岡村雄輔論 幻想・奇想の本格派

岡村雄輔は太平洋戦争後の昭和24年(1949)雑誌「宝石」の新人コンクールへの応募をきっかけにして作家デビューして、主に「宝石」誌上に作品を発表した。
昭和37年(1962)に小説の発表が途切れた、昭和53年(1978)に雑誌「幻影城」に長編「青鷺はなぜ羽搏くか」が再録されて同時にエッセイ「推理小説25年の思い出」が書かれたが新作の発表はなかった。
このエッセイの内容に下記がある。
「処女作は「紅鱒館の惨劇」で、その前に2篇ある、「廻廊を歩く女」がその1作」
「廻廊を歩く女」は北京を舞台に秋水魚太郎と金警部が登場する、それと同じ舞台の「黄薔薇殺人事件」が書かれて、その後に「紅鱒館の惨劇」になるのが時系列なのだろう、ここから日本が舞台になる。
それ以降の作品も「短期連続発表・後の発表作が先の作で言及される」事があり、原稿が先又は併行して書かれていた?と思われる。

岡村作品には、秋水魚太郎と熊座警部補が多く登場するし、他の作品の事件を言及する事もあるが、個々の内容に継続が弱い事があり、あまり意識せずに読むのが無難だ。

秋水魚太郎と熊座警部補登場作を見る。

・紅鱒館の惨劇>長野
・盲目が来りて笛を吹く>ニコライ堂・銀座
・うるっぷ草の秘密>信州・安曇野の北隅・白馬館>山岳・真木のり子(2)
 「杢詩幻想殺人事件」=「廻廊を歩く女」・「曳舟千絵殺し」=「盲目が来りて笛を吹く」・「ユダの娘事件」=「ミデアンの井戸の七人の娘」
・ミデアンの井戸の七人の娘>幻想・奇想・怪奇>トリックは現実的>人工的な反現実
 真木のり子(1)>東京
・廻廊を歩く女>北京・金警部
・夜毎に父と逢ふ女>東京の北・M区
・黄薔薇殺人事件>北京・熊座警部補=領事館警察・金刑事
・青鷺はなぜ羽搏くか>佃島
・盲魚荘事件>東京・貝塚魚絵(1)
・幻女殺人事件>大井川上流
・通り魔>東京
・ビーバーを捕えろ>東京・貝塚魚絵(2)

小説の舞台は下記だ
1:北京
2:東京
3:長野・静岡山梨
4:その他
秋水魚太郎はともかく、刑事の熊座警部補の担当が広いのは何故だか不明だ。

あるいは、
あ:紅鱒館の惨劇>加里岬の踊子:秋水魚太郎が中心で熊座警部補が脇役
い:斜陽の小径>熊座警部補が単独で登場作が主流
う:秋水・熊座ともに探偵役とならない作
の分け方もある。

上記の事を見ると、シリーズ探偵色は薄いと言える。
それは、事件とストーリーが先にある事であり、同時に作品が定まった形を持たない、とも言えるだろう。
秋水魚太郎と熊座警部補と言う探偵役を固定している形になっているし、初の単独著書の「岡村雄輔探偵小説選1・2」の2冊は秋水魚太郎と熊座警部補というレギュラー2人の登場作を集めた編集である事からも、探偵役での分類は岡村作品を語る場合の1つの内容でもある。

だが実際の小説上での扱われかたは、意味は曖昧・薄い・記号的と言える。
岡村作品の小説ではレギュラー以外の登場人物に記号的人物がいるという特徴がある、それも重要な人物の事もあるのだ、その理由が何故かと言う事は謎だ。
趣向なのか、気にとめていないのか????。
そして、秋水魚太郎と熊座警部補と言う探偵役のレギュラー2人での、レギュラー探偵役とも言いにくい事情がある、何故ならば謎を解くと言う小説上の探偵役として登場していないからだ。

作品数的に多くは無い岡村作品をまとめて表現したい考えはあるのだが、それを作風の変化が顕著という見方がある、あるいは単に作品内容が多彩との見方もある。
「ミデアンの井戸の七人の娘」
「暗い海白い花」
そして後期作品群
を例と言える。

リアルな方向性への指向と、社会生活への関心が有りそうだが、1960頃以降の社会派とも比較しては違う、動機や背景設定の社会生活との係わりは小説であれば当然であり、パーツに注目しすぎても全体の俯瞰では方向性は混乱する。

いくつかの作品は、自然を描きその中での事件を扱う、だがのちの旅情ミステリと呼ばれるミステリ群とも異なる、必要以上に旅や観光や歴史を描く事はない、小説の舞台以上の意味は持たせず、方向性は異なる。

如何にも定型に見える小説の外観の中に、それからどこかが外れたストーリー展開を行うという予想を覆す内容がある、それは不満だと感じる面でもあるが、別の見方ではミステリ本来の読者の先読みを裏切って行く展開でもある。
読者にはストレスと、サプライズと、騙される不思議な感覚が同居する。
(2019/08/05)


作品リスト(2019/08)

著書

岡村雄輔探偵小説選 作品集 201603
 「紅鱒館の惨劇・盲目が来りて笛を吹く・うるっぷ草の秘密
  ・ミデアンの井戸の七人の娘・廻廊を歩く女
  ・夜毎に父と逢ふ女・加里岬の踊子」
岡村雄輔探偵小説選2 作品集 201606
 「王座よさらば・斜陽の小径・黄薔薇殺人事件・盲魚荘事件
  ・幻女殺人事件・通り魔・ビーバーを捕えろ」
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初出

未読 %

紅鱒館の惨劇 194904
盲目が来りて笛を吹く 194907
うるっぷ草の秘密 194908
ミデアンの井戸の七人の娘 中編 194910
廻廊を歩く女 194911
夜毎に父と逢ふ女 194912
王座よさらば 195004
加里岬の踊子 長編 195006 >「加里岬の踊り子」1961
逢いびきの部屋 195008 %
暗い海白い花 195101
斜陽の小径 195106
入江の悲劇 1951 %
黄薔薇殺人事件 195201
青鷺はなぜ羽搏くか 長編 195207
盲魚荘事件 中編 195401
幻女殺人事件 長編 195408-09
病院横町の首縊りの家 合作・競作 1954
鎌鼬 1955 %
通り魔 195701
ビーバーを捕えろ 195705
眠りチャンピオン 1957 %
殺人セレナーデ 1957 %
火星夫人の耳飾 1958 %
追いつめられた女 1958 %
樹上の海女 1962 %

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