血液循環の原理

「ハーヴェイ」について

イギリスの、ウィリアム・ハーヴェイは1578−1657年に
生きていますが、この時代は個人に関する資料が非常に少ない
とされています。
しかも、伝記類も同様に少ないです、あまり人物像の資料がない
という事です。

ハーヴェイの時代は、まだ古代ギリシャの科学が依然として残って
いたとされ、それの方法論を拒否した観察と実験を元にする実証
という手法は、その成果とともに画期的な研究です。
それゆえの衝突も多かったと予想されますが、近代医学の創始者
とされています。

「血液循環の原理」について

ハーヴェイは、イギリス人ですが本書は旅先のドイツでラテン語
で出版されました。
旅先で知り合った出版者を信頼したためとされています。

当然ながら、色々な国で翻訳されています。

ハーヴェイの多くの業績の中でも、自ら公刊されたものは2冊
のみであり、もう1冊の「動物の生成に関する研究」とともに
有名であり、特に本著はハーヴェイの業績の最大と言われています。

「血液循環の原理」の内容

原著
通称「血液循環の原理」De motu cordis (1628)
正式名「動物の心臓ならびに血液の運動に関する解剖学的研究」
 Exercitatio anatomica De motu cordis et sanguinis in animalibus

日本版
「血液循環の原理」
    暉峻義等 訳 岩波文庫 1936年
「動物の心臓ならびに血液の運動に関する解剖学的研究」
    暉峻義等 訳 岩波文庫 改訂版 1961年
献辞
同学への挨拶
緒言
第1章:著述にあたっての著者の確乎たる動機
第2章:動物の生体解剖に基づく心臓の運動の本性
第3章:生体解剖の結果から見た動脈の運動
第4章:生体解剖の結果から見た心臓ならびに心耳の運動
第5章:作用としてならびに動作としての心臓の運動
第6章:いかなる道を経て、血液は空静脈から動脈へ、あるいは
     右心室から左心室へ誘導されるか
第7章:血液は右心室から、肺実質を通って静脈性動脈に入り、
     そして左心室へ流れる
第8章:静脈から心臓を通過して、動脈に貫流する血液、ならびに
     血液の循環について
第9章:血液循環の存在は第一の仮定に対する基礎から判明する
第10章:静脈から動脈に移動する血量、ならびに血液循環の存在に
 関する第一の仮定は、その反対論に対して擁護され、かつ実験に
 よって確証された
第11章:第二の仮定は正しいものと証明された
第12章:実証された第二の仮定から、血液循環の存在は明らかである
第13章:第三の仮定に対する証明。血液の循環の存在は第三の仮定
     によって立証される
第14章:血液循環に関する余の記述の結論
第15章:血液の循環は確からしい理由によっていっそう確証される
第16章:血液の循環は、そのほかのいくつかの当然の結果から
     立証される
第17章:血液の運動および循環は心臓における現象ならびに解剖
 に際して暴露された事実から確証される
発行者の付言

感想

ノーベル賞に医学・生理学賞はありますが生物学賞はありません。
ただこの双方のジャンルは、特に宗教的や古代ギリシャの哲学的
な影響が長く支配していました。厳密には現在も残っています。

他の科学の様に、実験・観察から実証へと進む手法がおくれて
いたとされています。
ハーヴェイの手法は、そこからの方向転換で業績と手法の変換の
双方共に近代医学のはじまりと言えるでしょう。

内容は章題から想像するとして、解剖という実証・観察手法が
大きな比重を占めていることです。
勿論、現代では間違いと判る事もありますが、それは科学では普通の
事です。

医学・解剖学が未発達の時代ですから、使用用語も本当の意味は
難しいです、特に原典がラテン語ですから、より難しい。
この事は、訳書に詳しいです。歴史的に未発見な事象と同様に。

以下、翻訳書の注記を元に進めます。
「生気」という言葉の妥当性を取り上げています。原典は「スピリ
ッツス」であり、ギリシャ時代は神秘的な意味も含まれていたが
本書では、機能・刺激的な意味だと言います。
「動脈・静脈」の使い方が現代と一部異なるとの指摘もあります。
また未発見の事は、流石に曖昧な表現か抜けになります。
ひとつは、当時は未発見の「酸素」に関する事です。
もうひとつは、血液循環にはかかせない「毛細管現象」です。

歴史を語る時に、未発見の事の記述に関して問題視する事は意味が
ない事は既に繰り返し見てきました。
医学・解剖学が、近代化に舵を取ったのがわずか400年若前と
いう事はどのように感じるべきでしょうか。

正式名「動物の心臓ならびに血液の運動に関する解剖学的研究」

観察と実験を元にする実証という手法は画期的な研究です。

医学・解剖学が未発達の時代で使用用語も本当の意味は難しい