高木彬光

戦後派の推理小説作家の中で、作品量・質、多方面の新開拓等で大きな存在を持つ作家。
乱歩・正史は死して賞を残し、高木はファンクラブを残した と言われる、神津恭介ファンクラブの会報の掲載文です。
全国大会報告は、クイズ形式で書いたので取り上げたが、内輪の人間しか分からない内容が多いので雰囲気だけでも、感じ取って下さい。

第21回神津恭介ファンクラブ軽井沢大会報告(1997/6/14)

<注>この報告は推理ゲームになっています。但し正解しても商品はなし。
多数はフェアですが、一部推理不可能な問題もあります。この判断もあなたの推理で判断してください。2日目の報告に答えが載る可能性 もあります。回答発表はもしも要望が多ければ、会報に載る可能性もありますが、たぶん無いでしょう

1,日時:1997年6月14日(土) 17時
2.場所:軽井沢光文荘
3.参加者:(敬称略、?順)
TK(男)、MF(男)、KF(男)、KN(男)、HK(男)、SK(男) CK(女)、MK(女)、TI(男)、TE(女)、YY(男)、YS(女)、 TH(男)、MI(男)、田原宏
今年、入会したばかりの私は勿論初参加です。実家は兵庫県西宮、現住所は三重県亀山です。軽井沢へは2ルートあり迷っていると、上野から一部は 一緒に行くとの連絡が来て往きの東京廻りを決めました。
この大会参加が、今週の重大ニュースの筈でしたが、私が高校2年の時、同じ将棋道場に来た小学2年生谷川浩司さんが、永世名人の資格を得るという、私の生涯でもた ぶん1回しか起こらない出来事がありこちらに重大ニュースが移ってしまいました。
朝7時に家を出て、11時に上野に着くと特に迷いもせずに集合場所にたどり着き12時発の「あさま」で軽井沢へ出発となりました。すぐに貰った 会報30号、だが少し変です。すかさずTH(男)さんより分冊をいただいて納得。
{問題1:1ページは奥付け、さてもう1ページはどれでしょうか?}
7名がいろいろ話をしていると直ぐに14時に軽井沢到着となりました。TH(男)さんからくばられた聖華にびっくり、ついでに横溝正史の新刊短編集を いただき感謝。また、青森の展示会の写真を見せてもらいました。報告記は会報にありますが、写真を見るのは出席者の特権です。
軽井沢では、3次会の買い物後、古本屋へ直行しました。本はほとんど整理されずに山積状態、ほおっておくと1日ぐらい直ぐに過ぎるような所です。 時間的に30分強しかなく充分に見られません。未整理で荷ほどきもされていない本を強引に広げてしまうとは正にマニュアと感心します。私は京都在 住の有名推理作家2名連記の色紙と本1冊のみ購入しました。時間切れです。
店主はこの女性は亡くなったので色紙の値段が上がったと言っていました。
{問題2:2人の推理作家とは誰でしょうか?}
そのまま、光文荘に行き、会報の発行を行い、全員が集まるのを待ち開会となりました。事務局報告ではある評論家が10年分会費を納入したので、 今年は会報の発行は財政的に問題は無いだろうとの事でした。YY(男)氏自身は10冊以上のアンソロジーの仕事が入っており大変に忙しいとのことです。 古い日本作家をアンソロジーたよりに読んできた私には朗報です、しかし内容的にだぶりが出ざるを得ないとの事で残念です。
自己紹介・近況報告は私の左の司会のTK(男)氏からはじまり、会の伝統により、後半の司会者のMI(男)氏を経て私で終わりました。HK(男)氏は 海野読本の完成間近とのことで期待しましょう、ページは幾分多くなるとの事です。
「彼」は、時間が無く奥さんに「死神の座」を読ませて内容を言わせて思い出したとの事、編集長は出張の関係で次の会報は少し遅れるとの事、「彼女」と 彼女は青森の報告を行う。場内写真禁止だったが、YY(男)氏の顔で許可して貰ったとか。そう、会は司会者が代わり2部にはいっています。とは言っても 夜の予定と、明日の予定と、次回地方大会の予定だけです。
次回は「死を開く扉」福井・小浜大会を中心に進める予定となった。伝統で地方大会は東西交互との事です。編集長は西ばかりと言い、事務局は名古 屋を中心に見るとの事です。東西に細長い福井の若狭は一応は西に入るのであろうか。
セルフサービスの食事を終え、2次会の所まで歩いて移動する。会報は翌日万平ホテル近くで投かん予定です。袋も記念にしましょう。途中、ある物 を見つけ記念写真を撮ろうとの意見もあったが、まだ人どおりも多く、変に見られる可能性大の為、2次会後の帰りに記念写真を撮りました。
{問題3:普通は絶対に写真を撮らない看板に何が有ったのでしょうか?}
2次会はビールで乾杯してから自由に歓談しました。「彼女」は神津賞の作品を読み選評のせいで騙されたと言いすぐに彼女に廻したとの事、翌日浅 見光彦クラブ会員の「彼女」は活躍する。「彼」は幻影城で「幻の作家を求めて」を申し込んだが会社がつぶれて廃刊になったと言う、私も全く同じで あり偶然はあるものです。「彼」は絶えず注意を怠らず話に熱中できない所もありました。
21時、宿に戻り3次会がはじまります。話題はつきず、質問すると誰かから答えが返り、まるで生きた推理小説辞典集団のごとしです。話題の一つ に「YYノベルス」があります。昭和30年以前で出版されていない作家の作品集を簡易装丁で出すアイデア。5巻1シリーズで15巻のラインアップ はほぼ固まったが肝心の予定は全く不明です。次第に人数が減り、いつしか、私も眠りにつき、初日はおわります。
{問題4:「彼女」とは誰でしょうか?}
{問題5:「彼」とはだれでしょうか?}
{問題6:参加者欄は記憶違いを除き、ある順です、何順でしょうか?}
{問題7:私、田原の年齢を誤差1年で推定下さい。}
{問題8:本文には1ヶ所、フィクションが有ります。どこでしょう。?}
{問題9:YYノベルスの5巻の予定作者を推定下さい。}
{問題10:光文荘独自の特徴をヒントなしで推察して下さい。}
{問題11:10年会費を納入した評論家は誰でしょうか?辻真先氏に犯人
にされた事があります。}

注:これはミステリーファンクラブの大会の報告記です。
高木彬光氏には、名作「誘拐」があります。この作品のモチーフは「彼」です。ある場面では登場人物の名前が、伏せられているのです。彼ではなく「彼」 ですので固有人名です。
それも含めて、問題形式で私は書きました。当然、内輪ネタがあり、部外者には解けない問題があります。
従って、問題1、3、8、9は省きます。また推理小説に詳しくない人は、問題2,10、11も省きます。 ついでに将棋に詳しくない人は、問題7も省きます。
さて、いくつ答えが分かるでしょうか。

1994年軽井沢大会報告記 の解答
1:会報の誤植に関する話題です。除外。
2:推理小説ファンならば分かります。西村京太郎氏と山村美沙氏です。
3:「神津」の看板ですが、内輪ねたです。除外。
4:TE(女)さんです。
5:SK(男)さんです。
6:自己紹介順です。  4,5,6は注意して読めば分かります。
7:谷川浩司第十七世名人有資格者の年齢を知っておれば、年齢差から分かります。私が10歳程度年上です。
8:これも内輪ネタです。ホテルのポストが古い丸型のために投函できませんでした。翌日東京方面で出していますので消印を見たら分かります。
9:著作権の切れている作家です。やや、内輪ネタです。
10:カッパノベルスで有名な光文社の別荘ですので、当然本です。
11:東京創元社刊「合本・青春殺人事件」を読んだ人は分かります。読んでない人は内輪ネタです。新保氏(評論家)です。

高木彬光:1999年の「死を開く扉」

社会派全盛期直前・高木彬光の広い分野への進出の時期に書かれた作品であり、多くの代表作を持つ作者にとり、後の時代での新評価を期待しにくい面は否定できない。
島田荘司・綾辻行人以降の新本格と言われる作品群、現在の定義なきミステリの拡大。はじめてミステリに接する読者が最近の作品から読み始めている時に、もし「死を開く扉」を読めばどの様に受け止めるかを考える事は1999年時点での作品論になると思う。
或る時期機械トリックが否定されたが、現在は誰も全く気にせずトリックに使っている。偶然についても非現実的と、以前は言われたが現在はあまり気にすると読む本が無くなる心配が必要である。合理的解決を宣言する本もあるが、実践は難しい様である。最近の探偵役はひどく気まぐれであったりし、再三呼ばれても手紙でヒントを送ってきて姿さえ見せない事も或る。発端に意外性が有ることを良しとするが、手法は新しいとは言えない事も多く使用されている。神秘的内容や4次元なども、魅力的である。
定義がないぐらいと言いながら簡単にまとめすぎだが実は筆者の都合のよい面を集めている。すべて「死を開く扉」に対する評価と重なるものである。発表時及び、後に問題とされた内容である。第1の事件の機械トリックと現実性・偶然性、4次元に開く扉のミスデイレクション、松下研三に呼ばれても手紙の返事だけで最後にならないと姿をみせて事件を解決しない神津恭介、手紙の内容もあいまいで間違った解釈をさそう。カー並みの神秘的内容もその後の社会派の時代を過ぎないと否定的評価が多い状態が続いた。
別に作品が変わっていないのに、読者が変われば作品の受け取り方も変わる。この作品などは典型的な例で今の時代の方が不自然さは少なく見られるだろう。だが時がかわればまた変わる。1999年の作品論の意である。歴史的配慮をしなくても、「死を開く扉」は楽しめる作品であるが、作品の方でも読者と時代を選ぶ感じを受ける。

「心理試験」または「刺青殺人事件」と「カナリア殺人事件」

名探偵が犯人に仕掛けるトリックは、工夫があると作品の大きなポイントとなります。
「カナリア殺人事件ではファイロ・ヴァンスは容疑者を集めて、ポーカーを行いその結果から容疑者の性格を見抜き、犯人を推定し行動を仮定する事で最後に、決定的な物的証拠をつかみます。
一方、「刺青殺人事件」では神津恭介は容疑者と将棋を指す。明らかに「カナリア殺人事件」に対抗したと思います。しかし、ただ単にやってみただけとして推理の重要な要素としては用いていません。
これは両者の違いと現実性からの判断と思います。そして、結果的に正しいと思います。ゲームから他人の性格が分かるにはいくつかの要素が有ります。(1)対戦者の性格が現れる種類のゲームであること。(2)探偵が性格を読みとれる実力が有ること。(3)犯人が性格を隠せないゲームか隠せない事情が有ること。(4)犯人の性格がゲームに現れる保障があること。などです。
(1)は両方とも満足しています。(2)は探偵の設定で可能になりますが犯人の実力が分かっていなければ不可能で実際は難しいと思います。(3)これは不可能です、ポーカーは短時間で繰り返すので隠しにくい面はあります、しかし、別の事情で勝たなければならないことを最後に犯人の告白でわかるのは苦しい所です、時間のかかる将棋は何回も対局出来ないのでいくらでも隠せます。(4)これも3と同じで繰り返し行うゲームしか無理でしかも犯人が避けられない事情が必要でしかもあらかじめ、分かっている必要が有ります。
結論として、「カナリヤ」は偶然可能性があるが必然性では苦しい。「刺青」の取り扱いはやむを得ずしかも、当然と言えます。
細部ですが、充分に考えられた扱いと思います。最近、将棋を扱った作品が多いですが欠陥作多くSFの様です。

神津恭介のモデル考

神津恭介のモデルは誰かと質問すれば、(1)純想像上の人物、(2)高木彬光自身と言うのが予想される答えでしょう。
小説の登場人物だから(1)については何も言うことはありません。(2)については幾つか共通項があげられます。1:生まれた年が同じ、2:神津恭介は宇都宮出身で高木氏も一時宇都宮に疎開していた、3:神津恭介は東大出の天才で高木氏は京大出の天才などです。
ここで、いささかあるいは致命的な問題点があるのですが第3の説を出してみます。ずばり、神津恭介=志村五郎氏モデル説です。私の様に数学に近い人間には志村氏の名前ぐらいは知っていて当然ですが、多くの高木氏ファンで知っているとすれば雑誌「宝石」の「或る作家の周囲」の高木氏の回の執筆者としてでしょう。これもモデル説のひとつの両者の繋がりです。志村五郎氏は1930年浜松生まれで東大卒、専攻は数学で特に整数論です。近年、長年数学界の難問といわれていたフェルマーの定理がイギリス人ワイルズにより証明されました。その方法が「谷山ー志村予想」を証明する方法でした。一時話題になったのでご存知の方も多いと思います。広中平祐氏が受賞したフィールズ賞は数学界のノーベル賞と言われていますが35歳以下の年齢制限があります。年齢制限がなければ志村氏も受賞している可能性は高いと以前から言われていました。また、志村氏は将棋を愛好しており詰将棋作品もあります。
さて、神津恭介と志村五郎氏の共通項を上げると、1:どちらも東大出、2:どちらも若くして天才と呼ばれていた、3:どちらも数学の整数論に係わりがある、4:どちらも将棋・詰将棋の愛好者である等が上げられます。
ここで終わると、共通項がより多いので有力説といえますが、実は問題があります。志村氏が10年遅い1930年生まれであることです。「刺青殺人事件」発表時の1947年(昭和22年)は高木氏は27歳、志村氏は17歳です。この時点で志村氏に整数論で大きな功績があり、高木氏がそれを知らなければモデルに出来ない訳です。残念ながら、それを示すものはありません。(あるいは私は知りません)
整数論の論文という具体的過ぎる記述から出発した仮説ですが、仮説は仮説で終わりが現在の状況です。
まあ、結果は別にして想像上で楽しむ事も良いのではないでしょうか。

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