司凍季論 2人の探偵小説作家との出会い

2017年は、綾辻行人作「十角館の殺人」発表後30年経過して、新本格30年だとされた。
元々が出版社の新書レーベルとリンクして登場した企画だが、複数の作家が登場しかつ多くの読者に迎えられた事で一分野として認識された。

その中では、それ以前のミステリ小説を「松本清張の前の探偵小説」「松本清張以降の社会派」に分けると言う強引さがあり、そこに「新本格」の分類を加えた議論を行った。

小説は単純では無くその分類は意味は無いとも言えるのだが、本を買う・読む事は内容を知ってからではなく、タイトル・作者・紹介文・書評等で判断する事になる。
それ故に分野分け・グループ分け・紹介及び推薦等は、読書にとって・本を選ぶ事にとっては実は大きな比重となる。

昭和50年付近からの「横溝正史ブーム」は横溝作品の復刊ラッシュの終了と、作者の死で沈静した。
それ以降も他の作家と比較しての圧倒的な愛読者数と人気は続いているし、作者の名前をつけた「横溝正史賞」も継続している。
愛読者が好きなミステリ小説を書いてみる事はしばしば見られるし、その小説が「横溝正史」だと言う事も多く、「松本清張の前の探偵小説」の中に「横溝正史」の作品群を含める。
そこでは「新本格」とグループ分けした作者と「横溝正史」との関連を探す事もある。

司凍季はデビュー作から「横溝正史」の小説世界への係わりが言われ、読者も同様に受け止めた、書き下ろしアンソロジー「奇想の復活」にデビュー間近な時に収録された事でその位置付けは固定された感があった。

司凍季の作品では、ドキュメンタリー小説の「椰子の血」以外では、学園物「学園街の「幽霊」殺人事件」と、SF設定のホラー味が強い「屍蝶の沼」と、叙述と奇妙な味が滲む「毒のある果実」が外観からでも他の作品群と別けられる。
発表時期の後期にあたるものはあまり語られていなく読者の捕らえ方は不明である、初期の「毒のある果実」に付いても語られる事が少ないようだ。
他の作品群と呼んでも、実は初期の作品特にデビュー作と一尺屋遙シリーズであり4冊だ。

横溝正史を含めた探偵小説では「ワトソン役の視点で探偵を描く」か「小説記述者が探偵を描く」のが主流のスタイルだ、そして「ワトソン役が小説記述者でありその視点で描く」スタイルも含まれる。
司凍季の一尺屋遙シリーズでは、名探偵役の一尺屋遙の探偵作業を、記述者の作家の私が書くというスタイルを取るが、記述者は固定されていない。
日本のミステリーでは名探偵が登場する作品は、ディクスン・カーとクィーンとのどちらに近いかと分けられる傾向がある、横溝正史は典型的なディクスン・カー風の作品であり、ディクスン・カー風が横溝正史の世界と呼ばれる事にもなっている。

デビュー作「からくり時計は五度笑う」で、前半の1部の視点の依井は友人・一尺屋に「『奇想、天を動かす』と私」という文を送るその中で「社会派推理」と「本格ミステリー」から「社会派ミステリー」は「本格ミステリー」の一部で「社会派推理」と別だと述べて思い入れを語る。
その『奇想、天を動かす』の作者の島田荘司が「薦」として「情報を扱う綾辻行人に対して、日本伝統のアナログ的な作家」を論じて、そこに司凍季を加えた。
(司凍季のデビュー前と、デビューのきっかけと島田荘司の読書体験を書かれた事がある)
そして「その描く物語を横溝正史がよみがえった」と称した、その対象は「からくり時計は五度笑う」であり、司凍季のその後の作品全体を述べてはいない。

前にも書いたがデビュー作「からくり時計は五度笑う」と似た世界は4作であり、本格ミステリーでかつ一尺屋シリーズの作でも「湯布院の奇妙な下宿屋」と「悪魔の水槽密室」と「学園街の「幽霊」殺人事件」は異質だ。
そして「毒のある果実」は全く異なり、竜崎幸シリーズは軽いサスペンスで、「屍蝶の沼」はSFとホラーの融合だ。

横溝正史の世界と明確に言えるものは4/12であり、それに近い広義の本格としては残りの一尺屋シリーズの作と「毒のある果実」になり、他は本格ミステリーでもいない。
「さかさ髑髏は三度唄う」の作者の言葉を信じるならば、一尺屋遙シリーズも複数書く予定でなかったと思える。

全作品を見ると島田荘司が述べた横溝正史がよみがえった世界は、司凍季の偶然的な「横溝正史」と「島田荘司」との出会いからだったと言えるし、司凍季は広いジャンルに興味がありそれを書く意欲があったが、デビュー作で横溝正史と語られる事になったようだ。
そして代表作と言われる事が多い「湯布院の奇妙な下宿屋」によって、本格ミステリー作家だと記憶されたと思う。


作品リスト(2018/01)

一尺屋遙シリーズ a
竜崎幸シリーズ b


からくり人形は五度笑う 長編 199109 a
蛇つかいの悦楽 長編 199205 a >蛇遣い座の殺人
首なし人魚殺人事件 長編 199301 >首なし人魚伝説殺人事件
毒のある果実 長編 199308
さかさ髑髏は三度唄う 長編 199310 a
女探偵(ウーマン・アイ)・心臓を抉る恋 長編 199406 b
湯布院の奇妙な下宿屋 長編 199501 a
女探偵(ウーマン・アイ)・幽霊殺人事件 長編 199505 b
悪魔の水槽密室―「金子みすゞ」殺人事件 長編 199608 a
屍蝶の沼 長編 199805
学園街の「幽霊」殺人事件 長編 199812 (a)
椰子の血――フィリピン・ダバオへ渡った日本人移民の栄華と落陽
 長編 201311 <地獄螢

アンソロジー収録短編

頸折れ人形考 「ミステリーの愉しみ5 奇想の復活」 199208 収録
亡霊航路 「本格推理2 奇想の冒険者たち」 199310 収録

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