藤原伊織論・書くより読みたい
藤原伊織(1948/02-2007/05)が小説を書き始めたのは若い時からとされていますが、公募文学賞応募で最終選考位までともされています、とは言っても探偵小説と言う言葉とは、当時も作家時代も縁が無かった様に思います。
単行本としては、すばる文学賞受賞作を含む作品集・「ダックスフントのワープ」1985年からで、その内容はジャンル分類を拒否した様な所があります、後からならばいくらでも、もっともらしく言えますが新人作家がその先に何を書くのか不明では、評論家もうかつに言わないです。
その後、作品が途絶え・・となりますが、ずっと後の作者のエッセイによると、注文が来ても面倒で書かなかったらしいです。
本人も賞の選考員も周辺も、ギャンブル好きで気が向けば賞金狙いで書いて応募するというライフスタイルと書いている、如何にも無頼派的で作ったプロフィール的ですが、それを直接否定するものもなく、作品発表ペースも合っているので信じてしまいましょう。
出版本の作者の言葉によると、良質の小説を読むのが好きとは感じますが、どこにも書くのが好きとはなっていません。
江戸川乱歩賞は、最初は本格推理小説の賞で時代によってスタイルは変貌しましたが、本格ミステリーという部分は保たれて来まし、それが1980年代頃から次第に広く解釈され、広義の推理小説が対象と受け止められる様になり、選考委員は絶えず応募作の幾つかが応募対象内かどうかから議論する事になりました。
例えば、スパイ小説・ドキュメンタリー小説・シュミレーション・アクション・等で、ハードボイルド小説は既に受け入れる体制になっていたと言えるでしょう。
逆に、その傾向の逆の最初は先祖帰りとも言われた新本格と呼ばれた小説群が登場する時期でもありました。
藤原伊織が、江戸川乱歩賞に応募したのは広義の推理小説に広がった事がありますが、ドラマ化を含めた賞金額の高騰が理由だったという説も信じておきましょう。
それ故に、狭い推理小説的だけで見ると特別に優れたとは言えないですが、テロリストが主人公のハードボイルド小説として登場人物の選定と描き方と、文章と小説構成の良さは他の応募作を圧倒した結果になりました。
結果的に後続作を含めて、藤原伊織の作品はドラマ化・映像化に向いていました。
江戸川乱歩賞を受賞すると直ぐに受賞第1作の注文が来て如何に対応するかが、その後の作家生活にも影響するのですが、次の受賞第1作の発表の遅さが目立ちます。
作者は、せいぜい2-3年に1作位が理想と後で述べていますが、その間に直木賞受賞が起きました。
直木賞は新人賞と言うよりも安定した中堅作家も含む賞ですので、江戸川乱歩賞作品は候補になっても受賞したのは、2013年まででは「テロリストのパラソル」のみです。
直木賞は推理小説ファンには評判は良くないが、推理小説要素ではなく大衆文学全般が対象で小説としての出来を選考します。
あっさり言えば、推理要素の独創性や希薄等は評価外なのでしょう。
ただ、初長編が受賞する事は珍しいです、作者を信頼するものがあったのでしょう。
直木賞は江戸川乱歩賞以上に、受賞第1作を求められますが結果的に寡作かは変わらなかったです、ただ直木賞を受賞していないともっと寡作か作品が途切れた可能性があると言われるとそうかと思える所もあります。
同時に、直木賞受賞によってその後の作品全体の推理要素の希薄さ方向に向かったとも言えるし、広義の推理小説を書き続けられたとも言えます。
何事もプラスとマイナスの考え方があります。
結果的に短い作家生活に寡作で数作長編と、僅かの作品集をのこしました。
そして、そのジャンルはバラバラとも広いとも言えます。
推理要素は少なく、ジャンルも広い寡作作家が読まれるには、どこかに理由・共通項があるでしょう。
それは、作者が自分が読みたいものを書く姿勢、あるいは多くの作品に含まれる読みやすさ=たぶん全体を覆うユーモア、そして狭いジャンルに閉じ込められなかった自由さ、ではないかと思います。
読者が再読を望む作者・作品は何かの一つの答えが、藤原伊織作品でないかと考えます。広告代理店勤務の知識は、「シリウスの道」に強いが他はそれほどでも、ただ好奇心の強い生活の先の作家生活と作品だろうと思います。
現実は小説執筆は楽しみではなく仕事ですが、読者に作者が自身が読みたいものを書いたと思わせる事は、余裕を感じさせます。
参考
(書誌的な正確さはありません。
ダックスフントのワープ :198512:作品集
テロリストのパラソル :199509:長編1
ひまわりの祝祭 :199706:長編2
雪が降る :199806:作品集
てのひらの闇 :199910:長編3
蚊トンボ白髭の冒険 :200204:長編4
シリウスの道 :200504:長編5
遊技 :200707:作品集
名残り火 てのひらの闇2:200709:長編6
ダナエ :200905:作品集