今年(2019年)のクロヒカゲ
                        遠藤英實 作 1 観察 2 考察  @ 雄の占有行動の意味  A クロシジミを考える 3 終わりに 1 観察 今年も生田緑地で観察した。 05・03 ♂   今年初めてクロヒカゲを目撃した。 **************************************************** 05・10 ♀                 ♂     共に地表で、休憩か吸水か? その後の観察でも、雌雄の羽化時期に差はないようだ。(確かでない) *************************************************** 05・13 15:20  ♂   桝形山で占有行動初目撃。 とは云っても、 間断なく観察していたわけではないから、 「雄の占有行動の時期は遅れる」と明確に主張しているわけではない。  とは云っても、 「雄も当初は交尾行動に集中して占有行動の方は疎かになっているのではないか」 とは思っている。 私は、占有行動は交尾行動とは関係がないと思っているから。 ************************************************ 05・20  ♂           ♀                ♀       ♂♀ペア      最後の♂♀ペアの写真が最も気に入っている写真である。 この後、繁みに入っていったから、これが交尾行動であろう。 こっそり笹藪等の陰で交尾をするのである。 ♂が眼を血走らせて♀を待ち構え、他の♂が来たら血相変えて蹴散らす わけではあるまい。 なお去年のレポートでも、同じような構図の写真を示している。 ************************************************ 05・22 ♀           ♀     ♂              ♂、樹上に逃げた     ♀は地表や繁み付近を徘徊していて高所には逃げない。 ♂は樹上高く逃げ去ることが多い。(必ずというわけではないが。) この習性が、♂の高所での占有行動と結びついているのではなかろうか? ************************************************ 05・23                 05・17          07・26 カナブンと一緒       雄、雌共に、樹液には目がない。 サトキマダラヒカゲと覇を競うが、体が小さくても遠慮はしていない。 その点、ヒメジャノメやヒカゲチョウは、サトキマダラヒカゲにやや遠慮があるようだ。 サトキマダラヒカゲは、あまり個体数は多いようには思えないのだが、 樹液には、湧いてくるように集まっている。 個体数が多いのか? 匂いに敏感なのか? それにしても樹液は魔法の泉である。 出したり止めたり自在に操れたら、現代の魔法使いだ。             ++++++++ 閑話 虫に記憶はあるか? +++++++++++   2012・8・30 オオカマキリ    サトキマダラヒカゲの翅の散乱   ゴマダラチョウの翅        樹液で思い出した。    「蝶には記憶があるか?」という論文を読んだことがある。    私の経験を述べる。    オオカマキリが樹液の傍に陣取って、近づいてくる蝶を屠っている。    観察していた人の話によれば、一昨日からいたらしい。    カマキリは普段は大木などにはいないから、    偶々獲物の群れをみつけて留まり、これ幸いと屠っていったのである。    少なくとも、三日間は記憶が残っていたわけだ。    これは、「カマキリには記憶がある」ことの証明と云えないか?    論文にはなりそうにもないけれど・・ ******************************************************* 5・25 桝形山地面 16・44     桝形山地面を♀が徘徊している。 やや離れた樹上に♂が占有しているのだが、互いには見えない。 それぞれ全く独自の世界のようなのだ。 つまり、♂が目敏く♀を見つけて襲いかかるようにはとても見えない。 やはり、配偶行動と占有行動は無関係と思う。 ************************************************                6・14 占有領域内の樹木の個体   占有領域内の草むらの個体      全体       先般、 「占有領域内で(或いは極近くの占有領域間で)、場所間の優劣はあるか?」 なる疑問を呈したことがある。 右側の全体図で、奥の樹木と手前の草叢にそれぞれ1匹ずつが陣取っている。 「手前」が時々「奥」を襲う。「奥」は撃退して、また元の位置に戻る。 これを時々繰り返している。 別の日でも喧嘩は行われるが、いつも「奥」が強い。 してみると、占有領域内での場所間の優劣は有りそうな気もしてくるのだ。 この場合は、奥が優位? 異なる(しかも近い)占有領域間の優劣もありそうだ。 なお、常に2匹の闘いというわけではない。 (云うまでもないが) 0匹、1匹、2匹、3匹と各パターンがあって、2匹、3匹の時に闘う。 3匹の時は、直ぐ2匹になってしまう。 どうも、曰く言い難い彼らのルールがあるようなのだ。     ここは3匹もいるから、俺は退散しよう・・ 他種の蝶とも闘う。 対クロアゲハ、カラスアゲハ、イチモンジチョウ、ダイミョウセセリ、連戦連勝だ。 もっとも、小さい蝶は無視することもある。見えないのか? アカボシゴマダラとは占有域の高さが違うので闘いにはならない。 どちらもスピード豊かな、いずれ劣らぬ猛者だが、やはりクロヒカゲの方が強そうだ。 路上でどういうわけか、クロヒカゲがクロコノマチョウを追いかけるのを目撃したことがある。 大きさは段違いなのだから、 蝶の強さはやはりスピードが決めてか と思いたくなるのだが、そうでもなさそうな例(他種間の)も散見される。 (例えば、モンシロチョウがアオスジアゲハを追い払う。) いずれ又。 ************************************************* 6・15   6・14日の写真の手摺部分に止まっている6・15の夕方のクロヒカゲである。 人がすぐ脇の遊歩道を通っても逃げない。 私がそっと突くと逃げるが、またすぐ止まる。ウツラウツラしているようだ。 もう帰れ!とばかり突くと、慌てて飛び立ち繁みに消えてゆく。 本格的な睡眠に入ったのである。 それまでは、夢と現の世界を彷徨っていたのである。 眼を血走らせて雌を待ち構えていたわけではないと思う。 誰がそんなことを云いだしたのだろう? 外国人かな? ******************************************** 8・3 ♀             ♀              ♀       ♂                  ♂       この日の写真を脈絡もなく載せた。 この蝶、案外雌が多いように思う。 それとも、雌は単に人目につきやすい場所にいるだけか? (雄は高所に直ぐ逃げるから。)       ++++++++ 閑話 樹液とハチ +++++++++++       樹液を巡っては、スズメバチと蝶は相性が悪いようである。       スズメバチは蝶を追い払う。       ところが甲虫は逃げない。        スズメバチとクロカナブン     カナブンとクロカナブン                                 クロカナブンは盛岡市の私にとっては、珍しい虫であった。       東京に来て初めて出会ったのである。(このように樹液で)       アオカナブンは故郷では珍しくはなかった。       野山に出かければ、一日二、三回は目撃出来たと思う。       樹液だけではなく、       (何と云っても光り輝く虫だから、)飛行中も十分目についたのでる。        だから、       “子どもの頃の最も印象的な虫は?”       と問われたら、躊躇なく 青カナブン!! と応える。       今では、東京でも盛岡でもこの虫は見かけない。         ++++++++  閑話 王者カブトムシ  +++++++++++                                                   久しぶりに、オニグルミの樹液で王者カブトムシに出会った。       体長10cmには届かないが、それに近いような気がした。       蝶友、郡司芳明さんを思い出した。       彼の部屋で、       10cmを越す外国のヒラタクワガタが、大顎を振り回して私を睥睨した。       郡司さんは、ケラケラ笑いながら、       「怖くて近づけませんよ!」       と云った。       どっちが強かったろうと、今感慨に耽っている。 2 考察 考察と云う程のものでもない。断片的な推測である。 @ 雄の占有行動の意味 巷の“研究”によれば、雄のクロヒカゲは午後(夕方)縄張りを作り、 雌の来訪を待つとのこと。(レック型というらしい。) 私にいわせれば、これは観察に基づかない空論(とも云えないダボラ)である。 5・25の観察では、雌は雄の占有域近くにきているのだが、 とても雄から見える場所ではない。 雌は至る所徘徊しているが、これも単にその一環と思う。 つまり、占有域近くも占有域以外も雌は同じように徘徊しているということだ。 然らば、雄の占有行動の意味は何か? 私は、 「その日の活動を終え、気に入った場所で寛ぐ行動である」 と思う。6・15の観察がそれを示している。 「それにしては、凄まじい排他行動を行っているではないか!」 と反論されそうだが、 「寛ぎの場所を死守する!」ということで良いのでは? 2匹が場所を巡って争っている光景を頻繁に目にするが、 強い方の雄の場所が、交尾に好都合というわけではない。 そもそも、雌なんぞ来ないのだから。 私は、他レポートでヒメアカタテハについて報告している。 やはり凄まじい排他行動を行っていたが、 真冬となり、その場所から(そして多分この世から)いつの間にか姿を消した。 おそらく交尾することもなく・・ クロヒカゲの場合は、 その占有域にいつ迄留まっているのかは分からない。 (大体、高い場所を占有域としているから。) ただ、他の場所で目撃されなくなっても、 占有域では遅い時期まで目撃されることが多い。 つまり、ヒメアカタテハと同じように その占有域から(従ってこの世から)姿を消していくのだと思う。 盛岡市では、雄の占有行動を未だ目撃していない。 鬱蒼とした森の小道にちらほらいるのだから、見つけられないのも無理はない。 それともこの地では、占有域なんぞはそもそもないのか? (確かに、なければなくても良いような気もする。) 徹底的に探してみたい気もするが、時間もなくなってきた・・ A クロシジミを考える クロヒカゲとクロシジミを比較するのは、 いかにも素人くさいのだが(実際私は素人ではあるのだが)、 真面目に語る。 山田線(盛岡と宮古・釜石とを結ぶ鉄道)は、今や気息奄奄であるが、 1950〜1960年は快調であった。 任意の駅で降りて散策すれば、十分蝶を楽しめた。 或る場所にクロシジミがいた。 ところが、いつも雌ばかりなのである。 彼らは所在なげに彷徨っていた。 吸蜜か、産卵か? 或る日、蝶友から情報を得た。 「雄は、樹のてっぺんにゼフのようにいる。」 と。 大分離れた場所であったが、高いしすばしこいしで、結局採れなかった。 あまり追及もしなかった。 「雌だけでいいや!」 その時、不思議に思った 雄と雌とで、どうしてこんなに離れて棲んでいるのだろう? 交尾はどうするのだ? 今ウェブサイトをみると、交尾は案外目撃されているようである。 (ススキの葉上などで。) つまりクロヒカゲのように、笹薮の忍者ではなかった。 両者の中間的な場所で交尾をしているのである。 クロヒカゲは、雄も雌も路上や草むらで良く見かけた。 雄は午後から、高所に移動するのである。(勿論移動しないのもいるだろうが) それに反して、クロシジミの雄は路上では全く目撃したことはなかった。 雄雌まるで別種なのである。 当時クロシジミの特異な生態について知識はなかったけれど、 異様な印象を持ったものである。 想像するに、クロシジミは、 羽化は雌雄同じ場所だろうから、交尾は直ぐ出来る。 その後、雌は産卵の場所探しに出かけ、 雄は独自の世界に埋没する。 クロヒカゲよりも、もっと変わっているのではないか? もっとクロシジミについて、勉強していれば良かったとつくづく思う。 当時はひたすら採るだけだった。 勉強したくても、今はもういない。 3 終わりに クロシジミのいた場所は、今では珍しくなった(或いは絶えた)蝶が沢山いた。 この地は、川に沿って林道が走り、反対側は森、草原、畑であった。 典型的な里山といいたいが、線路に沿って延々と続くのだから スケールが大きすぎる。 曾て一体誰が、この里山の保全をしていたのだろう? 住民(殆ど農民)か? 自治体か? 国(農協)か? いずれにしろ、全住民〜国が、この里山の保全に携わっていたであろうから、 (意図しなかったにせよ)蝶の保全も自然に為されていたわけだ。 今は? そもそも人が殆ど住んでいない(住まなくなった)のだから、蝶も保全されない。 その代わり、多くの蝶は「緑と光の園」へ移動していったのである。 これは、       「鳩山邦夫さんの「環境党宣言」を読む」 で書いた。 それでも、移動できない蝶もいたと思う。 彼らは滅びていったのである。 脈絡もなく取り上げてみる。 ツマジロウラジャノメ 前記クロシジミの近くに、ツマジロウラジャノメが棲んでいた。 この蝶の食草は、崖に生えるヒメノガリヤスである。 50、60年前、崖崩れ防止として、道路沿いの崖の工事が始まった。 崖にはネットが張られ、ツマジロウラジャノメは一掃された。 それでも私は安心していた。 工事が終われば、またこの蝶も復活する! と。 どうして、このような呑気な事を考えていたのだろう? 結局、この場所から(そして他の2ヶ所から)、永遠に姿を消したのである。 蝶を捕まえ標本にして悦に入ったとて、 この程度のお粗末な“自然観”なら、犠牲にしてきた多くの蝶に合わせる顔がない。 ヒメノガリヤスを別の崖地に移せば良かったのに! 飼育して成蝶を新しい崖地に放せば良かったのに! この程度の考えも頭に浮かばなくて、 蝶愛好家を気取っていたのは慚愧の至りであった。 ヒョウモンチョウ ゴマシジミ 森の中に点在する草原に、これらの蝶は弱々しく翔んでいた。 当時から、その弱々しさの故に生存を危うんでいた。 その後私は上京したが、やがてこの地の蝶屋から、 「もう見かけない!」という連絡があった。 多分、全線で姿を消したのではなかろうか? 私は、排気ガスと砂埃と跋扈する笹薮と大木高木化とに 追われたと思っている。 そして移動したくても飛翔力がない。 新しい土地への適応力もない。(多分) 結局、危惧した通り滅びてしまった。 ホシチャバネセセリ チャマダラセセリ 小さい! 目立たない! すぐ草むらに隠れてしまう! それでも年2,3回は目撃出来たけれど、あまり魅力を感じなかった。 一風変わった蝶屋がいて、 「これらの蝶に魅力を感じないのは、本物の蝶屋ではない!」 と宣うた。それでも、感じないものは感じない! 殆ど無視した。 やがて、この蝶も滅びた(と思う)。 「存在の耐えられない軽さ」という哲学的小説があった。 どういう訳か、あの蝶とあの蝶屋を思い出してこの本を買った。 結局途中で読むのを止めたけれど、 今でも、あの蝶に“哲学的な”イメージをもっている。 ヒョウモン類 当時、ミドリヒョウモン、ウラギンヒョウモン、ウラギンスジヒョウモン、メスグロヒョウモンは 凡蝶であった。(オオウラギンスジヒョウモンはやや稀種、クモガタヒョウモンはやや特殊) 特に前3者は軽んじられたが、今ではこの地でもめっきり減った。 特に、ウラギンスジヒョウモンは完全に姿を消したのである。 彼は、環境の悪化に敏感なのだろう。 そして別環境にも要領よく順応していく器用さも持ち合わせなかったと思う。 盛岡市に帰省するたびに、探し求めて やっと一カ所見つけた。盛岡市内に! 他のヒョウモン類と一緒に、楽しげに吸蜜していた。 ところが他の場所には彼だけいないのだ! 食草の関係? 天敵の関係? (まとめて)種としての弱さ? 蝶は何百年前〜、何千年前〜から分布を拡げ、 そしてこの地にも棲みついていたわけだ。 それがせいぜい数十年の環境の悪化で、滅びるものだろうか? 新天地を目指しているのではない。 日本中から姿を消していくのである。 結局分からない。 分かっているのは、“進化生物学者”だけだ〜〜〜 ティータイム(その1) 「不思議なシマヘビの物語 (野川で出会った“お島”)」
ティータイム(その2) 「ミノムシ 《皇居外苑北の丸公園の蓑虫》」
ティータイム(その3) 「ゴイシシジミ讃歌」
ティータイム(その4) 「空飛ぶルビー、紅小灰蝶(ベニシジミ)」
ティータイム(その5) 「ヒメウラナミジャノメの半生(写真集)」
ティータイム(その6) 「蝶の占有行動と関連話題」
ティータイム(その7) 「ヒメアカタテハの占有行動」
ティータイム(その8) 「オオウラギンヒョウモン考」
ティータイム(その9) 「ヒメウラナミジャノメの謎」
ティータイム(その10) 「コムラサキ賛歌」
ティータイム(その11) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ」
ティータイム(その12) 「”お島”ふたたび」
ティータイム(その13) 「オオウラギンヒョウモン考(再び)」
ティータイム(その14) 「謎の蝶 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その15) 「我が隣人 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その16) 「オオウラギンヒョウモン考(三たび)」
ティータイム(その17) 「姿を顕さない凡種、クロヒカゲ」
ティータイム(その18) 「微かに姿を顕したクロヒカゲ」
ティータイム(その19) 「不可解な普通種 ヒメジャノメ」
ティータイム(その20) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ ― 蝶の知的生活―」
ティータイム(その21) 「オオルリシジミを勉強する」
ティータイム(その22) 「集結時期のヒメアカタテハを総括する」
ティータイム(その23) 「毒蛇列伝」
ティータイム(その24) 「東京ヘビ紀行(付記 お島追想)」
ティータイム(その25) 「ヒメアカタテハやクロヒカゲの占有行動は交尾の為ではない(序でに、蝶界への疑問)」
ティータイム(その26) 「ヒメアカタテハの越冬と発生回数」
ティータイム(その27) 「鳩山邦夫さんの『環境党宣言』を読む」
ティータイム(その28) 「蝶の山登り」
ティータイム(その29) 「蝶の交尾を考える」
ティータイム(その30) 「今年(2019年)のヒメアカタテハ」
ティータイム(その32) 「蝶、稀種と凡種と台風と」
ティータイム(その33) 「ルリタテハとクロヒカゲ」
ティータイム(その34) 「ヒメアカタテハ、台風で分かったこと」
ティータイム(その35) 「「蝶道」を勉強する」
ティータイム(その36) 「「蝶道」を勉強する 続き」
ティータイム(その37) 「ミツバチを勉強する」
ティータイム(その38) 「「蝶道」を勉強する  続き其の2」
ティータイム(その39) 「里山の蝶」
ティータイム(その40) 「岩手の蝶 ≒ 里山の蝶か?」
ティータイム(その41) 「遺伝子解析、進化生物学etc」
ティータイム(その42) 「今年(2020年)の報告」
ティータイム(その43) 「徒然なるままに 人物論(寺田寅彦、ロザリンド・フランクリン、木村資生、太田朋子)」


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