項目別バックナンバー[5]:技術情報:73

放射線の検出器

荷電粒子が物質と相互作用して直接出る光を利用する検出器としては、
・光電増幅管
・シンチレーター
・チェレンコフ輻射 がある。

光電増倍管
金属や半導体の表面に光が当たると電子が飛び出し、光電子放出と呼ぶ。
放出される光電子の量は入射量子数に比例するが、必ずしも1個単位で対応しない、理由は他の電子やイオンとの衝突が減るからで、量子効率と呼ばれる。
光電子放出面と陽極とで光電管を作る、そして光電管内で電子を使い直接に増幅を行う光電増幅管が作られた、そこでは2次電子放出を使う。
金属に電子を当てるとその電子が反射してくるが、それ以外にも金属内部の電子が飛び出す、それを2次電子放出と呼ぶ。

光電増倍管
(承前)
光電増倍管の特性
・増幅度>陽極電圧により大きく変わる。
・暗電流>電圧ゼロでも流れる電流で、絶縁体の高圧漏洩・残留ガスのイオン化・冷極電子放出・熱電子放出などが理由だ。
・陽極電流の飽和効果>入射光量と陽極電流はかなりの範囲で比例するが限界を超えると比例しなくなる。
・飛行時間と飛行時間幅>電極構造により多少の差が出来る。
・磁場の影響>電子は弱い磁場でも曲げられて感度が低くなる。

シンチレーター
シンチレーターとは、能率の良い蛍光体で、蛍光の減衰時間が比較的に短く、放射線計測でシンチレーションカウンターとして適するものを言う。
シンチレーターは、化学組成で無機シンチレーターと有機シンチレーターに大別出来る。

シンチレーターの特性としては、密度・組成・屈折率・融点・化学的性質が重要になる。
・蛍光効率(ε)
・エネルギー損失と蛍光量>比例するが、エネルギーの低い時に異なる事もある。
・蛍光効率の温度変化>温度係数が小さい程良い。
・減衰時間(τ)>短い程早く測定が可能になるので良い。
・Figure of Merit(ε/τ)>早い計数ではFigure of Meritが重要になる>これが大きい程良い。

無機シンチレーター
・金属ハロゲン化物結晶。
 ヨウ化ナトリウムNaIが代表だが、蛍光効率が悪いので、タリウム(Tl)を少量加える。

有機シンチレーター
・有機結晶シンチレーターは(1)無機結晶と比較して、蛍光減衰時間が短い、(2)無機結晶と比較して重い粒子に対する蛍光効率が劣る、(3)構成原子はC,Hなので比重が小さい。
・大きい結晶の作成は難しく大形機器が作れない、加工が難しい。
・不純物により蛍光効率は大きく減少する、有機物では精製が重要になる。

  液体シンチレーター
・結晶有機シンチレーターの形状の制限を補う。
・有機シンチレーターをトルエン、キシレン等の有機溶剤に溶かすと、有機液体シンチレーターになる。
・有機シンチレーターは有機結晶に比べて蛍光効率は落ちる、減衰時間はさらに短い。

プラスチックシンチレーター
・液体シンチレーターの長所を生かして、その欠点を除いたのがプラスチックシンチレーターだ。
・基幹物質としてはスチレンやビニールトルエンなどを使い、それに液体シンチレーターの様に第一溶質と第二溶質を溶かしていれて重合させた固溶体だ。
・安定であり、加工性も優れている。

気体シンチレーター
・気体に荷電粒子を通すと、励起されたり電離されたりする、励起された気体は基底状態に戻る時に光量子(蛍光)を出す。
・重粒子線は電離度が大きく気体中でも飛程は短い、さらに気体中ではエネルギーと蛍光量が比例する。

中性子シンチレーター
・速い中性子が水素を含む物質を通ると、水素原子核に衝突して反跳陽子が出る、これの蛍光作用を使い中性子シンチレーターを作る。

チェレンコフ輻射
液体にγ線を当てた時に出る光は、蛍光とは異なり下記の特長があり、チェレンコフ輻射と呼ばれる。
・紫外線では蛍光を発しない。
・光は弱く、波長分布は液体でほとんど変わらず青菫色だ。
・硝酸銀等のその他の蛍光を消す薬品を加えても、光強度は変わらない温度変化で強度は変わらない。
・偏光している。

チェレンコフ輻射を使い検出器が作られる。
光の強度は弱いが、増幅器の技術開発により測定器は進歩して来た。
チェレンコフ検出器は物資が透明であれば何も使ってよいので、用途により物質の選択が可能だ。
チェレンコフ輻射は持続時間が短いので。高速度高能率の検出器が出来る。
さらに出るかどうかで、粒子速度の下限と上限が決められる、質量が判ればエネルギーが決められる。
粒子進行方向だけに出るので、+-の方向の区別が出来る。


放射線の検出技術

荷電粒子の測定
・陽子、α線、重い原子核
 無機シンチレーターと、有機シンチレーターで測定可能。
 電子やγ線のバックグラウンドが多い場合でも測定できる。
 有機シンチレーターでは蛍光量がエネルギーに比例しないので注意する。
 エネルギーが高くなりチェレンコフ輻射を出すようになれば、これを利用した測定器を作る。
・π中間子、Κ中間子
 陽子よりは質量が小さいので、電離度が少ない、それにより蛍光量のエネルギーに対する比例度は良くなる。
 陽子等に準じる。
・電子線
 すべてのシンチレーターでほぼ蛍光量はエネルギーに比例する。
 低エネルギーでは比例から外れる事もあり、パルス強度も低い、ノイズも注意が必要になる。
 エネルギーが高いとカスケードシャワーの対策が必要になる。

γ線のエネルギー測定
・物質との相互作用は、光電効果・コンプトン効果・電子対創生による。
・γ線測定には、結晶を使用する単結晶方が使用される、コンプトン効果を使うときは2結晶法を使用する、さらに分解能を上げる3結晶法がある。

中性子の測定
・中性子の測定は、特殊な原子核反応・反跳陽子を使う。
・実際の測定は各種シンチレーターやチェレンコフ輻射を使用する。

発光体からのシンチレーターやチェレンコフ輻射からの光は途中の損失を少なくして、光電管に入れる必要がある。
空気層を無くすためにシリコンオイルを塗ったり、光を導く光パイプを使う。
有効光量は光電増幅管の窓面積に比例するから、面積を増やしたり数を増やしたりする。

飛跡による放射線検出器
荷電粒子が通った跡を巨視的なものに置き換えて、粒子のふるまいを目視して研究する。
霧箱、泡箱、写真乾板、放電箱、ホドスコープ等が開発されて使用されてきた。

霧箱
・1875年頃から水蒸気が凝結して霧滴になる現象が研究されて、霧の核になる何かがあって霧が出来ると判った、さらに膨張率を増すと塵が無くとも霧が出来た、何が核になったのかが疑問だった。
・1899年頃に何か電気を帯びたもの、すなわちイオンを核にして霧が生じることが判った、そこでα粒子や電子が通ったあとに霧滴の飛跡が発生して写真撮影に成功した。
・そこから検出器としての霧箱が作られて、使用された。
(続く)

飛跡による放射線検出器
霧箱
(承前)
・霧箱を作る性質としては、過飽和を作ることがある。
 イオンに蒸気が凝縮して飛跡を作るには一般には膨張率を小さくする。
  それには、ガスと蒸気の種類、圧力の影響、膨張率の使用範囲、霧滴の成長の速さ、霧滴の有効時間、膨張の速さを考慮する、さらには動作の周期も関係する。
・霧箱の種類には、マルチプレート霧箱、マグネチック霧箱、高圧霧箱等がある。
・断熱膨張を利用した霧箱では断熱膨張で過飽和を作るので、状態の持続時間は短かった、その改良として作られたのが拡散霧箱だった。
・拡散霧箱では温度の高い蒸気を低温の所に拡散させて、そこに過飽和を作る。
 拡散霧箱は過飽和を作るために膨張させる必要がないので、構造も操作も簡単であり、飛跡も常時得られて便利だ。
(続く)

飛跡による放射線検出器
霧箱
(承前)
・飛跡の測定では、荷電粒子の通過に加えて粒子の種類とエネルギーを知りたい。
・粒子の種類を知るには電荷と質量が必要だ、そのうちの電荷は既知の粒子との電離密度の比較を行う事で得る。
・一般には電離密度と残飛程と多重散乱の散乱角が測定可能だ、さらに磁場中の飛程では運動量が判る、そしてこれらの組合わせから質量を求める事が可能になる。

泡箱
・泡箱は高エネルギー粒子の実験に多く使用される。
・容器中の液体を加熱して沸騰しないように圧力をかけておく、その圧力を急除くと液体は過熱状態になり、荷電粒子がこの中を通過すると飛跡に沿って蒸気の小泡が発生する。
・泡が作る飛跡は写真に撮れて解析が可能になる。
(続く)

飛跡による放射線検出器
泡箱
(承前)
・霧箱は高圧の時は粒子の検出器だが同時に、中のガスは核反応の標的そのものでもあった、その考えを進めて、より密度が高い液体そのものを検出器に使えれば非常に有効となる。
・霧箱は過飽和の蒸気が荷電粒子の透過で、準安定状態が破られて粒子の飛跡が生じる、同様に液体の不安定状態があって、それが粒子の通過で破られて、飛跡として成長して持続する場合もある。
・上記から液体の過熱状態の利用が研究されて、1952年に泡箱が成功した。
・初期は泡箱はガラス製で小型だった。
・ガラス以外の泡箱は飛跡が得られにくかったが、後に膨張の速さを速くして飛跡を作る有効な過熱状態を得ることが出来た、そこでは局所的に沸騰が起きて、それが原因で液体の圧力が上昇しかけても、それより膨張が早いと十分に過熱が起こると思われる、この結果で泡箱の大型化が進んだ。
(続く)

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