ヒメウラナミジャノメの謎
                遠藤英實 作


    
    0 はじめに
    1 現況
          (1)姿を消した都心の緑地
          (2)今も発生している都心及び周辺の緑地
    2 ヒメの個体数
    3 ヒメを取り巻く環境
          (1)都心での観察
          (2)盛岡市との比較
          (3)写真集
    4 移動の問題
    追記 オオルリシジミ
    追記 個体数の算出法


0 はじめに

ヒメウラナミジャノメ(以下、ヒメ)は、以下の理由で不人気な蝶である。

 ・人家(つまり人のいる所)近くにいる。
 ・冬以外はいつでもいる。
 ・数が多い。
 ・美麗とは言い難い。

ところが付き合ってみると、大層行動が面白い種なのである。
面白さについては別稿(ヒメウラナミジャノメの半生)に載せているが、
ここでは、以下の謎を考えてみる。

 ・かくの如き超普通種が、何故都会から姿を消していくのか?
 ・そして、何故再び復活しないのか?


1 現況

(1) 姿を消した都心の緑地

 現況は以下の如くである。(古い情報かもしれない)。

・自然教育園(港区)

  「国立科博」の文献によれば、1971年は「普通」であったが、
  1999年姿を消した。
    蝶の種類数:50種前後  面積:20ha

・水元公園(葛飾区)

  文献「水元の蝶 森本峻 」によれば、
  「1970年代前半には生息確認、後半には姿を消した」とある。
 水元公園は広大で蝶相豊かな公園として知られるが、
 既に1970年代に姿を消していたわけである。
 この蝶の特異な習性をうかがわせる。
  蝶の種類数:50種前後  面積:70ha

・小石川植物園(文京区)

  文献「原色日本蝶類生態図鑑W 福田晴夫他1984年」では、
 小石川植物園での 生息を報告している。
 つまり、1984年頃は生息していたということか。
  一方ウェブサイト「http://www9.plala.or.jp/tokyoinsects/index.htm」
  によれば、遅くとも2001年には姿を消している。
 それ以前のデータはない。
  蝶の種類数:30種位か? 面積:16ha

・石神井公園(練馬区)

 ウェブサイト http://www004.upp.so-net.ne.jp/yamakit/Index.html
 によれば、遅くとも2003年には姿を消している。
 それ以前のデータはない。
  蝶の種類数:40種位  面積:20ha

・その他

  他に都心の有力な緑地としては

   ・善福寺公園(杉並区)、
   ・井の頭恩賜公園(武蔵野市)

  があるが資料がない。
  私も2〜3回訪れたが到底いそうには思えなかった。
  荒川河川敷、江戸川河川敷近くの緑地については調べていない。
  都心から離れるが、

   ・小金井公園(小金井市)
  では目撃できなかった。とうに姿を消したと思う。

   ・昭和記念公園(立川市)
  について資料は見つけられなかったが、3度訪れてその都度生息を確認した。

(2) 今も発生している都心及び周辺の緑地

都心23区内及び周辺での、私が確認した発生地は以下の如くである。

・皇居吹上御苑及び北の丸公園

 文献及び私自身の周辺調査から、現在も十分繁栄していることが分かる。
 観察域は、勿論北の丸公園のみである。

・野川河川敷(三鷹市、調布市他)

 多摩川に注ぐ約20kmの一級河川である。
 河川沿いの野川公園、武蔵野公園が蝶のメッカであるが、
 下流数kmの方がヒメは多い。

 それ以外の上下流にはヒメも他の蝶もあまりいないので、
 カウントから除外する。
  蝶の種類数:60種前後

・多摩川河川敷(狛江市)

 狛江市内の一画であり、この一画は樹木が多く野鳥が多い。
 蝶はそれ程多種でもないが、ヒメの個体数は多い。
 上下流とは樹木の多寡で孤立気味なので、ヒメもこの地に留まっている、
 つまり外部との移動は甚だ希薄である。
  蝶の種類数:30種前後

・生田緑地(川崎市)

 多摩川を挟んで、狛江市側の反対に位置する。
 蝶の種類数は多いが、ヒメの個体数は少ない。
 ただ、立ち入り禁止区域が広いので正確なところは分からない。
 高さ100m位の丘や谷地があり、面白い蝶相を繰り広げてくれる。
  蝶の種類数:60種前後


2 ヒメの個体数

ヒメの「個体数」なるものの雰囲気を知るために、各緑地の個体数を示す。
観察期間内での、各緑地の最大個体数とその時期である。

   ・北の丸公園      130匹 2014年3化
   ・野川河川敷(一部)  894匹 2012年1化
   ・多摩川河川敷(狛江市)736匹 2015年1化 
   ・生田緑地        71匹 2012年1化

700、800匹はさすがに1日がかりの調査となるが、相当な数だと思う。
まるで芋の子を洗うような超平凡種が、
一端、大緑地から姿を消すと二度と復活しないのである。
(他種は50種程もいるのに!) 
これはやはり不思議なことである。

なお、この個体数は、
「その年/その化期」に羽化した総個体数と考えて良いのではないか。
何故ならヒメの寿命は、
発生期間(=1ヵ月弱)の半分以上と考えられるからである。

(各観察域の地図は煩瑣になるので記さない。
 算出法は極自然なものである。
 ところで、
 私は“蝶の多様性指標”なるものに使われている“算出法”には
 大いに疑問をもっている。
 これについては後述する。)

以下、各緑地のスケッチである。

・北の丸公園
  ヒメは、1化の個体数が最も多いのが普通だが、
  北の丸公園に関してはどういうわけか2.3化の方が多いのである。
  単なる数え落としか?吹上御苑との移動に関連しているのか?
  観察していても吹上御苑からの移入があるようにも思えない。
  すると、北の丸公園は「主発生地=source patch」ということになる。
  他の大緑地(水元公園、石神井公園etc)からは姿を消したのに、
  この“人工的緑地”に生き残っているのも、考えてみれば奇妙なことだ。

・野川河川敷
  野川河川敷の上下流は、暗渠だったり草むらが繁茂していて適地とは云えない。
  (数えていないが200匹?程度か。)
  また隣接する多磨霊園や武蔵野の森公園(武蔵野公園ではない)
  もヒメの好みではないらしく、
  数えてみたらそれぞれ10〜20匹であった。
  従って、野川河川敷全体では、1100?〜1200?匹か。
  一応川全体の個体数の見積りだから、私はこの数値を気に入っている。

・多摩川河川敷(狛江市)
  1974年の台風16号で堤防が決壊した。
  民家が濁流に呑み込まれるシーンは、テレビでも繰り返し流された。
  ここはその地である。

  当然、ヒメは壊滅した筈だが、40年経って今かくの如く繁栄している。
  上流から移動してきたのか?
  今姿を消したら、もはや復活の可能性はないだろう。
  上下流とは殆ど断絶しているのである。

  観察域(狛江市側)のやや下流には+100匹?として、計850?匹、
  反対側(川崎市側)はやや多く1100?匹、
  計2000?匹と見積もりたい。

  これより下流には多分いないと思う。
  多摩川下流は荒れ果てた河川敷である。

  上流はどうか?
  勿論延々と遡れば限りなく出現するであろうが、近辺にはいない。
  10年位前、上流の立川市付近を散策していた。
  ヒメの群舞、まさしく“胡蝶の舞”であった。
  蝶は、かくあるべきである!

  川を挟んでの行き来はあるか?
  時々出現する中州にモンシロチョウ等を見かけるが、
  恒常的な行き来は、他蝶も含めて見たことはない。
  とは云っても、中州でヒメを放すと余裕をもって狛江市側に戻ってくる。
  (多分樹木が多いから。)

  蝶は見ていない所で、色々なことをやっていそうだ。
  人間の観察など、“下天の内の夢幻”の如く思える。

・生田緑地(川崎市)
  上記多摩川河川敷の川崎市側、南へ約2kmの緑地である。
  樹木が高くて暗すぎるせいかヒメにはあまり快適でないようだ。
  データの示す如く個体数は少ないのである。

  これが安定した常態なのか、滅びへの過程なのか、は分からないが、
  何となく自然教育園に関する「国立科博」の文献の記述、
  つまり滅びへの道を彷彿とさせるのだ。

  自然教育園は樹木を伐採しない方針なので、園全体が段々暗くなっていくのである。
  そして主遊歩道のみが手入れされて明るくなってゆく。

  蝶屋なら誰でも知っていることだけれど、
  森林を広い範囲で伐採すると、忽ち多くの蝶が集まって来る。
  蝶は、光と影が好きなのである。

  「ジャノメチョウ科は曇りの日に現れる」
  という記述を見かけるが、多分そうではない。
  私の観察では、
  「多くのジャノメ科は晴れた日に、日陰に現れる」、
  「ヒメは、晴れた日に日陰と日向の境界に現れる」
  「ジャノメチョウは、日陰から解放されている」(<――これは嘘かな?)
  である。

3 ヒメを取り巻く環境

(1)都心での観察

ヒメが好む場所を都心で観察し、まとめてみる。
(予想に反して)相当気難しい蝶であることが分かる。

 @ 産卵、吸蜜のための日当たりの良い草地
 A 日差しを避ける為の繁み
 B @とAをバランス良く保証してくれる為の樹木
 C @〜Bが一体としてあること。

@について

ヒメの食草はイネ科、カヤツリクサ科と云われているが、
私の観察では、これらの食草に確実に固着させているわけではない。
草むらに潜り込んで「無雑作」に、中には半分腐った落葉に固着させている。
ジャノメチョウは放卵といわれるが、ヒメは散卵というらしい。

だから、
 日当たりが良く、
 草丈は高からず低からず、
 乾燥していず、
 砂埃や排気ガスに汚染されていない
草地、ということになる。

こうした要求は都会では存外難しい。
なお「無雑作」と云ったが、出鱈目に産み付けていくわけではない。
草むらに潜り込んで何やら懸命に探しているのである。
そしてその結果が、「半分腐った落葉」なのだから不可解なのだ。
これが、ヒメ最大の謎と思う。

Aについて  

かくの如くで、お日様を好むのだが、
やはりジャノメチョウ科の特性として日差しを敬遠する。
その結果、草地沿いの繁みから離れられないのである。
繁みと草地(つまり日陰と日向)の接触域を彷徨している姿が何ともユーモラスである。

  ☆☆ 閑話 ヒメジャノメ ☆☆

  この蝶は食草に直接産むようで、
  草地から(つまり日差しから)解放されているようである。
  とは云っても、日差しもそれ程苦手ではないらしく、都会を闊歩している。
  ヒメジャノメが稲の害虫にならないのは、
  幼虫の食性よりも、成虫の彷徨性にあるのではなかろうか?
  つまり、一か所に留まって稲を食害する気にならないのでは?
  ヒメもヒメジャノメも似たような蝶のように思っていたけれど、
  都心で観察していると、全く異なった蝶であることが分かる。

Bについて

日差しと日陰は一日のうちに変化していくが、
その交差を安定的に保証してくれるのが樹木の効果的な配置ということらしい。

これは、化期の変化にも対応してくれなくては困る。
つまり、1化は日差しだけ、2化は日陰だけ、というのは困るのである。
種の存亡をかけてこうした事柄を確かめながら、生き抜いているわけだ。
幼稚な“数式モデル”の出る幕はないのである。
(“数式モデル”というのは、数学好きの蝶研究者には垂涎のツールらしい。
  蝶好きの数学屋にはちっとも面白くもない“遊び”だけれど。)

Cについて

ヒメとても、人間の歩行よりは早く飛べる。
100m/分、以上と思うから、
上記@とAとが離れていても問題はないと思うのだが、ヒメは嫌う。
何か落ち着かないらしい。
種の性質としか云いようがない。

このことが、種の復活を妨げる大きな要因になっていると思う。
例えば@は一般の散策者には汚らしい環境だ。
だから管理者側にとっては、この草地をきれいな遊び場、きれいな散歩道にするのは
立派な環境行政なのである。
だから@が破壊されたとして、その後これを元に戻し、以前の三層構造を復活させられる筈もない。
(バラバラでも良いのなら、行政側を何とか説得できそうな気もするが。)

結局、人間の周囲からは消えていかざるを得ないのである。


(2)盛岡市との比較

盛岡市の場合でも、三層構造が必要なことに変わりはない筈だ。
そして、東京周辺に比べれば適地は多いのではなかろうか?
極端な話、至る所適地なのでは?

帰省の折、車で郊外を廻ってみたけれどそうではなかった。
広い郊外でたった4か所、但しどこも200〜300匹はいたように思う。
考えてみれば、この三層構造は、案外難しい条件だと思う。

 ・草地が雨で湿地、泥地になってはならぬ。

 ・草地が放置されて繁茂し、産卵の妨げになってはならぬ。

 ・同様に、移動の妨げになってはならぬ。

 ・日差し・日陰のバランスが、日単位、化期単位で保証されねばならぬ。
  実際、野川河川敷でもこのような立地を巧みに利用して生きている。
  つまり川の両側を巧みに利用しているのである。数mの川幅など物の数ではない。

 ・樹木が高木になってはならぬ。
  盛岡市郊外は、案外これが妨げになっているようだ。
 ・etc

上記の4か所は皆、人家近くであった。
考えてみれば、人の営みがこうした環境をヒメに与え、
そしてヒメから奪っているのかも知れない。

なお上記の4か所以外に、私の盛岡市の自宅近くに1か所不思議な発生地がある。
幾ら数えても10匹以下なのである。
近くに、主発生地があるようにも思えない。
何故個体数に拘るかというと、昔から次の命題に興味を持っていた。

 個体数が多いことは、種の存続に有利なのか?不利なのか?

簡単に考えれば、数が多ければ簡単には滅びないようにも思えるけれど、
そうとばかりも云えない気がする。
ロッキートビバッタの例がある。
それに、大きな個体数を維持できなければ簡単に滅んでしまうような
数理モデルなど頭の中では幾らでも作れるからだ。
ヒメはどうなのだろう?


(3)写真集(好む環境、好まない環境)

    
 
           理想的な3層構造。

   
 
好環境が長く続く。ヒメの適地もどんどん伸びていく。チガヤも咲いている。

    
 
暗すぎる。           草地が繁茂し過ぎる。

   
 
畑の近くは苦手のようだ。    好適地も公園に変えられた。

   
 
好適地も遊歩道に変えられた。  好適地は工事中。

   
 
ヒメには好適でも人間には歩きづらい河川敷。やがては人に快適な遊歩道に変わる。


4 移動の問題

当初、以下のように考えていた。

 ・ヒメはランダムウォーク的に絶えず移動している。
 ・環境が悪化すればその地は捨て去られ、
  新天地への移動がスピードアップする。
 ・環境が良好のままなら、発生地はそのまま拡大していく。
 ・数も減らず、繁栄は続く。

ひたすら個体数を数えていたのは、
この仮説を検証するためであったのだが、予想は相当違っていた。
以下に概略を記す。

 ・ヒメは、前述の三層構造の環境であれば、発生地をランダムウォーク的に
  拡大していく。 例えば、好適な河川敷や林道の樹木に沿ってどんどん
  拡大していけば良い。私が立川市で目撃したあの“胡蝶の舞”がそうであ
  る。
 ・三層構造が保証されなければ、拡大は途絶える。
  特に日陰を提供してくれる樹木はいつまでも続かないので、
  これが拡大をブロックする。
  (河川敷や林道の場合は、樹木も長く続くこともあるが、
  二次元的な樹木の拡大は考えづらい。)
 ・それでも、化期が1化の時は、(2化や3化とは)様相を異にする。
  日射量(気温も?)がそれ程ブレーキにならないから、
  (樹木がない場所でも)「繁み」に沿って拡大していけるのである。
 ・然らば、どこまで拡大していけるのか?
  ここで不思議な不連続減少が起きる。
  上述多摩川河川敷(=A地区)とその外側の樹木のないエリア(B地区)
  のデータ例を示す。
        A地区   B地区   2015(1化) 
        688匹    77匹    5/7 
        736匹    11匹    5/11
  拡大していたB地区で突然減少に転じているのだ。

全体をまとめるとこうなる。

  @ 1化期は、ランダムウォーク“的”に緩慢に拡大していく。
  A 突然1化期で拡大を中断、元のエリアに回帰する。
  B 2化、3化は、雌を主役にして、元のエリア内を離合集散する。
    もはや、ランダムウォーク“的”でもない。
    なお、野川河川敷では4化も十分個体数は多いが、もはや離合集散も
    しない。暖かい場所に留まったままだ。
  C 翌年、@を繰り返す
  D 結局、年間を通してみると移動性がないことになる。
    だから元の生息地が不適になったら消え去るのみなのである。

ところで、B地区の個体はどうなったのだろうか?

  a 陽光に、屍を野に曝しているのか?
  b 再び、A地区に戻ったのか?
  c A地区からの補充がないままに散逸していったのか?
  (街中を彷徨っている個体を眼にするから、多分cではないか。)

いずれにしろ、連続モデルなど無意味であることが分かる。
そして私には、この不条理が大層面白い! 

(注)ランダムウォーク“的”について

 勿論、ここでのランダムウォーク“的”とは、
 単に「方向性もなくさすらう」の意味である。
 野川で、任意の場所で両方向(上流、下流)への移動の個体数をカウントしてみた。
 いつも、大体同じ程度の数値になって面白かった。
 (勿論、生物の動きに、ランダムウォークの厳密な定義が当てはまるわけがない。
 雄同士、雌同士、雄と雌、が相互に依存、反発しながら移動するのであるから)

(注)気温について

 一般の数理論文で「気温」なる変数が良く使われる。
 実験室ならいざ知らず、野外ではあまりにも漠然としていて、全く無意味だと思う。
 例えば、野川の5月の気温では、ちょっと計測場所を変えれば、10度以上違うのである。



付記 オオルリシジミ

別掲「オオウラギンヒョウモン考」岩山地区にはオオルリシジミが生息していたらしい。
私も蝶友も全く目撃したことはないから、
1960年頃には姿を消していたのだがどういうわけか妙に懐かしい。
ウェブサイトに女性研究者のレポートが載っていた。

馬鹿な数式を振り回さず、つまらない専門用語を羅列せず、面白いレポートであった。
その中の、「移動性の全くない蝶で・・」という記述がヒメを思い出させた。
蝶は、ヒメで述べたような環境の問題だけではなく、
病気、天敵、他種との競争、寄主植物との争いを種々抱えていることだろう。
移動性があれば、問題が起きたなら新天地を開拓すれば良いと(単純に)思うが、
移動性のない草原性の蝶は本当に困るのではないだろうか?

ところでヒメの場合、さほど問題を抱えているようには思えない。
何故なら、北の丸公園という“人工的緑地”でそれなりに繁栄しているのだから。
それでもやはり移動性がないが故に、都会ではヒメも滅びの道を辿る。

オオルリシジミはどうか? 
深刻な問題(例えば食草クララの花穂の確保の問題?)を抱えていて、
そして移動性がないのなら滅びるしかない。
もしそうなら、その問題は既に1960頃に既に発生していたのか?

「農業構造」に帰着させてはなるまい。
女性研究者の健闘を祈るのである。


付記 個体数の算出法

“蝶の多様性指標”なるテーマがある。
私はそこで使われている“算出法”に大いに疑問をもっている。
緑地(つまり2次元領域)に研究者が勝手にライン(つまり1次元)を引っ張って
そこに沿って数えあげる。
“ライントランセクト法”というのだそうだ。
「個体数」というのは、自然が与え給もうた数字である。
漏れなく重複なく数えあげたい数字である。“
研究者”が好き勝手に定義できる数値ではあるまい。
そもそもこの方法は、全数調査なのか、サンプリング調査なのか?
しかも、“ラインは、蝶の種類によらず一つ”というのが酷い!

この方面の古典に、「種多様性 指数値に対するサンプルの大きさの影響 森下正明」がある。
「人工的につくった母群集から・・種499を・・」とあるように、
この論文は、「蝶」や「生物」とは全く関係がない。
「統計学演習、統計学実習」の論文なのである。
何故関係ないかと云うに、
“精緻なランダムサンプリング”に基づいて統計諸量を計算しているからだ。
蝶の個体数の実査で、“ランダムサンプリング”など出来る筈もない。
実際、“ランダム性の担保”に具体的に言及した論文など見たこともない。
出来るのなら、著者自身が、実査に基づいて計算してみせれば良いのだ。
勿論、パソコンの世界では、“ランダムサンプリング”など自由自在である。
そのうち、コンピュータ・シミュレーションや人工知能“ディープラーニング”なんたらかんたらが、
蝶の野外研究にも雪崩れ込んでくるだろう。

他の論文には、「環境階数」なる超超マクロな概念が現れる。
これを使って、0.3176とかのやたら細かい数値が計算される。
これが我々の周辺の緑地の「多様度指数」なのだそうだ。
まるで、重力波を測定しているようではないか。

個体数を「単位長」で割って「密度」と称している。(例えば10匹/km)
2次元領域のデータなら密度は、「単位面積当たり」に決まっている。
それに、「密度計算」の前提は、「一様に分布していること」である。
”ミドリシジミが野川公園内で一様に分布している”筈が無いではないか。 
時間で割っているデータもある。例えば、10匹/km・h。
2kmを3時間調査すれば、60匹となるわけだ。
私も蝶の個体数には大いに関心はあるけれど、これ位役に立たない数値も珍しい。
(多分、データ収集の再現性・統一性を狙っている積りなのだろうけれど・・・)

蝶の個体数というのは、いうまでもなく季節変動する。
そして、種によって発生期間も羽化回数も寿命も異なる。
年間総個体数とか年間平均個体数とやらを全種一律に定義しているけれど、
全く意味不明なのである。

種間の構成比なるものを計算している。
多分、蝶間の「陣取り合戦」をイメージしているのだろう。
そんなことをやっている筈はない。
簡単のため、3種で説明する。
夏、イチモンジセセリが爆発的に増えても(つまり“多様性”が減少しても)
翌年の、ギンイチモンジセセリやミヤマチャバネセセリには何の影響も与えない。
自分たちの慎ましい住処が確保されていれば
イチモンジセセリの大発生なぞ知ったことではないのである。
実際、イチモンジセセリは姿を消し、
ギンイチモンジセセリやミヤマチャバネセセリが再び発生する。
つまり、“多様性”も増加して元通りになるのである。
勿論そのための大前提は、
ギンイチモンジセセリやミヤマチャバネセセリの住処を、
「確保しておくこと、確保してやること」である。
それが人間のやれることである。
パソコンの前であれこれ計算して何の役に立つというのだ。



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	ティータイム(その1) 「不思議なシマヘビの物語 (野川で出会った“お島”)」
ティータイム(その2) 「ミノムシ 《皇居外苑北の丸公園の蓑虫》」
ティータイム(その3) 「ゴイシシジミ讃歌」
ティータイム(その4) 「空飛ぶルビー、紅小灰蝶(ベニシジミ)」
ティータイム(その5) 「ヒメウラナミジャノメの半生(写真集)」
ティータイム(その6) 「蝶の占有行動と関連話題」
ティータイム(その7) 「ヒメアカタテハの占有行動」
ティータイム(その8) 「オオウラギンヒョウモン考」
ティータイム(その10) 「コムラサキ賛歌」
ティータイム(その11) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ」
ティータイム(その12) 「”お島”ふたたび」
ティータイム(その13) 「オオウラギンヒョウモン考(再び)」
ティータイム(その14) 「謎の蝶 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その15) 「我が隣人 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その16) 「オオウラギンヒョウモン考(三たび)」
ティータイム(その17) 「姿を顕さない凡種、クロヒカゲ」
ティータイム(その18) 「微かに姿を顕したクロヒカゲ」
ティータイム(その19) 「不可解な普通種 ヒメジャノメ」
ティータイム(その20) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ ― 蝶の知的生活―」
ティータイム(その21) 「オオルリシジミを勉強する」
ティータイム(その22) 「集結時期のヒメアカタテハを総括する」
ティータイム(その23) 「毒蛇列伝」
ティータイム(その24) 「東京ヘビ紀行(付記 お島追想)」
ティータイム(その25) 「ヒメアカタテハやクロヒカゲの占有行動は交尾の為ではない(序でに、蝶界への疑問)」
ティータイム(その26) 「ヒメアカタテハの越冬と発生回数」
ティータイム(その27) 「鳩山邦夫さんの『環境党宣言』を読む」
ティータイム(その28) 「蝶の山登り」
ティータイム(その29) 「蝶の交尾を考える」
ティータイム(その30) 「今年(2019年)のヒメアカタテハ」
ティータイム(その31) 「今年(2019年)のクロヒカゲ」
ティータイム(その32) 「蝶、稀種と凡種と台風と」
ティータイム(その33) 「ルリタテハとクロヒカゲ」
ティータイム(その34) 「ヒメアカタテハ、台風で分かったこと」
ティータイム(その35) 「「蝶道」を勉強する」
ティータイム(その36) 「「蝶道」を勉強する 続き」
ティータイム(その37) 「ミツバチを勉強する」
ティータイム(その38) 「「蝶道」を勉強する  続き其の2」
ティータイム(その39) 「里山の蝶」
ティータイム(その40) 「岩手の蝶 ≒ 里山の蝶か?」
ティータイム(その41) 「遺伝子解析、進化生物学etc」
ティータイム(その42) 「今年(2020年)の報告」
ティータイム(その43) 「徒然なるままに 人物論(寺田寅彦、ロザリンド・フランクリン、木村資生、太田朋子)」


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