佐々木丸美論 少女の幻想

佐々木丸美の小説には、全体に流れる共通点がある。
幼い少女かあるいはそれに繋がる似た境遇の女性を主人公にしている。
主人公は何かを思い続けている、大抵は妄想・幻想とも呼べる物だ。
読者は、主人公に作者・佐々木自身の思いを映して見るかも知れない。
それへの共感や受け入れ方によって、読者ごとの佐々木丸美という作者への接し方が異なって行くだろう。

少女的過ぎる・乙女的過ぎる・成長しても実年齢よりも幼過ぎるあるいは成長が遅過ぎる・生活力が感じにくい等が例だが、それを特徴や個性と見れば客観的に見れるが、現実性・リアリズム性を求める人は批判的に見える事もあるだろう。
佐々木丸美の作品群は主人公の感情だけでなく、ストーリーや背景にも架空の設定・幻想と妄想を多く扱う、それはメルヘン調とも言えるだろう。

仁木悦子は1958年に登場して一部の作品で幼い子の視点と一人称と、幼い子の文体で大人向けのミステリーを書いた。
新井素子は1975年に10台半ばの女学生の視点と、その会話の文章でSF小説を書いた。
佐々木丸美の小説と文体をこれらの延長に置いて見ると、線の細い少女か女性の妄想・幻想思考を、その文体で書いた事になるだろう。
斬新なのかミスマッチなのか、受取かたは読者に投げかけられた事になる。

妄想・幻想思考で現実の話題を見るとパロディ的とも言える事もあるのだ。

佐々木丸美の書いたジャンルの移り変わりの概略は以下だ

雪の断章 長編 197511>本格ミステリー(またはパロディ)
崖の館 長編 197701>本格ミステリー
忘れな草 長編 197801>2人のせめぎ合い
水に描かれた館 長編 197808>本格+幻想
花嫁人形 長編 197902>恋愛
恋愛今昔物語 連作集 197909>パロディ風昔話し・ショートショート
夢館 長編 198003>輪廻
新恋愛今昔物語 連作集 198104>パロディ風昔話し・ショートショート
風花の里 長編 198105>遺産・運命
舞姫・恋愛今昔物語 長編 198106>「鶴の恩返し」
ながれ星 長編 198111>「十五少年漂流記」
橡家の伝説 長編 198206>SF
影の姉妹 長編 198211>SF
沙霧秘話 長編 198302>同一名の2人
罪灯 作品集 198306>オム二バス
罪・万華鏡 作品集 198310>オム二バス
榛家の伝説 長編 198411>SF

佐々木丸美の作品群の傾向を片面から見れば、現実性・リアリズム性・科学性・論理性などが希薄だとなるのだが、そもそもがそれが必要な作品を書いているのかの問題になり、必要性自体が明確ではない。
上記が必要・あるいは強い方が良いと思える作品は初期の少数の作品だけであり、そこでも既に幻想と妄想が満ちておりパロディも含まれているとも思える、そもそも佐々木丸美の作風を既存のジャンルに分類する事に違和感がある。

パロディ風で昔話から題材を取ったショートショートの連作集の、「恋愛今昔物語」「新恋愛今昔物語」は作品群のなかでは異色だ。
長編が主体で恋愛を題材に心の描写を中心としていたが、この2作では異なる題材と形式を使用した、ただし作風との相性は疑問だなぜならば心の描写が希薄になるからだ。
作者は似た題材を取った長編「ながれ星」「舞姫」をも書いた。
題材を除いては、他の恋愛と幻想を描いた作品群と差は少なく、他から題材を取る意味は薄い。

幻想・妄想の世界を描いていると、次第に架空設定が強くなりSF設定になる事は予想された。
そこから、輪廻・転生・遺伝をテーマにして行った。
女性から女性へと産まれ変わって行き遺伝して行く、産まれ変わっても恋愛を繰り返す、視点が女性なので男性が無機質に描かれる傾向があるようだ。
恋愛ならば幻想的だが、それ以外の遺伝・相続が描かれると陰謀・秘密・閉ざされた世界と閉ざされた集団という面が強くなり、作者の持ち味との相性は微妙に揺らぐようだ。

デビュー当時のジャンルと印象からミステリー作家として扱われる事も多いが、全体の扱ったジャンルや文体・スタイル・手法のいずれから見ても、狭いミステリジャンルとは言えず、広義で見ても幻想作家との呼び方が近いだろう、むしろ1人だけの特色のある異色作家とするのが無難だ。

作者自身が初期の作品のあとがきで作品観を書いている。
それを読み解く事は意味がある筈なのだが、「崖の館」のあとがきで他の作者や推理小説について書いたが、次の本の「水に描かれた館」のあとがきでは、その内容についてある新聞に書評が載り、作者はそれは間違った中傷であったとで述べている。
それが原因だと思うが、それ以降はあとがきは少なくなり内容も表面的な紹介が主体となった。
かって江戸川乱歩と木々高太郎が長くすれ違いながら論じた「推理小説と純文学の関係」については当時も現在に至っても定まった結論はない、従って作者も読者もそれぞれが信じる所を試行錯誤している。
1990年頃の新本格と言われた作者・作品群への非難を見ても、建設的で無い評や中傷はミステリーの世界ではいつも存在する。
デビュー2作目の佐々木丸美が、推理小説と純文学の双方に高い目標と思いを持っても応援する事があっても否定する必要もない、一歩譲っても書かれて行く実作を見守って行けば良い筈だ。
作者自身のあとがきは引用して論じたい意味もあるが、初期に書かれた事がどれだけ作品全体を論じられるかは疑問があるので、故にここでは省く。
(2018/06/02)


作品リスト(2018/06)

雪の断章 長編 197511
崖の館 長編 197701
忘れな草 長編 197801
水に描かれた館 長編 197808
花嫁人形 長編 197902
恋愛今昔物語 連作集 197909
夢館 長編 198003
新恋愛今昔物語 連作集 198104
風花の里 長編 198105
舞姫・恋愛今昔物語 長編 198106
ながれ星 長編 198111
橡家の伝説 長編 198206
影の姉妹 長編 198211
沙霧秘話 長編 198302
罪灯 作品集 198306
罪・万華鏡 作品集 198310
榛家の伝説 長編 198411

このページの先頭へ