石沢英太郎論・九州の短編名手

石沢英太郎は、1916年生まれで幼少は中国大連市育ちで、1988年死去まで福岡で作家活動した。
デビュー作「つるばあ」が大連を舞台にしている事で言及されるが、全作品では多くが九州・福岡を背景に描かれる事が多く、活動時(1963-1988)ではまだ多くなかった地方在住作家として言及される事も多い。
作家活動期の昭和40年から昭和の終わり頃は、日本のミステリ界は社会派の台頭を始め、ハードボイルドや冒険小説やスパイ小説やSF小説の登場・普及が目立ち、そして推移して1980年頃からの新本格と呼ばれる作品群の登場も含め、拡大と変化の時代だった。
その中でがちがちの謎解き本格では無いが、本格小説を書き続け長編数は多くないが短編の名手と言われた作者は、作品の質の安定と題材の豊富さなどから地味だがオーソドックな本格作家として知られた。
長編が少なくかつ代表作として取りあげる作品が確定せず、複数の短編がアンソロジーに採られる状態の為に、死後は活動期ほどには取りあげる事は少ないと思える。
この現象は一部を除く殆どの作家に当てはまるのが現状だ。

数多い短編から代表作を選ぶのも不可能に近い作業だが、そこは安易かも知れないが短編集の表題作やアンソロジーや日本推理作家協会賞受賞作を取りあげるのが無難だろう。
全体の傾向からは、次第にミステリ・マニアに読み継がれる作家になって行くと予想される、単行本化作は多く稀覯本も無いが古書で全ての作品を読むことは次第に難しくなって行くと予想されるだろうから。

作品の構成にも興味を示し、「21人の視点」では全ての章が1人称の視点で書かれているただし3人称でも良い部分もあえて書いているので趣向と言える、「死の輪舞」は輪舞形式(エピソードを繋いで行く形式で、エピソード間に何かの接点がある)に取り組んだ、それぞれテーマより構成に注目が行くのは結果として成否が微妙になった。
キャラクター的には、牟田刑事官が複数回登場し、映像化され最後はキャラクターだけが一人歩きをした、主に短編に登場し当人以外は詳しく描かれていないが、映像化で周囲が加える・変更するのは普通に行われる事だ。
また「カーラリー殺人事件」の盲人ナビゲーターの探偵役は、話題として取りあげられる事が多い。

短編でも、特定の人物の視点で描く事も多く、その視点を謎の設定と解明に使用する事も多い、例えば視点から見たある人物の性格や行動が、話しの展開とともに違った見方に変わって行き、それが謎の解明に繋がる方法は短編では効果的になる事が多い。

作者は多岐のテーマ・背景に取り組んでいる。
興味のあったと思われるテーマとして例えば
・歴史
・焼き物
・九州を主体の紀行(沖縄から対馬まで範囲は広い)
・九州の風土と生物・文化
・映画・映像
・日常生活から発生する事件
等が上げられる。
一般的には地味なテーマも多く、テーマを描きそれに関わる事件や謎を描くと事が増える、その小説でのバランスが重要になるがそれに関する作者の評価は高い。
ただ、内容的に地味とか堅実とかの評価を大きく変える事は、逆に難しかった、短編の名手と呼ばれる作家には、どこかに似た所がありそうだ。
印象としては、この作者にとっては日常の生活や興味あるもの全てが、作品の素材になるのではないかとさえ思える事だ。
あくまでもフィクション・小説であるが、作り物である事を忘れさせる素材の多様性と深堀と完成度を感じさせる。
作り物の面白さを表に出す作家もいるしそれを言及する評論家もいるが、作り物である事を感じさせない作品群を提供する作家もいる事を知らされる。

流石に短編から代表作を選ぶのは個人の好みが入るので難しい。
アンソロジーに採られた作も指標化もしれないが、テーマ別が多いとやや意味合いが異なる。
昭和50年代にエラリー・クィーン(ダネイ)が来日し、日本の作品を英訳してクィーンの紹介で日本傑作推理12選とする試みがあった。
第1・2集は文化の影響を避ける選考だったが、3集以降はやや大胆な選考になった。
第1・2集共に選ばれた作家は、松本清張・夏樹静子・佐野洋・笹沢佐保・西村京太郎と石沢英太郎だ、当時の代表的な短編作家だったのだろう。
石沢英太郎は
「噂を集め過ぎた男」:会社の部署の影響もあって社内の噂が集まる男の話し。
「五島・福江行」:都会で事件を起こした(巻き込まれた)男女が逃避行で五島列島に逃げてくる話し。
日本推理作家協会受賞作の「視線」:強盗が入った時にある人物の視線が気になる発端の話し。
処女作「つるばあ」:舞台は大連で、つるばあは現地語で煙突。日本帰国を待つ人の間で事件が起きる。
他にもアンソロジーに載った作品は多い。

長編は、背景を連想出来る題名が多いが、勿論細部は色々展開する、若干言及する。
「唐三彩の謎」>唐三彩とは中国の陶器で焼き物テーマだ。
「橋は死の匂い」>天草周辺の橋建設で事件が起きる、九州ものだ。
「南海幻想」>沖縄の南に大潮の時に年に1度姿を現す・八重干瀬がテーマだ。
「少数派」>未読だが、同性愛がテーマとされている。


参考作品リスト
(注:書誌的な正確さは未確認で、読んだテキストも初出と文庫版が混ざっている。没後出版も含む。)
%:未読
*:牟田刑事官シリーズ>短編に記載


謀鬼 私説 黒田騒動 1970 短編集1
唐三彩の謎 1973 長編1
カーラリー殺人事件 1973 長編2
橋は死の匂い 1974 長編3
やきもの推理行 1976 エッセイ・紀行
五島・福江行 1977.8 短編集2
視線 1977.9 短編集3
ブルー・フィルム殺人事件 1977.8 短編集4
羊歯行・乱蝶ほか 1978.8 短編集5
21人の視点 1978.9 長編4
牟田刑事官事件簿 1978.12 短編集6
秘画殺人事件 1979.3 長編5
殺人日記 1979.7 短編集7
死の輪舞 1980.11 長編6
空間密室 1981.6 短編集8 %
退職刑事官 1981.4 短編集9
ヒッチコック殺人事件 1982.8 短編集10
九州殺人行 「博多どんたく」の謎  1982.11 長編7
噂を集め過ぎた男 1983.1 短編集11
殺意の断面図 1984.12 短編集12 %
南海幻想 1984.9 長編8
博多殺人案内 1985.12 短編集13 %
博多殺人行 1985.2 短編集14 %
博多殺人風景 1985.6 短編集15
映画主題歌殺人事件 1986.2 長編9
福岡・博多殺人模様 1986.5 短編集16
中洲ネオン街殺人事件 1986.8 長編10
ゴルフツアー殺人事件 1986.9 長編11
博多歓楽街殺人事件 1987.5 短編集17
少数派 1987.4 長編12
太宰府天満宮殺人事件 1988.4 短編集18 %
さらば大連 1988.8 短編集19
刑事官殺人ファイル 1988.8 短編集20
九州推理紀行 1989.3 短編集21
狙われた部屋 1989.10 短編集22


短編集及び収録作

・1「謀鬼」:1970>197904
謀鬼
秘画 ー写楽の謎
沖田総司を研究する女

・2「緑の炎」:1977>198110
緑の炎
123
五島・福江行
求菩提行
血・その系譜
貨泉
「西郷隆盛」殺人事件

・3「視線」:1977>198111
視線
その犬の名はリリー
五十五歳の生理
アドニスの花
ガラスの家
一本の藁
ある完全犯罪

・4「ブルー・フィルム殺人事件」:197708
天満宮殺人事件
浮かされた男
ブルー・フィルム殺人事件
ちゃんちきおけさ
秘境殺人事件

・5「羊歯行、乱蝶ほか」:197808
羊歯行
乱蝶
カラーテレビ殺人事件
キタタキ絶滅
鬼哭
傍観者

・6「牟田刑事官事件簿」:1978>198212
予断 *
採決質問 *
警官と性 *
密告 *
師走の「ナポレオン」 *
牟田刑事官最後の事件 *

・7「殺人日記」:197907
殺人日記
食い逃げ
貸借対照表
献本
惜蘭譜
古九谷乱れ窯
もとより放蕩無頼の徒
つるばあ

  

・9「犯罪調書」:1981>198503
自首調書 *
検視調書
押収品目録
送致書 *
捜査関係事項照会書 *
証拠金品総目録
領置調書 *

・10「ヒッチコック殺人事件」:198208
ヒッチコック殺人事件
格言
月触殺人事件
三角関係
ドンファンの周辺
黒いペンダント
凶器

・11「噂を集めすぎた男」:198301
噂を集めすぎた男
仁王幻想
殺意の瞬間
愛情比例の原則
ゴルフ場殺人事件
殺意の絆
香港野郎

  

・15「博多殺人風景」:198506
中洲に帰ってきた男
博多・中洲・クラブ殺人事件
沈黙は・・・
祭りの夜
追跡旅行
孤独の淫
家計簿
英会話殺人事件

・16「福岡・博多殺人模様:198605
福岡・舞鶴公園殺人事件 *
福岡・親不孝通り殺人事件 *
殺人二重奏
宝石殺人事件
孔雀が羽を開くとき

・17「博多歓楽街殺人事件:198705
テレクラ殺人事件 *
耶馬渓殺人慕情
春画秋冬
王将
沖縄・宮古行
「105号事件」考

  

・19「さらば大連」:198808
つるばあ
男色
国旗
競う
不思議に生命ながらえて
賃金について
九連宝燈

・20「刑事官殺人ファイル:198808
スイミング・クラブ殺人事件 *
刑事官と不倫事件 *
刑事官と幽霊 *
事件の背景 *
過熱

・21「九州推理紀行」:198903
失意の断崖
抹殺
接点
ベレッタ25口径
ポストの前で
若い悪魔たち
古伊万里乱れ窯

・22「狙われた部屋」:198910
神妙な悪戯
狙われた部屋
幻のホクロの女
死体が?
宝石と女
憎悪の屈折
背徳者
レズビアン殺人行

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