今年(2019年)のヒメアカタテハ
                        遠藤英實 作 0 はじめに 1 越冬個体 2 新規発生個体 3 まとめ   @ 越冬   A 発生回数   B 多摩川(本観察地)の個体はどこから? 4 終わりに 0 はじめに しつこく観察を続けている。 とは云っても、(自分では)同じところを繰り返しているわけではない。 問題を一般化すると、   @ 当地(多摩川河川敷)の観察   A 周囲との関係   B 日本のヒメアカタテハ    C 世界のヒメアカタテハ となるが、 今回は、   @については越冬の態様を、   Aの一部については、「周囲から、当地への侵入の仕方」を 考えてみた。多少は前進した。 1 越冬個体 先ず前年(2018年)から2019年迄生き延びた(つまり年を越した) ヒメアカタテハ(成虫、幼虫)の消息を述べる。 場所は前年と同じく多摩川河川敷である。 ********************************************************************************************** 2019・01・03            01・07     いずれもBポイントに唯1匹である。(他の場所では目撃されない。) 破損状況から、両日間で個体が変わっているように思う。不思議である。 ********************************************************************************************** 01・08    Bポイント          同拡大             幼虫(中令)も この日以降、成虫・幼虫とも5月迄目撃することはなかった。 だから、この個体が前年から年を越した最後の個体だろう。 01・07の成虫と同一か否か? 多分同一。 ********************************************************************************************** 2 新規発生個体 以下の写真は越冬個体ではなく、新規の発生個体と思われる。 ************************************************************************************ 5・27   生田緑地 多摩川の対岸(川崎市側)である。 ここでの例年の目撃個体は、年間数匹である。 新規個体をここで最初に目撃したということは意味深長である。 つまり、前年までの観察地(年間50匹程度)の個体の子孫ではないということだろう。 つまり、前年までの観察地では全滅した? ************************************************************************************ 5・28      多摩川河川敷路上(A、B占有領域ではない。) 越冬個体の子孫ではないだろう。 子孫であるのなら、先ずこの地で数を増やし、 そして他の場所(例えば前日の生田緑地)へと進出していくと思う。 どこか他所からの風来坊が、この近辺一帯へ登場したのだと思う。   同拡大   占有領域B 前回報告した占有地Bは、この日はかくの如であった。 雑草が繁茂して占有どころではない。 そもそも寄り付かない。樹上には全く関心を示さないのである。 ************************************************************************************ 5・29   Bポイント  翌日は、草叢ではなく、Bポイントのコンクリートブロック側に飛来していた。 ************************************************************************************ 6・13    Bポイント 草刈りがなされていた。Aポイントも同様。 こういう場所が、ヒメアカタテハの本領発揮の場所である。 (彼らにとっての)目印の樹木と、そして寛げる場所。 そのうちやって来るだろう。 ************************************************************************************ 6・19   世田谷区緑道  全く離れているこの地でも目撃した。ここでは、年に数回は目撃する。 なお、サイトhttp://www9.plala.or.jp/tokyoinsects/には、 小石川植物園(文京区)での、2019・4・13、4・29の目撃例が紹介されている。 (このサイトは大層面白いサイトである。 私には、学者の自慢話ではない“本物の哲学”が感じられる。) ************************************************************************************ 7・28             Aポイントから20,30m離れた草むら Aポイント 同拡大 撮影時刻15時17分。 撮影時刻16時04分。                                        日が暮れてくると占有領域を目指すようだ。かくの如く、新品である。 ************************************************************************************ 8・05    Aポイント 撮影時刻16時58分、Aポイントに定着したようだ。 ******************************************************************************* 8・10       Aポイント近く       Aポイント つまり2匹。   下流路上   Bポイント この日、河川敷全体では5匹が目撃された。やっと定着し始めた。 ************************************************************************************ この日以降は略。 3 まとめ 0 表化 先ず、表化をする。     @ 越冬 蝶は人間と同じ暦を持っているわけではない。 だから、1月1日に成虫が目撃されれば、“成虫越冬”という訳ではないだろう。 もっとも寒い時期(つまり2月初め)を乗り切って 繁殖に参加して、初めて成虫越冬といえると思う。 だから、この観察地では「成虫越冬ではない」と云いたい。 しからば、幼虫越冬か? 幼虫の考察は出来なかったが、もし幼虫がやがて羽化してくるのなら、 先ずこの地で数を増してくる筈だ。 ところが、そうではなかった。 結局この地では(何らかの理由で)滅びてしまい、 またどこかから流れてきて食草を見つけて、 “奇貨居くべし”とばかり子孫を増やそうとするのではなかろうか。 ヨモギというのはタフな雑草として知られているが、 各地で猖獗を極めているというわけでもなさそうだ。 人間(地域管理者)との闘い、外来種との闘いがある。 この地を見ていると、特に後者には押され気味のような気がする。 ハハコグサはこの地では見かけない。 然らば、東京近辺では成虫越冬しないのか? (つまり、年を越した成虫は最早、繁殖に関与しないのか?)   2012・1・13 野川公園(調布市) この個体は十分新鮮であった。 (尾羽打ち枯らした個体ではなかった。) それでも、卵を産んでやがて2月には死んでいくのではなかろうか? 東京の2月は厳しい。 つまりこの地でも、成虫越冬ではないと思う。 各種、それぞれ十分冬越しの準備をして怒涛逆巻く自然界を乗り切ってきたわけだ。 それにしても、アカタテハとヒメアカタテハでは 工夫の仕方がどこで違ってきたのだろう? A 発生回数 (既に報告しているが)私の観察では、 新旧個体が、同じ地域に無秩序に併存していて、発生回数の手がかりはまるでない。 つまり、場所(例えばこの観察地)を限定すれば情報の確度が上がる  というわけでもない。 手元の各種図鑑でも “年数回、ダラダラと発生する” となっている。 これでは話にならないのだが、確かにこれ以上書きようもない。 プロフェッショナル http://butterflyandsky.fan.coocan.jp/shubetsu/tateha/himeaka/himeaka.html を読んでも手掛かりはない。 例えば、   成虫観察時期 5月〜9月?(3化?)クロアゲハ   成虫観察時期 5月〜9月(2化)  オナガアゲハ   成虫観察時期 5月〜11月     ヒメアカタテハ と記述されている。 「ヒメアカタテハは、皆目見当がつかない」ということか? また、   成虫観察時期 : 5月〜11月 となっている。 この報告は大阪市と思うけれど、 本観察地(多摩川)と同傾向というのが何ともニクイのである。 B 多摩川(本観察地)の個体はどこから? a 「南方で数を増やし、段々北上してくる」 なる“仮説”がある。 ところが、ウェブサイトのデータをチェックしても、 南方の個体数はそれ程多くはない。せいぜい、20〜30匹である。 私の観察域の個体数50匹よりも少ないのである。 もっとも、アサギマダラは毎年毎年、長躯北上し概ね同じ場所に集まってくる。 (私も昔、静岡県の小笠山に毎年行っては目の保養をしたものだ。) とはいっても、この2種では増え方は明らかに異なる。 やはり、この仮説は受け入れ難い。 b アカタテハも極普通種であるが、私の経験では 目撃個体数はせいぜい1〜2匹/日である。 つまり、   アカタテハ  : 1〜2匹/日、10匹程度/年   ヒメアカタテハ: 1〜2匹/日、50匹程度/年(但し、秋になると数を増やす) ということになる。 だから、この2種の違いは、 「秋になってからの増やし方が違う」 ということか? (これでは、答えにならないけれど・・) c (然らば眼を外国に向けて) ヒメアカタテハは汎世界種であるから、 世界中を彷徨って、気に入った場所で数を増やすということは 大いにありそうである。 毎年毎年、多摩川のあの場所に集まってくるというのは違和感があるが、 ウンカも中国から飛来し、日本の気に入った田畑を荒らすのである。 だから、「国内の南の方から北上する」などとスケールの小さいことを考えず、 「大陸から飛来して各地の気に入った場所に集まって来る」 と考えるのも面白い。 (先般、女性研究者の説を紹介した。) d 「天敵に追われて移動する」なる説がある。 こういうのは、先ずプロが口火を切り、アマが囃したてる。 これは、「自然科学」というよりは、「博物学」だから、 プロ、アマどちらも責任を感じなくても良いが、 人によっては楽しいだろうし、人によっては不愉快なのである。 私は、自腹を切ってやるのは面白いと思うが 税金を使ってやられるのは甚だ不愉快だ。 国に跨る大移動の観察例(何十万匹!)は幾つか紹介されている。 例によって、プロの報告である。 某大先生によれば、 「外国のプロはとにかく発表してしまう。 そして、そのような例が見つかったら功績は自分のもの、 見つからなくても損にはならない。」 と考えているらしい。 もっとも、日本のプロだって似たようなものだ。 他人の“論文”を引用して、 「良く知られている」だの「指摘されている」 などと、訳の分からないことを宣うのである。    4 終わりに 多摩川を散策していて、干からびたミイラを見つけた。 最初はミミズのミイラかと思ったが、ヘビかもしれない。(20cm弱) ヘビならば、アオダイショウの子ヘビか、ヒバカリか?      ミミズのミイラは頻繁に目にするが、ダーウィンとの関係でミミズも面白い。 私も、ダーウィンの研究を扱った初心者向けのミミズの解説書を読んだことがある。 進化論の方は、あまり分からなかったけれど(今でも)、 ミミズの研究は凄いと思った。 (だから、進化論も凄いに違いない!) 進化論の精緻化のために、ミミズの研究を20年以上続けたというのだから 凡百の及ぶところではない。 彼はサンゴ礁も研究しているが、こちらは私には縁が遠すぎる。 ファーブルは、ダーウィンをというよりも進化論を嫌っていたらしい。 俗な表現を使えば、帰納的アプローチと演繹的アプローチの違いと いうことだろうか。 ちょっと違うかな? それとも大いに違うかな? 私も昔、昆虫を本格的に勉強したいと思って、 岩波文庫の「昆虫記」を全部買った。(それ迄は子ども向けの本であった。) 今、古書案内を見ると全20冊だが、 当時は補遺を含めて30、40冊あったような気がする。 結局、1冊目を半分位読んで中断してしまった。 恥ずかしながら、今に至るまで全く読んでいない。 多分、絵や図がないからだろうと思う。 やはり昆虫の“研究”は、視覚の対象として先ず始まるのではなかろうか? “研究”というと気恥ずかしいのだが・・ だから、無政府主義者大杉栄が「昆虫記」を翻訳したというのが 不思議なのである。 多分、視覚どころか昆虫なんぞ全く知らなかったろうから。 無政府主義者ブランキが星を研究したというのは良く分かる。 独房の窓から、ひたすら星空を眺めていたのである。 「ファーブルの「昆虫記」は研究書(論文)ではない、エッセイである。」 なる御託には腹がたつ。 “ならば、自分たちの論文を見せてくれ!” といいたいのである。 観察も洞察もまるでない。 あるのは論文らしく見せかけるテクニックの寄せ集めである。 外国文献なるものを引用したり、 数値、表、グラフを多用したり、 もっともらしい専門用語をひけらかしたり、  教授や先輩の“論文”の書き方を“踏襲”したり、 忙しくしているが、まるで中身がないのである。 論文の著者一覧に教授の名前が必ず載るのは“学会の決まり”なのか? 全くノータッチの筈なのに!!  そう云えば昔話として聞いたことがある。 経済学の論文で、πを使ったらボス教授が怒ったそうだ。 “何で、経済学に円周率が出てくるのだ!!” こちらの方が正直で宜しいようで・・ 学者には深い考えがあるのだから、偉そうに文句を云うな!! と云われた。 深い考えとは何だ! と尋ねると 自分はアマだから分からない。 だって!! それにしても、STAP細胞のO女史は気の毒だった! ティータイム(その1) 「不思議なシマヘビの物語 (野川で出会った“お島”)」
ティータイム(その2) 「ミノムシ 《皇居外苑北の丸公園の蓑虫》」
ティータイム(その3) 「ゴイシシジミ讃歌」
ティータイム(その4) 「空飛ぶルビー、紅小灰蝶(ベニシジミ)」
ティータイム(その5) 「ヒメウラナミジャノメの半生(写真集)」
ティータイム(その6) 「蝶の占有行動と関連話題」
ティータイム(その7) 「ヒメアカタテハの占有行動」
ティータイム(その8) 「オオウラギンヒョウモン考」
ティータイム(その9) 「ヒメウラナミジャノメの謎」
ティータイム(その10) 「コムラサキ賛歌」
ティータイム(その11) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ」
ティータイム(その12) 「”お島”ふたたび」
ティータイム(その13) 「オオウラギンヒョウモン考(再び)」
ティータイム(その14) 「謎の蝶 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その15) 「我が隣人 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その16) 「オオウラギンヒョウモン考(三たび)」
ティータイム(その17) 「姿を顕さない凡種、クロヒカゲ」
ティータイム(その18) 「微かに姿を顕したクロヒカゲ」
ティータイム(その19) 「不可解な普通種 ヒメジャノメ」
ティータイム(その20) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ ― 蝶の知的生活―」
ティータイム(その21) 「オオルリシジミを勉強する」
ティータイム(その22) 「集結時期のヒメアカタテハを総括する」
ティータイム(その23) 「毒蛇列伝」
ティータイム(その24) 「東京ヘビ紀行(付記 お島追想)」
ティータイム(その25) 「ヒメアカタテハやクロヒカゲの占有行動は交尾の為ではない(序でに、蝶界への疑問)」
ティータイム(その26) 「ヒメアカタテハの越冬と発生回数」
ティータイム(その27) 「鳩山邦夫さんの『環境党宣言』を読む」
ティータイム(その28) 「蝶の山登り」
ティータイム(その29) 「蝶の交尾を考える」
ティータイム(その31) 「今年(2019年)のクロヒカゲ」
ティータイム(その32) 「蝶、稀種と凡種と台風と」
ティータイム(その33) 「ルリタテハとクロヒカゲ」
ティータイム(その34) 「ヒメアカタテハ、台風で分かったこと」
ティータイム(その35) 「「蝶道」を勉強する」
ティータイム(その36) 「「蝶道」を勉強する 続き」
ティータイム(その37) 「ミツバチを勉強する」
ティータイム(その38) 「「蝶道」を勉強する  続き其の2」
ティータイム(その39) 「里山の蝶」
ティータイム(その40) 「岩手の蝶 ≒ 里山の蝶か?」
ティータイム(その41) 「遺伝子解析、進化生物学etc」
ティータイム(その42) 「今年(2020年)の報告」
ティータイム(その43) 「徒然なるままに 人物論(寺田寅彦、ロザリンド・フランクリン、木村資生、太田朋子)」


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