コムラサキ讃歌
                遠藤英實 作  0 初めに  1 コムラサキ讃歌      (写真集@〜F)  2 終わりに  3 追記(オオムラサキはカラスを撃退するか?) 0 初めに 去年(2015年)まで、 ヒメウラナミジャノメの個体数をせっせと数えていたが、 やがて、段差のある道の上り下りでは、呼吸が続かなくなってしまった。 (平坦な道なら、今まで通りいつまでも歩けるのだけれど。) 結局ドクターストップがかかってしまった。残念だ! 去年までは、(ヒメのカウントの為)下ばかり見ていた多摩川の遊歩道を、 今年はあちこち見ながら歩いていると、 樹上からコムラサキがこちらを見物しているのに気がついた。 鈴なり!とは云えないけれど、案外数は多い。 見物衆は十数匹、個体数はその倍か? これは面白い!    「人間、至る所青山在り」 とは良く云ったものだ。 今年からは、こちらを楽しもう! ヒメについては、未だ書き足りない項目がある。  a 数え方  b 交尾目撃回数 aは、要するに「ひたすら数えるだけ!」である。 我が蝶友は「ヒメのカウントなんて不可能だ!」と云ったけれど、 私の駄文《ヒメウラナミジャノメの謎》を読んで、 ヒメの生態のイメージが湧いてくれば、案外難しくはない。 bは、《交尾回数》ではなく、《野外での交尾目撃回数》である。 飼育下(屋内)の《交尾回数》なら、 いろいろな蝶での観察結果が示されているが、 勿論野外では不可能である。 だから野外では《交尾目撃回数》となるのだが そのうち大雑把な計算をしてみたい。 1 コムラサキ讃歌    高き梢の 葉先に    てふてふ集い 覇を競う    その名も粋な 小紫         写真集@    つばくろ掠めて 飛び去れば    負けじとばかり 後を追う    つばくろ莞爾と 微笑んで    汝の飛翔に 意気地あり    永く交誼を 結ぶべし        写真集A            からす頭上に 飛来して    敵こそ至れと 飛び立てば    からすかんらと うち笑い    汝の勇や  壮ならず    匹夫の勇の 誹りあり    燕雀どもを 友として    甘き樹液に 食らいつき    野に臥すべしと 嘲笑う       写真集B    滾る怒りを 如何にせん    空を仰げば つばくろの    仲睦まじき 餌渡し    追いつ追われつ 転びつつ    夢に遊ぶや 影二つ         写真集C    この世に一度 生をうけ    伴侶望まぬ ものはなし    先ず為すべきは 我が威容    はらから共に 示すべし    かくて大空 駆け巡り    蹴散らすはらから 数知れず     写真集D    夕闇迫り 風も凪ぎ    塒にいそぐ 鳥の群れ    されど我が身を 見てあれば    寄り添う姿 更になく    たった一つの 影法師    夫れ 寂寞の 憂いあり       写真集E    Tomorrow is another day !    スカーレットの 名台詞    てふてふどもに 聞かせなば    欣喜雀躍 勇み立ち    明日への糧と するならん    あれやこれやと 思いつつ    家路につくこそ 楽しけれ      写真集F 2 終わりに クロヒカゲ、ヒメアカタテハ、コムラサキ、アカタテハ等の占有行動を観察した。 その目的(例えば交尾の為に集まって来るなど)については、 結局分からない。 考えてみれば、生き物の行動なんてそう簡単に分かる筈もない。 何故に難しいのか? @ 蝶の種によって、占有行動の形態が全く異なる。  例えば、  ヒメアカタテハやコムラサキについては駄文を書いたが、  アカタテハは、また全く異なる。  風来坊のように現れ、その日のうちに、或いは2〜3日経って姿を消す。  その場所に執着していないように見えるのだが、偶々同種が来ると凄まじい。  竜巻のようなバトルを繰り広げる。  つまり地表から竜巻の如く舞い上がり、樹冠に消えていく。  雌などどうでも良い。ただ喧嘩がしたいようにみえるのだ。  別の日、この同じスポットにヒメアカタテハが登場したことがある。  すると、更に一匹が現れてやはり竜巻バトルを演じた。  占有行動の形態は種によって異なるけれど、環境が同じにしてしまう。  ダイミョウセセリにしてもそうだ。  クロヒカゲと同じ場所では“クロヒカゲ的占有行動”を取り、  アオバセセリと同じ場所では“アオバセセリ的占有行動”を取る。 A クロヒカゲ達は、お気に入りの場所(縄張りの集合)を作り、  その場所に交尾のために雌雄が集結すると云われている。  ところが、例えばあの広い生田緑地(川崎市)で、  この縄張りはたった2か所なのだ。(私が調査した限り。)  つまり大多数の個体にとっては、こんな縄張りなどどうでも良いのである。  周辺にいる個体にとっては、魅力があるのだろう。  盛岡市のクロヒカゲの、ある生息地では結局一つも見つけられなかった。  あってもなくても良いのである。  「あってもなくても良いのだが、どういうわけか在る」  という現象(例えば“蝶道”)の解明は難しいように思う。 B 蝶の雄と雌とでは、後半の生きていく目的が違う。  雌は交尾後の重要な仕事は産卵であろう。  複数回交尾する種はあるにしても、基本的には1回すれば、  もう交尾などしたくないのである。  草原性の蝶を観察すれば良く分かる。  つまり雄は邪魔なのだ。  一方、雄は交尾以外にやることはない。  だから、雌が雄に協力して、縄張りとそこでの占有行動に参加し続ける  というのは考えづらい。  ところがこの占有行動は、例えばクロヒカゲの場合、  発生期間の終わり頃まで活発に為されているのである。  だから、これは雄だけの“安らぎの空間”と考えた方が良さそうだ。  休憩したり、威張ってみたり、雌を待ち焦がれたり・・  雌にしても、利用したい時は利用する。  雄の心情など、毫も斟酌しない。 クロヒカゲが、夕方縄張りで静止していた。 傍を人が通っても微動だにしない。1時間後位に戻ってきて、 ちょっと突くと慌てて飛び去っていった。 どうやら休憩していたようである。 (当然のことであるが)いつもいつも雌のことばかり 考えているわけではあるまい。 閑話1   ミツバチの場合は、交尾場所に集結し、  一度交尾した雄は死んでしまうからすっきりしている。  ところで、女王バチはその場で複数の雄と交尾するらしい。  つまり、一つの巣には父親違いの派閥があるわけだ。  そして、“派閥争いをしているという説”を読んだことがあるが、  どうやって、「生物学的検証」をしたのだろう?  それとも、“数式の駆使”でお茶を濁したのだろうか?  (単なる引用記事だから出典は知らない。) 閑話2  数式に不慣れだと、以下のような“論文”には弱い。  “クロヒカゲの雌雄の駆け引き”を  “ゲームの理論で解析した論文”があるらしい。  「ゲームの理論」というのは、普通に理解すれば、  フォン・ノイマン〜ナッシュの大数学理論のことだろうが、  これを、クロヒカゲの生態研究に応用した???  私もクロヒカゲには興味をもって観察しているが  「クロヒカゲの雌雄の駆け引きに関するデータ」  (= 出会って交尾した、交尾拒否した、きれいに分かれた、一方が未練がましく  追いかけた、云々)の入手など、未だに皆無なのである。  つまり、「ゲームの理論」に限らずどんな理論の応用も、“夢のまた夢”なのである。  そのうち報告したい。 3 追記(オオムラサキはカラスを撃退するか?) 写真集にもあるように、コムラサキは鳥を“撃退する”のである。 勿論、“撃退する”はオーバーである。 (私の見聞の限りでは)樹冠を鳥が掠めるように飛ぶと 慌てて追いかけるだけである。 鳥は、もっぱらツバメで、たまにカラスである。 スズメやムクドリも見かけるのだが、 どういうわけか追いかけるのを見たことはない。 ツバメは余裕綽々、子どもを相手にしてように見える。 何といっても、スピードが違うのだから。 それにしても、この時のツバメの心境を知りたいものだ。 カラスの場合は、そもそも自分が追尾されているのを 認識しているかどうかも、傍から見ている限り疑わしい。 (勿論、カラスは頭が良いからちゃんと認識しているだろうが。) なお、ツバメとの遭遇は数十回、カラスとの遭遇は数回、 デジカメで挑戦したが、成果は写真集の通り。 これが、私のデジカメ撮影技術のレベルである。無念! 此れまでの蝶と鳥とのバトルを思い出してみた。 最近観察した蝶は、 コムラサキ、ヒメアカタテハ、アカボシゴマダラ、ゴマダラチョウ、 アカタテハ、ルリタテハ、キタテハ、クロヒカゲ。 このうち鳥とのバトルを目撃したのはコムラサキのみである。 これは意外であった。 オオムラサキについては思い出せないが、 図鑑などには必ず書かれているのだから、あるのだろう。 それにしても、“撃退する”という記述はオーバーである。 仮に、オオムラサキが突進していっても、 ツバメは遊び半分で急カーブする筈だ。 ツバメは速い! オオムラサキもぶつかるような間抜けなことはしない! 蝶の衝突回避法のメカニズムを知りたいものだ。 ある昆虫学者の随筆に、オオムラサキについて、 「カラスを追いかけるのを見たという信じられないような話を聞いたことがある。」 とあった。 コムラサキの兄貴分のオオムラサキが、 カラスを追いかけても全く不思議ではない。 写真集Bに載せた「カラスとコムラサキ二匹」の写真について説明したい。 二匹のコムラサキがカラスを追い回しているように見えるが、 全くそうではない。 通り過ぎたカラスに一匹のコムラサキが反応し、 すると、近くにいたもう一匹も反応し その二匹が、カラスそっちのけで揉めているのである。 カラスが笑っているようで、私も可笑しかった。 ティータイム(その1) 「不思議なシマヘビの物語 (野川で出会った“お島”)」

ティータイム(その2) 「ミノムシ 《皇居外苑北の丸公園の蓑虫》」

ティータイム(その3) 「ゴイシシジミ賛歌」

ティータイム(その4) 「空飛ぶルビー、紅小灰蝶(ベニシジミ)」

ティータイム(その5) 「ヒメウラナミジャノメの半生(写真集)」

ティータイム(その6) 「蝶の占有行動と関連話題」

ティータイム(その7) 「ヒメアカタテハの占有行動」

ティータイム(その8) 「オオウラギンヒョウモン考」

ティータイム(その9) 「ヒメウラナミジャノメの謎」

ティータイム(その11) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ」

ティータイム(その12) 「”お島”ふたたび」

ティータイム(その13) 「オオウラギンヒョウモン考(再び)」

ティータイム(その14) 「謎の蝶 ヒメアカタテハ」

ティータイム(その15) 「我が隣人 ヒメアカタテハ」

ティータイム(その16) 「オオウラギンヒョウモン考(三たび)」

ティータイム(その17) 「姿を顕さない凡種、クロヒカゲ」

ティータイム(その18) 「微かに姿を顕したクロヒカゲ」

ティータイム(その19) 「不可解な普通種 ヒメジャノメ」

ティータイム(その20) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ ― 蝶の知的生活―」

ティータイム(その21) 「オオルリシジミを勉強する」

ティータイム(その22) 「集結時期のヒメアカタテハを総括する」

ティータイム(その23) 「毒蛇列伝」

ティータイム(その24) 「東京ヘビ紀行(付記 お島追想)」

ティータイム(その25) 「ヒメアカタテハやクロヒカゲの占有行動は交尾の為ではない(序でに、蝶界への疑問)」

ティータイム(その26) 「ヒメアカタテハの越冬と発生回数」

ティータイム(その27) 「鳩山邦夫さんの『環境党宣言』を読む」

ティータイム(その28) 「蝶の山登り」

ティータイム(その29) 「蝶の交尾を考える」

ティータイム(その30) 「今年(2019年)のヒメアカタテハ」

ティータイム(その31) 「今年(2019年)のクロヒカゲ」

ティータイム(その32) 「蝶、稀種と凡種と台風と」

ティータイム(その33) 「ルリタテハとクロヒカゲ」

ティータイム(その34) 「ヒメアカタテハ、台風で分かったこと」

ティータイム(その35) 「「蝶道」を勉強する」

ティータイム(その36) 「「蝶道」を勉強する 続き」

ティータイム(その37) 「ミツバチを勉強する」

ティータイム(その38) 「「蝶道」を勉強する  続き其の2」

ティータイム(その39) 「里山の蝶」

ティータイム(その40) 「岩手の蝶 ≒ 里山の蝶か?」

ティータイム(その41) 「遺伝子解析、進化生物学etc」

ティータイム(その42) 「今年(2020年)の報告」

ティータイム(その43) 「徒然なるままに 人物論(寺田寅彦、ロザリンド・フランクリン、木村資生、太田朋子)」

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