生命とは何か・物理的にみた生細胞

「エルヴィン・シュレーディンガー」について

エルヴィン・シュレーディンガーは、量子力学の1形式である
波動方程式で有名です。

量子力学は、複数の表現方法がありますが、現在は波動方程式は
一番広く使用されていると言えるでしょう。

量子力学の初期の関係者は、一般向けの教科書を書いています。
シュレーディンガーにはそれがない事も有名です。
勿論、多数の論文を集めた著書はあります。

シュレーディンガーは、20世紀の代表的物理の、量子論から
素粒子論に行かず、あえて言えば量子統計力学や場の理論へ
向かったかの様に思えます。

シュレーディンガーがダブリンで書いた教科書的な本は、
「生命とは何か・物理的にみた生細胞」1944(本書)
「統計熱力学」1948
「時空の構造」1950
等です。

1887:ウィーン生まれ。
1912−:電子論関連の研究開始:ウィーン大学
1926:波動力学:チューリッヒ大学
1936:ダブリン
1956:ウィーン
1961:死去

「生命とは何か・物理的にみた生細胞」の内容

日本版「生命とは何か・物理的にみた生細胞」
      エルヴィン・シュレーディンガー 著
      岡 小天・鎮目恭夫 訳
       岩波新書 1951年
       岩波新書 1975年
       岩波文庫 2008年

原題 「生命とは何か・物理的にみた生細胞」
       アイルランド ダブリン 1943年発行

まえがき
第一章:この問題に対して古典物理学者はどう近づくか?
第二章:遺伝のしくみ
第三章:突然変異
第四章:量子力学によりはじめて明らかにされること
第五章:デルブリュックの模型の検討と吟味
第六章:秩序、無秩序、エントロピー
第七章:生命は物理学の法則に支配されているか?
エピローグ:決定論と自由意志について

感想

シュレーディンガーの経歴や、著作が多く日本で紹介されたのは
かなり後で、最近とも言えます(20世紀ですが)。
それによって、20世紀物理学の本流から、離れた立場にいた事
(アインシュタインも同様とされています)や、何に興味があった
かが判りつつあります。

分子生物学が、ワトソンとクリックの「遺伝物質DNAの構造」から
始まったとされています。
本書はそれの10年前に書かれています。
いわば前夜に当たり、古典物理学的なイメージに量子統計力学的な
アプローチを加えて、話を展開しています。
まさしく、橋渡し的な著書と言えます。

最近の分子生物学の著書が、いきなりミクロの世界に入るのに対し
本書は、マクロ現象とミクロ現象をつないで展開しており、現在
の分子生物学を目指す研究者にも、発展過程をしるものとして
読み継がれています。

シュレーディンガーは、生物の構成を非周期性結晶と呼び、それは
タンパク質だろうと言われています。
それが、一種の時計の構造の様な機械的なイメージ構造を想定して
いるとされています。

シュレーディンガーのイメージを、その後の分子生物学の成果に
無理に重ねる事は可能でしょうが、むしろやはり、橋渡し役だと
理解する方が自然です。

「生命とは何か・物理的にみた生細胞」は、講演を元にまとめた

啓蒙風の著書ですが、理論的推論という意味では色合いが違います。

分子生物学の前夜とも言うべき時代の著書です。