梶龍雄論 エンディングは本格

梶龍雄の作家歴は長い。
戦後直ぐのデビューであるが、途中に編集や賞の下読み等を経て、「透明な季節」で江戸川乱歩賞を受賞して長編作家としての表舞台に立ったイメージがあります。
乱歩賞受賞前の、梶作品を追うことは困難と思います。
脚本・短編・ジュニア向け小説等で、どの程度あるのか見当がつきません。
乱歩賞以降になると、少なくても単行本になったものはほぼ把握できます。
従って、本論も乱歩賞以降のみを対象とします。

ミステリ作家を分類??する場合、ジャンル別・テーマ別・小説スタイル別・等色々あります。
梶作品は、意外とテーマ別に分けられる事が多いように思います。
これは、筆者が思うには、梶作品=本格という前提がありいわゆるジャンル別分類が終わった所から、作業が始まっているからでしょう。
作品が、テーマから始まった場合・キャラクターから始まった場合・トリックから始まった場合・小説スタイルから始まった場合、どれも最後にいかに本格ミステリ的なまとめをするかが作者の終点になっていると思います。
評論家には、本格ミステリならばその構成の必然性を求める人もいます。
その人にとっては、梶作品はかなり得体のしれない集まりでしょう。
本格ミステリとして読むと、必然的でない部分がありますし、トリックの新しさや謎の難解さに拘りが少ないです。
では、テーマとして見ると何故、本格ミステリ手法で終わるのか理解しにくいでしょう。同時に、見るからに本格ミステリ的発端以外の作品が多くあります。
戦中物・旧制高校物・サスペンス風・風俗物・キャラクター物は、小説としての組み立てもストーリー展開も、終わり方も色々あるはずです。
現実に、後半まで自由に展開している作品も複数あります。
ただ最後は、本格スタイルになります。

本格スタイルといっても、トリック派要素も論理派要素もフーダニット的要素も混在しています。
本格スタイルには拘りがあるが、その細部には拘らないという姿勢を見てしまいます。
このように書くと、何かメリットがあるのかと聞かれそうですが、当然あります。
ヴァン・ダインの「本格は数作」説は極端でしょうが、「本格派寡作説」、「本格派ライト&マンネリ説」、「本格派作風ライト派に移行説」など多数存在します。
しかし、梶作品の様に狭いスタイルへの拘りがなければ、上記に該当しにくいと言えます。
梶の発表先や、キャラクターから上記の中で「ライト化」はもしもっと長く書いておれば検証出来たかもしれません。ただ、現実は本人の要請か時代の要請かが分かりません。
もともと、ライトノベルも書いているので作風が変わった訳でなく、いくつかの持ちジャンルのひとつがやや増えたとも言えます。

時代の要請とは、「新本格」の台頭とその反対派に挟まれた後期の事です。
地味な本格派には書きにくい要請があったと感じます。
同時期の作家には、評価されていない人が多く存在します。
梶も含めて、作品の絶版状況が一度逃した評価が、再度される事を妨げています。

乱歩賞以降の梶の作品発表期間は、意外に短い。しかし作品数は多い。
長年書けなかった小説を、一気に書いたという事でしょう。
それを、大きく3つの時期に分けると、最初は旧制高校シリーズや戦後を背景にした作品群が中心となっています。
その後の時期は、作品の多様化が目立ちます。テーマ色々の時期でこの所を正確にまとめる事はかなり困難です。
最後期は、シリーズキャラクターが多く登場して、短編が目立ちます。

梶作品の後期は、文庫化されていないものが多い。そして、全般に文庫化時に改題された作品がかなり多くあります。なかなか系統だって読むには厄介な状況になっていると言えます。

実質的に年齢が高くなってから、主な執筆活動に入った割りに多くの作品を残しているにも関わらず、系統だった扱いがほとんどされていないのは、特定の代表作を読めば作家論が書けるという作家ではないからでしょう。


参考:本論の参考に(書誌的に正確さは不明です)

●透明な季節 1977
○影なき魔術師 1977
●海を見ないで陸を見よう 1978
●大臣の殺人 1978
●天才は善人を殺す 1978
●龍神池の小さな死体 1979
●ぼくの好色天使たち 1979
●殺人者にダイアルを 1980
○殺人リハーサル 1981
●連続殺人枯木灘 1982
●リア王密室に死す 1982
●若きウェルテルの怪死 1983
○灰色の季節 1983 c
●草軽電鉄殺人事件>殺人者は長く眠る 1983
●金沢逢魔殺人事件 1984
●幻狼殺人事件 1984
○殺人魔術 1984
●奥鬼怒密室村の惨劇 1984
●蝶々、死体にとまれ>幻の蝶殺人事件 1984 a
●殺人への勧誘>浅間山麓殺人推理 1984
●淡雪の木曽路殺人事件>淡雪の木曽路殺人行 1985 a
●青春迷路殺人事件>我が青春に殺意あり 1985
○毛皮コートの殺人 1985 d
●女たちの復讐 1986
●赤い靴少女殺人事件 1986
●紅い蛾は死の予告 1986
○女はベッドで推理する 1986 f
●奥秩父狐火殺人事件 1986
●浅草殺人ラプソディ 1986 d
●本郷菊坂狙撃事件 1987
○野天風呂殺人事件 1987 d
●銀座連続殺人手帖 1987 a
●奥信濃鬼女伝説殺人事件 1987
○男と女の探偵小説 1987
●裏六甲異人館の惨劇 1987
●真夏の夜の黄金郷 1988
●鎌倉XYZの悲劇 1988
○女名刺殺人事件 1988 e
●清里高原殺人別荘 1988
○殺人者は道化師 1989 g
○浮気妻は名探偵 1989 f
●葉山宝石館の惨劇 1989
○殺しのメッセージ 1989 e
●殺人回廊 1990


凡例:●:長編、○:短編集

登場人物
高見照彦・結城奈都子:a
ギョライ先生:c
チエカ:d
三姉妹:e
伏山エリ子:f
リラ荘女主人:g

このページの先頭へ