ヒメアカタテハの占有行動
                遠藤英實 作


    
    T.はじめに
    U.観察地
    V.A地点の観察経過
       @ 2015-11-06
       A 2015-11-11
       B 2015-11-12
       C 2015-11-16
       D 2015-11-21
       E 2015-11-28
       F 2015 -11-30
       G 2015-12-26, H 2015-01-02
    W.まとめ


T 初めに

 占有行動について、具体的に観察してみようと思った。別掲(蝶の占有行動)にクロヒカゲ等
について簡単に記しておいた。これを、より詳細に観察しても良いのだが、登場する蝶が多すぎ
て落ち着いて観察出来ない。(40〜50匹)
 多摩川の遊歩道沿いに、ヒメアカタテハの占有行動を観察出来る場所がある。以前から知ってい
たのだが、周囲に散策者が多くてやはり落ち着いて観察出来ない。2015/11、やっと人影も
まばらになったので観察することにした。副作用(占有行動からの離脱リスク)がないのならマ
ーキング手法を使いたいのだが、採用しなかった。もし採用していたら(実際の観察経過から判
断して)すぐ逃げ去ったことと思う。(だから雌雄の別も分からない。)


U 観察地

 遊歩道沿い約1km、11月でも晴天無風の時は50数匹を数えることが出来る。探索幅を加味し
たら100匹は超えるだろう。この場所で2か所(A、B)を選んだ。

・A地点
 遊歩道の川の反対側が広場(草むら)になっている箇所がある。その境は概ね土手になっている
 のだが、一部(30〜40m)が3mくらいの壁になっている。北西から東南に伸びているので、
 北風を防ぎ西日が45度に照り付ける。だから特に晩秋は蝶には凌ぎやすいと思う。また傍に4
 〜5mの樹木があって、これが妙に目立つのだ。多分蝶も占有行動では、これを目印にしている
 と思う。この壁(右下図の赤色)とその前の草むら(右下図の青色)とが縄張りとして突出して
 おり、だから観察ももっぱらA地点で行われた。

・B地点
 ヒメアカタテハは遊歩道全体に散見できるのだが、A地点より下流500m位の草地(幅数十m)
 に半数以上がいる。だから草地内を通る小道(裸地)(右下写真のやや左側)では当然小競り合
 いを見ることができるのだが、如何せん継続性、反復性がないから“占有行動”の実感がわかな
 い。但し、時々面白い行動を見ることが出来る。
   
      
        A地点          B地点(小道=裸地に注目)


V A地点での観察経過

@ 2015-11-06

 この日は、15:07〜16:14迄観察した。概ね午後から占有行動は観察される。
 この日も既に始まっていたから、この観察は途中からの経過である。バトルは以下の通り。

        ・他のヒメアカタテハ 16回
    ・モンシロチョウ     2
    ・ヤマトシジミ       1
    ・イチモンジセセリ   1
        ・ハチやアブ      4
        ・人                  5
    ・カラス            1
        ・飛んできた落葉       2
    ・不明               7
         計           39回

 0.65回/分だが、かなり頻繁にこの場所を離れていたから(他の場所も調べていたから)、離脱
 回数はもっと多いだろう。だから多分、1回以上/分、つまり、1時間以上に渡って、1分間に1
 回以上の発着を繰り返していたことになる。
 迎撃対象について比較すると、

 ・同種のヒメアカタテハについては執拗である。例えば100〜200m位離れた林まで
  追いかけていって、1分位で戻ってくる。
  (分速200〜400m位か?人は早足で分速100m位だから、やはり速い。
  オリンピック選手は分速600mだが、本当はどっちが速いのだろう?)
  戻ってくると、大体同じような場所に止まる。だから占有者はただ1匹、追われる方も
  1匹であろうと思っていた。そうでなければ、3匹以上の同時バトルを目撃してもいい筈
  なのだ。ところがどうも違うようだ。(後述する)

 ・他の昆虫及び異物については、ダッシュして追い払うと瞬時に離れる(興味を失う)。
  単に、“近寄るな!”という雰囲気なのである。だからヒメアカタテハの占有行動に関して云
  えば「同種と別種とを区別している」と云えそうだが、他蝶では云えないだろう。例えば
  クロヒカゲは、アゲハ類を執拗に追い回すのである。

 ・人やカラスについては、“吃驚して飛び立った”という程度である。オオムラサキのように
  鳥を“迎撃する”わけではない。(それにしても、オオムラサキの話は本当だろうか?)

 ・落葉については後述。

 ・(この日のように)壁が好きな個体は、草むらには関心がなさそうだ。
  この観察期間を通して、「壁も草むらも自分の占有地」と主張する個体は1匹もいなかった。
  だから、この占有は探雌行動ではあるまい。単純に、壁というポイントを気に入ったのだ。
  探雌行動なら目の前の草むらの個体も一掃すると思う。

   
      
   ヒメアカタテハ同士のバトル1       バトル2
    
      
        バトル3            バトル4
    
      
        バトル5           バトル5続


V A地点での観察経過

A 2015-11-11

 前日まで曇天で、この日はやや回復した。14:37〜15:32迄観察。
 今日の縄張りは壁ではなく、その前面の草むらである。
 壁は空いているのに殆ど止まろうとはしない。
 偶に、壁の下部で休む程度である。だからこの日は、占有行動の観察というよりは、
 単なる草むらでの観察であった。
 帰宅後画像を眺めていて、不思議なことに気がついた。
 個体が途中から入れ替わっていたのである。
 画像を詳細に見るまで全く気がつかなかった。(2015-11-12項参照)
 途中動きがないので私はしばしばこの場所を離れた。
 多分その時に入れ替わったのだろう。
 その後バトルはないのだから、先住者は静かに去っていったのだと思う。
 その空いたスペースに、後任は静かにやってきたわけだ。
 画像を注意深く眺めなかったら、気がつかなかったろう。
 自然は我々をからかっているのである。“気がついたか?”と。

 15:32 消えていった。

B 2015-11-12

 曇天、13:48〜14:56 観察。
 (この日に限らず一般的に、快晴なら占有行動も活発、曇天なら不活発である。
 曇天ならその程度によって、不活発の程度も
 壁に止まったまま殆ど動かない――>草むらにのみ現れる――>全く現れない
 となる。
 以降、バトルの回数については省略し、注目事項について述べる。)

・注目事項1 草むらの個体

 草むらでは、1個体のみ目撃した。
    
     
        この日(11-12)の個体
        
     
            前日(11-11)の2個体

 拡大すればより鮮明に分かるのだが、前日の2個体とは異なっている。
 この日は多分1匹で過ごしていたように思うが、(或いは私が、気がつかなかっただけで)
 静かに代替わりしていたのかも知れない。(常に詳細な画像が撮れるわけではないから。)
 観察中は全く気がつかず、画像照合で気がつくというのは面目ないことである。

・注目事項2 壁の個体

 壁ではこの日も、2匹のバトルが繰り返されていた。ところが画像を点検したところ、占有側(つ
 まり壁に張り付いていた個体)は2個体であった。とすると、以下のどれかが起こったことにな
 る。

  イ 闘いの結果、それまでの占有者が敗れ去った。以後、新旧の闘いが続いた。

  ロ 占有者が静かに去って行って、その後に新占有者が現れた。
    旧占有者は、このポイントにその後関心を示さなかった。
    新占有者と新たな侵入者との闘いが始まった。

  ハ 空白の期間に新占有者が現れ、新と、戻ってきた旧や新侵入者との間で闘いが行われて
    いた。

 ロもしくはハのように思えるが、更に詳しく調べるには、原始的な画像チェックではなく、
 効率的なマーキング法に頼るしかない。但しこれは副作用が大きすぎる。
 要領良く行わないと、占有行動を乱してしまう。当面画像チェックでいくしかない。
 ところで、ロかハか?(私には、ロのように思えるのだが後述。)
 上で述べた如く、下の写真は別個体である。分かるだろうか?
 やはり、原始的な画像照合は捗らない。
      
     
     13:51(目撃時刻)         14:14(目撃時刻)

・注目事項3 睡眠か?

 この日、不思議な行動を目撃した。
 壁に止まっていた或る個体が全く動かないのである。
 直ぐ目の前を異物が飛んでいても全く反応しない。
 眠っているとしか思えないのだ。
 そのうち、別のヒメアカタテハが壁に止まった。
       
           
 右上が占有者、左下が侵入者   左下が様子を伺いに忍び寄る

 以下説明。

   @ 侵入者、1m位離れて止まる。占有者、全く反応せず。
   A 侵入者、20cmまで近づく。占有者、反応せず。
   B 私が撮影しようと近づき過ぎて、2匹共飛び立つ。
   C 占有者が侵入者を猛然と追い立てる。
   D 占有者帰還、そのまま静止。その後約10分程度観察。
   E その場を離れ、15時頃戻ると姿が消えていた。

 この占有者は過度の出陣で疲れ果て、眠っていたのだと思う。
 精根尽き果てながら、このポイントを守ろうとしたのだ。
   
 侵入者の行動も不思議であった。
 勢いよく飛び込んできてバトルを繰り広げた訳ではない。
 そっと近づいて様子を伺い、更にそろそろと近づいていった。
 私が驚かせて飛び立たせてしまったが、
 多分そのまま寄り添う積りではなかったろうか?
   (ベニシジミとキタテハの写真参照)

 占有者にしてみれば、
   「この快適なポイントを守りたい。そして、情に棹させば流される。」
 侵入者にしてみれば、
   「このポイントを奪いたい。されど、
    知に働けば負かされる。情にすがっても一蹴される。」
 というところのようだ。

 蝶にも状況に応じて、判断をする知能があるのだ。
 感覚器官への入力情報に対して機械的に反応するわけではあるまい。
 だから「蝶の運動モデル?」を作ろうとして、
 「距離」から、蝶の行動半径を計算しようとしたり、
 「蝶道」での移動を日射量等で決めるのはナンセンスであると思う。
    (光誘導ロボットじゃあるまいし・・)
 どうしてこうも無理やりつまらない数値、数式、グラフを捻り出すのだろう?

C 2015-11-16

 2015-11-06に、「落ち葉への反応=2回」と書いたが、
 この日は落葉の生理的サイクルらしく、絶えず落ちてくる。
 14:07、壁に登場した個体はどうしたか?

  イ 落ち葉を無視して、そのまま止まっていた。
  ロ やはり気にして、その都度飛び立った。

 ロであった。そして3分位で姿を消したのである。(確かに、絶えず飛び回っているのだから、
 これでは堪らない。)
 とは云っても、蝶に状況判断は出来ないというわけでもないだろう。
 近づく者が人か他蝶か他の虫か、などで行動を変えるのを、私は例えばヒメウラナミジャノメで
 観察している。(交尾中のヒメウラナミジャノメに蟻が近づいても無視するが、私が細い棒を近
 づけると直ちに飛び去る。)だからこのヒメアカタテハも落ち葉など無視すれば良さそうなのに
 そうはしなかった。このA地点での占有行動は、相当な緊張状態(=異常な精神状態)にあるの
 だろうか?耐えきれず直ちに退散してしまったのである。この後、このポイントを離れ、
 その後しばしば戻ってきたが結局ヒメアカタテハは現れなかった。
 
      
  木の葉に負けた個体(神経質?)


V A地点での観察経過

D 2015-11-21

・注目事項1 ルリタテハの登場

 この日は既にルリタテハが壁に止まっていた。ヒメアカタテハはまだいない。
 私は興奮した。
 名にし負う占有屋ルリタテハが、ヒメアカタテハに対して、
 どのようなバトルを繰り広げるのか?
 ところが、わずか数分で飛び去ったのである。
 この観察期間を通して、ルリタテハがこのポイントに再び現れることはなかった。
 考えてみれば、私はルリタテハの占有行動なるものをあまり見たことがない。
 立ち去りかねて同じ場所にウロウロしているのを目撃する程度なのだ。
 もっとも、ルリタテハもポイントによっては過激な行動を見せてくれるのかも知れない。
            
            
          すぐ消えたルリタテハ13:17 


・注目事項2  恭順?交尾拒否? 
                          
 珍しい光景を目撃した。
 この日は13:19〜15:08迄観察した。
 ヒメアカタテハ同士のバトルは計19回であったが、17回目の時に異変が起こった。
 壁に止まっていた個体が侵入者を迎え撃ったのだ。
 普通なら2匹縺れ合って彼方に飛び去るのだが、この時は侵入者が傍の樹木に止まったのだ。
 占有者も傍に止まった。
 2分位で占有者が飛び立ち、少し徘徊していたがやがて壁に止まった。
 侵入者も直ぐ飛び去った。
 侵入者は雌か?それなら、この行動は交尾拒否であろうがそれは考えにくい。
 雌がこんなポイントに突撃してくるわけもないだろう。
 然らば雄か?それならこの行動は「恭順の意」になるであろうが、
 蝶の雄間で、「恭順の意」なるものが有るのだろうか?
 有るとすると、蝶の雄間では、闘うか?逃げるか?謝るか?
 因みに、後日(12月4日)、交尾関連行動をB地点で目撃した。(右下写真)
 左上の雌(多分)が、逃げながら藪の陰に消えていった。
 これは、交尾拒否か?交尾前プロトコルか?
 そう云えば、私は未だヒメアカタテハの交尾を見たことがない。
 (他の草むらの蝶は殆ど見ているけれど。)
 確かに、“出会い”の後、藪の中に入って交尾してしまえば目撃するのは難しそうだ。
   
      
        交尾拒否? 恭順?       交尾関連行動(12:04)                  
       
E 2015-11-28

 14:25〜16:02 観察。(この日も、私はしばしばこの地点を離れていた。)
 ヒメアカタテハ間、3匹のバトル  2回
          2匹のバトル  19回
 
      
  16:02 この頃姿を消した
 
F 2015 -11-30

 13:47〜15:07観察。
 この日の同時目撃は、壁に2〜3匹、草むらに1匹であった。

・注目事項1 壁の個体

 これまでと違って壁を、中、左、右と使い分けているのである。中壁の個体が最も強く、左右を
 蹴散らしているように見える。つまり、先住効果によって、バトルになると、中壁の個体が左右
 の壁の個体(及び居るとすれば他の侵入者も)を蹴散らして戻って来るように見える。そして、
 左右の個体は、気付かれないように戻って来ておどおどしながら休んでいるように見えるのだ。
 ( B 2015-11-12 注目事項3 睡眠か? の項 参照。)
 ところ後日、写真を見ると分からなくなってくる。どう見ても、この日10匹以上が、壁に居つ
 いているようにも見えるのだ。(観察している限りは、どう見ても3匹なのだが。)
 とすると観察期間中は、数十匹がこのAポイントで国盗り合戦を行っている可能性がある。
 喧嘩しつつ巧妙にスウィッチしているに違いない。このタイムシェアリングの呼吸を確かめたい
 ものだ。
                           
     
     
     
       
   同一個体か?別個体か? 拡大してみるとどうも違うように見えるのだ。


・注目事項2 草むらの個体

 下図の草むらの個体は、ほぼ同一個体のようだ。この個体は壁には全く関心を示さない。
 とは云っても雌ではないだろう。雄が全く寄ってこないのだから。
 “草むらを好む雄”、“国盗り合戦に興味のない雄”としか言いようがない。
 そして、そのような雄がいて、何の不思議があろう。
  
      
      草むらの個体

G 2015-12-26

 A地点での目撃はこの日迄。



H 2015-01-02

 B地点での目撃はこの日迄。
 結局この多摩川周辺では、この日が“年度の終わり”ということになる。
 成虫越冬に入ったのか? 未来を子孫に託したのか?

 観察最終日なので、これまでの観察で気がついた点に触れる。

・注目事項1 A地点

 A地点の壁は、他種の蝶もお気に入りのようである。
 好みの度合いは蝶によって異なり、ヒメアカタテハは相当に強いということになる。
 だから大げさに“探雌行動”などと云う必要はないと思うのだが、
 このことについては後述。
   
     
    イチモンジセセリ        ルリタテハ
   
     
    ヒメウラナミジャノメ      ベニシジミ

 A地点の草むらには他に、
    モンシロチョウ、モンキチョウ、キチョウ、ヤマトシジミ、ウラナミシジミ、
    キタテハ
 がいる。
 キタテハはあまり壁には近づかない。
 二度ヒメアカタテハとのバトルを目撃したが一瞬の内に終わった。
 お互い、“極近くには近づくな!”という程度のようだ。
 ヒメアカタテハ同士では凄まじいバトルを繰り広げるが、この違いの理由を知りたいものだ。

・注目事項2 B地点

 B地点は、種類数は同じようなものだが個体数は格段に多い。下の写真左側は、上掲B地点写
 真内の小道=裸地に止まっているヒメアカタテハである。占有行動らしき行動をとることはとる
 が、中央の写真のようにすぐ他蝶と隣の草むらで仲良くなるので、あまり占有行動のイメージは
 しない。(それに継続性・反復性はほとんどない。)右側の写真は、同じ裸地内での一コマである。
 (ベニシジミとキタテハ。)可愛らしくて“解説”のしようがない。
 結局、ヒメアカタテハのA地点とB地点における行動の差は、執着度の差に帰着すると思う。

       
             
 占有行動中のヒメアカタテハ   仲良し二人組   仲良し二人組(ベニシジミ キタテハ)


 雁行という言葉がある。“竿になれ、鍵になれ!”と囃される。鵜も同じような渡りをする。
 
       
   鵜の“竿になれ!”  多摩川

 上の写真を撮っていた同じ頃、B地点の裸地の脇の草むらで、3匹のヒメアカタテハが面白い
 行動をとっていた。
 3匹が“竿になって”飛び回っている。そして、そのままの姿勢で着地し、また飛び回る。
 私が近づき過ぎてバラバラにしてしまった。
 裸地での占有行動のすぐ“お隣”では、このようなユーモラスな行動をとっているのである。
 そして、“仲良し二人組”も楽しめる。
 数式やグラフの“駆使”による“いろいろな仮説の検証”など、全くの絵空事である。
   
   
     
     3匹の、“竿になれ”     そのまま着地、また飛翔
                    
・注目事項3 ヒメウラナミジャノメ考

 A地点でヒメウラナミジャノメ♀を目撃したのは、11-28〜12-01である。ここより下流100〜200
 mでは11月初旬から目撃していて、H27-11-30に最多の2♂2♀となる。
 この一画の1♀がA地点迄遠征してきたのであろう。ヒメウラナミジャノメはあまり移動しない
 けれど、時々(特に♀が)このような移動を見せる時がある。ある程度数が多ければ移動の
 態様として面白いけれど、如何せん後続がない。またこの♀が更に上流を目指したのかどうかも
 分からない。(別の年には、更に上流の街中で♀を何度か目撃している。)
 (A地点ではなく)下流では、12-12に1♀を目撃している。
 但し撮影は出来ず、最終撮影日は12-09である。またこの年の野川での最終目撃日は12-07であった。
 だから12-12が、私の最も遅い目撃記録となる。
 いずれにしろ、ヒメと共に年を越したいものだ。

     
      11-30 ♂と♀

     
      12-09 ♂            12-09 ♀


W まとめ

 まとめと云っても、纏めようがないし、そもそも最初から纏める気もない。
 それでも観察してみると不思議な行動に気がついて面白い。

 a 占有行動は2〜3匹のバトルと思っていたが、意外に多くの個体が、自然にかかわってくる
   ようだ。つまり、一部の個体の特異な行動でもない。然らば、そのスウィッチのメカニズム
   は何か?

 b その地点への好みによって、その執着度も違ってくる。
   当然、気に入った場所は執着度も強く、他蝶(異物)に対して厳しく反応する。
   しからばどのような場所を好むのか?
   気象条件は当然としても、地形(目印)も重要ではないか。(<――ミツバチからの類推)

 c 厳しい対処に費やすエネルギーは、相当大きいのではないか?(日中、居眠りしているよう
   に見えた。)それなら、こういう行動には長くは拘われないのでは?
   つまりこの占有行動を、“探雌行動”という、生き物の根源的な行動には結びつけづらい。
   “探雌の効果”も殆どないのでは?(有ると云う検証は、私は読んだことがない。)

 d それ程執着していない場所では臨機応変に対応する。(喧嘩したり、仲良くなったり。)
   しかしこれは、“日常的飛翔”の範囲内ではなかろうか?占有行動のすぐ隣で
   楽しくスキップしているのである。やはり、“探雌行動”には結びつけづらい。

 e この観察の期間中、交尾は目撃出来なかった。
   ヒメアカタテハの交尾期間と今回の観察期間との関係は分からない。しかし、夏の終わり頃
   から個体数は増えていくのだから、この時期、交尾と無縁とは思えない。
   そもそも蝶の雄は、羽化から死ぬ迄、交尾のことを考えているのではなかろうか?
   だから、“探雌行動”は、云わば定型業務の筈だ。A地点での(若干アブノーマルな)
   占有行動が、“探雌行動”とは思えないのである。

 最後で締めくくる前に、「ハチの生態学」について触れたい。

          ** ミツバチの交尾について **

 女王バチが羽化すると、交尾はどうするのか?当初は同じ巣の雄バチと交尾すると考えられてい
 たが、これは種存続の摂理に反する。
 “どこか交尾場所があるに違いない”というので、各国は飛行機で追跡し、その場所を探し当て
 ていった。東京近辺なら、町田市付近の上空にその一つがあるらしい。近隣の巣箱から女王バチ
 や雄バチが集まってきて、うなりをあげて交尾飛行をするのだそうだ。その目印は、地形が重要
 らしい。(以上は、どんなハチ学の啓蒙書にもでてくる。)

          ** 終わり **

 交尾場所を問題にするのなら、このように(飛行機を使ってでも)ハチ学者はその場所を追及し
 ていったのである。これが「生態研究」というものではなかろうか。
 一方、蝶の研究者はどうか?
 蝶の生態研究に、三つの“学術用語”が良くでてくる。

     ・山頂指向性
     ・占有行動
     ・探雌行動

 例えば、“キアゲハは探雌行動のために、山頂に集まってきて、占有行動をとる。”etc
 先般も、アオバセセリに関して同じような主張の“論文”を読んだ。ところが驚いたことに、
 交尾の目撃は、唯1回だけなのだ。(案外大がかりな調査なのに。)
 すると疑問が湧いてくる。 

   ・ 山頂で交尾をしているのか? していないのか?

   ・ しているのなら、どうして目撃できないのか?していると確信しているのなら
     その交尾場所を探すべきではないか?(繁みの中とか。)
     山頂なら、それ程の手間ではないだろう。

   ・ していないのなら、その後どうするのか?空しく麓に帰って交尾するのか?
     筆者はそのことを、どのようにイメージしているのか?

   ・ そもそも、集まって来る山頂とそれ以外(麓など)での交尾回数の割合を
     筆者はどう考えているのだろう?
     確かに、キアゲハやアオバセセリは山頂に集まってくるが、麓での個体数の方が
     ずっと多いと思う。当然、麓での交尾回数の方がずっと多い筈だ。

   ・ この“唯1回の交尾”が筆者にとって、「検定有意性」の根拠になっているのだろうか?

 難しい専門用語やグラフを多用されても、ちっとも分からないのだ。
 要するに、アオバセセリの頭の中の“交尾願望”を難しい専門用語で“解析”しているように
 見える。

 私自身、アオバセセリには強い思い出がある。1960年初めまで、盛岡市に住んでいた。
 近くの山に好採集地があり、そこには時期になると必ずアオバセセリが飛来した。
 2匹(多くて3匹)がせわしなく一緒に飛び回る。そのうち姿を消しやがてまた飛び回る。
 休んでいたのだろう。ここでは採集する気にはならなかった。麓には立派な雌雄がいたから。
 スミナガシも麓の渓流沿いに沢山いた。それから50年後(数年前)、全く久しぶりにこの山に登
 った。驚いたことに、2匹が昔と全く同じように私を歓迎してくれたのである。これぞ、愛好家
 の本懐と云うべきか。(昔のことは覚えていないが、この二匹は雄であった。)環境も殆ど変わっ
 ていなかった。
 ところで、この2〜3匹は、本当に探雌行動なのだろうか?麓では雌雄が、(数多くとは云わな
 いが)いつも確認出来たのだ。どうして2〜3匹が、雌を探しにわざわざ400〜500mの山に登
 ってくる必要があろう? 
 その山頂指向性の故に50年間黙々と、一部の元気な雄が山に登って来ると思いたい。
 集団の中には、元気なグループが必ずいる筈だ。
 或いは、この山なら直線距離で1km、アオバセセリなら5〜10分だから、絶えず交代してい
 るのかも知れない。(<――ヒメアカタテハからの類推)



 〔戻る〕 




	ティータイム(その1) 「不思議なシマヘビの物語 (野川で出会った“お島”)」
ティータイム(その2) 「ミノムシ 《皇居外苑北の丸公園の蓑虫》」
ティータイム(その3) 「ゴイシシジミ讃歌」
ティータイム(その4) 「空飛ぶルビー、紅小灰蝶(ベニシジミ)」
ティータイム(その5) 「ヒメウラナミジャノメの半生(写真集)」
ティータイム(その6) 「蝶の占有行動と関連話題」
ティータイム(その8) 「オオウラギンヒョウモン考」
ティータイム(その9) 「ヒメウラナミジャノメの謎」
ティータイム(その10) 「コムラサキ賛歌」
ティータイム(その11) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ」
ティータイム(その12) 「”お島”ふたたび」
ティータイム(その13) 「オオウラギンヒョウモン考(再び)」
ティータイム(その14) 「謎の蝶 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その15) 「我が隣人 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その16) 「オオウラギンヒョウモン考(三たび)」
ティータイム(その17) 「姿を顕さない凡種、クロヒカゲ」
ティータイム(その18) 「微かに姿を顕したクロヒカゲ」
ティータイム(その19) 「不可解な普通種 ヒメジャノメ」
ティータイム(その20) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ ― 蝶の知的生活―」
ティータイム(その21) 「オオルリシジミを勉強する」
ティータイム(その22) 「集結時期のヒメアカタテハを総括する」
ティータイム(その23) 「毒蛇列伝」
ティータイム(その24) 「東京ヘビ紀行(付記 お島追想)」
ティータイム(その25) 「ヒメアカタテハやクロヒカゲの占有行動は交尾の為ではない(序でに、蝶界への疑問)」
ティータイム(その26) 「ヒメアカタテハの越冬と発生回数」
ティータイム(その27) 「鳩山邦夫さんの『環境党宣言』を読む」
ティータイム(その28) 「蝶の山登り」
ティータイム(その29) 「蝶の交尾を考える」
ティータイム(その30) 「今年(2019年)のヒメアカタテハ」
ティータイム(その31) 「今年(2019年)のクロヒカゲ」
ティータイム(その32) 「蝶、稀種と凡種と台風と」
ティータイム(その33) 「ルリタテハとクロヒカゲ」
ティータイム(その34) 「ヒメアカタテハ、台風で分かったこと」
ティータイム(その35) 「「蝶道」を勉強する」
ティータイム(その36) 「「蝶道」を勉強する 続き」
ティータイム(その37) 「ミツバチを勉強する」
ティータイム(その38) 「「蝶道」を勉強する  続き其の2」
ティータイム(その39) 「里山の蝶」
ティータイム(その40) 「岩手の蝶 ≒ 里山の蝶か?」
ティータイム(その41) 「遺伝子解析、進化生物学etc」
ティータイム(その42) 「今年(2020年)の報告」
ティータイム(その43) 「徒然なるままに 人物論(寺田寅彦、ロザリンド・フランクリン、木村資生、太田朋子)」


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