項目別バックナンバー[5]:技術情報:33

基礎研究

高度成長期から日本は基礎研究では遅れていると言われていました。
当時はアメリカで開発された技術を輸入して(例えば、特許権を払って)実用・応用・量産性技術の開発を行って来ました。
その成果が、大きな電子産業等の進歩になりました。
当時から、基礎研究の必要性は言われて、いくつかはその方向に進んでいましたが明確な成果がないままに時が過ぎて行きました。
その間に、東南アジア・中国・台湾・韓国等で、日本モデルの生産技術の向上が進みました。
その場合は、追う立場は先行者を研究して手法を学ぶ事が出来ます。

基礎研究と応用研究の差は、再現性とも言えます。
再現のないものは、実験でも理論でもないですが、再現の容易性は基礎研究ではあまり問われません。
応用研究は、実用が前提ですから、最終的には100%が目標の再現性が必要です。
基礎研究は、独創性と可能性が優先されます。
同時に、そこから派生した応用技術の完成時の独創性の確保見込みも大切です。
研究時のみわずかに独創があり、応用開発していると完成時には古くなっているレベルでは、基礎研究としては計画倒れといえるでしょう。

基礎研究が私的企業であまり行われないのは、コストパフォーマンスが一つの理由です。
他に大きいのが、マネーフロー的に効率が悪い事です。
基礎研究から始めて、長い年月をかけて実用化できて、販売実績に貢献出来たとしても、そしてそれで研究・開発の費用が回収出来たとしても、なおかつマネーフローで見ると資本の利用効率は悪いです。
持てる資本を有効に利用するには、基礎研究は事業規模に合わせて慎重に、対応する事になります。
国家のプロジェクトや官民共同のプロジェクトとしてが殆どになるのは、民間のみでは資本の有効利用が出来ないからです。

基礎研究とその事業化には、資金提供者が必要です。
それが公的機関の事は普通ですが、目的や広い目で経営利益との結びつきを如何にイメージ出来ているかは、疑問です。
巨大富豪が存在して、巨大投資家が存在する所では、長い目で経営的に見る風土が出来ます。
いわゆるハイリスク・ハイリターンは、基礎研究に当てはまります。
将来の姿や成功が見えていない段階で、投資する風土の有無は基礎研究の実施に大きな影響があります。
日本では、その風土が弱いといわれ、ベンチャービジネスの少なさにも繋がっていると言われています。

基礎研究があまり積極的でない理由に、研究関係者とその結果の利用者と利益者が同じでない事が多い事があります。
自身の利益を求める人には、すぐに飛び込めない内容です。
長い時間で見るか、速い開発能力が要求される事になります。
よく研究・開発の早さは資金や人材の投入に相関があると言われます。
研究・開発時間の設定と、持てる能力の投入配分が経営や風土で変わると言えます。

基礎研究は成功率が低いとも言えます。
正確には、研究レベルでは失敗も成功も区別は難しいです。
ただし、企業等では実用化をもって成功としますので、研究単独で成果は不明です。
研究単独で成功は当たり前で、その他の要因で実用化が出来なくても失敗と判断されます。
そこを含めても必要として、実施する事が可能かと言えば、個々の企業では難しいともいえます。
アカデミックや国家事業が注目されるのも必然性があります。


EL

薄膜ディスプレイの方式に、ELが再度登場しています。
EL(エレクトロ・ルミネッセンス)は特定の結晶が起こす物理現象です。
エネルギーを持った(与えられた)結晶のエネルギーバンド間で、電子の移動が起きる時にエネルギーの吸収や放出が起きます。
その放出エネルギーが、丁度ある光帯にあれば発光が起きます。
その時の強く急激な光をエレクトロ・ルミネッセンスと言います。
ちなみに、弱く長い発光のものは、蛍光(ホスオルミネッセンス)と呼びます。
つまり、物質そのもの自体からでる光です。

液晶は自己発光ではなく、シャッターの働きをして透過光を制御します。
従って、液晶では別に発光体や反射物等が必要です。
それは、突き詰めると薄さに限界があることです。
EL結晶も厚みの限界はあるでしょうが、原理的には薄膜結晶のみで可能です。
従って、より薄く・より軽くには有利です。
技術的な問題と、コストが対応出来れば、有力になります。

ELには無機と有機があり、ディスプレイとして開発されているのは有機ELです。
あくまでも原理的には、反応速度や視野角・発光効率・消費電力あるいはコストも液晶方式と比べて可能性は大きいですが、実用的には多くは課題となっています。
可能性も課題も多いという状態が今の位置とも言えます。
構造的には、薄膜の片方に金属電極、もう片方に透明電極をつけるだけの構造ですが、現実のディスプレイとしては液晶と同様のドット方式となり、カラー化も同様な方式になると予想されています。
なお自発光ですから、広い面積のディスプレイに限られずに、LED的な照明用途も考えられています。

有機ELは実用的には、小型ディスプレイに使用されかけています。
勿論、多くの参入者がいるのは大型ディスプレイを狙っています。
構造的なシンプルな原理が可能性を予測させますが、カラー化には常識的にはシャドーマスク方式が考えられますし、実用的には複雑にはなるでしょう。
輝度調整も大画面化時にどの程度問題になるかが疑問です。
目標は、現行方式よりも高密度化にありますから、結局は原理的なシンプルさが残こるかは今後になるでしょう。
あくまでも、現行の液晶方式の過当競争の採算性の限界対策的な方向が制約となるでしょう。

長いブラウン管時代から、多数の種類の非ブラウン管デスプレイ方式が提唱されましたが、生き残ったのはプラズマと液晶でした。
特に、小型から大型までカバーする液晶が残った感があります。
ただし、コストダウン競争でシェアにかかわらず利益がでない構造は異常な事態です。
それの打開に明け暮れています。
液晶の次の方式を探し、その一つとして具体化して来たのがELです。
従って機能の追求か、コスト構造の追求か参入企業に明確な目標があるのかが問題です。

実はEL研究の歴史は古いです。
そして有機ELとなると、材質の種類は絶えず開発となります。
同時に駆動方式も改良が加えられます。
これらから先は長いと共に、派生した新技術が生まれる可能性も高いです。
そもそも、どれだけ液晶等で積み上げた技術が転用・応用できるかの問題もあります。
そして、薄い事にどれだけメリットがあるかはまだ確定していません。
小型・薄型と、コストと機能との兼ね合いで最後は決まるでしょう。
その展開は、液晶・プラズマで予測とは異なる進展をする事を知りました。
デスプレイ方式の未来は、誰にも予測できないでしょう。


素粒子

素粒子とは名称の通りにこれ以上は細分化できない粒子という意味です。
ただ歴史的には、理論が進んで素粒子とされていたのがより細分化したものに置き換わる繰り返しがあります。
現在も理論で存在を予測された素粒子を、探す実験が行われています。
それは、素粒子の中には安定に存在するものと、通常は不安定で存在しないものがあるからです。
最近、予測されていた素粒子の最後が見つかった可能性が報告されて再確認に入っています。
理論で予測された素粒子が見つかってその性質も調べられて、食い違いがあるとその差を説明する新たな理論が生まれる可能性もあります。

原子と電子の時代は流石に素粒子とまではイメージできませんが、原子が陽子と中性子からできて、そこへ中間子の理論予測が出たころから素粒子らしくなりました。
そして、ゲルマンのクォーク理論(模型)が登場します。
ゲルマンは、模型という様にクォークは実在しない架空の概念と考えていましたが、それから色々な発展がありました。
それが、1970年代からの標準理論です。
多様な方面からのアプローチをまとめて、18種類(または17種類)の素粒子の存在を予測しました。
以降は、それを探す作業が始まりました。

素粒子が理論で予測されても、自然界に存在する保証はありません。
人工的に作りだす必要があるものもありますが、安定性で存在する寿命が短いものや、存在の検知が難しいものがあります。
初期に、実在しない架空の概念と考えても仕方がない部分もあります。
しかし、実験設備や技術の向上で次第に予測されたものが、発見されて行きました。
ただし、確認作業も難しく、その後に性質の測定があります。

最近話題になった、ヒッグス素粒子で、予測された17種類(数え方でかわる)の素粒子が全て見つかった事になります。
それらの反粒子を含めて、それで素粒子探しは終わりかどうかは、過去の歴史からは不明です。
過去は、1セットを探し終えるとまた新しい理論が登場して、そこから生まれる理論と新素粒子が登場して来ました。
本当の素粒子が見つかったのか、それが次の課題といえるでしょう。
勿論実験的には、見つかったであろう粒子の再確認と、性質の調査が前提です。

素粒子学は、奥が深いし簡単に実験も結果もでません。
時間も費用も膨大になりますし、結果の応用は明確ではありません。
ひとことで言えば、人類の考える事ができる範囲を超えることも不思議ではありません。
それが物性に結びつくのか、例えば半導体や超伝導や宇宙開発等です。
直接には、原子力(核分裂・核融合)という成果はありますが、まだ人類は制御できておらず、核分裂原子力にはマイナスのイメージが特に最近強いです。
単なる、技術不足・知識不足での先行開発の結果ですが、基本研究の成果を早く求め過ぎるのは、いつの時代も分野も同じです。
素粒子学の成果はいつか予想もできませんが、始まりがなくては結果もないです。

素粒子学の実験を単独の国で運営するのは負担が多いです。
現在では、世界的な規模の協力で設備を運営しています。
設備の稼働自体が、非常に難度が高いです。
それでも稼働すると、幾つかの国やグループでその設備を利用した実験が行われています。
何かをすれば、何かの結果はでますが、その精度と再現性と解釈はグループ毎で異なる技術です。
新発見情報と、追試との繰り返しです。
発表した結果の取り消しも、十分にありえます。

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