蘇州繁絃(ファンシェン)飯店には続々人が集まってきた。
下僕を連れてゆくもの京城(みやこ)で雇うもの様々だが。
徐頲(シュティン)、江蘇長洲縣。
下僕-曹(ツァオ)。
孫原湘(スンユァンシィァン)、江蘇元和県(原籍昭文縣)
王均(ウヮンヂィン・王鋆),江蘇南通。
下僕-馮。
李可瓊(リィクゥチィォン)南海羅村
童槐(トォンファゥイ)浙江鄞縣(寧波)
陳鴻墀(チェンフォンチィ)浙江嘉善(嘉興市)
下僕-豊泉
九人が二十日に蘇州を出た、二十一日無錫(ウーシー)から三人が乗船。
李兆洛(リィヂァォルゥオ)江蘇陽湖。
孫爾準(スンウァールヂゥン)、江蘇金匱縣
周済(チョウジー),江蘇荆溪縣。
二十四日未に邵伯鎮(シャォポォジェン)崙盃(ロンペェイ)大酒店に行くと地元の二人が出迎えてくれた。
黄承吉(ホァンチァンヂィ)江蘇江都。
朱自新(ジュヅゥシィン)江蘇江都。
南京(ナンジン)長春港二十二日出航で二十四日申に彭邦疇達が到着した。
自分の弟子が下僕として付いてきていた。
宿松の石葆元(シィパァオユェン)と下僕
安徽桐城の姚元之(ヤオユェンヂィ)と下僕、
馬瑞辰(マールゥイチェン)と下僕
張聰賢(チャンツォンシィェン)と下僕。
二十四人になったがあと四人来るはずだという。
「二十六日の巳の刻に船出だ」
彭(ペン)哥哥は厳しいことを言う
初日は夜船を考えてきたという。
「少しでも日を詰めれば出費も少ない。ここから一人二十両、水夫十八人で一日六両。飯は来た時と同じで宛がいぶちだそうだからいいものに酒は自腹だ」
とうとうと安く契約したと自慢が激しいが、話がそれほど違うわけでもないので誰も口を挟まない。
一覧表を回覧させてきた。
二十九日間の旅の工程表だ。
「船頭にも渡してある。三回は夜船になる予定だ。遅れが出れば増えるだろう」
徐(シュ)は王均と顔を見合わせていたが、あきらめの表情だ。
「遅くも閏八月一日に着かねばならん。余裕は六日だけだ。詰められるところは詰めてでも着くように考えた」
その演説をしている途中で四人がそれぞれの下僕とともにやってきた、
胡承珙(フゥチァンゴォン)・安徽涇縣
呉存楷(ウーツゥンカァィ)・杭州府錢塘縣。
蘇繹(スーイー)杭州府錢塘縣
胡敬(フゥヂィン)・浙江仁和
気をそがれたようで後でよく見ておいてくれと卓へ広げた。
「誰か銀(かね)を集めて人数分の二十両を預かってくれ。水夫の一日六両は除けた二両の分とこの間の残りから毎日渡す約束だ」
わざわざ難しくして「どうだ出来るならやってみろ」感がある。
朱自新(ジュヅゥシィン)が頼まれて名前を書いて銀(かね)を集めた。
三十二人分六百四十両分の銀票と六十四両の銀票に分けた。
「王均哥哥、徐(シュ)哥哥、孫(スン)哥哥」と呼ばれて銀票を集めた卓へ行った。
「どうした」
「これじゃ不足しますよ」
「当たり前だ。都から出るとき孫(スン)哥哥と徐(シュ)哥哥は五十両ずつ出してくれたからできたんだ。一日六両二十九日の大きさが分かっていないのだ。後で泣きついてきたら何とかするさ」
話あうと個別に宿で泊まりを三十日だと最低でも十二両が必要で、それを半分に往復旅費支給したのが内務府会計司だ。
これはすべて徒歩で、船、馬車を使えば二十両などあっという間に使い果たす。
「そうさ、徐(シュ)哥哥は契約を総額でしてから割り振った。一人二十両というのが安いと思えたんだろうが。船主だってほとんど儲けなど出無い金額だ」
「そうだな。半分近く荷があるから、それでやりくりするんだろう。いくら安宿でも朝晩食えば銀(イン)三銭で泊めてはくれんよ。仮に銀(イン)四銭で二十九日をかけてみろ。夜船をかけても先へ進めはありがたい話のはずだ」
「夜船をかけられるところは物売りも多いから買い食いもできるぞ」
「冷えた瓜でもあれば夏の楽しみも増える」
「その分、蚊にご馳走を献じるのがおちだ」
朱(ジュ)が現れた彭(ペン)哥哥に「三十二人分六百四十両は私から渡しますか」と聞くと自分で渡すと言って状袋に入れた。
六十四両の方を渡すとにわかに顔色が変わった。
「なんだこれは」
三十二人の两両は六十四両ですよというと冷や汗を流し始めた。
慌てて別の状袋から前の残りを出して袋ごと朱(ジュ)に「毎朝六両ここから渡してくれ」と船代の状袋を抱えて逃げ出した。
孫爾準(スンウァールヂゥン)と黄承吉(ホァンチァンヂィ)が怪訝な顔でやってきた。
「何かあったか、えらく青い顔して部屋へ入っていったぞ」
「銀(イン)が足りないことにようやく気が付いたんですよ」
「えらく自慢してたが、やっと気づいたのか」
「気が付いていたんですか」
「徐(シュ)哥哥は総額で契約したから金が残った。一人いくらじゃ船旅は出来まいさ」
「どのくらい足りなくなりそうだ」
八十五両に六十四両で百四十九両。
「予定通りなら、二十五両ですね。今晩と明日の支払い個別に集めますか」
「いや彭(ペン)哥哥が頼んだ後だ、集めなくても何とかしよう」
孫爾準と黄承吉は两両の銀票十枚ずつ出した。
「これで毎日の六両の不足を補いなさい。今日明日のは心配するな。そのつもりで壱百両余分に持ってきてある」
話しを豊泉から聞いたと陳鴻墀(チェンフォンチィ)が来て、五十両の銀票を朱(ジュ)に渡し「余るのが確実になったら盛大には無理でも賑やかにやろう」と笑っている。
茶を楽しみ談笑していると彭(ペン)哥哥が青白い顔に何事をか決心した様子でやってきた。
実はということから始め、思い違いをしていたことを認めた。
「ここに百両ある。明日の宴席の支払いと日に六両に不足が出たらこれで補ってほしい」
漸く素直になったと孫(スン)哥哥と黄(ホァン)哥哥は「すべて解決済みだ心配無用だが。二十両宴席へ負担してくればそれだけ卓が賑やかになるがどうだね」
顔色が戻ってゆく、徐(シュ)は人間て正直なもんだなと思うのだった。
两両を十枚数えて朱(ジュ)に手渡した。
黄(ホァン)哥哥は仲居に「これを追加だ」と手渡しさせた。
にっこりして仲居は「全部使ってよろしいですか」と聞いて居る。
「チャオズウカン(敲竹槓・ぼったくり)はやめてくれよ」
「京城(みやこ)へ遊びに行ったらご馳走してくれれば、そんな事しませんよ」
朱(ジュ)は「ここにいる皆でご希望通りに」と言っている。
何やら姻戚ででもあるような言い方だ。
二十五日の昼。
下僕たちの席も大ご馳走ではしゃいでいる。
蝦仁鍋巴(おこげのエビあんかけ)には手をたたいてはしゃいでいる。
いつも口うるさい彭(ペン)哥哥が、何も言わずに黙々と食べているのを気に架ける者はいない。
当たり障りのない受け答えに終始しているのが不気味だと徐(シュ)が思っている。
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