菅浩江論 科学・医学への憧れ

SF小説またはSFという用語は、ファンを除いてはサイエンス・フィクションの意味以外にも、架空・空想・幻想小説等にも使用されてそれとの区別は曖昧であるし特に定義を求められずに用語が使われる事が多い。

SFの描き方は多様であり、技術系とかハードSFとか呼ばれるジャンルだけをSFと呼ぶ訳で無く、作者が小説を書くときのSFへの意識の問題であり、SFマインドが有ることがジャンルの意味だとされる。

それでも感覚的な事は残るが、それを科学・医学への憧れの存在で判断すると範囲を狭くしてしまうがSFかどうかの判断は判りやすくなる。
科学・医学への憧れは、科学をプラスばかりに描く訳でなくその問題点や盛衰や歴史も描く、定まった到達点は存在しなく憧れや夢や未来は個人で描くことは異なる。

SF小説を技術系か幻想系で分ける試みは幾度か行われるが、技術系は科学・医学への憧れが直接に描かれやすく、幻想系はこの面では間接的に描かれる事になる。
幻想系は区別・範囲が技術系よりは判りにくい故に、その他のSF分野だと言われることもある、境界線は明確でないので「その他」は便利な言葉だ。

菅浩江(すが・ひろえ:草冠の菅)はデビューしてしばらくは技術系SFとも幻想系SFとも言われた、両面を持つ事から読者個々に判断が変わる、あるいはどちらに分けても成立するのだろう。

幻想系SFの側には、幻想小説・ホラー小説・冒険小説、はたまた伝記・オカルトそしてミステリなど多彩なジャンルがある。
本・書籍・小説はタイトルと著者名で購入するが、帯文・カバー紹介・解説等で選ぶ事もありそうだ、そこでは編集者や出版社の希望・戦略・理解が表に出るが、作者や読者の意識とは異なる事もある。

SF雑誌でデビューした管浩江は短編SFを書いたが、本としては長編が先に多く出版され、その紹介の仕方はSFと言う言葉ではなかった。
その時でも作者の意識はSFであったし、星雲賞受賞歴を見ると読者も同様だった、そしてSF短編集やSFとして紹介される長編出版に次第に移行してゆく、その過程ではより多彩な作品群が書かれた。

個別作品を見る事で、上記流れと変化を見る。
・「雨の檻」
8冊目で初の短編作品集でデビュー作「ブルーライト」を含むSF作品集だ、連作ではないこの体裁の短編集はSFに限らず出版され難いといわれる出版事情がある、それはSF作家としての作者の認知度も関係するだろう。
「永遠の森」「五人姉妹」「おまかせハウスの人々」「カフェコッペリア」「誰に見しょて」へと続く、次第に増えたのは日本推理協会賞受賞「永遠の森」の影響も大きい。

・「ゆらぎの森のシエラ」「柊の僧兵記」「メルサスの少年」
初期SF長編だはSF度は幅がある。

・「歌の降る惑星(ほし)」「うたかたの楽園」 センチメンタル・センシティヴ・シリーズの2作で、作者の意識は別にして販売方法はファンタジーだ、作者は度々続編を出すと延べたが書かれていない。

・「オイデイコスの3使徒」「氷結の魂」「不屈の女神」
作者曰く、神の処理(解体再編成)の3作としたが、偶然的だ。
「オイデイコスの3使徒」は少女の成長と、香師と夢師が楽師を探し、神と競う。
「氷結の魂」異世界の冒険譚であり冒険ファンタジーだ。
「不屈の女神」PCエンジンノゲーム「ゲッツェンディーナー」支援作、後述。

・多彩なジャンルの初期・中期長編・連作
「鷺娘」オカルトファンタジー
「暁のビザンテイラ」冒険ファンタジー
「鬼女の都」伝奇風本格推理
「末枯れの花守り」泉鏡花の世界
「夜陰譚」ホラー
「アイ・アム」ロボット>近未来小説
「歌の翼に」日常の謎ミステリー
「プレシャス・ライアー」コンピュータSF
「プリズムの瞳」ロボット「ビー」シリーズ連作
中期以降はSF小説の短編集と、上記の多彩な長編を出した、そして作品が減少した。

作者の特徴なのか、他ジャンルともコラボ小説が複数ある。
「不屈の女神」
PCエンジンノゲーム「ゲッツェンディーナー」元になるストーリーが無かった故に支援作と呼ぶ
「放課後のプレアデス みなとの星宙」
テレビアニマの登場キャラを主人公にしたノベライズ>外伝的な位置だ
「GEAR 五色の輪舞」ビジュアルブック>創作演劇
「GEAR」の小説化>絵本・詩的イメージ文
「ID0・1」「ID0・2」
SFアニメのノベライズ>スペースSF

作品全体の傾向を見ると、「ジャンル予想(コラボ含む)の出来ない長編」と「SF小説の短編集」が二本柱で新作の期待度も高い。
特に「永遠の森」の続編作品集のへの期待値が高い。

「永遠の森」について
永遠の森の守備範囲は、惑星の創出と動物園と異生物だ。
初出のダニエル・キイス推薦帯が印象的だったが、すぐに日本推理協会賞受賞帯に変わったのは痛たい面もあった。
地球衛星軌道上の博物館惑星「アフロディーテ」にある博物館で学芸員らが仕事している短編9話でなる、作者には9話を入れた短編集が多い、それは一般的な短編集の2倍であり、半分の長さの短編で構成されている事が判る。

SF小説のテーマとしては科学と共に医学と薬学への関心が目立つ。
それがテーマの短編集として「誰に見しょて」が書かれた、そこでは「医療・美容・化粧・事業・アンチエイジング・皮膚改造」がテーマで、新しい皮膚改造会社創設から事業拡大へと広がる世界を描いた。

最近の作品の立ち位置は定まっておりSF小説という説明は不要になっているが、「鷺娘」「鬼女の都」「末枯れの花守り」「夜陰譚」「歌の翼に」の1作1ジャンルの世界も密かな期待度も存在する、最近作では「放課後のプレアデス みなとの星宙」が境界上の微妙な小説と思える。
(2019/04/02)


作品リスト(2019/04)

ゆらぎの森のシエラ 長編 198901
柊の僧兵記 長編 199006
歌の降る惑星 長編 199008
うたかたの楽園 長編 199102
鷺娘ー京の闇舞- 長編 199108
メルサスの少年 長編 199112
オイデイコスの3使徒1 長編 199210
雨の檻 作品集 199304 
 「雨の檻・カーマインレッド・セピアの迷彩
  ・そばかすのフィギュア・カトレアの真実
  ・お夏 清十郎・ブルーライト」
暁のビザンテイラ(上) 長編 199310
暁のビザンテイラ(下) 長編 199311
氷結の魂(上) 長編 199404
氷結の魂(下) 長編 199404
オイデイコスの3使徒2 長編 199407
オイデイコスの3使徒3 長編 199501
不屈の女神 長編 199510
鬼女の都 長編 199610
末枯れの花守り 長編 199710
永遠の森 作品集 200007
 「天上の調べ聞きうる者・この子はだあれ
  ・夏衣の雪・享ける形の手・抱擁・永遠の森
  ・嘘つきな人魚・きらきら星・ラブソング」
夜陰譚 作品集 200110
 「夜陰譚・つぐない・蟷螂の月・贈り物・和服継承
  ・白い手・桜湯道成寺・雪音・美人の湯」
アイ・アム 中編 200111
五人姉妹 作品集 200201
 「五人姉妹・ホールドミータイト・KAIGOの夜
  ・お代は見てのお帰り・夜を駆けるドギー
  ・賤の小田巻・箱の中の猫・子供の領分」
歌の翼に 作品集 200305 >日常の謎
 「バイエルとソナチネ・英雄と皇帝・大きな古時計
  ・マイウエイ・タランテラ・いつか王子様が
  ・トロイメライ・ラプソデイーインブルー
  ・お母さま聞いてちょうだい」
プレシャス・ライアー 長編 200306
おまかせハウスの人々 作品集 200511
 「純也の事例・麦笛西行・ナノマシンソリチュード
  ・フード病・鮮やかなあの色を
  ・おまかせハウスの人々」
プリズムの瞳 作品集 200710
 「レリクトクリムゾン・クラウディグレイ
  ・ミッドナイトブルー・シュガーピンク
  ・メモラブルシルバー・ミラーリングブラック
  ・エバーグリーン・トワイライトパープル
  ・サティスファイド・クリア」
カフェコッペリア 作品集 200811
 「カフェコッペリア・モモコの日記
  ・リラランラビラン・エクステ効果
  ・言葉のない海・笑い袋・千鳥の道行」
誰に見しょて 作品集 201310
 「流浪の民・閃光ビーチ・トーラスの中の異物・シズルザリッパー
  ・星の香り・求道に幸あれ・コントローロ・いまひとたびの春
  ・天の誉れ・化粧歴程」
放課後のプレアデス みなとの星宙 長編 201508
GEAR 五色の輪舞 ビジュアルブック 201607
ID0・1 長編 201706
ID0・2 長編 201707

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