ヒメアカタテハ、台風で分かったこと
                        遠藤英實 作 0 はじめに 1 表、及び項目説明 2 表をみて考えること 3 終わりに 0 はじめに やや不謹慎なタイトルではあるが謹んでご理解を乞う。 これまでヒメアカタテハを追いかけてきたが、 依然として以下の疑問がある。(これ以外は氷解したという訳ではないが)   a 秋、数を増すが、何処からやってくるのか?   b 発生回数は?  aについては、 “南方から(或いは外国から)北上(或いは飛来)する”  なる説が流布されている。(以下にサイト)            https://ikifure.info/2018/01/07/            https://www.insects.jp/kon-tyohimeaka.htm  どうもこの説は、これまで観察してきて私には疑問なのだ。 私の観察域での調査によれば、各年の個体数の最大値は以下。    2016年 42匹、2017年 57匹、2018年 20匹。 他サイトの報告を見ても、せいぜい2、30匹である。 (私の57匹が、日本で一番多い!) 勿論、「観察域の設定」にもよるが、いずれにしろ       いかにもスケールが小さ過ぎる、移動規模が小さすぎる  のだ。 昔(50年前)、静岡県の小笠山にアサギマダラの飛来を見物に行ったことがある。 狭い頂上にアサギマダラはひしめいていた。100匹か、200匹か、300匹か、もっと? 南国から押し寄せるというのなら、こうでなくては! 今年の、同じ多摩川でのウラナミシジミの秋季の個体数も(どういう訳か)異常に多かった。 同じ観察域で、500匹以上のヒメウラナミジャノメをカウントしたことがあるが、 雰囲気としては、ウラナミシジミもそれ位はあったような気がする。 移動説が正しいのなら、やはりこれ位の個体数は欲しい。 発生回数も分からない。 既に報告済みだが、新旧個体が入り混じって元気に飛び回っているのである。 ヒメウラナミジャノメの3化個体と4化個体との混在はしばしば目撃した。 躍動する4化と遠からず召されていく3化との対比は直ぐに分かった。 しかるに、ヒメアカタテハの場合はどうか? 新旧混然一体となって元気に飛び回っているのである。 1 表、及び項目説明 今年(2019年)のこれまでと同じ観察域(多摩川)の個体数をカウントした。以下。                   @ これまでに報告したと同じ多摩川流域での個体数である。   (観察地がブランクになっている行。)   関連説明用に他地域についても若干記述した。以下である。        野川、緑道(世田谷区)、生田緑地、小石川植物園(文京区)    小石川植物園は他サイトからの引用である。    私自身他にも、北の丸公園(千代田区)、自然教育園(港区)、石神井公園(練馬区)    を散策しているが論ずる程ではない。(一過性であり、数も少ない。) A 2016〜2018年の多摩川流域の、通年最大個体数もコメント欄に記載した。   2019年との比較用として重要である。 B 2019年10月12日、台風19号が日本を襲った。   問題は、その後の本観察地の個体数である。     10月23 日 53匹     10月26 日 63匹     10月30 日 65匹     11月02 日 93匹   となり、前年までの最大個体数2017年10月3日の57を遥かに超えた。   これに注目したい。 C 個体数を見ると、大きい数値の間に小さい数値が混じっている。   これは、天候不順(彼らにとって)の故に姿を現わさなかったからである。   世界に雄飛する蝶であるから、天候なんぞ物ともしないのかと云うと   決してそうではない。姿を現わさない日は、       ・曇っている(雨の日は勿論不可)     ・薄暗い      ・風が強い(ちょっと強いと直ぐ姿を消す)     ・雲が流れていて、頻繁に太陽を隠す     ・真夏の日差しの強い時間帯も不可   押しなべて蝶とはそういうものだろう。   大きい数値を補間していけば、もっともらしい数値列はえられそうだが、   だからと云って新しい事柄が分かるわけでもない。   ところで、姿を現わさない時はどうしているのだろう?   手近な繁みに隠れるのか? 移動していくのか?   前者とは思うが、発見するのは相当に難しい。   例えばヒメアカタテハが地面に翅を閉じて止まっているとする。   一度目を離すと、再び見つけることは難しい。      やはり、蝶は手練れの忍者なのである。 2 表をみて考えること  @ はじめに   秋に個体数が増えるといっても、私の観察範囲ではそれ程でもない。   2018年迄は、2017・10・3の個体数57が最大である。   勿論エリアを広く設定すれば数は増えていくが、密度が小さくなり過ぎて、   集積というイメージは更にない。   私の観察範囲は狛江市側の約2kmであるが、   その下流も上流も荒れた河川敷という印象で、遭遇例は少なく、観察に値しない。   世田谷区の緑道(散歩道)と大して変わらないのである。   対岸(川崎市側)には関心があるが、体を酷使してはなるまい。    野川は、表に示したようにヒメアカタテハの集積のイメージは(やや)ある。   川から離れて、野川公園、武蔵野公園、多磨霊園、武蔵野の森公園が広がっている。   膨大な面積だから全部カウントすれば大層な数になるだろうが、   それは例えば、都心での個体数をカウントするようなものだ。   (つまり、母集団を特徴づけるコンセプトがないのである。)  A 多摩川と台風の関係   多摩川の2018年迄の最大個体数を再掲する。   2016年 42匹  2017年 57匹  2018年 20匹。   2019年10月12日、台風19号が日本を襲った。   ヒメアカタテハもダメジを受けたかと思ったのだが、   意外なことに、次表の如くであった。        10月13日  10匹        10月20日  11匹        10月23日  53匹        10月26日  63匹        10月30日  65匹        11月02日  93匹  <――4か年での最大個体数   どうみても、台風の影響で周辺から多摩川にヒメアカタテハが   集まってきた(逃げてきた)のである。  B 野川の個体数   10月1日と2日、野川のヒメアカタテハをカウントしていた。   野川を訪れたのは、ホシミスジの確認の為であって、   ヒメアカタテハのカウントは云わば、“偶々”であった。   表では28匹であるが、これは東側の岸(西日が射して明るい)だけであって、   両岸合わせれば40匹にはなると思われる。   つまり、十分多摩川に匹敵する数である。   ところが台風後(片側)は以下の通り。        10月27日  5匹        10月31日  3匹        11月 4日  1匹   滅んでいったのではない。そんな軟弱な蝶ではあるまい。   そんな軟弱な蝶なら世界に雄飛出来る筈がない。   移動していったのだろう。   大部分は多摩川に、そして周囲の各地に。   ”何故、野川から多摩川へ”か?   河川敷の面積が圧倒的に違うからである。   多摩川は余裕をもって受け入れられる。   (因みに、野川観察園と狛江駅間は、直線距離で約10kmであろうか。)  C 多摩川と野川   今年は台風の影響で、周辺からの多摩川への移動は顕著になり、   個体数はほぼ倍になったのである。   だから例年の秋の個体数増加も、遥か南国からの渡りではなく、   周辺からの移動の故であると思う。   今年は台風の余波で、それが目立ったのだ。   これで、普通の年のスケールの小ささも説明がつく。  D 秋に集結した個体はそれからどうする?   そもそもどうして、このエリアに集結してくるのか?   交尾・産卵をこのエリアで行っているのは間違いない。   私は毎年交尾を確認しているし、幼虫も見つけている。   だが、このエリア域でのみで産卵しているのなら、   翌年このエリアは他地域に比して、顕著な発生量が見られる筈であるが、   決してそうではない。表からも分かるように他エリアと違いはない。   翌年おずおずと発生する。渋谷駅近くの三軒茶屋周辺と変わらない。   夏、秋になって、ようやく他地域と差がついてくるのである。   交尾を終えた母蝶は、また各地に散っていくのではなかろうか?   秋口、世田谷緑道にも三軒茶屋駅周辺にも、そしてあちこちで   ヒメアカタテハが彷徨っているのを、私は目撃している。  E このエリア(多摩川)はどうして集積地になるのか?   Cで述べたように、春から集積地になっているわけではない。   代変わりしてやっと、故郷に集まりだすのである。   そしてまた散っていく。    「こうした習性は他の動物にもみられるではないか」としか云いようがない。   残念ながら・・  F 発生回数は?   以前報告したように、新旧個体が入り混じっているので発生回数が不明である。   ところが、各地から集まってくるのなら、説明がつく。   各個体は、それぞれの地からそれぞれの過去を背負って駆けつけてくる。   新鮮な個体もいれば、尾羽うち枯らした個体もいるのは極自然だ。   両者混在するのだから、発生回数の推定は難しい。   しいて発生回数を推定するとすれば    「旧い個体の中に新しい個体が散見されだした」   ことを判断の基準にしたらどうだろう。   それに従えばこの地では、      1化は4,5月登場(この時期は常に新品)      2化は8月      3化は9,10月   つまり、発生回数=3とする。   年を越す個体がいても、種の存続には貢献せずやがて大地に還っていく。  G 個体数の増減   個体数そのものも、夏、秋には増えているのではなかろうか?   (産卵数、天敵との関係?)   これは、飼育観察によって推定できそうだが、私には時間がない。   ヒメウラナミジャノメの場合は、野外のカウントで断定出来る。   1化>2化>3化>4化(発生していれば) である。  H 単峰性、双峰性について   既に報告済みだが、各年の個体数列は単峰(頂上は一つ)である。   ところが、2018年は双峰(頂上は二つ)である。        2018年9月28日 個体数20(表に示した)        2018年11月2日 個体数17   これは本来不可解なことだが、地域間を飛び回って集積してくると考えれば   納得がいかないでもない。   そうすると逆に、    “他の年はどうして単峰なのか?”   とクレームがつきそうだ。 3 終わりに ヒメアカタテハが、どうして彼の地に集まってくるのかは謎だが、 ミツバチにも同じ疑問があるようだ。(以前書いたことがる。) 女王バチ候補と雄バチとが集まって交尾を巡る死闘を繰り広げるが、 その場所に関して謎は深い。  地域内には多くの巣があり、各地域ごとに交尾場所は決まっているが、  彼らはどうしてその場所が分かるのか? 臭いではなく、周囲の風景ではないかと云われている。 もっとも、「周囲の風景」なんぞ、彼らはこれまで見たことがない筈だが・・ 蝶の場合はどうか? “蝶は近視だが、動体視力に優れている”と云われているが、「近視」には疑問がある。 アカタテハ、ヒメアカタテハ、ルリタテハ、キタテハ、どの種も 遥か彼方から静止しているライバル目掛けて突っ込んでくるのである。 以下、ヒメアカタテハの目撃例。   お気に入りの場所に人がいると勿論近づかないが、   いなくなると、40,50m離れた位置から早速飛んでくる。   鋭い目で良く廻りを見ているとしか云いようがない。   本当に近視なのかなぁ・・   もっといろいろ観察してみよう。 (因みに、オリンピック選手は50mを5秒で駆けるが、 我がヒメはもっと速いような気がする。 金メダル選手を人間サイボーグなんて、大げさ過ぎる!!) ヒメアカタテハについては、「海を越えた渡り」が報告されている。 “何百万匹がアフリカとヨーロッパを云々” なるプロの研究を、アマが報告しているようだが、 写真くらいはサービスして欲しいものだ。 いくら高い所を飛んでいたって、夕方には地上に降りてくる筈だから 休んでいる大群は撮影出来るだろう。 実際、飛蝗の大群の休息写真は、私も何度か見ている。 私は“プロの研究”に不信感をもっているから、“その報告はホントかね?” とつい疑ってしまうのである。 日高敏隆氏は、 「外国のプロは、とにかく論文発表をして、   後でそのような事例が1件でも見つかれば、その発見を自分の功績にしてしまう。」 と憤慨している。(<――外国だけでもないような気がするが・・) どんな事例でも、広い世界では1件くらい“発見”は出来るだろう。 無ければ、“統計学”を駆使して“発見”することも出来る。 下品な先陣争いだなぁ! 最初に戻って、 プロがサービスしてくれないのなら、そのような報告もするなと云いたい。 (それは、“提灯記事=ステルスマーケティング”と云うのかな?)               *****  閑話  *****      今年は大きなカミキリムシが目についた。      調べてみると、ウスバカミキリのみ。      盛岡市では、ミヤマカミキリもクワカミキリも良く目にしたのだが・・                       ウスバカミキリ      私は実は、ルリボシカミキリを野外で目撃したことがない。      ゴマダラカミキリはこの地でしばしば目撃する。      時々美麗な個体に遭遇する。                    ゴマダラカミキリ(美麗)      ゴマダラカミキリ(普通)          ついでに、アオオサムシも極普通種とは云え、なかなか美麗ではなかろうか。      普通種でなかったら虫屋の争奪戦になっていたに違いない。                      アオオサムシ      野外で見かけるシロスジカミキリは、概ね黄色である。      実際私がこれ迄見かけたのも、1匹を除いて皆黄色であった。      ただ1匹、白色を目撃した。(<――過去の盛岡市)      昔このカミキリに“シロスジカミキリ”と命名した先生は      “標本しか見たことがなかったのだろう!”      ともの笑いになったらしいが、かくの如くいないわけでもないのだ。                  シロスジカミキリ(黄色)盛岡市   シロスジカミキリ(白色)盛岡市      ついでに                      これは何だろう?   ティータイム(その1) 「不思議なシマヘビの物語 (野川で出会った“お島”)」
ティータイム(その2) 「ミノムシ 《皇居外苑北の丸公園の蓑虫》」
ティータイム(その3) 「ゴイシシジミ讃歌」
ティータイム(その4) 「空飛ぶルビー、紅小灰蝶(ベニシジミ)」
ティータイム(その5) 「ヒメウラナミジャノメの半生(写真集)」
ティータイム(その6) 「蝶の占有行動と関連話題」
ティータイム(その7) 「ヒメアカタテハの占有行動」
ティータイム(その8) 「オオウラギンヒョウモン考」
ティータイム(その9) 「ヒメウラナミジャノメの謎」
ティータイム(その10) 「コムラサキ賛歌」
ティータイム(その11) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ」
ティータイム(その12) 「”お島”ふたたび」
ティータイム(その13) 「オオウラギンヒョウモン考(再び)」
ティータイム(その14) 「謎の蝶 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その15) 「我が隣人 ヒメアカタテハ」
ティータイム(その16) 「オオウラギンヒョウモン考(三たび)」
ティータイム(その17) 「姿を顕さない凡種、クロヒカゲ」
ティータイム(その18) 「微かに姿を顕したクロヒカゲ」
ティータイム(その19) 「不可解な普通種 ヒメジャノメ」
ティータイム(その20) 「散歩しながら動物行動学を学ぶ ― 蝶の知的生活―」
ティータイム(その21) 「オオルリシジミを勉強する」
ティータイム(その22) 「集結時期のヒメアカタテハを総括する」
ティータイム(その23) 「毒蛇列伝」
ティータイム(その24) 「東京ヘビ紀行(付記 お島追想)」
ティータイム(その25) 「ヒメアカタテハやクロヒカゲの占有行動は交尾の為ではない(序でに、蝶界への疑問)」
ティータイム(その26) 「ヒメアカタテハの越冬と発生回数」
ティータイム(その27) 「鳩山邦夫さんの『環境党宣言』を読む」
ティータイム(その28) 「蝶の山登り」
ティータイム(その29) 「蝶の交尾を考える」
ティータイム(その30) 「今年(2019年)のヒメアカタテハ」
ティータイム(その31) 「今年(2019年)のクロヒカゲ」
ティータイム(その32) 「蝶、稀種と凡種と台風と」
ティータイム(その33) 「ルリタテハとクロヒカゲ」
ティータイム(その35) 「「蝶道」を勉強する」
ティータイム(その36) 「「蝶道」を勉強する 続き」
ティータイム(その37) 「ミツバチを勉強する」
ティータイム(その38) 「「蝶道」を勉強する  続き其の2」
ティータイム(その39) 「里山の蝶」
ティータイム(その40) 「岩手の蝶 ≒ 里山の蝶か?」
ティータイム(その41) 「遺伝子解析、進化生物学etc」
ティータイム(その42) 「今年(2020年)の報告」
ティータイム(その43) 「徒然なるままに 人物論(寺田寅彦、ロザリンド・フランクリン、木村資生、太田朋子)」

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