・ ピカルディ
早朝、岩蔵、辰さんと供に船で居留地まで渡り28番館でマックに会って話しを聞きました。
そして横浜ホテルには岩蔵を連れて三人でパルメスさんを訪ねました、幸いにも起きていて人懐っこい笑顔で出迎えてくれました。
「此方がコタさんです、そしてパルメスさん」二人を紹介して握手を交わしました。
「Goodmorning、Good to see you、Welcome it gave it by going out、call me kota」
「イイデストモ、コタさん私はパルと呼んでください」
仲良く仕事が出来そうな予感がする寅吉で半分は不安でした気持ちがこれでなくなるように思いました。
「早く仕事場をみたいです、かまどは有るのですか」
「店は確保しましたがあなたが到着してからレンガで組む予定です、職人は確保しましたからどのように組み立てれば使いやすいか教えてください」
「オッケー、では見に行きましょう」来るそうそう仕事場をみたいと言う職人根性は見上げたもんだと岩蔵も驚いています。
荷物を岩蔵が持って20番に出かけ義士焼きの部分を説明して、奥の部屋10坪ほどの仕事場を見せてどのようにやるかを聞き岩蔵を紀重郎さんのところに職人を呼びに行かせました。
マックに解らないところを通訳してもらいながら、図面を引いて設置場所と窓の位置、火の炬口、材料置き場などを相談して義士焼きの元造さんに引き合わせて、この人があなたの下職で働く男ですと紹介しました。
「二人で働きやすいように相談してくれよ、この人は元造で皆は元さんと呼んでいます」
「オオ、モトサンネ、私パルです、みっちりと扱いてあげます」片目を此方につぶって見せながら大きな声でモトさんになにやら言いつけて居ります。
にわか勉強のモトさんですがどうやら言われていることは理解できるようで台のうえで小麦の見方など教えられているようです。
「コタさん、この粉ではBreadは焼けません、Bread用の粉はどれですか」
「モトさんあいつを出してきなせえよ」パン用に見本に仕入れた粉を網張りの部屋から出して見せると「よろしいです、これはいい粉です」
かまどもできないうちからもうパンをこねてイーストが充分使える用意を始めています。
「船の中でもコックを手伝ってイーストを駄目にしないようにしてきました、これから毎日こうして作りそのうちの半分をこうして取っておきます」さらしで巻いてネズミ除けの棚をすばやく見つけると其処に保存して残りをBreadではありませんがこうして焼くことも出来ますと義士焼きのアンを炊くかまどですぐに焼いて見せました。
「これは戦場でBread用のかまどがないときに、急ぎで焼く方法で旨くは焼けませんがそれでも食べられるものは出来ます」
気が早いというかすばやいというかあれよあれよと言う間にパンが焼きあがってしまいました。
「後売り子に何人か女の人を雇いますが、仏蘭西と亜米利加、英吉利とご婦人方に声をかけて居りますが国について好き嫌いはありますか」
「ノーノー、私伊太利人と仏蘭西の母の間に生まれて、亜米利加で育ちました、黒人にもシナ人にも偏見有りません、ただ清潔な人がよいです、それとこの水は非常においしいホテルのものよりおいしいね」
紀重郎さんが3人の職人と春に太四郎も連れてやってきました。
「太四郎が来たならおいらと岩蔵は仕事の話に行こうか」それぞれを紹介して仕事場の細工を紀重郎さんたちに任せて出かけることにしました。
ゴーンさんのところによって事情を説明した。
「これからは岩蔵が担当で仕入れをします、ついては仕入れの数を」といいかけるとゴーンさんが情けなさそうな顔をするのを見て、寅吉が笑いながら「後、月に200箱2000ダース増やせないでしょうか」
「エッ、減らす相談だと思ったら増やす相談ですか」ゴーンさんの顔が嬉しさで満開になります。
「昨晩噂が聞こえてきて、もしかして打ち切りかと心配で家内など一睡も出来ませんでした、価格ではあの会社と争うことが出来ません」
「ゴーンさんの所のマークルは品質は一流ですよ、ただ是から普及品が売れるようになりますから妹さんのところでは、さらに高級品になるように金持ち専門のよいものを作るか、大量に作る工夫をしないと生き残るのが難しくなりますよ」
「追加注文はすぐ出してよいのですか、明日の船で連絡してボンベイから電報を打てばすぐに送れる様に手配できます」
「はいこの後3年間は最低でも月に700箱、7000ダースの取引を契約してもよいのですが価格の設定を約束できますか相談してください、安定した価格ならすぐに契約をしますそれと年間の原料費の高騰の場合の値上げ率も20分の1までなら相談できるとしてもよいですがそれには値下げの場合の相談も出来るという話で無ければいけません」
「解りましたその分の話は詳しく手紙に書いて電報とは別に連絡いたしますよ、ちょっと待っていてください」
奥に入ると奥さんを呼んできました、本当に寝不足の顔でやつれた様子が伺え心配した様子がよくわかります。
「コタさんありがとうございます、私たちはマックに裏切られたのかと本当に心配してしまいました、ごめんなさいお二人を疑う私は駄目な女です」
「奥さんそんなことはありません、私たちがゴーンさんを交えて相談する間が無いうちにウォルシュ・ホール商会の取引の照会をコタさんにしてしまったからです、あなたに要らぬ心配をさせてしまった私の責任です」
わだかまりが残らぬ前の通りの関係に3者が戻り奥さんもやっと安心したようでございました。
「それよりマック、アメ一はどのくらいの価格の予想だよ」
「いいのですかここで話しても」
「いいともさ、ゴーンさんたちにも話がわかってもらうほうが後でマークル石鹸の取引に手心を加えてもらえるだろ」
それにはゴーンさんも奥さんも口をアングリ、寅吉の商売根性は秘密が無い代わりに値段にも容赦がありません。
「マークルと違い一箱がグロス単位で12ダース144個いりだよそれでアメ一では卸を3ドルでどうだと言ってるよ、年間契約か大量注文ならもう少し安くなるそうだ、昨晩計算したけれどこの価格のままではマークルが負けることは無いよ」
皆で計算をだしたところマークルは表向き壱分で15個、ハーフムーンソープは壱分で16個になるようです。
「月に100グロスだと300ドルか225両といまどのくらい品物が来たという話かわかるかい」
暗算は得意の寅吉です。
「何でもトマスの話では500グロスが船でついたという話なので今日一杯はほかと取引しないということになっている」
「そうか、するといい値で買うと1500ドル1125両必要か、待てよいまどのくらい有るかな」振り分けをあければ500ドルの手形が2枚これは自分の取引の分なので後で横浜物産会社から返してもらえる金。
「それだけあれば後はうちで立て替えてもよいですよ」マックが受けあうので、
「実はよ、これをそちらに預けてスミス商会で一度取引をして横浜物産会社におろすという形にしないか、口銭は5パーセントとっていいがどうだいだから交渉して1250ドルで買えば月に口銭だけで62ドル50セント取れるぜ」
「コタさんは計算が速すぎる、ちょっと待ってくれ、1400ドルなら口銭が70ドル取れるか」
「こらこら何を言うんだ、1250より高けりゃそっちの口銭など出せねえよ」
「それは無いよ、きびし過ぎるよ」
「年間契約で月に500グロス取引するならそのくらいで交渉してくれよ、1250からうえではそちらの口銭は50ドル増えれば1パーセント減らす」
「待ってくれよ1400ドルだと2パーセントだけかい、28ドルでは少ないよ」
「計算してみろよ1300ドルでも4パーセントで52ドル取れるぜ」
「これは真剣に交渉しないと儲けが出ないじや無いか、まいったよこりゃ」
ゴーンさんと奥さんは寅吉の計算高さにもうあきれてしまうばかり、難しい交渉の駆け引きは人任せというのにもビックリしています。
「コタさんは気前がいいのか渋いのかよくわからん人だ」マックも根負けしてそれで承知だから交渉してみようと、ゴーンさんも助っ人に連れてウォルシュ・ホール商会まで出かけました。
岩蔵が孫三郎さんと話してみれば値引きは難しいというのですが、トマスと話しをしてみました。
交渉はもっぱらマックに任せトマスは使用人に計算させて盛んに孫三郎さんを隣りに連れて行っては内緒の話をして帰ると孫三郎さんが寅吉にどのくらいの数と値段なら買えますかと打診してきます。
此方はもう相談が出来ているので「一月に500グロス1200ドルが希望値段だ」というとマックが「仕方ない1250ドルまで出して下さいよ」と寅吉に相談するように言います。
「それで手を打ってください、月に500グロス年間契約なら1200ドルでも契約しますから、お得ですよ」
どうやらその辺りが限界らしくも無いと思うのですが、あまり値切りすぎると後で他の取引が差し控えが出るので「今回のも含めての年間契約なら承知しましょう、手付けに1000ドルのオリエンタルの手形を置いてゆきます、後でマックが正式に契約を代行するのでそのときに200ドル持参しますがそれでよいですか」
「それでよろしいですが後の支払方法はどういたします、今回はそれでよくても後は品物が来てからでは困るのですが」
「あと、13,200ドルだね」
「エッ、ちょっと待ってください」トマスと相談して「そうです両ですと9900両になりますが一括払いだと品物でサービスすると言って居りますよ」
「どちらが希望か聞いてください」
「両で払ってくれてよいそうです」
「では10日後での支払いで契約をしましょう、それでよろしいですか」
「結構でございます」
トマスと握手して外に出ると岩蔵に「千代に江戸に行くから夕方までに青木町で待つようにつないでくれ、今晩は出来るだけ江戸に近いところにいけるように七つごろには発ちたいからその時間に間に合うように支度して待つようにしてくれ」
「お供は千代あにいだけでよござんすか、私は残りますか」
「アアそうしてくれパン屋のほうは太四郎たちがやるだろうがたまには顔を出しておけよ」岩蔵が了承して千代を探しに野毛に行きました。
パン屋への道すがらゴーンさんが「マックよ、コタさんが金を先払いするとお前のところは儲けだけが入る計算じゃないのか、少しは儲けたらおごれよ」
「オオ解ったよ、でも儲け以上にたかられそうだ、それで6パーセントの手数料がもらえるのですよね、コタさん」
「オットしっかりと覚えていたか月に72ドルは悪くねえだろう、品物の預かり料といっても船から降ろして運び込むまでは向こう持ち、引き取りは此方持ち、倉庫に幾日か有るだけでの儲けとしちゃあいいだろう」
三人で大笑いしながらパン屋に行けばもう義士焼きの店には人だかりがあります。
「ナンダどうしたよ、こんなに人が集まってよ」
「ア旦那買い物に来ながらパン屋はイギリス式かフランス式か皆が聴きに集まって来てますがどっちなのですか、両方出来るとパルの親父が言いますが旦那はどうします」
「話を聞いてみようぜ」
「私は仏蘭西パンが好きです」ゴーンさんが言うのは当たり前、マックはイギリスパンがよいというのも当たり前。
「どちらも焼けますか、出来ればクロワッサンなど出来ると助かるが」
「任せなさい食パン用の型も今回の荷物の中に10個ほど、入れてきたよあと必要なものは全て買い込んできたけどその勘定を出してくれるとありがたいが」
「いいとも後でマックに請求書を出してください、詳しい話はマックとして必要なものはそろえるから」寅吉が500両準備資金に預けたものがまだ手をつけていませんので少々の出費は覚悟のうえです。
「外にいる人たちが雇ってくれるのはいつからで何人雇うのかと聞いてますがもう募集の広告でも出しましたか」
「いやまだですが、アッそうかメアリーからの口コミだ」
「女の口は戸が立てられません」ゴーンさんも奥さんたちの伝言ルートには太刀打ちできない経験が有るようです。
「浮気などしたら大変なことになるですよ」マックが笑いながらご婦人たちのほうに行き「あと10日ほどで店で働ける人を雇う予定です、とらやさんが雇い主で私のところが保証人で雇いますから日に3時間以上働ける人は2時に28番のスミス商会まで来てください、月曜から土曜日までの6日間です、給与は1日3時間で15セントです、支払いは日払いと週払いどちらでも承ります」
「それと朝はお昼の時間があります9時から12時まで働いてお茶とパンが出ます、午後は1時から4時まで働いてやはり12時からのパンとお茶の時間が有ります、それと着替えていただくために午前の人は30分早く来ていただきますがそれは時間外と為りますのでご了承ください」
「着替えは必要なのですか」
「同じ柄で色違いの服を各自2着用意いたしますので、日替わりできていただくことになります、見本の服は76番のゴーン商会に飾ってありますから見てください」
「昇給はありますの」
「もちろんです、其処にいられるコタさんという若い日本の方が両方の店の責任者です、働きの良い人ていねいな応対の出来る人、店を奇麗に保てる人には最高級の扱いをしてくれます、ア余分なことですが色目を使っても駄目ですよ、私ならクラクラとしてどうかわかりませんが昇給とは関係有りません」
きていた10人ほどの人は一斉に笑って居りますが、何を話してるかわからない人もいるようなのでゴーンさんに仏蘭西語でも説明してもらいました。
「日本語を出来るだけ覚えていただければ助かります、ここにいる二人の若者のうちどちらかが顔を日に一度は出すようになりますから日本語での話し方も勉強してください」
寅吉が英語で説明して「皆さんでパルメスさんを助けておいしいパンを焼かせてください」とお願いして散会してもらいました。
釣られてきた人たちで義士焼きも売れたようで職人達はてんてこ舞いです。
ひとつ16文は売り出した時から替わらずですが、当時の今川焼きがひとつでは口寂しいという意見をおつねさんやお文さんが言うので、大きく作ったのが高くても売れた原因でした。
大人でも普通はひとつで充分といいながらも、好きなものは二つ三つと食べるようです。
あの当時はかけそばと同じ値段で売れるかと不安でしたが、餡にもたっぷりと金をかけて売り出したのがよい結果を生んでいます。
街道筋の牡丹餅と対抗する義士焼は値段で苦労していましたが簡単に大きさが変えられない事が幸いして、売り上げは最低の店でも200個以上売り上げていて赤字を出す店の報告は今のところありません。
弁天町の記録は2600個ということでこれを超すのは容易ではないでしょう、ひとつ6文程度の儲けとはいえ日に100個売れれば二人が暮らせます義士焼きだけでなく茶も甘酒も売るというようにとりえが有るものがやる店はそれだけの売り上げを出してくれ会計を担当している由松の報告では横浜を別にしても月に弐拾両ほどが虎屋の会計に入るそうです。
横浜はとらやとして笹岡さんとお怜さんが会計をしていますがそちらでも月に十二両ずつ残るそうです、お怜さんはいまは売り上げから計算すると月に十両ほどの高給になるそうで、こんなに使い切れやしないと働く子達に色々買い与えるので慕う子が増えて居ります。
なんといっても野毛と弁天町の売上げは大きくて働くものはそれぞれ8人に増えていますが、元町の店に人が転出したり、本牧の十二天に出す店で人が必要なのでさらに増やす予定だそうです。
そちらは春がお怜さんと仕切るので、寅吉は報告を聞くそばから忘れたりして、お怜さんに呆れられています。
午後になるまで20番にいた寅吉は様子を見に、スミスに行くともう20人ほどが来ていて仕事にありつきたいという顔でこちらを見ています。
「マックよあの人たちは暮らしの助けのためなのかそれとも暇なのかよ」
「旦那の取引が旨く行かない人もいるし、暇をもてあましている人もいるのでしょう」
「もう直にメアリーが来ますからそうしたら始めましょう」
Maryが来て衣装を何着も飾り椅子を此方に3つ前に5つ並べて机の脇にもひとつ置いて其処にMaryが座ります。
「どうぞ5人ずつ入ってください」マックが声をかけて入ってきた人をまずいすに座らせます、そして右手側に座った人に声をかけて。
「此方の方からお名前と喋れる言葉をおっしゃってください。
「ハンナ(Hannah)・ブキャナン(Buchanan)です英吉利だけですが駄目でしょうか」
「そんなことはありませんよ、お年は10代か20代もしくはそれ以上かを教えてくださいな、済みませんがハンナ表に出て今のことを皆さんに伝えてく来てここに戻ってくださいね、お年が解ると困る方はハローとおっしゃってくださいというのよ」
「いいですわよ、私19になりました」
ハンナが戻る間に次々に名前を聞いて居ります。
「スジャンヌ(Suzanne)バルダン(Bardin)仏蘭西と英吉利が喋れます、20代ですのよ」
「リンダ(Linda)キャシー(Cathie)クラーク(Clark)イギリスと日本が少しだけ喋れます20代です」
「シェリル(Sheryl)シェリダン(Sheridan)ハロー、英吉利と阿蘭陀が出来るわ」
「ジュリア(Julia)キャンディ(candy)ワッサーマン(Wassermann)20代よ英吉利と日本語が少し」
最初の5人は合格ラインですが札を出して「明日番号をお店の前に張りますからこの下に名前を書いて働ける時間を書いて頂戴、午前はAM午後はPM両方働きたい人はALLと書いてから、置いていってくださいね、此方のほうは持っていってね、私の家のドレスや服の割引が出来る券だからお店に来てね」二つとも同じ番号が書いてある紙を配り商売っ気も有るメアリーです。
15人の面接が終わり、印がして有る者の付きあわせをすると、最初の5人は合格「やはり早くから来るというのは意欲が有る証拠よ、事情はどうあれその気持ちが大切なのよ」メアリーはよく気が付く奥さんです、ゴーンさんもこの調子で働かされていることでしょう、何事もよく気が廻り働き者で近所の評判もよいというゴーン夫人です。
「Wassermannさんはご主人も知っているけど社交好きのよい人たちよ、ただ最近入る予定の船が来ないので心配よ、だから少しでも稼ごうという事に為ったんじないの」
「一日働く人がこれで決まればあとは午前の希望から二人と午後の人が二人ね」
だんだん評価を下して全部で五人の人を雇うことにしました。
「服はメアリーさんが採寸して作ってくださいよ、後は言葉遣いなどあなたのところで暫く面倒を見てくれませんか、それと後の人の中で元町に売店を開くからそちらに来てもいという人を見つけてくれませんかね」
「じゃこうしない、落ちた人の中に有望な人が3人いるから、その人たちに連絡をつけて元町を見に行かせてよければ働かせてあげてよ」
「いいですね、それの引率も頼めますか」
「あらあら、それじゃあたしも雇ってもらわなくちゃいけませんわね」
いつの間にか顧問になってしまったのと同じメアリーですが、服が売れるのが楽しいので店を広げようかと考えているメアリーは自分でも雇う人間を物色しています。
「此方で雇った中で裁縫が出来る人は家でも働いてもらおうかな、そうすれば多くの人が働く場が出来るけど、いろんな国の技術がここでは学ぶ事ができてよい刺激なのよ」
「もちろんですともあなたの店なら手間賃も稼がせて上げられるのでしょう」
「まさかそんなに出せやしないわよ、sens(sense/sinn)の有る人には出してあげたいけどそれだけは売れないことにはどうにもできないわよ」
寅吉はメアリーを送りその足で波止場に行くと青木町に行く船を捕まえて乗り込みました。
着替えて待つまもなく千代が仕度をして現れたのですぐに江戸に向かいました。
「岩蔵に聞きましたが金の算段ですか」
「そうだよ俺の金は有るが今回は淀屋さんと鶴屋さんにも片棒を担いでもらうのさ」
「それで金を出してもらったらその足でまた逆戻りだよ、出来れば品川まで入るから気張って歩こうぜ」
時計を見れば5時半、ここから品川までは五里近くありますが急いで歩けば八つに為らないうちに入れそうです。
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