支度もあるので十日に豊紳府へ送って来るとなった。
「このような時期ですから質素にね。必要なものでも少しずつ運び入れるようにしなさいね」
鄭家では約束を守り、奴婢か使女にでも雇われたかのように通用門からひっそりと豊紳府へ遣ってきた。
細いリャンバートウ(両把頭)に紫の紐、赤い造花を差している外は目立っては居ない。
父母(フゥムゥ)も着飾らせたいのを我慢しての普段より控えめな服装だ。
額の産毛は其の儘で娘らしさを見せている、昔インドゥが額の産毛を綺麗だと褒めたことがある。
両親とシラァンの三人に公主が「ごめんね。こういう時期でなければにぎにぎしくお迎えしてあげられるのに」
「いえ、急いだのは私たちです。シラァンの兄たちも哥哥への気持ちを知っておりますから、お屋敷に迎えて頂け、一家そろって有難く思っております」
それでも新しい部屋には急いだと云えど、娘らしく派手やかな装いが出来ていて、急いだ割に調度品も手が込んでいる物が揃えられた。
通用門に裏の船着きなどへ分け、手代や脚夫(ヂィアフゥ)などが背負って少しずつ運び込んだ品々だ。
ユンラァンは昂(アン)先生たちが引っ越すと、そこを整理して二棟を好きに使わせている、シラァンを大きな棟へ入れるか、ユンラァンが移るか聞くと、今の方が使い勝手が良いという。
「今決めないと荷物が来てしまうわよ」
「本当に今の方が良いのです。あとで向こうが良いなど決して言いません」
公主がそれで良いのねと念を押して花琳(ファリン)が鄭興(チョンシィン)の手代に新しい棟を教え、荷を運び入れた。
本当のことを言えば今の方が姐姐(チェチェ)の棟に近く安心できるようだ。
調理場も専用の部屋が出来て、使女には片方の湯殿を自分たちが体を拭う湯くらいは直ぐ沸かせられる。
燃料は薪に炭で、石炭は特別の許可が必要でまず使えない、汚水の浄化に使った炭も月一度以上はそれぞれの厨房へ配られてくる。
使女は二人が別々に部屋もある好待遇、それもある様だ。
二人は豊紳府の使女で一番贅沢だと羨ましがられている。
大きい部屋で大きい寝床をくじで引いた蓬蓮(パァンリィエン)は飛び上がって喜んでいたのを今更移れとはユンラァンも可哀そうに思う様だ。
難点は厨房へ近いので用が多い事くらいだが元々それが仕事のうちだ。
使女の恋鵬(リィェンパァン)の母親が来て「レェンパァンの言う通り、旦那様のユンラァン娘娘の部屋以上というのは本当みたいだ」と驚いていた。
このような時わざわざ旦那様は娘娘だとは言わない様に躾けられている。
蓬蓮(パァンリィエン)の部屋を覗いたら広さに気を失うかもしれない。
ユンラァンの湯あみで湯舟につかるときは大きな厨房他へ声を掛ければ次々各厨房へ伝達されて湯が運び込まれる。
皆で公主とインドゥの湯殿も厨房を併設と進言するのだが、建物の見栄えが悪くなるからと二人はまたもや賛成しない。
子供の頃から美味しい食べ物が溢れているのは贅沢と、普段はしていないのが理由だそうで、必要が出来れば姐姐(チェチェ)の所へ安聘(アンピン)菜館から人を呼ぶか食べに出ればいいと思う様だ。
「ご馳走は公主府(元の和第)で行う宴席で十分よ」
容妃と聞けば贅沢と思いがちだが、実母は冷遇された時代もあり、岳母(ュエムゥー)の容妃も生活は慎ましかった。
新婚当時から調理場から運ぶのが普通で、いつもそうしているので不便などないという。
気が優しいユンラァンは二人の使女から実の姐姐(チェチェ)のように慕われている。
先輩格の寶絃(パォイェン)姐姐(チェチェ)の使女だって二人一部屋だ。
シラァンの使女には、前から屋敷への順番待ちのように、何人も職を得ようと名簿があるので、ファリンとパォイェンは十二歳の子から二人選んで連れて来させた。
二人で一度公主娘娘に報告して来ると部屋を出た。
「可愛い娘と美人顔でもシラァンの引き立て役に丁度いいくらいのよさね」
二人の意見は一致し、字も奇麗だし気に入って雇い入れた。
色白の小さな方は潘玲(パァンリィン)、大きな美人顔の顔双蓮(イェンシィァンリィエン)は普段「シャンリェン」と呼ばれると教えた。
公主も一度声を聴きたいとやって来て満足して戻った。
リィンの曾祖母は噶哈里和羅舍林村から十三歳の時に紫禁城の奴婢に雇われ、二十五歳で商家の嫁に出たそうで、西城に曾祖母から生まれた子供や孫の一族が集まって青果を商っているそうだ。
シャンリェンは通州大馬庄から大水の後、子守りに雇われて来たが、そこの妻は亭主が子どもの双蓮に色目を使うと言って家を出され、老媼(ラォオウ)の斡旋により半端な出仕事を一年近くしてきたという。
それでもその妻は斡旋した老媼(ラォオウ)に次の仕事が見つかるまでと言って銀六銭(六百銭)呉れたという。
此の老媼(ラォオウ)の家に大抵十人は寝泊まりして壱日仕事でも斡旋している、食事共で一日三十銭、中には百日分付けになっている仕事が無い娘もいるが老媼(ラォオウ)はそんな娘も面倒見てくれる。
着るものは仕事によって貸し与えている、臨時仕事でも一日五十銭から二百銭と幅は大きい。
二人とも年季奉公はこの屋敷では二十歳を過ぎ、八年の年季明けが来れば嫁入り希望なら使女、奴婢でも面倒を見てくれるという魅力にも惹かれたようだ。
豊紳府はしわい(吝嗇)と言われているが、老媼(ラォオウ)は無駄をしない生活で、八年の年季明けには充分な支度までして下さると教えた。
やめるのは年季とは関係なく花琳(ファリン)に何時でも良いと言われた。
豊紳府はしわいと言うのは劉全が老媼(ラォオウ)と流した噂で、今は孜漢(ズハァン)に買范(マァイファン)が口利きを頼まれると盛んに吹聴する。
和第を解雇されたものがそれに輪をかけてしわいが広まっている。
月払い奴婢で一両、使女で一両三百銭、衣服、食事は支給されるから小商人に雇われるより手に入る物は多い。
使女は安い様でも主児(チャール)の気前の良さで変わると世間では言うが、ここでは格格に自由はなく、娘娘の「平等に」の言葉で新旧の使女に衣服、服飾品に優劣は出ない。
家族の元へ希望すれば月一度、遠方の者は年一度十二日の帰家が許される。
其れも姐姐(チェチェ)が贅沢好みではない処へ、ユンラァンが格格になって優劣が服装に出ない様に公主が気を置いたからだ。
ただ姐姐(チェチェ)はユンラァンには進んで着飾らせるのでユンラァンは実の姉の蘭玲(ラァンリィン)に「姐姐は甘やかせすぎです」と愚痴を言う。
蘭玲(ラァンリィン)が甘えん坊の癖に、いつの間にか大人ぶった口を聞きますと福恩(フゥエン)香蘭(シャンラァン)に福祥(フゥシィァン)と連れ立ってやって来ては嬉しそうに話してゆく。
公主が姐姐(チェチェ)に輪をかけて着飾らせるのは全員承知で、庭を歩く姿を観るのが楽しみになっているのを本人だけが気に病んで居る。
胥幡閔(シューファンミィン)が二人の体の診察をし、王李香(リーシャン)が湯殿の使い方を教えながら肌を確認した。
蘇花琳(スーファリン)が「今は四人部屋を二人で使えるけど、新しい人が来ても邪険にしちゃ駄目よ」とまずシラァンの来る前に北側の部屋と必要な品々を用意した。
洗い物は奴婢がそのお役目で給金を頂いているのですから横柄な言い方はせずに「お願いします」と頼みなさいと言い聞かせられた。
奴婢と使女の管理はファリンで屋敷の管理はパォイェン姐姐(チェチェ)の所へ言うのですと誰が仕事の分担を世話しているかを書きとらせた。
読み書きができれば使女、駄目なら奴婢とされて給金に差がある。
両親が家に戻り、王李香(リーシャン)と蘇花琳(スーファリン)が新しい使女の二人にも湯殿へ入らせ、恥ずかしがるシラァンに初夜の心得を言い聞かせながら体の隅々まで香皂(シィァンヅァォ)で磨き立てた。
王(ワン)は産婆の立場から恥ずかしくとも鈴口は自分でいつも清潔を心掛けるように丁寧に洗わせ、小水の始末、月の物の始末もいい加減にしてはいけないことを教えた。
發硎新試(あらだめし)の夜の事は祖母から言われてはいたが「なれるしかないよ。旦那様には格格が若い時からおいでだから、無理な事は無さらないはずだよ。痛いときは正直に言えば優しくしてもらえるさ」と哥哥を慕う少女に脅すようなことを教えていた。
「あなたがたも、これからはシラァン娘娘の用事が済んだら炊事場の人たちに頼んで体を綺麗にするんですよ。豊紳府では旦那様も娘娘も普段贅沢は為さらないけど湯殿のお湯は切らさず用意してくださるからね」
もう一度シラァンの前で「湯殿を使うのは公主から許された働く者の義務」だと念を押した。
産婆の王さんに後の始末も教えられ、インドゥのまつ部屋へ赤い衣装に着替えて送られた。
シラァンは恥ずかしくて榻(寝台)へ座って俯いている。
インドゥが香槟酒(シャンビンジュウ)を注いで渡してくれた。
「儀式は今の状況では控えた。我慢しておくれ」
湯でほてった身体はお酒でさらに暖かくなり、部屋の寒さは気に成らなくなった。
シラァンが豊紳府へ四年前に来て教えられたのは冬でも暖房を焚くときは隙間風を締め切らないという事だった。
「お城は床を蒸気が通る様にしてある部屋もあるけど、ここにはそんな贅沢は許されないのよ。小さい家ならお風呂場を温めるつもりで出来るそうよ」
そんな冗談で和やかにさせてくれた。
「シラァンの気持ちは分かっていても口説いては迷惑だと思っていたんだよ」
インドゥ話の糸口に自分も好きだと言って気を落ち着かせた。
「本当ですか。押しかけたりしてご迷惑で有りませんでしたか」
顔を上げて見つめる目が可愛い。
「ちっとも。可愛い娘だと思っていたんだ。少しお転婆な処も好きだよ」
抱き寄せて口を寄せるとしがみつかれた。
服を脱がせて乳房が思ったより大きいので少しは安心した。
まだまだ子供と思っていたが裸の腰は張りもあり抱き心地は良さそうだ。
鈴口はまだ固く閉まっていた。
發硎新試(あらだめし)の意味は知っているか聞くと姥姥(ラァォラァォ)から一通り教わったという。
「自分で此処を触ったことは」
聞くと恥ずかしそうに「試してみようと触ったけど怖くてやめました」体に力が入ってきた。
股を固く閉じてしまった。
「初めての時は痛い事もあるし、気持ち良くないことも有るけど何度かするうちに為れるからね。痛いときは正直に言うんだ」
「はい、何事も旦那様の言う通り、為されるとおりにいたします」
ひととおりは聞いてきたようだ。
榻(寝台)へ足を上げさせて足の親指を持ちあげて脚を開かせた。
顔を見ると強張っているようだ。
胸を揉み上げると息を呑んでいるが口元に笑みがこぼれている。
「シラァン。痛みは大丈夫か」
「言われたほど痛くは有りません。哥哥ので私の中は一杯に為っていてその方が辛いです」
「初めてだからまだ合わせるのは難しいだろう、押されて痛ければ日にちを掛けて二人で覚えよう」
やめられては大変と思うのか懸命に腰を押し付けて来た。
寧寧(ニィンニン)に似て奥は浅いようだ、
躰をのけぞらして苦痛に耐えている、その顔が愛おしくてインドゥは高まりが急激にやって来るのが分かった。
「シラァンのしまりが良すぎて行ってしまう」
「来てください、来て、きて」
その声に合わせて精を送り込んだ。
わずかだが血が流れるのを手巾で拭きとった。
何が起きたかと眼を見開いて考える様子が愛らしい。
股の隙間がやけに気持ちいい。
「ああ、素股が気持ちいい。妓女はこれが上手けりゃ一人前だと昔聞いたことがある」
そう思えば思うほど気が高ぶってきて尻を押さえて両脇から締めさせた。
シラァンは上で力加減が出来ているようで、気持ちが高ぶって顔がにこやかになってきた。
喘ぎ声で「はぁ、はぁ」と息を呑んでいたが「良いです好いです」と腰を前後にゆすりだした。
「このままが言いかい。体を入れ替えるかい」
「ダオシャンミエンライ(到上面来・上になって)」
普段通りの活発なシラァンが戻ってきた。
「お願い致します。すきです。すきです。この日が来るのが夢でした。とてもいいです好いです」
シラァンも其れが判るようで「ブーシンラ、ブーシンラ、ブーシンラ(不行了・もうだめ)」と何度も言って気が飛んだ。
床上手の予感がした。
寧寧(ニィンニン)を何度も思い出させるほど似ていて気持ちよさは勝るかもしれない。
熱い湯も少し冷めて丁度良い温度で体を拭き上げた。
「ハァゥ、ウゥン」
娘娘の初めての時、途中から積極的になったあの日を思い出させるシラァンの動きだ。
締めていないのに気持ちが良い、相性がいいとは此の事かとシラァンの動きに合わせて軽く腰を動かし続けた。
今度はなかなか気が行かないようで声が高くなって「シーファン、シーファン、シーファン(喜歓、喜歓、好きです)」と首をそらして耐えている。
もう一度今度は温(ぬる)い湯で絞った手巾で体を拭き上げてから抱き締めて布団をかぶった。
シラァンは不安そうに聞いた。
「初めてでもこんなに気持ちが良いなら。まだまだ気持ちよくなるんでしょうか。怖いです、途中で何もわからなくなってしまいます」
「心配いらないさ。気持ちよさも自分で限度が判れば一人前さ」
「本当ですか」
「限度を知らなきゃ浮気でもしなきゃ体が承知しなくなる。男だって本当は何人も相手をするのは辛いんだぜ」
「うそっ」
はい嘘ですよ、とは口が裂けても言えない話だ。
堅く抱きしめると乳房が固く張って気持ちが良いので「胸が苦しくないのか」そう聞くと「良い気持ちです。このもまま眠らずに抱いていて頂きたいです」と抱きしめて来た。
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