分子の結晶がその後の半導体技術発展に寄与している事も周期律を見れば明らかだ。
元素と周期律の根本の理解には、量子論とバンド理論などの複雑な理論の知識が必要だ、そこに素粒子論と物性論との接点がある。
ただし、深く立ち入らなくとも色々な自然科学での利用・応用の範囲は広い。
現在の化学の授業の最初に、登場するのも厳密さよりも実用や応用での有用性が大きい。
ある性能を持つ物質を基準に、より性能の高いものを探す時は周期律から可能性がある組み合わせを予想する事ができる、手間が無限でベストに到達する保証も確認も出来ないが、よりベターな材料を見つける可能性は高い。
現実に、新材料開発は似た手段で行われて来た。
不純物
準結晶や半導体の世界の材料の純度の向上は著しく、その技術が性能にそのまま直結していた。
実使用には、純度の高い材料に、同様に純度の高い異なる物質を高い管理下で混在させる、混在させられた物質を何故か不純物とも呼ぶ。
純度を高める前に存在する管理されていない混ざりものも、似た呼び方をするが、意味は全く異なる。
後者は、機能を低下させる存在であり、管理下の不純物は逆に必要な機能を発揮させる目的で追加する。
制御された不純物と、制御されない不純物は、前者が信号を生み出すならば、後者は雑音になる。
情報・デジタルの分野では増幅機能が普及しているので、信号の大小は重要ではない、重要なのはS/N比(s:信号、N:ノイズ=雑音)の比率だ。
増幅を片方だくは行えない、信号を大きく増幅すると、同時にノイズも大きくなる、従ってS/N比が全ての基本になる。
ならば、制御されない不純物を最小限にして、制御された不純物より少なくしないと機能は出せなくなる。
その具体的方法が、徹底した純度の向上と、その完成品への制御された不純物の追加だ。
不純物には異なる元素という意味だけでなく、完全な結晶を乱すあらゆる物・現象が含まれる。
結晶格子の乱れや、元素の空孔や同位元素などはバルク(結晶粒子)状態で乱れを起こすが、表面やバルクの境界の乱れはより大きい。
結晶の完全性はあくまでも理論の世界であり、現実には存在しない、それ故に太陽電池用のアモルファス構造の半導体が実用になっている。
アモルファス構造はマクロに見れば、結晶に近いが、ミクロには欠陥や格子の乱れが多数存在する、これをモデル化するには格子の乱れを不純物と考える方法があり、その不純物と実際に加えた不純物元素が実際に影響が大きいかで実用性が決まる。
バンド理論は広く知られているが、あくまでも近似理論であり、その応用の半導体の不純物バンドを経由しての電気伝導も定性的なものだと言える。
母体の純度を高める必要性は既に述べたが、そこに加える不純物の純度も需要だ、加速度的に純度の影響は少なくなるが、元素の種類によっては性能を悪化させる。
また、不純物は例えば加熱処理でバルクから表面に集まる性質がある、量的に少量であっても部分的に濃度差が生じては、量産は出来ない。
半導体の製造工程は初期は温度的に高い工程もあったが、次第に低い温度で製造可能な様に改良された、高温加工は多様な問題が起きやすい事と、種類の異なる半導体製造に応用できる部分が限られる欠点がある。
半導体や絶縁体に不純物を加えて、バンド理論でいう不純物バンドを作る事で半導体は電気伝導する、その動作状態はエネルギー的に高い不純物バンドに存在する電子が少ない分布で生じる。
一方ではレーザー工学が急速に発達したが、そこでも半導体と同じ構造の不純物バンドで理解する、強制的にエネルギーを与えて高い不純物バンドに電子を大量に貯める(光ポンピング)、そして一気に元のバンドに落ちる時に強度が高く波長が揃った光を放出する。
レーザーは実際には、3バンドや4バンド以上が絡むのが普通だし、不純物バンドに電子が溜まりやすいものと落ちやすい性質のものがある事も大事だし、性能上はやはり複雑だ。
だが、半導体レーザーの基本は不純物バンドの存在だ。
不純物は微量であり、そこに含まれる不純物は同様に微量であり現実には無視出来るという認識はある。
ただし、不純物として利用される元素が増えると状況が異なる事も起きる、全ての元素が豊富に存在しないし、特性が似た元素の分離が全て容易ではないし、微量分析法が確立しているとは限らない。
代表的な元素は希土類だが、近年ではこれらも利用されそれの調達と利用での各種技術が注目されている、不純物は微量物と言っても半導体や磁性体等の利用量の絶対量が増加すれば量は大きくなる。
不純物と言っても微量とはイコールではない。
センサー
人工知能やロボットに注目が集まっているが、人間の機能の置き換えを考える傾向がある。
インプットとアウトプットと、それを繋ぐ処理能力が必要で、インプットに当たるのが、各種センサー類であり、この方面の進歩がロボットや人工知能の開発にはかかせない。
現在の主力商品のスマホやタブレットには、多数のセンサーが組み込まれていて、その機能を利用する事で多数の新機能を持たす事に成功している。
センサーはデータの取り込み方法と、それの有効な利用という課題で進んできた、いずれも電子技術の進歩が具体的な手段を与えた。
すなわち、データの取り込みは手段は複数あるが、その後の利用を考えるとデジタル方式が扱い易い、ならばデータの取り込みもデジタル方式の方が変換作業が省けるだけに有効と考える流れだ。
データの取り込みをデジタルで行うとすると、デジタルの電子機器・部品・素子の利用が有効になる、ならばそれが可能な方式の素子を開発すると繋がる。
電子技術はムーアの法則で圧倒的な早さで集積度が進歩した、それは電子技術を使用するセンサーの機能・分解能・データ処理量が同様に進歩する事を示す。
同様に、半導体センサーの製造技術の多くはセンサー以外の一般半導体製造技術を利用出来る為に、急激に進歩した。
センサーは目の働きをする画像入力センサーと、耳の働きする電話的なセンサーから開発され広がった。
触覚に対応するセンサーは、強度に無関係な単純なオン・オフの検知はセンサーとは呼ばずスイッチとして扱われた、センサーと分類されるのは圧力センサーの登場からだ。
ただし、音の振動を電気信号に変える原理と、圧力を電気信号に変える原理には共通点があり、接触と非接触という差を除けば類似性は高い。
検知する内容の発生原理とそれの検知原理が判れば、それらを機器や素子に置き換える事が可能になり、小型化と電子化へと繋がる。
各種測定器や自動制御機類も同様に対象となって行く。
各種測定器は素子ではなく装置だが、実はコンピュータを含めた電子部品や工業製品の開発は似ている、最初は目標機能設定とその実現した装置を製作するが大きさは問わないと言うか巨大だ。
その装置を、小型に電子化するのが次の段階だ、コンピュータ専用部品は畳1畳程の大きさが指の先ほどに小型化され大量生産から実用化されると言われる。
実は個別部品で作られた装置を、小型の集積回路化する技術はデジタル的には完成している、アナログ部品や電子化されていない部品がある場合はそれが開発の課題となる。
センサーは上記過程で開発された部品と、測定機段階で小型化大量生産の需要が生まれつつあるものが共存する世界だ。
自動制御理論は産業への影響は大きかった。
その3要素:1:比例制御、2:微分制御、3:積分制御は装置としては実現されているし、インプットと制御部とアウトプットにフィードバックを加える手法も同じだ。
センサーはインプット部に通常はなるが、制御器全体を装置・測定機とみると全体の機能を1素子にまとめて機能センサーとする事も出来る。
入力側にセンサーは属すが、どこまでの機能をまとめて持ち何かを出力すると、新しいセンサーの登場となる。
速度センサー・加速度センサー・GPSセンサー・生体識別センサーなどが次々と登場したがいくつかは、制御センサーとも言える。
センサーとその小型化と安価化はスマホの普及で加速度的に進歩した、それはそれを必要とする分野への影響は大きい。
スマホは、多数多種類のセンサーを搭載する事で、それまで単機能で提供されて来た機能を持たす事が可能になった、センサーとアプリで提供されるソフトの組み合わせだ。
ロボットは、感覚を得るセンサーが多用されるが、小型化と安価化は進歩させる、パソコンの普及で同様に小型化と安価化したモーター類が制御に使われる、そしてそれらの制御の問題になっている。
その進化形として、注目されているのは人工知能だ。