「文庫クセジュ」について
文庫クセジュは、1941年よりフランス大学出版局から刊行されているコレクション「クセジュ」(Collection Que sais-je?)の日本語版で、1951年11月5日創刊の新書レーベルです。
目的は、「モンテーニュの思想と百科全書の精神を結びつけつつ真理を探求しようとする、あくなき試み。
古典的教養から最先端のテーマまで、現代人に必要な知識を幅広く提供。」
研究者自身が書いた著作ではありませんが、多くの研究者が教科書や啓蒙書を書いた動機と同じ目的で、各分野の研究者等が執筆した、その時代の先端啓蒙書です。
現代では、先端知識は早くに更新されていますが、入門者にとってはある時点でまとめられた著書は有意義でかつ、読みやすい新書レベルの量と内容は継続的に有用です。
時間に追われた最新の話題とは異なります。
その結果、フランス以外でも翻訳され、日本でも時間差で出されています。
研究者の論文やそれを集めた著作とは意味は異なりますが、教育目的で授業や講演で使用したものをまとめた著作物とは同じ立ち位置です。
ただし、対象が専門の生徒か、入門者かの違いはあります。
現在の日本では多くの新書が出されていますが、教科書的なものは多くはありません。
日本国産の入門書のレーベルもありますが、このタイプは編集が間違わないとベストセラーにはならないが、ロングセラー的に読まれる内容です。
取りあげた、「細胞」は352冊目で、フランスで1962年、日本で1963年刊行です。
著者は現役のベルギーの細胞生物学者でDNAの研究者です。
細胞学の歴史から、それが次第にまとまり発展し染色体とDNAの遺伝情報まで達するまでを書いています。
そこは大きな区切りであり、そこから生物学は急激に進歩します。
「細胞」の内容
「細胞」 La Cellule Vivicante
アンリ・フィルケ Henri Firket
1962年 Que sais_je?
「細胞」
アンリ・フィルケー
森下周祐・都筑惇治 訳
1963年:白水社 文庫クセジュ>本書
・目次
日本の読者に
訳者まえがき
序文
第一章:細胞学の歴史ーー細胞説
第二章:細胞の基本的輪郭
1:細胞の大きさと輪郭
2:化学的組成
第三章:核
1:仁
2:染色質
3:その他の核構成物
4:核膜
5:核と細胞膜の相互依存
第四章:細胞質
1:透明質
2:細胞質の細胞器官
第五章:膜と細胞の透過性
1:膜と浸透現象
2:細胞の透過性
3:細胞飲喰
第六章:細胞分裂
1:細胞分裂の連続像
2:DNAの変化と分配
3:特殊なからくり
4:細胞分裂回数の調節
第七章:減数分裂
第八章:染色体
1:染色体の構造と周期的変化
2:数と形と異常
3:染色体と遺伝子
4:電子顕微鏡的構造
5:DNAと遺伝情報
第九章:総合と結論
1:細胞の代謝をみわたせば
2:細胞と細胞との関係−−組織のなりたち
3:細胞分化
4:おわりに
文献紹介
感想
文庫クセジュは、フランスのレーベルの日本語翻訳で、形態は新書です。 ページ数も少なく、そもそもの所から、最近の話題までが平均の内容です。
出版数が多く、膨大なシリーズですし、内容は多岐で自然科学はその一部です。
全体が大きいので、自然科学の本の数も多い。
著者は、日本では必ずしも知られていない事も多いが、フランスとその周辺または、対象ジャンルでは著名な研究者の様です。
啓蒙書または教科書は、内容を理解しておればライターは研究者に限らないし、むしろオリジナル内容は含まない方が有用です。
ただし、本の構成や記述のバランスには、読者を考えた工夫が必要です。
本書の目次と、日本語訳の116ページという量を考えると、教科書ではなく、啓蒙書だと判断されます。
書かれた時は、先端情報の解説でも、直ぐにそれからは離れますが、大きな分岐点までで書かれたものは、まとまった内容として、読み継ぐ事が可能ですし、有用です。
分子生物学や量子生物学に入る直前までをまとめた内容は啓蒙・入門書として有用です。
多様な分野の啓蒙書のフランス発のレーベルです。
「クセジュ文庫」は多く翻訳されていますが、日本版も出されました。
啓蒙書・入門書の膨大な集まりとなりました。