物理学とは何だろうか

「朝永振一郎」について

朝永振一郎は、1906年生まれに理論物理学者で、量子電磁力学でノーベル賞を受賞した。
多数の教科書を執筆したが、同時に多数の啓蒙書も書いた。
著者の教科書も取りあげたいがここでは啓蒙書の1冊を取りあげる。
「物理学とは何だろうか」は代表的な啓蒙書の一つで、現代物理学の方法論を歴史的な足取りを巡りながら描く。
ただし、著者の死で後半が未完であり、最終の「熱の分子運動論完成の苦しみ」は口述筆記とされる。

「物理学とは何だろうか」について

「物理学とは何だろうか」
 
  朝永振一郎 著
 
    岩波新書 1979/05/21
 
「相対論の意味」岩波文庫版
 
目次
序章
第1章
1:ケプラーの模索と発見
 火星の謎とケプラー
 ケプラー法則の発見
2:ガリレオの実験と論証
 慣性の法則
 自然法則と数学
3:ニュートンの打ち立てた記念碑
 変化の相で運動をとらえる
 ニュートン力学の性格
 万有引力
4:科学と教会
5:錬金術から科学へ
第2章
1:技術の進歩と物理学
2:ワットの発明
3:火の動力についての省察
4:熱の科学の確立

 「カルノーの原理」の復活  熱法則の数学化
 エントロピー概念の誕生
 エントロピー増大則の広がり
 
第3章
1:近代原子論の成立
 ドルトンの原子論
 気体の法則、化学反応の法則
2:熱と分子
 熱のにない手は何か
 熱学的な量と力学的な量
3:熱の分子運動論完成の苦しみ
 マックスウェルの統計の手法
 エントロピーの力学的把握
 ロシュミットの疑義
 力学法則と確率
 平均述べ時間(滞在時間)
 エルゴート性を支えとして
 ロシュミットの疑問の解明
 物理学生のための補足
 二十世紀への入口

感想等

本書は、現在の物理学のルールがいつからどの様に確立して来たかを述べている。
自然科学では、古代から宗教から大きな影響受け続けていて、ルールが確立していない時は自然界の出来事はその原因を呪術や魔法で説明してきていた。
現代の物理学を含む自然科学のルールは、16世紀−17世紀から定まり始めたと考えられ、その中で占星術が物理学へと確立し、錬金術が化学として確立した。
その方法は、正確な観察事実を積み上げる、そしてそれに対して厳密な数学的推論を作る事だった、「観測事実から法則を追及する」それがルールだ。
 
分野によるが観察事実を集める事に、著者は「人間側から積極的に自然に働きかけて引き出した「実験事実」をも含める」とする、これは観察事実に実験事実を含める事で積極的な方法ルールとなる。
 
そして、「観測事実から法則を追及する」結果の整理とまとめた体系化の重要性も言及する、それは「自然の法則を数学的に表現すること、そして個々の法則をばらばらに発見するだけでなく、そのなかから最も基本的なものをいくつか選び出し、それから他の法則が導き出されるような体系をつくること」とする。
 
16世紀−17世紀の物理学の分野では、宇宙の観測とそれの法則化の歴史を語る。
登場人物は、
ティコ・ブラーエ(1546-1601)
ケプラー(1571-1630)
ガリレオ(1564-1642)
ニュートン(1642-1727)
コペルニクス・地動説(1543)
だ。
ティコ・ブラーエ以前の観測データと天動説では、惑星の逆行現象の説明が難しかった、観測する地球から見た惑星の公転が逆方向になる事もあるからだ。
ティコ・ブラーエの観測データに基づく、ケプラーの3法則を語る
1:楕円軌道
2:惑星公転軌道の面積速度一定
3:惑星公転周期の2乗と、軌道の長径の3乗との比は一定
で、そこの法則化に物理学のルールを指摘する。
コペルニクスとガリレオの地動説では惑星の逆行現象の説明が明解になった。
そして、ニュートンの万有引力の発見に繋がり、そこであまり注目されなかったケプラーの第3法則が掘り起こされた。
 
錬金術から化学へとルール化される分野での
登場人物は、
ボイル(1627-1691)
パスカル(1623-1662)
ワット(1736-1819)
カルノー(1796-1832)
マイエル(1814-1878)
ヘルムホルツ(1821-1894)
トムソン(1824-1907)
クラウジウス(1822-1888)
だ。
この時代で進むが、科学と物理学から見ると、ドルトンが登場して「化学と原子論の同盟」した事を大きな境目と著者は見る。
そこでの登場人物は、
ドルトン(1766-1844)
アボガドロ(1776-1856)
ゲイ・リュサック(1778-1850)
ベルツェリウス(1779-1848)
となる。
 
著者は、科学と技術についても述べている。
知的欲求のあらわれ>科学
自然事物の改変>技術
と示している。
技術は広く扱い、宇宙分野での望遠鏡の発明を大きく扱う。
 
本著は著者の死で未完だが、後半は「化学と原子論の推移」が中心となる。
そこの分野は、「熱の科学」であり、「近代原子論」「熱力学」「統計力学」へと進む。
そこでの登場人物は、
ボルツマン(1844-1906)
ロシュミット(1821-1895)
となる。
 
ファラデー(1791-1867)
ジーメンス(1816-1892)
マックスウェル(1831-1879)
マルコーニ(1874-1937)
シュレディンガー(1887-1961)
らにも言及がある。