斎藤澪論 横溝正史に選ばれた作家

 斎藤澪は、多くの紹介文に「第1回横溝正史賞」受賞のサスペンスミステリ作家と書かれています。
代表作も、上記受賞作でデビュー作の「この子の七つのお祝いに」とか初期の「赤いランドセル」等が紹介される事が多いです。
受賞と言っても新人賞であり、全体の作品から見ればむしろ初期の習作とも言えますし、中期以降の作風の変化した専業作家としての作品が代表作にされていない事は、内容的には極めて不思議な事です。

 「横溝正史賞」は、角川書店が横溝正史の名前を付けた長編ミステリの応募新人賞です。横溝自身も選考委員でしたが、第1回選考後に亡くなったので自身が選考に関わったのは、本作者のみです。
「横溝正史賞」は、第2回の主催側の不手際等から歴史も受賞作家も増えたにも関わらず、賞の性格が定まっていない印象があり、受賞作家の受賞以降の活躍という意味ではやや歩留まりの悪い新人賞のイメージがあります。
たとえば、日本推理作家協会賞の受賞者の有無等を見た場合に上記を感じます。

 斎藤澪も折からの、いわゆる新本格ブームという風のなかで、受賞直後以降は地味な位置になったと感じます。
作品的には、初期の習作的な内容から次第に幅を広げ、堅実な多様な作品を書いていますが逆に紹介される事は少ないという事になりました。

 初期の作品は、本格ミステリというよりもサスペンスミステリと呼ぶ方が近い内容です。横溝正史自身が、本格味とともにサスペンス・ホラー的な作品も書いているので、受賞と重なってイメージを押しつけられたのかも知れません。

 中期の「冬かもめ心中」「卒塔婆小町殺人事件」くらいから、本格色が強くなってきます。
同時に、シリーズ作品への試みやシリーズキャラクターへの試みが始まります。
ただ、双方を持つ連続したシリーズへは殆どは発展させませんでした。

 2作品でシリーズなのか?、題名の類似性でシリーズなのかとか疑問点を投げかけます。短編2作の「伊沢佐代・後藤鍼医」や長編2作の「西尾えりか・ハリー」は、どの様に考えましょうか?。
医療ミステリというジャンルが特徴の「小諸久美子」シリーズもオリジナル脚本を含むテレビドラマ化が無ければ同じ印象になったかも知れません。
4作書かれた「岬の女」シリーズは、作品の世界にも類似性は認められるものの単発作品と見るのが普通と思えます。
「まつり」「怪談・」までシリーズというのはもう無理でしょう。

 ただし、地下鉄職員・藤林章一郎については、いささか興味があります。
名探偵という事が出来るのは、たぶん1作で、それに近いのがいくつか、ワトソン役的だったりゲスト出演的だったり、多様なキャラクターぶりはむしろ新しい試みと見て評価されるべきかと思います。
それを踏まえて、本作者の代表作群とする事は可能と思います。

 本作者のトータルの作品を読むと次第に安定してくる力量を感じますが、「第1回横溝正史賞」受賞作家として語られる事は作者にとって幸運か不運か悩ましく思います。
デビューが無ければ、作家生活の有無は語られない事はしばし忘れるとして・・・。

参考作品リスト(本稿の参考であり、書誌的に正確ではありません)
小諸 久美子> a
西尾えりか・ハリー> b
藤林 章一郎> c
伊沢佐代・後藤鍼医> d

長編
この子の七つのお祝いに :198105
赤いランドセル :198205
夜明けの・晩・に :198211
あした・さよなら :198403
冬かもめ心中 :198503
卒塔婆小町殺人事件 :198604
泣けば、花嫁人形 :198703 b
消えて、戻り橋 :198709 b
花ほおずき、ひとつ :198712
六月のカラス :198805 c
ノサップ岬の女 :198809
雨のじんちょうげ :198903 c
花まつり殺人事件 :198909
函館・立待岬の女 :198910
パリ地下鉄殺人事件 :199003 c<パリのお嬢さん
炎まつり殺人事件 :199011
深夜の声 :199103 c
白衣のふたり :199111 a<横浜コインロッカー殺人事件
深夜病棟・25時 :199206 a<ハモニカを吹く男
嗤う身代り地蔵 :199212
越前岬の女 :199304
灼熱(ジェラシー) :199309
怪談・無情坂の女 :199406
怪談・霊安室の声 :199502
西伊豆・恋人岬の女 :199504
四年目の呪殺 :199611
顔のない男 :199711

短編集
「花のもとにて」
ロビニア通り三番地
道に迷ったアリス
花のもとにて

「折れた櫛」
乾杯!
折れた櫛
待っていた女
夏のこはぜ
鈴の音 d
火傷 d
呪いの木
しびと花

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