「科学と仮説」について
正式名:「科学と仮説」 思想集の第1巻 著者:アンリ・ポアンカレ 発表年:1902年、フランス 日本訳原本:1917年版
目次等
序文 第一篇 数と量 第一章 数学的推理の本性 第二章 数学的量と経験 第二篇 空間 第三章 非ユークリッド幾何学 第四章 空間と幾何学 第五章 経験と幾何学 第三篇 力 第六章 古典力学 第七章 相対的運動と絶対的運動 第八章 エネルギーと熱力学 第四篇 自然 第九章 物理学における仮説 第十章 近代物理学の理論 第十一章 確率論 第十二章 光学と電気学 第十三章 電気力学 第十四章 物質の終わり 日本版 科学と仮説 河野伊三郎 訳 岩波文庫 1970年第20刷
内容
2006年に「ポアンカレ予想」が解かれたとされて話題になって います。解いた数学者がフィールズ賞を辞退してロシアに閉じこも っており、また正式な論文等で発表していない事からこの解に賭け られた賞金がどうなるのか等話題が多い。 ポアンカレ自身は多くの分野に詳しい科学者といわれています。 それ以前はガウスがそのように言われていました。 それもあって、科学思想について多くの著書を残しています。 本著は、その思想集の第1巻という位置にあります。 目次を見ると分かるように、その関心は広い範囲にあります。 数学という演繹的方法で閉じた完全性を求める分野と、物理学と いう帰納的方法による分野を同時に考察する事で、公理・仮説 についての考察・方法について述べています。 最初に、数学の厳密性がどこからくるのかを考察します。 何を公理とすれば、それが可能なのか、ほとんど誰も疑わない事 から出発します。 それは、幾何学・無理数へと展開してゆきます。そのキーワードは 「連続」です。 その先にあるのは、非ユークリッド幾何学です。 ユークリッドの要請(第5)と呼ばれている「平行線は1本存在する」 は現在では公理的になっていますが、本著が書かれた1世紀前までは 正しい事を他の公理から求める事がなされていました。 その要請を否定する仮説で作られた「ロバチェフスキーの幾何学」 、続いて現れた「リーマンの球面幾何学」を考察します。 そして「空間」というキーワードで解釈をします。 これを進めると幾何学が経験的なイメージになる事を否定して その対象とするものの性質の問題としています。 以下、色々な分野にわたる考察がなされます。 そして、実験が真理の根源とします。 それを認めた時に、実験物理学にたいして、数理物理学がもつ意味 を考察します。 最終は、当時で見た近代物理学について語られます。 当然ながらもはや哲学的な内容になりがちですが、その正否に かかわらず多方面に詳しい科学者のみが語れる内容でしょう。
感想
2008年はじめ現在、検索エンジンで「ポアンカレ」を調べると 「ポアンカレ予想」がほとんどを占めます。 この状態は長く続くと好ましくないと思います。ポアンカレは多くの 業績で語られるべきです。しかし、その特徴として哲学的に未来を見た 話の展開を行う著書が多いといわれています。 してみると、長年にわたって解かれなかった「予想」が解かれた事は ポアンカレの一面を表しているとも言えます。 本著が発表された1902年は微妙な時期です。本著で扱われている いわゆる古典物理学が、1900年のプランクの量子論の発表を境に 次第に物理学のみならずあらゆる自然科学の中心に移行してゆく事に なるからです。 この時期以降では、量子論・相対論に関する著書がその初期の成果と して、現代の古典として扱われるようになります。 本著の最終章の「物質の終わり」はいかにも、次の新しい解明の登場 を待っているかのようです。 また、第十一章の「確率論」は意外な所に配置されていますが、実は この時点ではまだ本質を表していない量子論の基本的思想です。 古典というものは、個別の事実を取り上げれば古いで終わるかもしれ ません。しかし、重要なのはいかに考えるか、どの様な方法で考えるか です。情報が増える程、知る事が多くなり考える事を忘れがちです。 そんな時に原点に戻るには古典の考え方を読む事は重要と思います。
歴史に残る古典的自然科学書をよみましょう。
間違いがあっても天才の思考を少しでも理解しましょう
哲学的・宗教的な部分は現在の遺伝子工学にも匹敵