項目別バックナンバー[5]:技術情報:56

X線回折

結晶構造解析の分野では現在では、バルク材料の他にも薄膜・表面処理や微粒子などを含めて対象として、例えば結晶構造決定、結晶の性質や結晶化度や転位密度等の多彩な情報を観測する。
方法としては、X線回折法(XRD)、X線吸収分光法(XAFS、EXAFS)、電子回折法(ED)、後方散乱電子パターン(EBSP(EBSD))、ラマン分光法(RS)等が使用されている。
X線結晶構造解析とは、X線を試料に照射して、散乱されたX線を観測して、物質の電子の分布を知る方法であり、そこから物質の3次元構造を知る事が出来る方法だ。
バルクの平均構造解析にはX線回折法・X線吸収分光法が使用され、微小部結晶構造解析には電子回折法・後方散乱電子パターン・ラマン分光法が使用される。
X線回折法では、X線が結晶格子によって回折される現象を利用してこの回折の結果を解析して結晶内部での原子の配列を決定する、X線は波長の短い電磁波であり波が媒質中を伝わる時に障害物が存在すれば、波が障害物の背後に回り込んで伝わっていく、その現象を回折と呼ぶ。

1912年にドイツのラウエがX線が結晶格子で回折を示す現象を見つけた、それによりX線の正体が波長の短い電磁波であると明らかにした。
そしてこの現象を逆に利用すると、物質の結晶構造を調べることが可能であり、X線の回折の結果を解析して結晶内部での原子の配列内容を決定する手法をX線結晶構造解析とかX線回折法と呼び、略してX線回折とも呼ぶ。
これはX線以外にも同じ様な回折現象を利用して結晶構造解析の手段として使用する手法に、電子回折法や中性子回折法がある。
X線回折の原理は、結晶性の物質に原子間距離と同程度の波長を持つ単色X線を入射すると、それぞれの原子がX線を散乱する、各散乱角に対しる散乱強度を観測する事で、観測する物質特有の散乱スペクトルを得る事が出来る、回折角の位置・強度は結晶構造に特有であり、回折図形から、主に無機化合物の同定が出来る。

X線回折の歴史は、1895年のヴィルヘルム・レントゲンによるX線の発見から始まる、前述した1912年のマックス・フォン・ラウエによる硫化亜鉛結晶でのX線回折現象の発見があり、翌1913年にブラッグ父子がブラッグの法則を発表してX線回折による構造解析に理論的な基礎を作った。
ここからはX線回折の方式の発展と、対象の試料の種類の拡大が行われた。
1916年にはデバイとシェラーが粉末試料から構造を解析するデバイ--シェラー法を発表してその容易さからX線回折での構造解析が広まった、粉末とは小さな結晶が乱雑な方向に混ざった状態であり、一般的な固体金属もこの状態である。
化学・物理学におけるX線回折は単純な構造の結晶への適用からはじまったが、複雑な試料をコントロールする手法や、X線の光源の進歩や、解析手法の進歩が併行して行われた、そこに構造解析計算用のコンピューターの進歩が加わり、複雑な結晶の構造解析が可能になって来た。
その後にX線回折法は生物学でも使用されるようになり、1953年にはフランクリンによりDNAのX線回折が行われて二重螺旋構造への解明に繋がった、その後も1962年にケンドリューがヘモグロビンの構造解析を行い、1964年にホジキンがペニシリンの構造解析を行った。

X線回折の装置は、X線の発生部・試料室・検出部から構成されている。
X線の発生部(装置)は通常はX線管球を使用する、X線管球は陽極から熱電子を発生させて、向かいあった陰極の金属に衝突させてX線を発生させる、陰極には金属が使用されるが、その金属に応じて特性X線とそのバックグラウンドとしての白色X線が放射される。
X線回折の装置としては単一波長のX線が必要であり、X線管球で発生したX線をフィルターの通して単一波長のX線を取り出す、フィルターとして陰極に使用する金属より原子番号が1つ小さい金属を使用して、特性X線のKβ線を吸収させる事でKα線を取り出せる。
フィルターを通したX線は、次ぎにバックグラウンドの白色X線を除くためにモノクロメーターと呼ばれるグラファイトの単結晶でX線回折させる事で、単一波長だけを試料室へ入れる。
強度の強いX線が必要な場合には、放射光の白色X線を利用する。

特性X線:元素に特有な波長をもつX線で、X線管からのX線は特性X線と白色X線とから成る。特性X線スペクトルは短波長側から順にK,L,M,等の系列があり、各系列にはさらに α,β,等の微細構造がある。

X線回折計における検出部は写真フィルム(写真乾板)が使用されてきた、X線回折法の発見時の連続X線と固定した結晶から回折X線図を得るラウエ法から始まり、単色X線や試料の回転動作を加え、試料の環境も制御しての複雑で精密な測定方法が開発されて来た。
検出部に比例計数管が使用されるようになり、試料と比例計数管とが相対的に回転運動を行わせる事で写真乾板を使用した時の回転方向のスキャンを行う事が出来る。
電子素子が開発された後は、CCD検出器やイメージングプレート等の2次元検出器を検出部に用いる様になった、2次元検出器を使用すると多数の回折点を同時に測定できるので回折点測定を短い時間で行う事が可能となった。
CCD検出器は電子式のカメラに使用する画像入力素子であり、X線回折データをデジタルデータとして読みこむことで同時進行でコンピュータでのデータ処理や統計処理を行う事が可能となった。
X線回折計におけるX線発生部と試料と検出部は理論的にブラッグの条件を満たす様に連動して動かす、入射X線に対して試料をθ回転させ、同時に検出部を2θ回転させる、この装置をゴニオメーターと呼ぶ。
単結晶X線回折では、検出部とは独立に試料を3軸に対して回転させるので、装置は4軸X線回折計と呼ぶ。

ブラッグの条件
結晶等の周期的な構造をもつ物質で回折が生じる条件、結晶格子の反射波が強め合う条件を言う。
 格子面と入射波のなす角度をθ・入射波の波長をλ・格子面の間隔をd、nを正の整数とすると、2dsinθ=nλという関係式が成り立つ。

固体のX線回折は結晶とその構造と密接な関係がある、「結晶構造」とは結晶中の原子の配置構造の事を指すが、結晶構造は「基本構造」と「格子」から成っている、格子と基本構造が判れば結晶構造も判る。
結晶に関する知識は固体物理の理論発展と共に、X線回折という観測手段の発展が存在した事で結晶学として体系つけられた。
結晶構造は繰り返し並べる操作で作られる無限に拡がり全ての空間を埋められた状態を指す、それは現実には存在しない理想的な物だが物質の近似の1つでもある。
「格子点」は特定の原子の位置には限られない周囲の環境が同一である点の事を指す、格子点は並進操作で無限に再現される事で格子を作る。
「単位格子」は格子点を繋いだ領域であり、並進操作を繰り返す事で全空間を埋められるものを呼ぶ、その中で格子点が頂点だけのもの(格子点を平均で1つ含む単位格子)を「基本単位格子」と呼ぶ。
基本構造とは一つの格子点とそこの周辺の構造である、それが格子を作る事になり、結晶の並進対称性を特徴付ける空間上の格子を形成する事になり、それが結晶格子と呼ばれる。


宇宙論

2019年度のノーベル物理学賞は「宇宙の進化と宇宙におけるこの地球の立ち位置に関する人類の理解への貢献」として3氏が発表された。
ジェームズ・ピーブルズ教授は、「物理的宇宙論における数々の理論的発見に対して」が受賞理由であり、「太陽と似た恒星の周りを公転する系外惑星の発見に対して」の受賞理由でミシェル・マイヨール教授とディディエ・ケロー教授に授与される事になった。
ノーベル物理学賞では2000年代から素粒子・宇宙分野の受賞が増えて来ており、2010年代は素粒子・宇宙分野と物性分野とが、毎年交互に受賞していた、事前予想では2019年度は素粒子・宇宙分野の順番だと言われていたが結果も予想通りだった。
また素粒子・宇宙分野での、宇宙関係の受賞は、2011年度の「遠方の超新星の観測を通した宇宙の加速膨張の発見」に次ぐことになった。

2019年度のノーベル物理学賞受賞者のピーブルズは、現代宇宙論の理論的枠組みの確立に大きく貢献した。
1965年に宇宙マイクロ波背景輻射(CMB)が発見されたが、ピーブルズは当時のプリンストン大学のCMB探査グループの一員だった、それを最初にして以降はビッグバン宇宙論の基礎理論の確立への大きな貢献をしてきた。
今ではCMBは、観測的宇宙論を扱う分野での最も精度の高い基礎データとなっているが、ピーブルズはその温度非等方性を定量的計算する方法論を作り上げてきた。
ピーブルズはその他に
・宇宙誕生約3分後に形成されたヘリウムの存在量
・約38万年後に起こった宇宙の再結合(電離水素が中性化する過程)
・膨張宇宙における密度揺らぎの線型成長とその後の非線形成長モデル
・相関関数を用いた銀河分布の統計的記述
等の現代宇宙論で扱われている基礎過程の理論的定式化を確立した来た。
個々のテーマについては同時受賞に相当する研究者も存在するとも言われている。

現代宇宙論と言う言葉には過去の宇宙論の存在がある。
人間は自分と自分らの住んでいる場所を世界・宇宙(以下宇宙)の中心と考えるが、それとは異なる考え方は宇宙を学問として扱い考える事で始まる、それは古代ギリシャ以降とされている、しかし学問的に扱っても自然科学や技術が発展していない時代では哲学の分野であった。
自然科学が発展して物理学的・天文学的に扱われるのは近世以後であり、コペルニクスやガリレイやニュートンが天文学や物理学として観測研究を行い、その後の18世紀にカントやラプラスが太陽系宇宙の進化やその起源を論じた。
20世紀の始めに、アインシュタインが一般相対性理論を発表した事と、天体観測技術の急激な進歩があった事で、学問的に扱う範囲が太陽系から宇宙全体に拡ろがった、そこでは宇宙は星・星雲・星雲団・銀河という階層構造を持ち、それらの分布は一様でありしかも等方的だと考えられ,宇宙原理とされた。

現代宇宙論は、宇宙は星・星雲・星雲団・銀河という階層構造を持ち、分布は一様で等方的だと考えてこれを宇宙原理とした。
1915年にアインシュタインは一般相対性理論を構築して、宇宙が静的になる様に自身の方程式に宇宙定数を加えた、だがこれは不安定なモデルであり、フリードマンは1922年に一般相対論の宇宙論的な解は膨張または収縮する宇宙だと発見した、これは動的宇宙モデルだった。
1927年にルメートルが渦巻星雲が遠ざかっている観測結果から、宇宙は「原始的原子」の「爆発」から始まる説を提唱した、これは後にはビッグバンと呼ばれるようになった。
1929年にハッブルは渦巻星雲が銀河であることを証明して、星雲内の変光星を観測して天体までの距離を測定した、そこから銀河の赤方偏移とその光度の間の関係を発見した、そしてそこから銀河が全ての方向に向かってその距離に比例する速度で後退している事を示し、ハッブルの法則を発表した。

宇宙原理の仮定ではハッブルの法則は宇宙の膨張を示すが、そこからは1:ルメートルとガモフが発展させたビッグバン理論と、2:ホイルの定常宇宙モデルがある、後者の定常宇宙モデルでは銀河が遠ざかると新しい物質が生まれて宇宙はいつでもほぼ同じ姿になる。
両方のモデルの支持者は同様にいたが、その後宇宙は高温高密度から進化した説を支持する観測的証拠が見つかり始め、1965年の宇宙マイクロ波背景放射発見以後はビッグバン理論が宇宙の起源と進化を説明する理論と見なす人が増えた。
当初はトールマンの振動宇宙論があり、それでは宇宙の初期の密度無限大の特異点は数学的であり、実際の宇宙は高密度の前には収縮していてその後膨張すると考えた、だが1960年代にホーキングとペンローズが、振動宇宙論ではなく、特異点はアインシュタイン理論の本質的性質だと示した。
これらの結果から研究者の多くは宇宙が有限時間の過去から始まったビッグバン理論を受け入れた、ただ一部の研究者は定常宇宙論やプラズマ宇宙論等を支持している。

発展途中の現代宇宙論では未解明の課題ばかりがある。 初期の高温宇宙は、宇宙創生がビッグバンから始まった考えで多くは説明されるが、その後に宇宙が平坦で一様・等方に向かう理由が存在しない問題点があるとされる。
電磁気学でお馴染みの単独の電荷は観測されるが、単独の磁荷(モノポール)が見つからない問題がある、それへのインフレーション仮定や理論が出されているがそれも課題となっている。
宇宙には物質が反物質よりも多く含まれる問題がある、研究者はX線観測により、宇宙は物質と反物質が占める領域に分かれておらずに大部分が物質でできていると推定して、バリオンの非対称性と呼ばれる。
バリオン数生成の理論は1967年にサハロフにより作られて、バリオンの非対称性が出来るが、それには素粒子での対称性が物質と反物質について破れている事が必要とされた、研究者はこれを説明する為の加速器実験を行っているが合致する結果にはなっていないと言われる。
インフレーション
 宇宙のインフレーションとは、初期の宇宙が指数関数的な急膨張(インフレーション)を引き起こす初期宇宙の進化モデルだ。宇宙の急膨張を物価の急上昇になぞらえた。
バリオン
 素粒子の中で、クオーク3個からなりスピン半整数で強い相互作用をもつもので、核子・Λ(ラムダ)粒子・Σ(シグマ)粒子などがある。

このページの先頭へ