佐藤特許事務所  東京都渋谷区


トップ

事務所の概要

特許出願をお考えの方へ 実用新案登録をお考えの方へ 料金表

お問い合せ 話題コーナー

代表者プロフィール

知財関連リンク集




            ** 空飛ぶルビー、紅小灰蝶(ベニシジミ) **

                           遠藤英實



はじめに
ベニシジミは蝶愛好家の間でもあまり人気がない。その理由はというと、
   @ 小さいこと
   A 人の目に触れやすい場所に棲んでいること
   B 春から秋(東京なら4〜12月)、つまり殆ど一年中発生していること
ということだろう。要するに、あまり“ありがたみ”がないのである。
ところが、“散策の折りの相棒”のつもりで接すると、これらの短所は逆に長所になってく
る。@にしても、小さい蝶は一般に人に対する警戒が薄いような気がする。近づいていっ
ても慌てて逃げ出すようなことはあまりない。(アゲハ類と比較すると良く分かる。)
つまり付き合い易いのである。
AやBのおかげで、散策の都度会うことが出来て無聊を癒してくれる。
(ところで、都会の緑地では次第にベニシジミは減少している。イギリスのオオベニシジ
ミは自国から姿を消し、大陸から移入した。日本のベニシジミの場合も、その轍を踏まな
いとも限らない。大事にすべし!)
それらに加えて、ベニシジミには他にも長所がある
   C 華やかであること
   D 変わり種が多いこと
以下、その魅力をご紹介したい。


1 つぶらな瞳

 
   

つぶらな瞳がいかにも可愛らしい。とはいっても、これは瞳ではなく複数の個眼の集合、
即ち複眼である。ベニシジミだけが可愛いというわけではないのだが、右側のツマグロヒ
ョウモンの目と比較すると“可愛らしさ”が良く分かる。これら個眼の総合力で周囲の
状況や外敵を監視しているわけだ。蝶に近づく時は、出来るだけ背を低くするのがコツで
ある。どうも、蝶は一般に上部の変化に敏感なようである。太陽光線を遮られるのが嫌ら
しい。だから川に架かっているちょっとした橋の下もくぐろうとしない。或は北の丸公園
の大きな門(田安門、清水門)をくぐる蝶を、これまで私は見たことがない。


2 衣替え

    
11・03・28 ♀?  11・08・06 ♂   10・12・09 ♀

ベニシジミは冬を除けば一年中飛んでいるわけだが、季節によって色彩が変化すると云わ
れている。春や秋は鮮やかな紅色だが、夏は黒みを帯びるらしい。確かに写真をみると、
そのような傾向が感じられる。幼虫時代の気温や日照時間が関係するらしく飼育による実
験もなされているようだ。
とは云っても、鮮やかな紅色の夏型個体もよく見かけるから、これがルールというわけで
もない。そもそも、野外と実験室とでは態様が異なるし、後段で述べる変化に比べれば、
こんな“衣替え”など物の数ではない。
(ついでに)雌雄の区別
ベニシジミの雌雄はなかなか区別しにくいが(特に飛んでいる時は)、
    翅型が尖っているのは♂
    丸みを帯びているのは♀
    ♀の方が大きめ
といわれている。(概ね他の蝶の場合でも)
写真を見ると、中央が♂、右側が♀は間違いないと思うが、左側はどうだろう?
野外での識別は相当難しいのである。


3 紅色と瑠璃色

 
   11・04・12     11・10・20    11・03・30

ベニシジミにはこのように、後翅にきれいな瑠璃色の紋の列を持つものが現れる。
紅色と瑠璃色の豪華な組み合わせのこの蝶を野外で目にすると、息を呑む程に美しい。
あまり人に顧みられない蝶であることを憐れんでの天の配慮に違いない。
(なお、飼育によってこのようなルリモン型を造り出すという報告は、見たことがない。)
南米に、アグリアスという紅色、瑠璃色の絢爛豪華なタテハチョウの仲間がいる。
わがベニシジミも、それ位の大きさ(モンシロチョウよりやや大きめ)になったとしたら、
アグリアスを圧倒し、美蝶として世界に君臨するに違いない。

            参考 世界の美蝶アグリアス(3種)
 
    A.narcissus           A.sardanapalus          A.phaicidon

関連話題
生物の形状や紋様を、「数式」と「生物学的実験」で研究している先生がおられる。
「数式」というのが、かのアラン・チューリングが提案した偏微分方程式系である。
チューリングというのは、チューリング・マシーン等で知られる、歴史に名を残す
理工学系の大学者。ところがチューリングは、 
    生物を研究するために
この「数式」を創案したという途方もない理工学者なのである!
さて、「数式」そのものは、(その方面の訓練を受けていれば)学生でも理解できるし、
今なら、パソコンでも計算出来る。だから「数式」をふりまわすだけなら
どうということもないのだが、この先生は
 この数式をツールとして、さまざまな生物の形状や紋様の成り立ちを
 生物学の実験を通して検証していった
のだから凄い。数学を道具とするプロの生物学者なのである。
そう云えば昔、可児藤吉博士の論文を読んだことがある。こちらは数学なぞ使っていな
かったが、 “これが昆虫学なのか!”と感激したものである。
一知半解の数学の利用はいただけない。


4 変わり種

 
  09.10.12    11・03・30    12・05・07
   
 
 11・04・05    11・04・06    11・04・06

橙化型、黄化型、白化型、黒化型、etc
標準型の方がずっと華やかなのだが、こういう風変わりな個体が中に交じって飛んでいる
とかえって鮮烈な印象を受けるのである。そして夢中で追いかけることになる。
春に多く見られるが、特定の地域に集中して現れる傾向があるので、季節によるものでは
なく遺伝的なものであろう。
橙化型は一瞬アカシジミと錯覚した。「10月に発生したアカシジミ」というので狂喜した
けれど、勿論そんなことはなかった。それにしても見事な個体ではあった。
ここで示した黒化型は4月だから、夏に現れる黒っぽい型とは違う。隣の白化型と同じ日
そして殆ど同じ場所で目撃した。ツーショットを撮りたかった!!
蝶の個体変異はいろいろな種類でみられるけれど、これ程変化に富んでいる種類は珍しい
のではなかろうか。


5 繚乱
   
 
  
こういう写真を見ていると、蝶と花は“仲良し”のように思えるが、実際は複雑である。
確かに植物にとっては、
  ・蝶(他の虫も)は花粉を運んでくれる
  ・その代わり葉を喰い尽される
だから“痛し痒し”なのである。その上、花には来ないが葉だけは喰い荒らすという蝶も
いるから“踏んだり蹴ったり”ということになる。
だから植物は 
  ・花には蝶を呼び寄せるように工夫を凝らす
  ・葉には有毒物質を含ませて撃退しようとする
一方、蝶は種類間で食草(縄張り)を分割し、植物への加害の一極集中を避ける。
他の蝶ではとても食べられないような有毒植物専門の蝶も現れてくるわけだ。
かくて、植物間、蝶間、植物・蝶間の“相互依存・相互反発”関係が形成される。
更に他の虫(特に天敵)も参入してくるから、事態はドラスティックに錯綜してくる。
例えば、
   植物は、「自分を食害する昆虫の天敵」を呼び寄せる物質を分泌する
という芸当もするらしい。
こういう方面の「論文」を幾つか読んだことがある。
   混沌としたスペクタクルの、極々ローカルな局面の分析
だから、面白いし、これからの研究が大変そうだし、これで終わると物足りないし・・・
ところで、蝶の吸蜜訪花とは違うらしい。
大雑把な蝶の手順としては
  (そもそも花など見向きもしない蝶もいるけれど)
  ・好みの花(色、形?)を訪れる
  ・ストローを伸ばす(合わなければ吸えない)
  ・好みの味でなければ吸わない。
  ・好みであれば吸う
忘我の境地で吸っている時は、手で触れても逃げない。
見物人にも、“至福の時”なのである。
何といっても花と蝶との華麗な組み合わせは、散策を楽しくしてくれる。


6 ヤマトシジミ、惑う
   
 

蝶も、雄が雌を追いかけて交尾をせまる。大抵は雌が拒否して不首尾に終わる。
だからこういう光景は珍しくもないのだが、ヤマトシジミの雄が、ベニシジミの雌を追い
回すというのは、ちょっと珍しい。中央の写真では、どうみてもヤマトシジミは鳥のよう
にディスプレイしてアピールしているようなのである。
普通、雄は雌の翅の模様を見て追いかける。だから、紛らわしいもの(生物、無生物を問
わず)を追いかけたり、近づいたりするという間違いはよく見られる。しかし、ベニシジ
ミの雌とヤマトシジミの雌とでは全く違う。ヤマトシジミの雌は雄の色調を暗くしただけ
だから、間違い様がないのだ。ヤマトシジミの雄は一体何を考えていたのだろう?
そう云えば、ウラギンシジミの雄を追いかけ回しているヤマトシジミを目撃したことも
ある。この蝶はちょっとおかしい。 


7 蝶の飛び方

この項は、特にベニシジミと関係が深いという訳ではないのだが、負傷したベニシジミの
写真を紹介するついでに触れる。
@ 飛び方
蝶は4枚の翅を駆使して次のことを行う。
  ・揚力(浮き上がる力)をつける。
  ・推力(前進する力)をつける
  ・方向を変える。
  ・滑空する。
  ・ホバリングをする。
  ・卍巴(複雑航法、後述)
知ったかぶりをして書き並べたのではなく、これらは全てyoutubeの高速映像で楽しめる
のである。羽化したてのムシケラがこのような芸当をするのだ。その上(後述するように)
翅の欠けた蝶も懸命に飛ぶのである。流体力学も航空工学も顔色がない。
ヒメウラナミジャノメなる蝶がいる。(地味で甚だ人気がない)この蝶は、草むらを
チョコチョコ飛んでいる。この蝶には、“翅を閉じたまま飛ぶ”という面白い“解説”が
図鑑等に載っている。どういうことかというと、
 ・先ず羽ばたいて揚力、推力をつける。
 ・次に、翅を閉じて前進する。(翅を閉じるのは空気抵抗を小さくするため)
 ・落ちかかったらまた羽ばたく。
この一連の行動が甚だスローで、翅を閉じている時間の方が長いから上述のような“解説”
がうまれたのである。
前述のウラギンシジミも、ヒメウラナミジャノメと同じような飛び方でしかも敏速に飛ん
でいるのを、私はYoutubeで見つけた。考えてみれば、高速で飛ぶには翅を閉じて空気抵
抗を小さくしなければならないのは当たり前のことなのだ。スピードの差は、翅を動かす
胸部の筋肉の差なのである。
私の目撃の範囲では、日本の最速ランナーはシータテハである。この蝶は、草原を飛びま
わり瞬時に森を超えて忽ち視界から消える。世界の最速ランナーは前掲のアグリアスらし
い。確かに、写真で見るアグリアスの胸部は逞しい。
これらは全てヒメウラナミジャノメと同じような飛び方をしている(らしい)のが分かっ
たのもYoutubeのお陰だ。
                皆、同じ飛び方
   
 
ヒメウラナミジャノメ   ウラギンシジミ      シータテハ
(のんびり、小型)    (活発、小型)     (高速、中型)

A 卍巴(まんじともえ)

同種または異種の♂同士がお互いの廻りをクルクル飛ぶ行動である。露骨な意地の張り合
いで蝶屋を笑わせる。ゆっくり廻るのなら“航法的”に問題はないのだが、相当高速に
廻るのである。お互い相手を見やりながら反対側だけの前翅・後翅を器用且つ高速に
動かしているように見える。果たしてこんな航法が可能なのか?
私はヒメウラナミジャノメと前述ヤマトシジミの高速卍巴を見たことがある。
ヒメものんびりとしか生きられないのではない。やる時はやるのである。


B 負傷
   
 
ヒメウラナミジャノメ  ヒメウラナミジャノメ    ベニシジミ

かれらは皆、飛んでいたのである。飛び方がおかしいので注視してやっと負傷しているこ
とに気がついた。(生来のウスボンヤリのせいで。)
どんな航空工学の碩学・泰斗でも、こんな翼の飛行機など造れないだろう。彼らが飛べる
のはひとえに、「何としても飛ばねばならぬ!」という意志の力だと思う。
左側のヒメは吸蜜のために飛んでいた。他の二匹は、写真を撮ろうとする私から逃れるた
めに飛んでいた。隠れた積りなのか?それとも草臥れたのか?
命を未来につなぐために飛ばねばならぬ!
負けてはならぬ!クモにも鳥にも嵐にも!


ティータイム(その1) 「不思議なシマヘビの物語 (野川で出会った“お島”)」

ティータイム(その2) 「ミノムシ 《皇居外苑北の丸公園の蓑虫》」

ティータイム(その3) 「ゴイシシジミ讃歌」

ティータイム(その5) 「ヒメウラナミジャノメの半生(写真集)」

ティータイム(その6) 「蝶の占有行動と関連話題」

ティータイム(その7) 「ヒメアカタテハの占有行動」

ティータイム(その8) 「オオウラギンヒョウモン考」

ティータイム(その9) 「ヒメウラナミジャノメの謎」

ティータイム(その10) 「コムラサキ賛歌」

ティータイム(その11) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ」

ティータイム(その12) 「”お島”ふたたび」

ティータイム(その13) 「オオウラギンヒョウモン考(再び)」

ティータイム(その14) 「謎の蝶 ヒメアカタテハ」

ティータイム(その15) 「我が隣人 ヒメアカタテハ」

ティータイム(その16) 「オオウラギンヒョウモン考(三たび)」

ティータイム(その17) 「姿を顕さない凡種、クロヒカゲ」

ティータイム(その18) 「微かに姿を顕したクロヒカゲ」

ティータイム(その19) 「不可解な普通種 ヒメジャノメ」

ティータイム(その20) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ ― 蝶の知的生活―」

ティータイム(その21) 「オオルリシジミを勉強する」

ティータイム(その22) 「集結時期のヒメアカタテハを総括する」

ティータイム(その23) 「毒蛇列伝」

ティータイム(その24) 「東京ヘビ紀行(付記 お島追想)」

ティータイム(その25) 「ヒメアカタテハやクロヒカゲの占有行動は交尾の為ではない(序でに、蝶界への疑問)」

ティータイム(その26) 「ヒメアカタテハの越冬と発生回数」

ティータイム(その27) 「鳩山邦夫さんの『環境党宣言』を読む」

ティータイム(その28) 「蝶の山登り」

ティータイム(その29) 「蝶の交尾を考える」

ティータイム(その30) 「今年(2019年)のヒメアカタテハ」

ティータイム(その31) 「今年(2019年)のクロヒカゲ」

ティータイム(その32) 「蝶、稀種と凡種と台風と」

ティータイム(その33) 「ルリタテハとクロヒカゲ」

ティータイム(その34) 「ヒメアカタテハ、台風で分かったこと」

ティータイム(その35) 「「蝶道」を勉強する」

ティータイム(その36) 「「蝶道」を勉強する 続き」

ティータイム(その37) 「ミツバチを勉強する」

ティータイム(その38) 「「蝶道」を勉強する  続き其の2」

ティータイム(その39) 「里山の蝶」

ティータイム(その40) 「岩手の蝶 ≒ 里山の蝶か?」

ティータイム(その41) 「遺伝子解析、進化生物学etc」

ティータイム(その42) 「今年(2020年)の報告」

ティータイム(その43) 「徒然なるままに 人物論(寺田寅彦、ロザリンド・フランクリン、木村資生、太田朋子)」

佐藤特許事務所(世田谷区太子堂)のサイト 〔トップページへ戻る〕