毒蛇列伝

                遠藤英實 作  目次  0  はじめに  1  生物の分類  2  ヘビの分類  3  毒蛇の定義  4  毒蛇の分類   @ 毒牙を用いた分類キー   A 毒液を用いた分類キー   B 分類キーによる毒蛇の分類  5  クサリヘビとは  6  毒蛇番付  7  毒蛇列伝  8  毒蛇マニア  9  毒蛇小説 10  毒・毒蛇の英単語 11  おわりに(種とは?) 0 はじめに 野山の散策の目的は、私の場合、 ・蝶を観察すること ・ヘビを見物すること である。 ヘビについては、嘗てウェブサイトに載せた。    「不思議なシマヘビの物語(野川で出会った“お島”)」    「”お島”ふたたび」 野川で出会った“お島”のような可愛らしいヘビには、その後会うことはなかった。 時々(やや旧聞になるが)原宿毒蛇事件を思い出す。 十年程前原宿のマニアが、飼っていた毒ヘビに咬まれ入院騒ぎを起こした。 何の変哲もない事件と思われたが、その飼っていた毒蛇が凄かった。 報道によれば51匹・34種、世界に冠たる剛の者連が犇めいていたのである。 (後段で詳述) 解説に先立って先ず、本、ウェブサイトからの毒蛇に関する付け焼刃の知識を披露する。 *************************************** 1 生物の分類 生きものは、 門>綱>目>科>・・(以下略) と細かく分類されていく。 数が多すぎる場合は更に、(例えば)亜目や亜科、 纏めたい場合は更に、(例えば)上科などを導入する。 例  脊椎動物門>爬虫綱>有鱗目(トカゲ・ヘビ目)>ヘビ亜目>コブラ科>・・    節足動物門>昆虫綱>鱗翅目>アゲハチョウ上科>タテハチョウ科>・・ ヘビとは、このヘビ亜目に属する「種」のことである。 *************************************** 2 ヘビの分類 ヘビ亜目は科に分かれる。 大きい科では、以下。   ナミヘビ科 (約1800種)、    コブラ科  (約300種)   クサリヘビ科(約230種)   ボア科   (約90種) ボア科は少数だが、ニシキヘビ、アナコンダ、ボアなどの大蛇の科だから良く知られている。 他にも沢山の科があるが、50種以下の弱小勢力である。 結局、総数は2700内外となる。 (なお上記の数は一例であって、人によって、科への区分も種の数え方も異なる。)> *************************************** 3 毒蛇の定義 以下が毒蛇と云われる。   ・「コブラ科の全て(ウミヘビも含まれる)」   ・「クサリヘビ科の全て」   ・「ナミヘビ科の一部」(20〜30種) 然らば、毒蛇の定義は? 毒蛇の定義としては、  a 毒液を生成し貯めておく毒腺があること。  b 毒液を相手に打ち込む毒牙があること  c 毒腺と毒牙を繋ぐ導管があること と云われていたが、今はa、bだけのようだ。 この定義によって、毒蛇数は600種弱ということになったわけだ。 もっとも、毒蛇は全て人にとって危険というわけではない。 小さいヘビ、口の小さいヘビ、人との接触があまりないヘビは安全ということになり、 危険なヘビは1/3位(200種位)と云われている。 *************************************** 4 毒蛇の分類 毒蛇の分類キーとしては、毒牙と毒液とが使われる。 @ 毒牙を用いた分類キー  a 前牙か後牙か   毒牙が口の前方にあるか、後方(奥)にあるかである。   勿論前にあった方が、相手に打ち込むのには都合が良い。  b 固定型か可動型か   固定型は屹立、固定されている。   可動型は、口を閉じている時は水平になっていて   口を開くと屹立する。可動型の方が牙を大きくすることが出来る。   体長2m位のガブーンバイパー(アフリカのクサリヘビ)は、   毒牙が5cm程にもなるそうだ。   サイトでご覧あれ。(相当強烈で可愛い。)  c 管牙か溝牙か   注射針のようになっていて内部を毒液が流れるのが管牙である。   外側の溝を流れるのが溝牙である。   管牙の方が相手に無駄なく毒液を打ち込むことが出来る。 A 毒液のタイプを用いた分類キー ヘビの毒液は、唾液が特化したものと云われている。 本来、唾液には殺菌作用、消化作用があるが、 この機能を獲物の捕獲と外敵からの防御とに使うわけだ。 毒液の性質から、以下の三つ(a、b、c)に分類される。  a 神経毒   脳からの指令をブロックする。   或る種の物質が、神経末端から筋肉へ移動して脳からの指令を伝えるのだが、   この神経毒はその物質の移動を妨害するのである。   その結果、(人間の場合だと)直接的な死因として以下の事態が生ずる。   筋肉が動かなくなる--->横隔膜が動かなくなる---->肺呼吸が止まる--->窒息死   だから、この毒の効き目は迅速且つ致命的である。  b 出血毒   そもそも消化作用を強力にしたのが蛇毒なのだから、勿論組織を破壊する。   血管、血液を破壊するから当然出血するし、   周囲の部位も破壊するから患部に酷い壊死をもたらし、強烈な痛みを伴う。   また、毒ごとにそれぞれ特定の臓器を攻撃することもある。  c IDC発症毒   血管には血小板が流れていて出血の時は、血小板の凝固作用によって出血を止める。   この毒はその血小板に作用して、(出血していないのに)血管内で血液を凝固させ血栓を作り出す。   その結果、逆に血行障害が起こり(=血が流れなくなり)、   やがて血管が破裂して全身から出血する。   この過程からも分かるように、この毒の効き目は緩いが致命的である。 B 分類キーによる毒蛇の分類 上記二つの分類キーを組み合わせると、以下のようになる。     コブラ科    :前牙、固定型、溝牙、導管あり 神経毒     クサリヘビ科  :前牙、可動型、管牙、導管あり 出血毒     ナミヘビ科の一部:後牙、固定型、溝牙、導管なし IDC発症毒 これでみると、クサリヘビ科が最も毒蛇のプロといえそうだ。 とはいっても、例えばコブラ科は神経毒のみというわけではない。 神経毒の割合が、他の毒に比べて大きいということらしい。 種によって圧倒的に大きかったり、ちょっと大きいだけだったり、なのである。 ナミヘビ科には導管がない。つまり、毒腺から滲み出た毒液が 後牙で切り裂かれた相手の組織に直接注入されるのである。 ナミヘビ科のヤマカガシは、毒牙が前にない(見えない)から、最近まで毒蛇とは思われていなかった。 私も子供の頃はヤマカガシと良く遊んだけれど、今思い浮かべると冷や汗がでる。 死者(殆ど子供か?)がでているのは、掴まえて遊んだ(苛めた)からのようだ。 その結果、後牙でがっぷり咬まれたのである。 東南アジアのヤマカガシの仲間(10種以上か)も毒性が強く、 例えばタイヤマカガシはしばしば咬傷被害が報告されている。 ヨーロッパヤマカガシというのがいるが、これは無毒と云われている。 名前だけ似ているが、近縁ではないのかな? (なおヤマカガシは、別の毒も持っているので注意!) *************************************** 5 クサリヘビとは クサリヘビ科が前段で登場したが、 多分大方の人には、クサリヘビは初めて目にする言葉ではなかろうか? 重要なキーワードなので、ここで触れておく。 簡単にいうと、コブラ科以外の毒蛇が、クサリヘビ科の毒蛇なのである。 (他に、極く極く一部のナミヘビ科の毒蛇。) クサリヘビ科は、 更にクサリヘビ亜科(70種)とマムシ亜科(130種)と(その他の小亜科)に分かれる。 マムシ、ハブ、ガラガラヘビなど、誰でも知っている毒蛇は全てマムシ亜科である。 両亜科の区別点は、主にピット器官の有無で、    クサリヘビ亜科は無し、    マムシ亜科は有り である。 ピット器官とは熱センサーであって、暗闇でもこれで獲物を追跡し外敵を察知する。 クサリヘビ科が毒蛇のプロ(=最も進化している)と前に書いたが、 更にマムシ亜科がプロ中のプロといえそうだ。 とは言っても、マムシ亜科が人間にとって最も危険というわけではない。 神経毒のコブラ科の方に凄いのが多いと云われている。 (何と云っても、人を窒息死させるのだから!) クサリヘビ亜科は、主にアフリカ、中東に分布し、 マムシ亜科は、アジア、北・中・南米に分布する。 ラッセルクサリヘビは台湾にまで分布しているが、こう云うのは例外的であって、 アジアは、やはりマムシ亜科が中心である。 オーストラリア、日本にはいない。 ヨーロッパの毒蛇は、ヨーロッパクサリヘビ、アスプクサリヘビなどクサリヘビ亜科だけで、 マムシ亜科もそしてコブラ科もいない。 このようにクサリヘビ亜科は遠方のヘビで日本に1種もおらず、 あまり有名なヘビもいないから、我々には馴染みがないのである。 しからば、数からいってもマムシ亜科が多数派なのから、 どうしてクサリヘビ“科”ではなく、マムシ“科”にしないのか? つまりクサリヘビも、マムシ“科”に含めてしまえば、 日本人もクサリヘビに対して、親近感が今よりは増すように思われるのだ。 (もっとも、“親近感”など不要という人も多いだろうけれど・・) クサリヘビ“科”にしたのは(つまりクサリヘビを主流にしたのは)、 ヨーロッパ人には、クサリヘビの方が馴染み深いからである。 何と云っても、分類学はヨーロッパ人が始めたのだ! とは云っても、クサリヘビ亜科にも面白いヘビは多い。 例えば後述のガブーンバイパーをYouTubeで見ていると、私は楽しくなってくる。 アフリカの砂漠には、砂の中に潜っているサハラツノクサリヘビ(その他、サソリもいるし)がいる。 だから、砂漠を裸足で歩くのは危険なのである。 映画「モロッコ」で、マレーネ・ディートリッヒが砂漠を裸足で走るシーンがある。 “あれは危険だ!”と講釈している学者がいた。(<――バカだな!) “結局、何処まで走ったんだ?”とビートたけし氏が書いていた。(数mか?) なお、「クサリ」は背中の鎖模様に由来する。(<−ラッセルクサリヘビ) (勿論、全てのクサリヘビ亜科に鎖模様があるというわけではないが。) *************************************** 6 毒蛇番付 番付を作るための指標を考えていくと限りがない。 @ 毒性の強さ(マウスの半数致死量) マウスを使っての実験結果である。 人に対しては不明であるが、全く関連がないということはないだろう。 そう云えば、クレオパトラは奴隷を使って毒物の効果を研究したと云われているが、 多分プルタルコスの法螺話だろう。 毒性の強さの上位を挙げる。
1 ベルチャーウミヘビ 9 インドアマガサヘビ
2 ラッセルバイパー 10 サハラツノクサリヘビ
3 イボウミヘビ 11 コースタルタイパン
4 インランドタイパン 12 タイガースネーク
5 ブラウンスネーク 13 パフアダー
6 ブラックマンバ 14 ガブーンバイパー
7 トラガラガラヘビ 15 カスカベルガラガラヘビ
8 ブームスラング 16 エジプトコブラ
     出典は各種サイトから A 毒の貯蔵量(毒腺に貯めている量) 体の大きさに関係するが、それで決まるというわけでもない。 また、貯蔵量よりは咬んだ(アタック)時の注入量が重要であるが、 それは貯蔵量、毒牙の大きさ、攻撃時のスピードが関係してくる。 私もナミヘビには良く噛まれ、皆、猛スピードの猛者連だったが、 マングースと闘わせると違いが分かるらしい。 貯蔵量の大きさの上位を挙げる。 前段とだぶっている種も多く、確かに“いずれ劣らぬ豪の者”揃いである。 とはいっても、皆、獰猛・攻撃的というわけではなく、 例えばガブーンバイパーは大層おとなしいらしく、見掛倒しなどと陰口を云われている。
1 ヒガシダイヤガラガラヘビ 9 クロクビドクハキコブラ
2 ガブーンバイパー 10 テルキオペロ
3 ニシダイヤガラガラヘビ 11 エジプトコブラ
4 インドコブラ 12 ラッセルバイパー
5 キングコブラ 13 デスアダー
6 ブッシュマスター 14 フェルデランス
7 コースタルタイパン 15 タイガースネーク
8 パフアダー 16 ブラックマンバ
      出典は各種サイトから B 体の大きさ(体長) やはり、素人に一番分かり易い指標は、体の大きさ(体長)ではなかろうか。 体長の上位の毒蛇を挙げる。
1 キングコブラ  5.5m  (コ) 東南アジア 10 ヒガシダイヤガラガラヘビ 2.4m (マ) 北米
2 ブラックマンバ  4.5m (コ) アフリカ 11 ニシダイヤガラガラヘビ 2.3m (マ)  北米
3 タイパン 4.2m (コ) オーストラリア,東南アジア 12 ハブ 2.3m  (マ)  日本
4 ブッシュマスター 3.5m (マ)  南米 13 タイガースネーク 2.1m (コ)  オーストラリア
5 クロクビドクハキコブラ 2.8m (コ)  アフリカ 14 パフアダー 2.0m (ク)  アフリカ
6 ブラウンスネーク 2.7m (コ)  オーストラリア 15 フェルデランス 2.0m (マ)  南米
7 エジプトコブラ 2.5m (コ)  アフリカ 16 カスカベルガラガラヘビ 1.8m (マ)  南米
8 テルキオペロ 2.5m (マ)  南米 17 ガブーンバイパー 1.8m (ク)  アフリカ
9 ミズコブラ 2.5m (コ)  アフリカ 18 ブームスラング 1.8m (ナ)  アフリカ
    出典は各種サイトから (注) 表内の先頭の文字は、以下。   (ナ):ナミヘビ科   Colubridae、 (コ):コブラ科  Elapidae   (ク):クサリヘビ亜科 Viperinae   (マ):マムシ亜科 Crotalinae これは記録されている最長データということであり、これ位が普通というわけではない。 また各種には、同じ位の長さの近縁種がいる場合が多いが、 そう云う場合は出来るだけ代表種を選んでみた。 つまり、各地域・各グループから万遍なく選んだ(選ぼうとした)。 だからこの順位は確たるものではないのだが、 先頭の4種(太字)が世界の毒蛇界、不動のビッグ4と云われていて、斯界に異論はないようだ。 (タイパンは近年2種になった。) こうして見ると、皆いずれ劣らぬ毒蛇界のスターである。 日本のハブも毒蛇としては大型である。 C 咬傷被害の大きさ 毒蛇の印象というのは、人の咬傷被害の大きさと結びついている。 咬傷被害と結びつく指標は以下である。  a 攻撃性(気の荒さ)   そのヘビの攻撃圏(体長の2〜3倍位)に入った時に人は襲われる。   遠くからわざわざ人に突進してくるヘビはいない。   攻撃圏に入った場合、    ・逃げないで必ず攻撃してくるヘビ、(カーペットバイパー等)    ・出来るだけ遣り過ごそうとするヘビ、(ガブーンバイパー)    ・成長段階、空腹の程度によって対応が異なるヘビ   いろいろ段階、対応があるようだ。   一般的に、ヘビは獲物に対してそれ程ガツガツしているわけではないようだ。  b 人との接触度    ・広い地域に分布しているヘビ、    ・個体数の大きいヘビ、    ・人の生活空間と重なっているヘビ、    これらが(当然ながら)、被害は大きい。   となると、東南アジア、アフリカ、中東、南米のヘビ、ということになり、   以下がリストアップされる。    東南アジア:カーペットバイパー、インドコブラ、インドアマガサヘビ、         ラッセルバイパー    中東   :カーペットバイパー    アフリカ :パフアダー、ブラックマンバ、ケープコブラ    南米   :南米ハブ各種(テルキオペロ、フェルドランス、ジャララカetc)、          カスカベルガラガラヘビ  c 口の大きさ   口が小さければ人を咬めない。コブラ科のサンゴヘビは猛毒だがほぼ無害らしい。   沖縄県のコブラも口が小さいから全く無害らしい。   被害がないから、殆どの人はその存在すら知らない。  d 血清の準備   咬まれたヘビに対応した血清を打たねばならない。   従ってヘビ毎に血清を準備しておかなければならないし、   また、咬んだヘビを同定(種類を確かめること)しなければならない。   例えば日本本土なら、マムシとヤマカガシの2種だけだから簡単そうだが、   アオダイショウに悪戯して咬まれても   “ドクヘビに咬まれた!”とSOSしてくるから結構大変らしい。   ペットの外国産毒蛇に咬まれた場合は、飼育者は当然種類は知っているだろうが、   果たしてその血清は日本にあるのか?   結局、ヘビに悪戯をするな! 毒蛇を飼うな! ということになる。   毒蛇の種類が多い外国は、日本などとは段違いに大変なのである。 ******************************************** 7 毒蛇列伝 これまでに述べられているヘビについて簡単に触れる。 これらについてはサイトが山ほどあるから、 引き続きいくらでも調べる(或は楽しむ)ことが出来る。
キングコブラ   (コ):インドや東南アジア産。毒蛇界の帝王。眼が凄い。 因みに、ヘビの名前に“キング”がつくのは「ヘビ喰いヘビ」を意味し、 「王様のように立派」の意味ではないようだ。 (もっとも、キングコブラは王様にふさわしい。) 或る研究所がヘビ毒を研究していて所員がこのヘビに咬まれた。 ストックしている全ての血清を打って一命をとりとめた。 キングコブラに咬まれて助かった唯一の人とか。 蝶界のミニコミ誌TSUISOに、昔プロの体験談が載っていた。 熱帯雨林を散策中、繁みでガサガサ音がする。 ヘビなら揶揄ってやろうと思ってちょっかいを出したら キングコブラだった。さぞや吃驚しただろうな!!
インドコブラ (コ):インド周辺。ヘビ使いが使っているヘビ。 フード(体を膨らます)や目玉模様で知られる。 目玉模様にはいろいろなパターンがあって可笑しい。
アマガサヘビ約10種 (インドアマガサ、 キイロアマガサ、 タイワンアマガサetc) (コ):インド、東南アジア、台湾に生息。 猛毒の持ち主として知られる。名前の由来だが、 台湾の“雨傘”に似ているからという説がある。 なおウミヘビもコブラ科に属するが、 アマガサヘビの先祖が海に進出していったと云われている。 だからウミヘビも毒蛇で、 ベルチャーウミヘビの毒は、ヘビ界(陸棲、海棲)最強とのこと。
ブラックマンバ (コ):アフリカに生息。 猛毒、長大、敏速、攻撃性、被害の大きさ、によって最も有名な毒蛇。 あまりに速いので、テレポーター(瞬間移動能力者)と云われている。 つぶらな瞳で人気がある。 抗毒血清が開発される以前は、このヘビに咬まれると、 およそ20分以内で確実に死に至ったそうだ。 これが、死への最短時間で、これより猛毒のヘビはいそうにもない。 (小説にはでてくるが)
エジプトコブラ (コ):アフリカに生息。 クレオパトラが自殺に使ったヘビと云われている。と云っても、エジプトには、他に然るべき毒蛇がいないからであって、別に根拠はない。 そもそも、「毒蛇による自殺」は、プルタルコスの創作ではなかろうか? (全く関係はないが)頼山陽も屈指の名文家と云われているが、 彼の「日本外史」は法螺話と云われている。 名文家というのはどうも筆力が、事実を凌駕・補完するらしい。 学者も、もっともらしい“専門用語”、数式が、内容を凌駕する。 例えば「ESSの理論」、あれは何だ???
ドクハキコブラ類 (クロクビドクハキ コブラ、リンガルスetc) (コ):アフリカ。 毒液を相手の目に吐き飛ばす。相当正確らしい。 アジアのコブラ類でも、こういう芸当をするのがいる。 クサリヘビ科にはいないから、溝牙に関係があるのか?
タイパン  (コ):オーストラリア、東南アジア 近年、インランド(内陸)とコースタル(沿岸)の2種に分かれた。 インランドタイパンが、陸棲毒蛇で最強の毒を有すると云われている。スピード豊かと云われるがおとなしいようで、 あまり被害はないようだ。
他のオーストラリア の毒蛇 (コ):オーストラリアの毒蛇 全てコブラ科である。 ブラウンスネークという猛者が、 郊外のピクニック家族の傍を通っていく映像を見たことがある。 また、死亡率トップのタイガースネーク(別種だったか?)が 絶滅危惧種になって今や保護されているというニュースを 読んだ記憶がある。 これがアングロサクソン流、万事筋金入りなのである。 オーストラリアから侵入してきたセアカゴケグモに 大騒ぎする日本とは大違いなのである。 デスアダーは、ズングリムックリしてコブラらしくない。 (コブラ科は概ねスマートである) デスアダーは、ツチノコのモデルと云われたことがある。 サイトでご覧あれ。
ブッシュマスター、 ヒャッポダ(百歩蛇) (マ):日本のマムシの親戚。 台湾のヒャッポダは体長1m程、 南米のブッシュマスターは3mを超すのもいるらしい。 日本のマムシは50cm位だから、それぞれマムシの兄貴分、大親分なのである。ヒャッポダは咬まれると百歩進まないうちに死ぬというのが名前の由来だが、勿論そんなことはない。 ただ、マムシの倍もあるのだから、 咬まれた際のダメージは想像を絶する。 ヒャッポダに足を咬まれながら病院にもいかず、 懸命に家の手伝いをしていた台湾の少女のドキュメンタリーを 読んだことがある。 両親は働きに出ている。自分が、一家を支えねばならぬ! たまたま現地を訪れていた日本の医師一行が足を切断して 命を救ったのだが、その少女は決して涙をみせなかった。 多分家族のことを考えて、泣く余裕もなかったのではなかろうか? 手術中はすぐ下の妹が、皆の面倒を見ていたそうだ。 ブッシュマスターは名前の通り“森の主で”、 3mを超す大マムシというのは想像を絶する。 おとなしいという説もあれば、 地域によっては攻撃的という説もあって、 茫漠としているのがいかにも“主”らしい!! 非常に稀な種のようで、プロでも見たことのある人は少ないらしい。
ラッセルバイパー (ク):台湾、東南アジア、インドに生息。ラッセルクサリヘビとも云う。 クサリヘビ科のヘビは背中の鎖模様が特徴なのだが、 確かにこのヘビはその典型。クサリヘビ科だから出血毒のヘビだが、 このヘビは神経毒も相当強いらしく、つまり始末が悪いのである。
カーペットバイパー (ノコギリヘビ) (ク):インド、中東、アフリカ。 威嚇する時に、ノコギリのような音(ジージー)をだす。 これはYouTubeで聞くことが出来る。 50cm位のヘビだが、猛毒で個体数も多く被害甚大。 カーペットのように目立たず、しかも逃げないから、 踏みつけたりしてガップリ咬まれるらしい。 インドでは、カーペットバイパー、インドコブラ、インドアマガサ、 ラッセルバイパーが、被害の大きい四大毒蛇と云われている。 毒蛇が多い地域では、ヘビの同定が大変だ。
ガブーンバイパー ライノセラスバイパー (ク):アフリカに生息。 ガブーンバイパーは2m弱、10kgの個体も確認されているから 相当大型である。 デブ、ユーモラスな顔、大きい口、大きい毒牙、おとなしい性格、 だから毒蛇マニアには垂涎のヘビなのである。 YouTubeで餌に喰いつく映像を見ることが出来る。 おとなしいと云っても、獲物に喰いつく時は流石に速い。 これが毒蛇!と実感する。 ライノセラスバイパーはニシキツノクサリヘビとも云われ、 カラフルな色彩で人気がある。 両者一緒に語られることが多いから、兄、妹を連想する。
パフアダー (ク):アフリカに広く分布する。 猛毒で個体数も多いから被害も大きい。 恐れられているヘビなのだが、不思議なYouTubeを見たことがある。 アフリカの草原でパフアダー(1.5m位か)とウサギが出会った。 するとウサギが猛然と攻撃し始めたのである。 ヘビの廻りを走り回って蹴飛ばそうとする。 ヘビも最初は応戦していたが、堪らず逃げだし木に登っていった。 ウサギはしつこく木の廻りを走っている。 これは何だ?子どもを必死に守っていたようにも思えない。 それに、例えばイタチ科のオコジョやイイズナなら(20cm位)、 ウサギがどんなに頑張ろうと、簡単に捻ってしまう筈である。 つまり、これがヘビの実力であると思う。 待伏せ攻撃なら人をも倒すけれど、 白兵戦ならウサギにも遅れをとるのである。 そう云えば、4〜5mのアナコンダが1.5m位のジャガーの餌食になっていた。ヘビは文字通り“蛇蠍”の如く嫌われているけれど、 こんなに弱いのだから何だか可哀想になってくるのである。 (確かに被害は大きいのだろうが・・)
ガラガラヘビ約30種( ニシダイヤガラガラヘビ ヒガシダイヤガラガラヘビ カスカベルガラガラヘビetc) (マ):北米、中米、南米に約30種生息している。 けれど、意外にも北米が中心なのである。北米には、 ニシダイヤとヒガシダイヤの共に2mを超す大物が頑張っている。 ガラガラヘビはrattle snakeと云われるが、 rattleは、日本の子どもの玩具ガラガラのことらしい。 YouTubeでその威嚇音を聞くことが出来るが、 私には“シャー”としか聞こえない。 西部劇では良く撃ち殺されていたけれど、 今ではどれも死屍累々といったところらしい。 南米ではカスカベルガラガラヘビ1種となる。 カスカベルは教会のベルのことらしいが、 御本尊はそんな可愛らしいものではなく、南米で恐れられている。 北米から、他のガラガラヘビはどうして進出しなかったのだろう? 進出しても後述のアメリカハブ達にブロックされたのだろうか? カスカベルガラガラヘビの進出成功の秘訣は? 興味は尽きないのである。
アメリカハブ約30種 (フェルドランス、 テルキオペロ、ジャララカetc) (マ):アメリカハブはヤジリハブとも云われる。 咬まれたというよりは槍で突かれたと思う程に強烈で (だから注入される毒量も多く)、しかも猛毒である。 中でも例に挙げた3種に咬まれると致命的らしい。 フェルドランスはフランス語で“槍の穂先”、 テルキオペロはスペイン語で“ビロードの絨毯”の意味らしい。 動かずじっとしている所に近づいて槍で突き刺されるわけだ。 日本のハブに近縁であるが、獲物の鼠を追って、 畑や人家の周囲に出没するのもハブに似ている。 因みに、日本のハブも英語で“lance-head snake=槍の頭のヘビ”。 こういうのが30種もいるとなると相当に恐い。 ガラガラヘビが1種だけなのは、彼らが立ちはだかっているからだろうか。 前述のTSUISOに、アマゾンを探検した蝶屋の話題がでていた。 深夜、毒蛇をズルズルと引きずってきたそうだ。 南米ハブか?南米ガラガラヘビか? それにしても、みんな良くやるのである。 こういう毒蛇を専門に喰らうムスラーナ(希少種)という無毒ヘビがいる。 ハドソンの「FAR AWAY AND LONG AGO」に幻想的な“黒いヘビ”が 登場する。私は、これは多分ムスラーナだと思っている。 結局、ハドソンはムスラーナを最後まで知らなかったのだろうか?
ブームスラング (ナ):アフリカ産のナミヘビ。 ナミヘビ科ではあるが、強烈な毒蛇として夙に名高い。 当然死者もでているが、これは飼育下の事故のようだ。 野外でも捕まえれば咬まれるだろうが、 スピード豊かだからとても捕まえられまい。 だから、(ヤマカガシ同様)安全な毒蛇なのである。 ナミヘビ科の毒蛇には他に、アフリカツルヘビや ペルークサリヘビモドキが知る人ぞ知る毒蛇なのだが、あまり情報がない。
ホンハブ (マ):日本固有種。 ハブは、ホンハブ、ヒメハブ、サキシマハブ、トカラハブの4種がいるが、 ハブと云えばこのホンハブを指す。 世界の有名な毒蛇に比べればやはり下位にランクされるが、 2m級というのは毒蛇の中では大きい方だろう。 毒性はマムシより劣るといっても、注入される毒の量は多いのだから、 やはり恐ろしい。 それにアメリカハブ同様、人家の廻りに出没するのがつらい。 ところが、年々減少して今や絶滅危惧種にもなりかねないとのこと。 オーストラリアの猛毒蛇タイガースネークと同じ運命とか。
******************************************** 8 毒蛇マニア 10年程前、原宿毒蛇事件というのがあった。 毒ヘビマニアが、飼っていた毒ヘビに咬まれ入院騒ぎを起こしたのである。 何の変哲もない事件と思われたが、その飼っていた毒蛇が凄かった。 以下、その51匹・34種のリストである。
クサリヘビ科 コブラ科 ナミヘビ科
1 ガブーンバイパー 1 トウブグリーンマンバ 1 ブームスラング
2 ラッセルバイパー 2 クロクビドクフキコブラ
3 パフアダー 3 アカドクフキコブラ
4 ツノブッシュバイパー 4 リンカルスドクフキコブラ
5 パレスチナクサリヘビ  5 オオドクフキコブラ
6 ムーアクサリヘビ 6 ブラックマンバ
7 タイクサリヘビ 7 ハナナガコブラ
8 ヌママムシ 8 ケープコブラ
9 アメリカマムシ 9 シンリンコブラ
10 メキシコハネハブ 10 パプアマルガスネーク
11 ヨロイハブ  11 ラフデスアダー 
12 シンリンガラガラヘビ 12 パプアデスアダー
13 セイブダイヤガラガラヘビ 13 ニューギニアタイパン
14 トウブダイヤガラガラヘビ 14 トウブブラウンスネーク
15 オレゴンガラガラヘビ 
16 クロオガラガラヘビ
17 ヒメガラガラヘビ
18 イワガラガラヘビ
19 ライノセラスバイパーと ガブーンバイパーの雑種
日本中の動物園、爬虫類屋が仰天したそうだ。 暇な折、これらのヘビをネットで検索して調べてみればその物凄さが良く分かる。 更にこのリストに、以下を加えれば、世界の毒蛇番付、横綱・三役の揃い踏みなのである。  ・キングコブラ(毒蛇の王様)  ・ブッシュマスター(南米のマムシの親分)  ・テルキオペロ、フェルデランス(南米の殺し屋)  ・ノコギリヘビ(旧世界の被害甚大なクサリヘビ) (実は前段で延々と毒蛇の解説をしたのも、この人物の物凄さを知って貰う為でもあった。  それだけでは勿論ないけれど。) この事件の捜査に協力した専門家のコメントが面白かった。  「皆元気で、良く食べる!」 ヘビは大層神経質である。ちょっと機嫌を損ねると、ハンストに入るのだそうだ。 それも当然で、獲物を呑みこんでいる最中に敵に襲われたら、ひとたまりもない。 ところが、件のヘビ連、皆元気で良く食べるのだ!  だから、このヘビ連、大事に育てられていたのだと思う。 (勿論いくら可愛がっても彼らは多分応えてはくれないだろうが・・) この事件の“被害者”の職業は、アルバイトとなっていた。 ロスチャイルドやフルニエ夫人のような大金持ちでは(多分)なかった。 アルバイト氏は、過酷な日常と幻想的な非日常との間を シームレスにそして目まぐるしく彷徨していたのだろう。 今般咬んだヘビはトウブグリーンマンバだったが、 もしブラックマンバやニューギニアタイパンだったら、 そのまま誰にも知られずあの世に旅立っていたと思う。 (なにせブラックマンバなら二十分で死亡とのことだから。) 彼にとっては、 “以って瞑すべし”だったのだろうか? ******************************************** 9 毒蛇小説 外国の小説は他にも読んでいる筈だが、あまり記憶がない。   a まだらの紐   ホームズ   b 雲をつかむ死  ポアロ   c 毒蛇の謎    フレンチ警部     捕り物帳色々  番外         蘊蓄(うんちく)を語る資格もないのだが、 aは、インドのヘビ使いにヒントを得て書いた小説だから、 “ヘビ学”的には箸にも棒にもかからない小説なのだが、 ホームズの短編では人気が高い。多分トップ。 bの毒蛇はブームスラングである。 被害者の死を急性心臓麻痺のように述べているが、これはデタラメである。 ブームスラングは、発症は遅く(数時間後〜数日後)、全身から出血して死亡する。 (多分、ヤマカガシと同じ。) cの毒蛇はラッセルバイパーである。これはデタラメな描写はなさそうだ。 だから下にa、b、cといく程正確なのだが、面白さから云えば、 私の場合(そして多分誰でも)上にいく程面白いのである。 “小説とはそんなもの”というべきか、 それとも“悪貨は良貨を駆逐する”というべきか。 なお、いろいろな“捕り物帳”にはマムシが死神の使いのように描かれている。 つまり、咬まれると即死! “荒唐無稽なオハナシ”と思っていたら、実際不思議な事件が起こった。 二十年前、地方の農協がマムシ酒用に生きたマムシを売り出した。 それを買った横浜の男性が咬まれて死んだのである。 「マムシに咬まれた!」と云って救急車を直ぐ呼べば助かったと思うが、 “体裁が悪い”と思ったのだろうか? 手遅れになってしまった。 これも全国ニュースになり、結局ヘビ全体を悪役にしてしまった。 ******************************************** 10 毒・毒蛇の英単語 英語はまぎらわしい。  @ 毒一般  a poison  毒一般。 b toxin   生物由来の毒。ヘビ毒、フグ毒、ボツリヌス毒素、etc c venom  咬んだり刺したりして相手に注入する毒。         ヘビ、サソリ、ムカデ、ハチ、イモガイの毒、etc  下にいく程、範囲が狭くなる。  A 毒蛇  なお以下は、英語名、通称であって学名ではない。  a snake :一般的に「ヘビ」。  b python :大蛇一般。ニシキヘビ、アナコンダ、ボアetc  c cobra :コブラ科のヘビの通称。特に(ヘビ使いに出てくる)インドコブラ。  d viper :ラテン語のvipera(毒蛇の意味)由来で、クサリヘビ科のヘビの通称       またクサリヘビ科の個々のヘビに使う場合もある。   例えば ラッセルバイパー、ガブーンバイパー等。  e adder :元々はヨーロッパクサリヘビ(ヨーロッパ唯一の毒蛇)の通称。   やがてクサリヘビ亜科一般に使われるようになった。例えばパフアダー。   つまり、=viperなのだが、オーストラリアのコブラの一種にも   “death adder”と名付けられていてややこしい。  f krait : コブラ科の中の、アマガサヘビ属の通称。  g serpent : 神話や伝説にでてくる大蛇、毒蛇に使うらしい。   B 追記 (以下は、以前読んだ雑本から。) だから「毒蛇一般」を指す場合は、 venomous snake が適当である。 ヘビに限らず学名はラテン語による記載と決められているのだが、 素材は神話、伝説、聖書、歴史上の有名人に因んでが多い。 例 アポロ、ヘラクレス、ナポレオンetc 勿論、記載者の知り合い、発見者、尊敬すべき人、好きな生きもの、 要するに何でも良いのである。   「新種」の発表時では、然るべき専門機関が審査し登録するというわけではない。  然るべき書式で、公に(誰でも読める形で)発表するだけである。 だから世界中の人がアクセス可能な学会誌などが望ましいのだろうが、 別に指定されてはいない。だから、いろいろ不都合も起きる。 (なお序で)   ・sea snake  :ウミヘビ(<――コブラ科)   ・rattle snake :ガラガラヘビ(rattleは玩具のガラガラのこと。) である。  ******************************************** 11 終わりに(種とは?) ヘビは世界に何種位いるのだろう? 私の本では、     2700種         1977年発行     2800種(種、亜種含めて)1999      3000種         2006 となっていた。        「2800種(種、亜種含めて)」というのが分からない。 (蝶の結果から類推して、2000種×10亜種=総20000亜種位になりそうな気がするから。) 本を読むと、 「ヘビの体の構造、習性、生理学的特徴、分布、出現時期などを勘案して、 種をあっちにくっつけたり、こっちに纏めたりして分類していく。」 のだそうだ。つまり、「分類していく作業そのもの」の前に、「分類のためのキーワード作り」、 更にその前に「キーワード体系の構成作り」、に悪戦苦闘しているように思われる。 (これなら私にも、分類作業の雰囲気が“何となく”イメージ出来る。) しかしそうだとすると、種、亜種の確定など難しい(不可能?)のではないか? 広大な時空を分割するようなものだから! (しかも、多数の時空を!) 実際ヘビ関連の本を読んでいると、解説者の、 「私の考えとは違うが・・」という記述にしばしば出くわすのである つまり、未だにいろいろな人がいろいろな事を云っているらしい。 種、亜種に限定して、私の素朴な疑問を述べたい。 同じ「種」でも地域によって違いがある場合、更に「亜種」に分ける。 だから同じ場所に、複数の亜種がいてはならない。 オオクワガタで、同じ樹に別亜種が棲んでいたというケースがあったらしい。 そこで、別種にしたらしいが、同一亜種にする方法もあったわけだ。 (もともと、せいぜい亜種違いの程度だったのだろうから。) 考えこんでいくと、やはり難しいのである。  だから亜種を記載する時は、 「国別」、「県別」、「島別」、「山別」等と、 場所を変えることになる。 勿論、常に変えねばならぬというわけではない。(同じと思うなら勿論変えない。) 例えば昔、蝶のベニヒカゲを山ごとに別亜種にしたプロがいた。 “やや丸みを帯び”、“やや赤味がかっていて”、“やや小型で” だって!! 当時ベニヒカゲは幾らでも採集出来たから、 比較してみて私達は呆れかえったものだ。区別なんて全く出来ないのである! 産地のラベルを一時的に隠して、“産地の当てっこ”をしたのだが、 皆、惨敗であった。 (蝶屋は権威に弱いから、学者の主張はすぐ定説になってしまうのである。 もっとも、最近では“鬱陶しいから纏めてしまえ!”ということになったらしい。) ライオンと象について分かり易い解説があった。(ヘビや昆虫は複雑過ぎる。) どちらもインドとアフリカに生息しているが、  ・ライオンは1種2亜種、  ・象はアフリカ2種インド1種の、計3種(各原亜種のみ) なのだそうだ。 つまり  ・ライオンは地域によって違いはあるが、たいした違いではない  ・象はかなり違う ということなのだろう。 言い換えると、  ・ライオンは、最近迄アフリカからインドまで連続的に分布していたが、   人間が分断してしまった。  ・象は、はるか大昔に(つまり人間の介入なしに)分断されてしまって最早元には戻れない ということなのだろう。 簡単に読むと簡単に理解出来るが、考えだすと答えは出ないのである。 例えば、ライオンとトラの交配にしても   子どもが産まれない---->産まれても直ぐ死んでしまう--->生き延びても孫が産まれない   ---->孫が産まれても数が増えていかない---->結局遠からず途絶えてしまう   ---->結局、異種であった。           或いは   子どもが産まれる---->幸い、孫も産まれてくれる--->個体数も増えてくる。   ---->結局、ライオンとトラは同種であった。           或いは   面倒だから、X学者が適当に“結論”を出す---->それに不満なY学者が別の結論を出す   ---->Z学者が・・ 切がないのである。 蝶にしても、    A地域と隣の    B地域   子どもが産まれる    B地域とその隣の  C地域   子どもが産まれる    A地域と離れている C地域   子どもが産まれない  こういうケースがあったらしい。 阿江 茂さんは、このことをカラスアゲハで確かめ、 結局、AとCのカラスアゲハは同種と判定された(判定した)。 然らば、以下のような“提案”も出てくるだろう。   -------------------------------------------------------------   始点の蝶と終点の蝶を繋ぐパスで、   「子どもが産まれるチェーン」が成立するパスが一つでも存在すれば、   その二つの蝶を同一種とする。   存在が確認されない間は、別種或いは未解決とする。   ------------------------------------------------------------- もっとも、誰もこんな検証作業を受け入れないだろう。 結局、個別に多くの論者の知恵、実験、経験によって ”何となく”決めていかざるをえないのではなかろうか。 勿論そのときは参加している各論者の力量が影響してくる。 例えば、阿江さんには抗いがたい。 《日本産蝶類標準図鑑 出版社 学研》  で編者代表は、恩師白水隆氏の考えを紹介している。    《地理的変異の場合、「同一か、異か」は、一種の哲学であり、     先生なりの地理的変異学というものを出されたかったと思われる》 と忖度している。 だから、自分たちがその哲学とやらを引き継いだと云いたいのだろう。 私もこの図鑑をみたが、そんな深淵な哲学なぞ何も感じなかった。 要するに、普通の図鑑である。(但し、写真の数は他の図鑑よりは多い。) 大体、殆ど時空を超えた蝶の変遷の歴史を、一人の人間が 或いは何人かの弟子筋が纏め上げて、一大哲学に出来ると思っているのだろうか? 編者は、  「日本のチョウ愛好家・研究家は、すべて白水先生の弟子といっても過言ではない。」  「ご尽力のおかげで・・そのアマチュア研究家とプロの研究者が協力して図鑑を編集できたことは   我々にとっても予想以上のことであり、白水先生にとっても、望外の喜びだと思われる。」 と述べている。 私自身蝶屋で、いろいろな人の著作を勉強させてもらっているが、 白水隆氏も、その一人ということである。 別に、白水氏をひたすら神の如く崇めているわけではない。 蝶屋はそれぞれ自分の経験、感想、疑問を持っているのである。 そのような読者に応えるのが本(図鑑)であって、 自画自賛とオーバーな卑下は品がない。
ティータイム(その1) 「不思議なシマヘビの物語 (野川で出会った“お島”)」
ティータイム(その2) 「ミノムシ 《皇居外苑北の丸公園の蓑虫》」
ティータイム(その3) 「ゴイシシジミ讃歌」
ティータイム(その4) 「空飛ぶルビー、紅小灰蝶(ベニシジミ)」
ティータイム(その5) 「ヒメウラナミジャノメの半生(写真集)」
ティータイム(その6) 「蝶の占有行動と関連話題」
ティータイム(その7) 「ヒメアカタテハの占有行動」
ティータイム(その8) 「オオウラギンヒョウモン考」
ティータイム(その9) 「ヒメウラナミジャノメの謎」
ティータイム(その10) 「コムラサキ賛歌」
ティータイム(その11) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ」
ティータイム(その12) 「”お島”ふたたび」
ティータイム(その13) 「オオウラギンヒョウモン考(再び)」
ティータイム(その14) 「謎の蝶 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その15) 「我が隣人 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その16) 「オオウラギンヒョウモン考(三たび)」
ティータイム(その17) 「姿を顕さない凡種、クロヒカゲ」
ティータイム(その18) 「微かに姿を顕したクロヒカゲ」
ティータイム(その19) 「不可解な普通種 ヒメジャノメ」
ティータイム(その20) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ ― 蝶の知的生活―」
ティータイム(その21) 「オオルリシジミを勉強する」
ティータイム(その22) 「集結時期のヒメアカタテハを総括する」
ティータイム(その24) 「東京ヘビ紀行(付記 お島追想)」
ティータイム(その25) 「ヒメアカタテハやクロヒカゲの占有行動は交尾の為ではない(序でに、蝶界への疑問)」
ティータイム(その26) 「ヒメアカタテハの越冬と発生回数」
ティータイム(その27) 「鳩山邦夫さんの『環境党宣言』を読む」
ティータイム(その28) 「蝶の山登り」
ティータイム(その29) 「蝶の交尾を考える」
ティータイム(その30) 「今年(2019年)のヒメアカタテハ」
ティータイム(その31) 「今年(2019年)のクロヒカゲ」
ティータイム(その32) 「蝶、稀種と凡種と台風と」
ティータイム(その33) 「ルリタテハとクロヒカゲ」
ティータイム(その34) 「ヒメアカタテハ、台風で分かったこと」
ティータイム(その35) 「「蝶道」を勉強する」
ティータイム(その36) 「「蝶道」を勉強する 続き」
ティータイム(その37) 「ミツバチを勉強する」
ティータイム(その38) 「「蝶道」を勉強する  続き其の2」
ティータイム(その39) 「里山の蝶」
ティータイム(その40) 「岩手の蝶 ≒ 里山の蝶か?」
ティータイム(その41) 「遺伝子解析、進化生物学etc」
ティータイム(その42) 「今年(2020年)の報告」
ティータイム(その43) 「徒然なるままに 人物論(寺田寅彦、ロザリンド・フランクリン、木村資生、太田朋子)」


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