抽象と感情移入

「ウィルヘルム・ヴォリンゲル」について

ウィルヘルム・ヴォリンゲルは、ヴォリンガーとも表記されます。
生年は、1881年−1965年でドイツの美術史家です。

美術史におけるウィーン学派の一人です。

それ以前の美術史・芸術史が、人物や作品の紹介・収集・歴史的
な考証に留まっていました。

また一方では技術的・技能的な面から見ていました。

それらは、美術・芸術の本質を知ろうとする面がかけていました。

ウィーン学派は、様式の歴史として見たりしたが、そこに不足して
いる内的な精神史的な意義を見てみたり、したがそこに「芸術意欲」
の考えを導入しました。

ヴォリンゲルは、それを抽象作用と感情移入作用の2つで展開しました。

また、そこから進んでヨーロッパの美学がその例をギリシア・
ローマ古典芸術やルネサンス以降の芸術に求めていたために、
古代エジプトや、中世のビザンチン美術・ゴシック芸術や東洋美術
を正当に評価できなかったことを明らかにしました。

「抽象と感情移入」の内容

日本版「抽象と感情移入 −東洋芸術と西洋芸術−」
      ウィルヘルム・ヴォリンゲル
      草薙 正夫 訳
       1953年
       岩波文庫

原著:
「抽象と感情移入 Abstraktion und Einfuhlung.」
      ウィルヘルム・ヴォリンゲル
      1908年

・目次
第一部:理論

第一章:抽象と感情移入

第二章:自然主義と様式

第二部:実証

第三章:装飾芸術

第四章:抽象と感情移入の観点から選び出された建築及び彫刻の例

第五章:ルネッサンス前の北方芸術

付録:芸術における超越性と内在性について

感想

近代物理学の基礎理論・量子論と相対論が1900年最初に始まり
その後の短い期間で急激に発達したのは良く知られています。

芸術史・美術史が同じ頃に確立した事は、自然科学者から見ると
意外とも言えます。

ただ、それから1世紀後の今では、脳科学が発達段階で、人間の
思考や感情と脳の働きを関連つける方向に進んでいます。

そこには、芸術や美術に関する研究も大きく関連つけられる様に
なって行くはずです。

僅か1世紀前に、漸く精神や感情や意欲という内的な所に入った
この分野が、いつしかまたも自然科学と関係をもつだろう方向
に向いています。

1世紀前の本書等の研究は、現在の状況は当然ながら、全く想定
していません。

ただ、人間の内的要因に目を向けて、精神や感情や意欲とを言う
展開をした事は、それらを司どる脳との結び付きを示唆する、
始まりと見る事も出来ます。

古い時代の考え方の細部や、それを予言的に観る必要性は全く
ないですが、それがそれほどに昔でなかった事は意外かも知れ
ません。

芸術史が、紹介のみから科学になる過程で何が起きたか。

人間の内的要因に目を向けて、精神や感情や意欲とを言う展開です。

内的要因に目を向けた事は、現在の時代から見て興味があります。